理性的な変人たち『オロイカソング』03/23-03/27アトリエ第Q藝術

 運営協力をしている催事「CoRich舞台芸術まつり!2022春」の最終選考対象10公演のうちの1本です。※私は審査員ではありません。
 応募文章:https://stage.corich.jp/festival2022/detail/99308

 上演時間は約1時間50分。終演後に「CoRich舞台芸術まつり!2022春」最終選考対象作品であることの紹介と、「こりっちにクチコミしてください」というアナウンスあり。ありがとうございます!

≪あらすじ≫ https://henzinzin.wixsite.com/mysite/next-productions
男とか女とか、そんなの関係ないって思うけど、
女の身体で生まれたことで背負ってきたものはある。
この身体で、語ること。
この身体でなければ、語れないこと。
​三世代の女たちの物語、私たちの疵者-オロイカ-ソング。

死んだ姉の娘を育てるオト、シングルマザーの弥生、
性暴力事件をきっかけに別々の道を歩むことになる双子の倫子・結子。
斉木家の三世代の女たちの物語を通して、私たちに受け継がれてきた問題、
私たちが今抱える問題に正面から向き合う、『オロイカ(疵者-きずもの)ソング』。
人に見せたくない疵もなかったことにせず、
せめて自分だけは、丸ごとの自分を受け入れたい――。
≪ここまで≫

 小さなカフェのような空間での、5人の女性俳優によるお芝居。フル稼働状態の俳優のアンサンブルを、ほぼかぶりつきで観られるのは小劇場の醍醐味です。しかも皆、演技が達者ときた!幸せ!
 
 20代後半の女性・結子(滝沢花野)は10年前から音信不通になっている双子のかたわれ・倫子(西岡未央)を探して、ライター・カメラマンの女性ルーシー(万里紗)を訪ねます。双子と、その母・弥生(佐藤千夏)と、双子と弥生を育てた祖母・オト(梅村綾子)の生活を回想し、倫子が抱える秘密がやがて明らかになります。
 
 双子を演じた滝沢花野さん、西岡未央さんは1人の女性の幼少期から思春期、そして成人後を演じ分けます。役の成長による変化のグラデーションがきめ細やかで、それぞれの時代の双子の気持ちを信じられました。
 心の傷は怒りをともなって、倫子を突き動かしていきます。西岡さんは秘めたマグマを想像させる冷静さにリアリティーがあり、やがて暴発にいたる経緯に切実な痛みを感じさせてくれました。

 お芝居全体については少々雑然とした印象があり、進行に危なっかしさを感じたところもあったので、欲を言えば、いつか同じメンバーで上演を重ねてもらえたらいいなと思いました。
 終演後のロビーでは作中人物(倫子)が製作したとされる作品(動画)を販売していました(通常1000円のところロビーでは500円)。希望者へのコンドームの配布もありました。

 ここからネタバレします。

 舞台奥に組み立て式の簡易家具が並べられており、テーブルや椅子を移動して場面転換します。俳優はほぼ出ずっぱりで、さまざまな役を演じ分けていきます。出番ではない時は舞台面側の上下(かみしも)にスタンバイ。衣装はデザイン違いの白色で統一し、たまに着替えます。日常生活を自然に再現したり、敢えて大げさな演技で戯画化したり、回想場面を眺める人物がいたり、観客に話しかける場面があったり。演技の種類はさまざまで、演じ分けも含め、切り替えが早いです。

 舞台は妊娠、出産、子育て、家事を女性が担うのが当たり前という認識がはびこっている日本。昭和から令和にかけて、双子の女児(結子と倫子)とその保護者(母と祖母)という三世代の日本人女性の半生をたどり、日本に暮らす女性が受けてきた差別、強いられた無償労働の実態を、現代とつながる形であぶり出していきます。

 シングルマザーの弥生は貧困ゆえ労働時間が長く、祖母・オトの力を借りてしか、双子を育てられませんでした。上司に誘われた飲み会を断れない、働きづめの弥生は男性会社員とも重なりますが、彼女は女性だから昇進できません。もともと、弥生はオトの姉が産んだ子で、姉が死んだためオトが引き取って一人で育てました。母子家庭が二世代続いたんですね。

 倫子は幼少期に中年男性から性的虐待を受けて、人生を狂わされてしまいました。彼女の成長を追っていくことで、性暴力サバイバーの筆舌に尽くしがたい苦悩が伝わります。性暴力への無理解、被害者への二次加害等に立ち向かっていくノウハウを、「プリキュア」の戦闘場面にしつらえて紹介するのが面白いです。重いテーマをなるべく軽快に伝える工夫が効果的でした。

 成人女性が「プリキュア」のコスプレ(衣裳は手作り感あり)をしてシャカリキに頑張る場面は、笑いを狙ったものだと思いますが、心の傷から噴き出し続けている血を、道化を演じることで隠しているようにも見えて、涙が出ました。「戦隊もの(紅一点の女性はピンク色の衣装で、男性の補佐的な役割)」を見て育った私と、女の子ばかりの集団が活躍する「プリキュア」を見て育った若い世代とでは、見えている世界が違いますね。
 ※「戦隊もの」と「プリキュア」の間に「セーラームーン」世代もあり、また違うらしいです。

 結子は植物が好きで、種を育てる仕事をしています。彼女は、女ばかりの4人家族は花瓶に閉じ込められているようだったと回想していました。花瓶に活けられた花に自由はありませんよね。舞台面側に、造花を挿した花瓶(たぶん5つ?)が横一列に並べられていました。最後の場面では、俳優たちが花瓶から花を1輪ずつ取り出し、思い思いの持ち方をしていました。花瓶から飛び出し、地面に足をつけて根を張って、それぞれが自立して生きていく姿を見せたのだと思います。

 あらすじをメモしておきます。一度観て書いたものです。正確性は保証できません。

 女児を産んだばかりの姉が死に、その赤ん坊を育てる決心をしたオトは、天草から大阪に出てきてシングルマザーになった。血のつながらない母・オトに育てられた弥生は高校卒業後に就職。貧しい母子家庭でお弁当は白いご飯と佃煮だけだった。そんな生活から抜け出すため、弥生はオトと一緒に上京し、会社の東京支部で働き始める。弥生は既婚男性の子を身ごもってしまった。男性から堕胎してくれ、なかったことにしてくれと言われるが、オトが一緒に育てようと説得し、双子が産まれた。

 倫子、結子は一卵性双生児で外見はそっくり。2人が7歳の時、祖母・オトが働く老人ホームで倫子が性暴力を受ける。犯人はホームの施設長である男性モリタで、「内緒だよ、誰かに話したらおばあちゃんが働けなくなるよ」と倫子を脅した。倫子は発熱し、おねしょも続いてしまう。倫子はモリタに嫌なことをされたこと、口止めされたことを結子に話し、2人だけの秘密にすると約束する。

 学校が終わると老人ホームに寄って、オトと一緒に帰宅するのが双子の日課だったが、モリタに会いたくない倫子が家の鍵を盗み、ホームには寄らず家に帰ることにした。双子がホームに来ないことを不思議に思ったオトは、結子から理由を聞きだす。何が起こったのかを察したオトは、「なかったことにしよう、忘れよう」と結子に言い、事件を封印した。弥生だけでなくオトも家計を支えていたから、クビになるわけにはいかなかったのだ。

 高校生になると倫子は積極的に男性とセックスをするようになる。荒れる倫子を見て、結子は逆に消極的になった。双子のバランスを取ろうとしていたのだ(お互いにそっくりな自分たち。片方が右なら自分は左といった具合に)。大学生になった倫子は性暴力サバイバーの支援施設に行くようになり、性暴力について勉強を始めていた。それが母・弥生にばれてしまい、さらには祖母オトが既に知っていたこと、つまり結子が祖母にばらしていたこともわかって、倫子は家出をしてしまう。

 それから10年後(ここから芝居は始まる)。祖母・オトが亡くなり、結子は倫子を探して、ルーシーの家をたずねる。倫子とルーシーは1年ほど同居していた。でも倫子は男と浮気して、また行方不明になっていた。初対面のルーシーと結子は、互いの家族についても話をする。ルーシーは父子家庭で育った。父親はクリスチャンで、ルーシーが同性愛者であることを受け入れられない。ルーシーは博愛主義のはずのキリスト教に矛盾を感じている。父親の介護が必要になり、彼女はカメラマンの仕事をやめて実家に帰る決心をしていた。「一人っ子で自分しかいないから」と。ここでもまた無償のケア労働が家庭に丸投げされ、女性が背負わされる。

 倫子は味噌汁にオクラ、コーン缶、ウインナーを入れる。貧しい家庭で育った倫子にとって、ウインナーはごちそうだった。特に祖母・オトはそう信じていた。倫子は性暴力を思い出してしまうから、水道水が嫌い。だから濃い麦茶を入れる。倫子はルーシーとの同居中、引っ越し屋などの肉体労働もよくやっていたそうだ。
 自分の体を愛したい、認めたい。そう考えるルーシーは自分のヌードを撮る。倫子のヌードも撮った。倫子は自分の体を愛せるようになっていった。結子は、倫子が家を去ったのは自分のせいだと思っていたが、ルーシーに「結子は悪くない、子供だったんだから。つらかったね」とハグされる。結子はルーシーに自分を撮ってもらう。

 倫子は今、どこにいるんだろう。結子は想像する。海じゃないか。祖母の故郷・天草に行き、漁師になったのでは…。元気な倫子、弥生、死んだオトが現れる。ルーシーの撮影が続く。結子は自分の体はかわいいのだと気づく。

理性的な変人たち vol.2
2020年6月、2021年5月からの延期を経て再始動
※作品中、性や性暴力被害に関する台詞が複数回登場します。ご不安な方はお問い合わせください
【出演】
双子・結子:滝沢花野(理性的な変人たち)
祖母オト:梅村綾子(文学座)
母・弥生:佐藤千夏
双子・倫子:西岡未央
ライター・カメラマン:万里紗

脚本:鎌田エリカ 演出:生田みゆき(理性的な変人たち/文学座)
舞台監督・照明:黒田剛亮(黒猿)/照明操作:緒方稔記(黒猿)
音響:大園康司 音響操作:吉田拓哉
宣伝美術:荒巻まりの
アザミ戦士衣裳製作:古屋直子
配信映像:高畑陸(シル/CHARA DE)、山本陸
写真&トレーラー・映像編集:日下諭
制作:早坂彩

協力:アルファエージェンシー 大沢事務所 トム・プロジェクト 黒猿 高円寺K’sスタジオ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
独立行政法人日本芸術文化振興会 芸術文化振興基金助成事業
【発売日】2022/02/01
一般=¥3,500
U25=¥2,000
変人応援チケット=¥5,500
※差額分は公演をよりよくするために使わせていただきます。全公演終了後、オンラインでの裏話会にご招待いたします。&特別映像(下記参照)つき!
特別映像チケット=¥1,000
観劇×特別映像セット=¥4,000
※本作品中で登場人物の1人が書いたとされる物語を、特別映像でお届け!作者の鎌田エリカのピアノ演奏と、理性的な変人たちメンバーの荒巻まりのの朗読・絵画ムービーで、作品世界がよりお楽しみいただけます。
(当日各+¥500)
※作品中、性や性暴力被害に関する台詞が複数回登場します。ご不安な方はお問い合わせください。
https://henzinzin.wixsite.com/mysite/next-productions
https://stage.corich.jp/stage/121073
「CoRich舞台芸術まつり!2022春」最終選考対象作品
https://stage.corich.jp/festival2022/detail/99768

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