Q『妖精の問題』09/08-12こまばアゴラ劇場

 『毛美子不毛話』で岸田國士戯曲賞にノミネートされ、同作品で韓国公演も果たした市原佐都子さんの新作です。私は6月のこq『地底妖精』(⇒片山幹生さんの劇評)を残念ながら見逃したので、久しぶりのQ(キュー)。

 毎月ブログをお薦めしている、パリ在住の俳優である竹中香子さんの一人芝居で、上演時間はたっぷりと約1時間45分。初日を拝見しました(この後、千秋楽も拝見)。

 私好みのキワキワな市原ワールドでしたが、いつものがっちり固める方向性ではなく、竹中さんの自由度が高かったですね。お二人と音楽の額田大志さん(⇒過去レビュー)とのコラボレーションと言っていい作品だと思いました。

 市原さんの作品に竹中さんが出演された『虫虫Q』から約7年が経とうとしているんですね…継続は力なり、そして若者の伸びしろは無限大で予測不可能。

 ※友人からの噂で、翌日から演技がガラリと変わったと耳にしました。なんと…もう一度観に行こうと思います。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
私は見えないものです。
見えないことにされてしまうということは、
見えないことと同じなのです。
≪ここまで≫ 

 大人用紙おむつがロフトから舞台床へとつながるように、幅広く敷き詰められています。客席は白いおむつのカーペットを三方から囲む構造です。おむつキタ!老いがテーマなら欠かせない題材ですよね。市原作品では過去にも使われていました。

 竹中さんが開演前に登場し、気さくに観客に向かって話しかけてくれたおかげで、とてもじゃないけど普段は口にできないような、過激で不謹慎なセリフも、虚構、演技として受けとめ、咀嚼することができました。

 あらすじにある「見えないもの」は題名の「妖精」でもあると思います。じゃあ「妖精」って何なのかというと、禁忌(タブー)とされて誰もが口にしないこと、面倒だから、役に立たないからと排除され、隠ぺいされるもの、“マイノリティー”と呼ばれて不当に例外扱いにされる人…などを想像しました。

 ここからネタバレします。

 1部「ブス」、2部「ゴキブリ」、3部「マングルト」の三部構成でした。竹中さんは白い半袖Tシャツに紙おむつという衣装です。

 「東京の人は外見が似ている」「目立たない方が楽だから」「結果、美男美女が多くなっている」という話題(枕)から、「ブス」という落語が始まります。2人のブスが「ブスだから世界貢献のためにも子供は産んじゃだめ」「ブスだけど性器はあるし他の普通の人と一緒なのでは」などと問答。ブス顔を作り込み、違うキャラで演じ分けるけれど、素の竹中さんも隠さないというバランスです。生身の俳優が演技をしているという事実を、敢えて漏れ出るようにしているように見えました。

 落語の途中で、壁状のおむつのスクリーンに映像が映されます。「自分の口から食事できない老人は死ぬべき、そのおかげで助かる人が増えるから」と、堂々ととんでもない主張をする“不自然撲滅党の逆瀬川志賀子(さかせがわ・しがこ)”の政見放送がサイコー!スーツ姿の竹中さんが、がっちがちの差別主義者に見えるんです。

 落語が終わると、次はとんこつラーメン屋の近くのアパートに住む夫婦のエピソード。マイクと譜面台が出てきて、香子さんは譜面台の台本をめくりながら、録音の音楽に合わせて歌い続けます。バルサンを焚いてゴキブリを退治するのは広島、長崎に原爆を落とすのに似てるというセリフが衝撃的でした。
 夫が(おそらくスマホで)街を作るゲームを延々とやってるのに対して、「その街は一体どこにあるの」と問うのは空疎さが際立って良いですね。

 桜井圭介さんがご指摘の通り、音楽でセリフが聴こえないことはよくありました。私は最前列正面のベンチシートに座っていたので、同じ方向(私から見て下手側)にずっと顔を向けておくのが少々大変でしたね。首が痛くなった(笑)。できればもっと動いて欲しいな…と思いながら観ていました。考えてみたら私は竹中さんの存在のライブ感にわくわくしていたんですね。だから録音の音楽に彼女が縛られていることが残念だったのかも。できれば生演奏がいいですね~(わがまま)。

 一人芝居とのアナウンスでしたが、“マングルト”の創始者役(山村崇子)と助手役の若い女性(兵藤真世)も出演されており、出演者の合計数は3人でした。“マングルト”とは膣に温めた牛乳を入れて、電気毛布を被って一晩寝たら完成するという発酵食品(笑)。「地産地消」であり「自給自足」。人体は異物または敵と共存しているという事実。

 山村さんの白髪まじりのエレガントなヘアスタイルに、半袖から出た細い腕という外見が、“老い”を具体的に表していました。老いを日々自覚している者として、また、同じ女性として、共存、調和という概念には素直に納得せざるを得なかったです。左右、上下、内外と、二極化して引き裂かれることばかりの現代において、ストンと納まる落としどころというか。

 ただ、市原ファンの一人としては、もっと私を驚かせて、悩ませて、苦しませて、最終的には突き離して欲しかったなぁという気もします(笑)。

 ■沖縄での滞在製作

■8/28に竹中香子さんの講演会がありました。

■公演終了後

出演:竹中香子 
映像出演:山村崇子(青年団) 兵藤真世
脚本・演出:市原佐都子
舞台監督:岩谷ちなつ
舞台美術:中村友美
照明:川島玲子
音楽:額田大志
ドラマトゥルク:横堀応彦
宣伝美術・舞台写真:佐藤瑞季
記録映像:加藤正顕
制作:大吉紗央里
制作補佐:杉浦一基
企画制作:Q/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
特別協力:アトリエ銘苅ベース/(一社)おきなわ芸術文化の箱
助成:平成29年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
【発売日】2017/08/01
予約:3000円
当日:3500円
高校生・シニア(60歳以上):1500円
http://qqq-qqq-qqq.com/?page_id=1166

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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