ナショナル・シアター・ライヴ2017「誰もいない国 No Man’s Land」09/22-28 TOHOシネマズ日本橋

 ナショナル・シアター・ライヴ(NTLive)2017の4本目(⇒)は、ハロルド・ピンターの男性四人芝居『誰もいない国 No Man’s Land』です。上演時間は約2時間30分。休憩は20分。※映画館公式サイトでは159分(2時間39分)になっていました。

 どんな動きにも納得できる演技と、機知に富んだ会話で、私のささやかな知的好奇心をビシビシと刺激してくれる至福の時間でした。自分がどんなお芝居を観たいのかを、NTLiveを観る度に確かめます。NTLiveのおかげでブレないというか、迷いが消えるというか。

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
ある夏の午後、パブで飲んでいた年老いた作家ハーストとスプーナーは酒が進むにつれ会話が誇張され、事実と空想の境が分からなくなっていく。やがてパワーゲームと化した彼らのやり取りは、二人の若者の登場でより複雑になっていく――。ノーベル文学賞に輝いた劇作家ハロルド・ピンターの1975年初演作。過去の背景や現在の関係性、力関係の分からない男たちの会話劇で、“イギリスの宝”ともいうべき名優イアン・マッケランとパトリック・スチュワートが競演。超豪華な二人の演技対決は必見だ。
 ≪ここまで≫

 私が日本で観たピンター作品で文句なく面白かったのは、小川絵梨子さん演出の『帰郷』。そして、映画ですが『誰もいない国 No Man’s Land』も素晴らしかった…!NTLiveはいつも母と観に行くのですが、母も大満足のようでした。

 イアン・マッケランさんとパトリック・スチュワートさんは2009年のショーン・マサイアス演出『ゴドーを待ちながら』以来の共演で、ブロードウェイのコート劇場では『ゴドー…』と『誰もいない国』の2本立て上演だったそうです(パンフレット(600円)より)。観た過ぎる……。

 サーの称号を持つ2人の俳優の演技は、何を見ても、聞いても、「うおっ!」「うはっ!」「ほ~~(うっとり)」という擬音語が口から出てしまいそうなぐらい素敵(出さないけど)。

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 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 正方形の枠で構成された壁に丸く囲まれた応接間が舞台です。壁の上部には背の高い木々が見えています。どうやら壁のすぐ向こうは森のようです。最終的には壁が透けて木の影が見える演出になっていました。人間の深層心理のイメージが浮かびました。

 私は前半から、この作品全体がスプーナーの想像の世界なのかなと思って観ていました。彼の望むものがどんどん出てくるんですよね。大金持ちの詩人であるハーストは、“成りたくて成れなかった自分”なのかな~とか。また、スプーナーは「この景色を観たことがある」という意味のセリフを3度(たぶん)言います。壁は人体で、最後にはそれが透けてなくなる=死ぬということなのかな~と考えたり。

 ハーストの息子を名乗る若者はダミアン・モロニーさん。『ハード・プロブレム』のインテリ役の人だ!“男女両方OK(女だけじゃなく男にもモテる)”という役でしたよね?(うろおぼえ) 訛りのある発音も、イアン・マッケランさんとの間にエロティックな空気が生まれるのも良かったです。

 【ポスト・パフォーマンス・トーク】※正確性は保証できません。

 上演終了後に出演者4人と演出家が舞台上に登壇するトークがありました。司会はNTLiveの女性です。この公演は世界(おそらく英語圏)の映画館で生中継されていたんですね。いわゆるライブ・ビューイングでしょうか。俳優のダミアン・モロニーさんが「この劇場の800席の客席だけでなく800万人(?)が映画館で見てる」とおっしゃっていました。

 ショーン・マサイアス(演出家):1975年の初演の時、私は19歳で、初日に(演劇評論家に連れられて)観た。後ろの席にキャサリーン・ヘップバーンが座っていた。CワードもFワードもちゃんと上演されていた。
 パトリック・スチュワート:私は3回観た。4回観たかったけどお金が足りなかった。
 イアン・マッケラン:初演は検閲がなくなって6年後だったから。ピンターはアヴァンギャルド(6年前なら検閲で上演不可だった単語を敢えて使っている)。

 パトリック・スチュワート:評論家は書かないがこれは認知症の話。高名な精神科医が米国での稽古を見て、「自分のクリニックでよくこういう人たちを看ている」と言ってくれた。自分たちの演技がリアルだと認められた。

 演出家:4人はこの場所(誰もいない国)から出て行こうとしない。誰もがここに居たいと思っているからだ。その動機をきちんと作らなければならない。
 イアン・マッケラン:スプーナーはタダ酒、タダ飯が欲しくてたまらない(それが動機)。

 パトリック・スチュワート:舞台で何が起こるかは私たち(俳優)にもわからない。私自身、最初の場面で酒を注いだ後、どうなるのかわかっていない。“作られた即興”というのかな。観客の皆さんはあまり自覚されてはいないかもしれないけど、舞台鑑賞とは千載一遇の機会。舞台は観客と共に作るものだから。
 今回のように私が投げたグラスが割れたのは4回目。でも400回中の4回だからね。

 観客からの質問:飲んでいるものは何ですか?
 オーウェン・ティール:純度98%のアルコールですよ!
 パトリック・スチュワート:透明の酒は水です…あ、言わなきゃよかったな。(劇場で笑いが起こる)

 ※ダミアン・モロニーさんもおっしゃっていたように、本編前に作品紹介の映像があったそうです。でも日本では削除されていました。残念!

上映時間:約150分 ※ただしTOHOシネマズ公式サイトでは159分になっています。
初演劇場:NY・コート劇場 撮影:ロンドン・ウィンズダム劇場
プレビュー:2016年9/8-19 公演:2016年9/20-12/17
出演
ハースト(屋敷の主人):パトリック・スチュワート
スプーナー(来訪者):イアン・マッケラン
フォスター(屋敷の主人の息子を名乗る):ダミアン・モロニー(NTLive『ハード・プロブレム』にも出演)
プリグス(屋敷で働く人物、息子とグル?):オーウェン・ティール
作:ハロルド・ピンター(ノーベル文学賞受賞者)
演出:ショーン・マサイアス(『ベント』)
装置&衣装:スティーヴン・プリムソン・ルイス
照明:ピーター・カゾロウスキ
音響&作曲:アダム・コーク
プロジェクション・デザイナー:ニーナ・ダン
キャスティング:アン・マクナルティ CDG
日本語字幕は喜志哲雄訳に基づく。
一般3000円 学生2500円
http://www.ntlive.jp/nomansland.html
http://ntlive.nationaltheatre.org.uk/productions/ntlout19-no-man-s-land

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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