【写真レポート】SPAC「「ふじのくに⇄せかい演劇祭2016」ラインナップ発表会」03/22日仏会館

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 SPAC・静岡県舞台芸術センターの芸術総監督である宮城聰さんの講演会の後、「ふじのくに⇄せかい演劇祭2016」のラインナップ発表会が開催されました(過去エントリー⇒)。司会はSPAC所属俳優の永井健二さん。

 【お詫び】私が記事を書くのが遅かったため、確認作業がフェスティバル開催期間に間に合いませんでした。お役に立てず申し訳ございません。『三代目、りちゃあど』は今後もツアーが続きますし、記録としても残したいので公開します。読み物としてもお楽しみいただけると思います。

 ●ふじのくに⇄せかい演劇祭2016公式サイト
  日程:2016年4月29日(金・祝)~5月8日(日)
  会場:静岡芸術劇場/舞台芸術公園/駿府城公園
  ⇒残席状況(4/19) ※INFORMATIONページで更新されます。
  ⇒タイムテーブル(PDF)

 今年は「ふじのくに⇄せかい演劇祭2016」と、「ふじのくに野外芸術フェスタ2016in静岡」が、初めて同時開催されます。「ストレンジ・シード」では首都圏の演劇ファンもよく知る団体が、無料の路上パフォーマンスを披露!ゴールデンウイークは静岡にGO♪

【 SPAC新作『イナバとナバホの白兎』 】 ⇒講演会のレポートもどうぞ。

―「古事記」の中のお話のひとつ、「イナバの白兎」の物語は、北米先住民まで伝わっていたのではないか。20世紀最高の知性クロード・レヴィ=ストロースが立てた大胆な仮説に、SPACが演劇的想像力を駆使して挑みます。本作はフランスはパリのケ・ブランリー美術館開館10周年公演に先駆け、駿府城公園にて、野外バージョンとして上演されます。

宮城聰さん(写真提供:SPAC)
宮城聰さん(写真提供:SPAC)

宮城:「イナバの白兎」は「古事記」の中の有名な逸話ですが、「日本書紀」にも「風土記」にも出て来ない。「古事記」にしか載っていません。しかも前後の脈絡がなく突然入っています。どうしてあの話があんなところに突然入っているのかは、神話学者の間で長らく議論があったらしいんです。似た話がアジアにあることは、ずいぶん前から学問的に研究されてきました。東南アジアに「ワニを並ばせる」という非常に似た話があるので、その話が南から日本に入ってきたんじゃないか。あるいは、中国に「魚を並ばせて兎が渡る話」があるから、そこから入ってきたんじゃないか…など、色々言われています。しかしレヴィ=ストロースは、それらの全てをご存じの上で、90歳を過ぎた最晩年に大変大胆な仮説を出されています。

 彼の研究分野でもあった南北アメリカ大陸で、アメリカのネイティブ・アメリカン(今日ではまたインディアンという呼び方をすることもある)の神話に、「気位の高い渡し手」(「傷つきやすい渡し守」と訳されることもある)と主人公が駆け引きをして、渡る、ないしは渡る直前にそれに失敗するという、似たような話がたくさんある。レヴィ=ストロースはその前後に注目しました。「古事記」の場合は、白兎を助けたオオクニヌシノミコトが、スサノオノミコトがいるところ(地下の世界・この世ではない別の世界)にいる非常に強大な力を持った男性神のところに行って、その娘をめとろうとするんですね。このエピソードが「イナバの白兎」の後に出て来ます。

稽古場風景(写真提供:SPAC)
稽古場風景(写真提供:SPAC)

 北米神話でもこういった話はよくあって、主人公が太陽神のところへ行ってその娘をめとろうとする、その途中に「水を渡る」「気位の高い渡し手と駆け引きをする」というパートが入っている。目的達成の途中で水を渡らなければならないという、ストーリー上の必然性が作られている。そこでレヴィ=ストロースはこう想像しました。アジアのどこかにあった一貫したストーリーが日本に入ってきて、その後、長い時間が経つ間に、各エピソードへとちょん切れていったのではないか。これは僕にも想像がつくんですが、昔、神話というのは、語り部が目の前に居る村人や子供たちを楽しませる娯楽でもあった。だから、1~2時間のお話として面白く聴いてもらうために、語り部が一話完結型にしていくんです。歌舞伎もそうですよね。「通し狂言」ではなく、いわゆる「見取り(人気場面のみを順に演じる事)」だと、1つのパートだけで一話完結になっています。

 レヴィ=ストロースの言い方を借りれば、玉がつらなるネックレスの紐がちょん切れた状態で、各エピソードが羅列になって、「古事記」に残っている。しかし北米神話ではまだ少し、その紐がつながって残っていた。だから水を渡るエピソードと、太陽神の娘をめとるエピソードが、筋の上でつながっている。こういう風にレヴィ=ストロースは想像したんですね。
 レヴィ=ストロースは「自分より後の若い優秀な研究者が、このほつれた結び目をもう一度結び直してくれるだろう」と書いてらっしゃるんです。僕らは、演劇的想像力を持って、大胆な仮説に一つの形を与えてみたい。『イナバとナバホの白兎』の第一部は「古事記」、第二部はネイティブ・アメリカンの神話、第三部にそれらのおおもとになった、既に失われた神話を空想して上演する。そういう三部構成の作品になっています。

【 フランス、南アフリカ、カナダ、オーストラリアの作品 】

■演劇/フランス『オリヴィエ・ピィのグリム童話「少女と悪魔と風車小屋」
作・演出:オリヴィエ・ピィ 原作:グリム兄弟

ⒸChristophe Raynaud de Lage  Festival d'Avignon
ⒸChristophe Raynaud de Lage Festival d’Avignon

―オリヴィエ・ピィは、今、世界の演劇界において最も重要な、現代フランスを代表する劇作家、演出家。2009年に静岡で上演された「グリム童話三部作」は多くの観客を虜にしました。今回はなかでも人気の高かった『少女と悪魔と風車小屋』の新演出版を野外劇場で上演します。日本平の森に響くノスタルジックな演奏や歌声をお楽しみください。

■演劇/南アフリカ『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ
作:ジェーン・テイラー 演出:ウィリアム・ケントリッジ

(c) Luke YOUNGE
(c) Luke YOUNGE

―アニメーション作家として世界的に知られるウィリアム・ケントリッジの舞台作品が、日本で初めて上演されます。『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』は南アフリカ随一のパペット劇団ハンドスプリング・パペット・カンパニーとの共同創作で、人形やアニメーションを織り交ぜながら20世紀の負の遺産“アパルトヘイト”の「真実和解委員会」を描きます。

 ⇒ハンドスプリング・パペット・カンパニーは『戦火の馬 War Horse』の馬のパペット制作・操作に参加!

■演劇/カナダ・フランス『火傷するほど独り
作・演出・出演:ワジディ・ムアワッド

(c)Pierre BOLLE - Charleroi (B)
(c)Pierre BOLLE – Charleroi (B)

―2010年に上演された『頼むから静かに死んでくれ』以来の、2度目のSPAC登場となるワジディ・ムアワッド。彼はレバノンで生まれ、幼くしてフランスからカナダへと移り住んで行きました。作風を大転換させる一人芝居としてアヴィニョン演劇祭で喝さいを浴びた『火傷するほど独り』は、そんなムアワッド自身の生い立ちが色濃くあらわれています。

 ⇒2014年9月に世田谷パブリックシアターで上演され、多数の賞を受賞した『炎 アンサンディ』もワジディ・ムアワッドさんの戯曲です。
 ⇒『炎 アンサンディ』を演出した上村聡史さん5/7(土)のプレトークゲストに!

■演劇/オーストラリア『It’s Dark Outside おうちにかえろう
作・出演:ティム・ワッツ、アリエル・グレイ、クリス・アイザック

(c)Richard JEFFERSON
(c)Richard JEFFERSON

―「ふじのくに⇄せかい演劇祭2012」で上演された『アルヴィン・スプートニクの深海探検』で、若手演出家ティム・ワッツは多くの涙を誘いました。認知症の高齢者を主人公にした『It’s Dark Outside おうちにかえろう』にはセリフはなく、人形、仮面、アニメーションを用いて知的に描写します。心のさまよいが切なく、幻想的に表現され、ワッツの故郷オーストラリアの荒涼とした風景が浮かんできます。

 ⇒静岡公演の後、金沢名古屋公演あり!

■演劇/レバノン『アリス、ナイトメア

(c)Tanya TRABOULSI
(c)Tanya TRABOULSI

―レバノンの若手演出家サウサン・ブーハーレドによる『アリス、ナイトメア』は、寝付けない夜と格闘する一人の女性の不安と妄想が横行し、さまざまな象徴的な何かに姿を変えていく様を描いています。長く続いた内戦を経て今なお政治的混迷の中にある、中東レバノンで暮らす人々の不安やクリエイターの葛藤が鮮明に表されています。


【 古典を読み直す作品/アーティストが自分自身を描く作品 】

宮城:今年の「せかい演劇祭」には2つのタイプの作品を集めて、お呼びしています。1つは古典を読み直す作品で、もう1つはアーティストが自分自身を描く作品です。
 今は、少し前まで掲げていた理想が、あたかも通用しなくなったかのように見える時代。「そんな理想は通用しないんじゃないか」「現実の前では、そんな理想主義は無力だ」「もっと現実を見ろ」「建前を捨てて、もっとぶっちゃけて生きなきゃしょうがないだろう、日本もこの先、そうじゃないとやっていけないぞ」とか…。世界のあちこちの、どの国も、そういう状況にあると思います。そして皆、「じゃあ、本当はどうすればいいんだ?」と、すごく性急に知りたがるようになる。ヨーロッパもアジアもそうなっているように思います。

 このような状況でアーティストには何ができるのか。こういう時こそ、ものの考え方を提示する。それが演劇がやってくれることじゃないかなと思うんですね。考え方を提示するの2つのやり方が、古典をもう一度読んでみることと、自分自身をもう一度見つめてみること。かつて困難に直面した人間たちが作った作品、それが古典ですね。古典を観た観客は「そうか、人間が困難に直面したのは、今が初めてじゃないんだな」と気づいたり、何かヒントがもらえたりするかもしれない。また、自分自身を描く作品を観ることで、観客自身も、本当に望んできたこと、本当に大事にしたいことは何なのかを探っていく。答えがあるわけじゃないんですけれど、そういうものの考え方を伝えることができればなと思っています。


【 日本・シンガポール・インドネシアの国際共同製作・新作『三代目、りちゃあど』 】

アートディレクション: 矢内原充志
アートディレクション: 矢内原充志

―最後に、野田秀樹による戯曲をシンガポールの演出家オン・ケンセンが演出する国際共同製作作品で、シンガポール、インドネシア、日本の三ヶ国による注目作、『三代目、りちゃあど』をご紹介します。
 世界規模で演劇界を揺るがす野田秀樹が『リチャード三世』を潤色し、1990年に夢の遊眠社で上演した『三代目、りちゃあど』。アジアを代表するシンガポールの演出家オン・ケンセンがこの度、この戯曲に挑みます。

 歌舞伎の中村壱太郎、狂言の茂山童司、劇団毛皮族の江本純子、SPAC俳優のたきいみき、宝塚歌劇団出身の久世星佳をはじめ、シンガポール、インドネシア、日本の実力派俳優が集結。静岡での世界初演ののち、シンガポールでの公演、さらに日本ツアーも行います。アジアの多様な文化が溶け合う舞台に、皆様、ぜひご期待ください。

オン・ケンセンさん(写真提供:SPAC)
オン・ケンセンさん(写真提供:SPAC)

オン・ケンセン:まずSPAC、東京芸術劇場の皆様に感謝します。このような機会をいただき光栄に思っております。前回SPACのフェスティバルに招聘していただいたのは『キリング・フィールドを越えて』というカンボジアのダンスを中心とする作品でした。今回は日本の劇作家である野田秀樹さんの戯曲をもとに、新作を作ることになり、幸せです。ここにいらっしゃる中村壱太郎さん、たきいみきさんをはじめ、素晴らしい俳優とともに創作している最中です。

 先ほど宮城さんから説明がありました、フェスティバルのテーマにも則した作品だと思います。まず戯曲『三代目、りちゃあど』は、シェイクスピアというアーティストが自分自身を見つめ直す内容になっています。シェイクスピアはリチャード三世を悪党として描いていることと、歴史の真実を歪めてしまったのではないかという罪に問われ、裁判にかけられるのです。3人の主要登場人物がいて、1人がシェイクスピア、もう1人がシェイクスピアが書いた『リチャード三世』という戯曲の主人公リチャード、最後がまあちゃんという弁護士です。まあちゃんというキャラクターがシェイクスピアに挑んでいきます。今年はシェイクスピアの没後400周年記念という節目にあたる年なんですが、本人が書いた戯曲そのものではなく、ひねりを加えた作品を上演するのが、この企画の面白いところではないかと思います。

(写真提供:SPAC)
(写真提供:SPAC)

 この作品の根底にあるのは、「何を真実として、作品を書くべきか」という、作家であるシェイクスピア自身の問いかけです。作家は勇気を持って政治権力に抵抗し、自分の主張を貫いて書くべきなのか。この世の中には様々な腐敗があるかもしれない、それでも、あくまでも自由に作品を書くべきなのか。リチャード三世という歴史上の人物を描くだけではなく、より大きな文脈の中にテーマを取っています。歴史は誰がどのように描くのか。ある人物の視点で描いた歴史が後世に残り、ある種の力を持って波及していく。私はよくこういう風に言っています、「歴史は勝者に属する」と。

 この作品で重要な役を演じるのがリチャード三世、つまり「三代目りちゃあど」で、彼はシェイクスピアを正しい道のりへと誘導します。普通ならリチャード三世はいかにも悪党という描かれ方をすることが多いですが、この作品では面白いひねりがありまして、シェイクスピアを救済することで、彼が自分自身を救済するのです。古典の読み直しであり、作家が自己を探求し、自分自身に正直であることを見つめていく。先ほど宮城さんがおっしゃったテーマに即していると思います。

 私は、伝統芸能のアーティストたちを現代劇のコンテクストに招き入れる手法をよく用います。この度、歌舞伎で女形をよく演じられている中村壱太郎さんに出演していただくことになりました。私は若い伝統芸能の方たちが、伝統芸能を見つめ直し、さらに革新的な芸能を模索することに興味を持っています。歌舞伎のみならず狂言や、近現代の伝統芸能である宝塚歌劇団の俳優ともコラボレーションして、新たな作品を作ります。 

 現代アジアのグローバリゼーションという風潮の中では英語が使われることが多いので、セリフを英語にしました。インドネシア語も日本語も使います。バリの影絵も使っております。原作からの登場人物も沢山いて、たとえば、たきいみきさんはアンという役を演じますが、他の役も演じます。

 ひとことで言えば「コミカルなひねりがある豪華な作品」です。多様な背景のアーティストに集まっていただけました。自分自身の芸術形態を発展させる意味でも挑戦していきたいです。皆さんにこの冒険に参加していただき、ありがたく思っています。

中村壱太郎:私は生まれてから25年間、初舞台を踏んでから20年間、主に歌舞伎の舞台をさせて頂いてきました。こういう大きな形での外部出演は、僕にとっては初めてで大きな試みだと思っております。
 昨年の春ごろ、ケンセンさんが僕の歌舞伎の舞台を観てくださいまして、「一緒にやりたい」と、とても温かい、ありがたいお言葉をいただきました。野田さんが潤色された脚本には高度な言葉遊びと背景があり、それをやるだけでも、技術もパワーも必要だという第一印象を受けました。いざ台本が上がってくると、今度はインドネシア語も英語もまざっている。僕は英語はできませんし、インドネシア語は何もわかりませんので、果たしてこれはどう、舞台上で会話するのか。そんな初歩的な疑問や色んな思いを抱えて稽古に入りました。

中村壱太郎さん(写真提供:SPAC)
中村壱太郎さん(写真提供:SPAC)

 3月上旬からバリで、キャスト、スタッフがほぼ全員そろった、2週間の稽古をしてまいりました。すごい経験でしたね、もう、本当に(笑)。これを話したらすぐに30分や1時間はかかってしまいます(笑)。まずは台本を読み込む。この作品は何を訴えたいのか、それぞれのキャラクターはどういう人物なのかを、スタッフさんも含めて皆で話し合うんです。情報を共有して1つのものを作っていくことの強さ、素晴らしさを稽古の中から既に感じました。

 歌舞伎は伝統で積み上げられてきたものなので、すごく大きなバックグラウンドと力強さがあります。稽古は実質、すごく少ないんですね、4~5日もすれば初日を迎えるような状態です。役者それぞれが役を90~100パーセント作ってきて、それぞれのピースが稽古の4、5日間で重なり合い、1つの作品が完成する。それが僕の歌舞伎を作るというイメージです。たとえば料理だったら、その場で最高の素材を合わせて作るのでしょうけれど、今回はまず、素材を種から育てるところから皆で作っていく。そんな印象を受けました。
 今、ケンセンさんもおっしゃっていました、伝統を見つめ直すということ。これは僕も今後一生、歌舞伎役者をやっていく上で、とても大切なことだと思います。そしてこういう国境を越えた芸術、演劇の交わりというものが、確かにあるんだなと稽古のうちでも感じております。

(写真提供:SPAC)
(写真提供:SPAC)

 まずは5月公演、そして9月のシンガポール公演、12月の東京からの地方公演というスケジュールです。期間が空いているからこそ、それぞれのバックグラウンドに戻って仕事をして、また新たに合流してキャスト8人で進んでいく。8人とケンセンさん、スタッフさんとともに、未知なる大海原の旅に進んでいくような、そんな気持ちでおります。

 今まで積み上げてきたいっても、僕は語れるほどの歌舞伎の能力を持ってはいないんですが、自分がやってきたことを信じて、ケンセンさんに沢山引き出してもらって、そして他のバックグラウンドでやってらっしゃる皆さんからも沢山の刺激を受けて、どんどんやっていきたい。ほぼ一年かけての大プロジェクトですから、お客さんに沢山のメッセージを届けて、印象に残る作品にしたいという思いを抱いております。最後には自分も沢山のものを持ち帰れたらと思っています。ありがとうございました。

たきいみき:中村壱太郎さんは生まれた頃から、いえ、DNAだと300年も続く伝統芸能の歴史を持っていらっしゃいますが、私は2001年から演劇を始めた現代劇出身の俳優で、真新しいところから、知らない世界にポンと飛び込んだタイプです。2001年に宮城監督が主宰する劇団ク・ナウカに入り、2006年からSPACに在籍させていただいております。大阪出身で、文楽が凄く好きで、女性に生まれたために文楽座に入ることができなかったんですけれども、伝統的なものに常に、すごく興味を持って生きてきました。歌舞伎も、お能も大好きです

たきいみきさん(写真提供:SPAC)
たきいみきさん(写真提供:SPAC)

 今回のようなスペシャルな企画に参加させていただけるのはラッキーだと思っております。プライベートな話なのですが、沖縄を一人旅している時に「神の島」と呼ばれる「久高島」を訪れました。その時、多言語演劇の話をしていたら、偶然、このお話をいただいたんです。わぁ、これはご縁だなと思って即座に参加したいとお伝えしました。
 壱太郎さんのお話にもあったように、稽古はバリ島でスタートしました。バリ島もまた「神の国」と呼ばれているんです。バリに着くと、合宿所の部屋から富士山にそっくりな山が見えました。標高約3000mの活火山で、噴火した後の小山があり、温泉が沸いている…。形ばかりではなく全てが富士山に似ているアブン山という山でした。静岡で幕開けする『三代目、りちゃぁど』の稽古初日の場所として、最高だなとわくわくしました。
 バリでは暑さ、虫刺されといった自然現象をはじめ、停電などの色んな苦難を乗り越えました。バリの建物って屋根と柱しかなかったりするんです。あまり風が吹かない時には皆、おでこに冷えピタを貼って稽古をしていました

(写真提供:SPAC)
(写真提供:SPAC)

 私は多言語演劇は初めてなので、どうなるのかなと(少し不安に)思っていたんですけれども、バリ島出身の影絵師、そして俳優、ダンサー、歌手でもあるイ・カデック・ブディ・スティアワンさんと、壱太郎さんがバトルする場面を観てましたら、あれ、言葉が、通じ合ってる…と感じたんですね。スティアワンさんも親子代々でバリの影絵をやってらっしゃる伝統の家系のお生まれなので、伝統に培われた型のようなものと、そこから発する肉体のエネルギーが、壱太郎さんと同等だったんです。言葉の違いなんて関係ないんだな、あくまで言語は記号であって、人間はその場で生きていることが一番大事なんだなって、うっすら涙すら浮かべながら、そう思いました。

 今回の演劇祭には世界の五大陸から作品が集まります。静岡に居ながら大きな旅ができる企画になっていると思います。私自身も今回、人生においても、演劇というフィールドに立っている俳優としても、大きな旅をさせていただいているなと感じています。大らかにいることをバリで学びました。停電にも負けず、虫にも負けず、大らかにこの作品と付き合っていければと思います。

(写真提供:SPAC)
(写真提供:SPAC)

宮城:この戯曲、僕はとても好きで、いつか演出してみたいものの1つだったんです。だからオン・ケンセンさんが演出してくれると聞いた時は、ぜひSPACも参加したいと返事をしました。「アーティストになるとはどういうことなのか」という問いや、「コンプレックスを逆さまにしてエネルギーにすること」という、僕自身に近いものが描かれていると思って、すごく切実な気持ちで読んでいた戯曲なんです。

 ケンセンさんの先ほどのお話を伺って、今日の世界の最前線を移動しながら作品を作ってらっしゃる方ならではの、見方をされていると思いました。そのことにわくわくするというか、僕はさすがだなぁという感じがしました。本当に前線を渡り歩いていらっしゃる。僕はもっぱら「日本語をどういう風に肉体と出会わせるか」ということをやっているわけです。でもケンセンさんはその観点をさらにひとつ上から見ている。ご自身の母国語というひとつの神話、または母国語という芝居…というか、一種の強迫観念から逃れて、それすらからも自由になって作品を演出しようとされている。そのスタンスには非常に驚きと刺激を受けます。今から楽しみでしょうがありません。

 ※中村壱太郎さんのツイッターより↓

【 海外演劇人の認知の高まり/「SPACに招かれたなら、どうしても行きたい」 】

新聞記者の質問:SPACはこれまで長く、こうした集中的な演劇祭を開催してこられました。今回に限らずこれまで続けてきたことの手応えや成果について、思うところがあれば教えてください。

宮城:やはり日本は、文化においては圧倒的に東京に集中している国ではありますよね。例えば第一線のアーティストと呼ばれる人がどこに住んでいるかと考えてみると、ほとんど東京に住んでいるんじゃないかという気がする。かつて他の国でもそういう段階があって、それだけ集中してしまうと、むしろ国全体が衰弱するという教訓があった。だから色々な国が文化を中央集権させない、文化の地方分権を進めたと思うんですが、残念ながら日本は、「地方の時代」なんて言葉がかつて流行りましたけども、第一線のクリエイターが結局は、大阪からすらも東京に引っ越してしまいますよね。ちっとも一極集中が変わっていない。特に文化に関してはむしろ一極集中が進んでいると言ってもいい。そういう国ですよね。

 どういう形でそれに抗うことができるのかを、我々は実験させていただいている。僕たちがやったことが、東京以外の場所の、何かやろうと思っている人たちの励ましになったらいいなと思ってやっています。僕らは幸いにして、海外の演劇人からの認知が高まってきていて、「SPACに招かれたなら、どうしても行きたい」という声がだんだん大きくなってきた。財政的、またはスケジュール的な問題があっても、「SPACに呼ばれたからには、何とかアレンジして行ってみたい」という風になってきています。そのことはとても嬉しいなと思っています。

 静岡は東京とは違い、自然と芸術が乖離していない場所です。静岡で海外のアーティストたちに生活していただくことで、「あぁ、日本にもこういう場所があったんだ」と気づいてもらう。それは僕たちが海外に出向いて行って発信していくことと並ぶ、あるいはそれ以上のことかもしれません。外国の方が静岡に来てSPACに滞在し、作品を上演されて、帰国する。そして自国やその周辺で、SPACのこと、あるいは静岡のことを色々と吹聴してくださる。それが積み重なって、今日の認知のアップにつながったのかなと思っております。

 ※ラインナップ発表会の前に開催された、宮城さんの講演会のレポートはこちら

※「ふじのくに⇄せかい演劇祭のテーマ」↓

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