マームとジプシー『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、 つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』05/06-08 LUMINE 0

 藤田貴大さんが作・演出されるマームとジプシーが過去の3作品を連続上演していました。『カタチノチガウ』『あっこのはなし』『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、 つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』のうち、私は『あっこのはなし』だけ観たことがあります。日本での公演回数が少なかった『てんとてんを~』を観ることにしました。上演時間は約1時間40分弱だったかと。

 マームとジプシーは2月にも、彩の国さいたま芸術劇場で公演(3作品)をされてましたよね。ひとつの若い集団が複数作品をレパートリー化しているのは凄いことだと思います。

 新しい劇場LUMINE0(ルミネゼロ)に初めて伺いました。高い場所(5F)にあるスパイラルホールみたいな…。

 ⇒CoRich舞台芸術!『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、 つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。

 ≪あらすじ≫
 中学三年生が終わる春、アヤちゃんは学校に来ないで一人でキャンプをしていた。同級生の僕たちは、彼女を探して夜の森へと入って行ったんだ。
 ≪ここまで≫

 下手奥の壁には大きなスクリーンが吊られていて、映像を映したり、舞台上に置かれた小道具などを生中継したりします。中央から上手奥にかけては可愛らしいテントが置かれており、その入り口付近にはカラフルな三角の旗が何枚も連なっています。生成り系の色で統一した衣装はおそらく綿素材で、ふんわりとしていました。子供(=ティーンネイジャー)の世界がクールかつおしゃれに表現された舞台美術だと思います。

 黒い床には白い線が交差するように引かれていて、ひし形や三角がたくさん並んだようなデザインが目に入ります。いくつもの線が交差する点に俳優が立つと、タイトルからも連想されるとおり、数学で習う立体図形のようなイメージが浮かび上がります。

 マームとジプシーのお芝居は物語を時系列に並べるタイプではなく、若い俳優(20~30代かしら)が数分間の会話や、ハードな運動を何度も繰り返したりします。ステージングも複雑で、息の合ったメンバーが長く稽古をする必要があることが予想できます。今作は、生身の人間(中学生)が生きる小さな社会が点と線で抽象化され、宇宙的な広がりを獲得していく意図があったように思いました。

いつもながら凝ったパンフレットです。
いつもながら凝ったパンフレットですね。

 俳優の演技には、伝統芸能のように数百年かけて様式として確立されたものや、現代の小劇場で活躍する集団が編み出したものなど、さまざまな方法があります。私はロシアやイギリスのいわゆるストレート・プレイで観られるような演技が好きで、今はナショナル・シアター・ライヴにすっかりハマっています。

 マームとジプシーの若い俳優さんたちの演技が私の好みでないことには、数年前から気づいていたのですが、何が好みでないのかを今作で確かめられたように思います。私が色んな舞台を観る度に常々感じていることで、マームとジプシーの作品に限ったことではないのですが、舞台上の俳優が自分から何かを発するばかりで、相手を受けて(受け止めて・受け入れて)いないところがとても苦手です。

 俳優が相手役にも、観客の(口には出さないが心身から発している)言葉にも、耳を澄ましていない。ひたすら一方通行の声と動きの塊が発射され、相手役と正面衝突している状態が繰り返されます。観客に向かってぶつけるような発声が、私にとっては暴力に近いものに感じられることもあり、辛かったです。みぞおちの下あたりがずっと痛かった…。
 ※繰り返しになりますが、こういう演技はマームとジプシーの舞台に限ったことではありません。

 ここからネタバレします。

 アヤちゃんが自殺してしまうお話でした。9.11や3歳の女児の殺人事件があったのに何も変化しない。こんなひどい世界から消えてしまいたい…。そういう中学生のナイーブさが描かれていて、美しいし、悲しいと思いました。自分の気持ちを分かってくれる人はいないことに気づき、孤独を発見するのは世界共通の人間の真実かもしれません。

 藤田さんの作品は「誰かがいなくなってしまうこと」を描くものが多いですよね。感傷的過ぎて私には合いませんでした。ラストに近づくにつれてセリフを泣き声にしていく演出も、やはり苦手です。 

 お芝居の最後に舞台が真っ暗になったんですが、客席の通路の足元灯りは消えませんでした。完全暗転ができない劇場なのかしら…。

出演:荻原綾、尾野島慎太朗、成田亜佑美、波佐谷聡、召田実子、吉田聡子
脚本・演出:藤田貴大 衣装:suzuki takayuki 舞台監督:熊木進 照明:南香織 音響:角田里枝 映像:召田実子 ツアーマネージャー:門田美和 制作:林香奈 梅村祥子 古閑詩織 メイク協力:THREE 主催:株式会社ルミネ 合同会社マームとジプシー
【発売日】2016/03/27
予約 3,500円
当日券 4,000円
http://mum-gypsy.com/news/2931

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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