ゲッコーパレードは埼玉県蕨市にある“旧加藤家住宅”(京浜東北線蕨駅より徒歩12分)を拠点に活動するカンパニーです。4/2(日)13時開演の『ハムレット(再演)』の上演時間は約1時間10分。
「CoRich舞台芸術まつり!2017春」の審査員として拝見しました(⇒102本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。
幸運なことにぽかぽか日和で、蕨駅からの徒歩約12分のお散歩が楽しかったです。会場は駅から線路に沿って真っ直ぐ進み、地図のとおりに2度曲がるぐらいの場所にあり、生け垣に舞台写真や活動紹介の紙を貼ってくださっていたので、迷わずたどり着けました。
会場は築数十年と思われる民家。全席自由で各回限定15席です。前の二列は桟敷席(畳に座布団)、最後列は背もたれなしのイス席ですので、劇場へはどうぞお早目に。開演前に台所をじっくり眺めていると、「私の祖母の家と同じ食器棚がある!」「あのマグカップ、私も持ってる!」などの(笑)、色んな発見がありました。
今回の『ハムレット』は“戯曲の棲む家”シリーズの第6弾。パンフレットによるとセリフは全て、シェイクスピア作『ハムレット』の翻訳本からの引用だそうです。
ここからネタバレします。
時系列ではなくランダムに場面を上演していくスタイルで、3人の俳優が複数役を演じます。渡辺恒さんが演じるのはハムレットなど、崎田ゆかりさんはオフィーリアなど、河原舞さんはホレーシオなど。演出の黒田瑞仁さんは客席下手奥で音響と照明のオペレーションをされており、客席後方の雨戸の開け閉めも担当。昼間の回でしたが雨戸のおかげで暗転を味わえました。黒田さんは墓堀り役として出演もされました。
台所がメイン舞台でした。隣接する畳の居間が客席です。客席上手側のふすまの向こうにも畳の部屋があり、そこからも俳優が登場しました。覚えている場面は「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ(訳は色々あり)」「尼寺へ行け」「オフィーリア狂乱の場」「父王の幽霊が死の真相を告白」「ハムレットが母ガートルードに詰め寄る」「ハムレットとホレーシオが墓堀りに話しかける」「オフィーリアの埋葬」「ガートルードとクローディアスがハムレットを引き留める」など(間違ってたらすみません)。時系列ではないので、『ハムレット』を知らない人にはどんなお話なのかはわからなかっただろうと思います。
冒頭が面白かったです。暗転中にひっそりと登場して冷蔵庫のドアを開け、取り出したガラス瓶入りの食べ物を食卓で食べながら、渡辺さんがセリフを言います。「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」(だったかな)という有名なセリフが、いい年になって実家の世話になっているニート男性のつぶやきに聞こえて、笑えました。ビートルズの楽曲が流れるのも“青春”っぽくていいと思いました。
黒田さんの終演後のトークによるとこの作品は三部構成とのこと。「本編とは一切関係ない、意味のない場面」「CMと呼んでいます」とおっしゃった第二部は、崎田さんと河原さんが大きな声を張り上げ、大げさな身振りで演じます。灰色と黄色の配色のペアルックで、お笑い芸人のコンビのようでした。そういえば最近観た『ハムレット』でも、墓堀りの場面はお笑いにしていたなぁと思い出しました。
実際に料理をして食べる場面は、料理をする動作が板についていて、観ていて退屈しませんでした。サンドイッチを作って食べるところが一番好きでしたね。ただ、サンドイッチを食べながら、文庫本の『ハムレット』を手にセリフを読み上げるのは、意図がわからなかったです。口の中にまだ食べ物が入っているし、誰に語り掛ける風でもないので、食べ終わってから語るか、黙読でいいんじゃないかと思いました。行動の根拠となる設定や動機などはあまり重視されていないようです。
最後に舞台美術の見せ場がありました。台所の上の棚を開くと内側が装飾されており、置かれたオブジェには照明が当たっています。冷蔵庫の下の引き出しからも何かが飛び出ていました。テーブルを横にすると、その裏にも装飾が施されていました。暗闇でたくさんの奇妙な物体にカラフルな照明が当たります。少々気味の悪い、ホラー風味のエンディングでした。作品全体が住人の男性(=ハムレット)の妄想の世界だったと解釈して良さそうです。家の中に照明がたくさん仕込まれていて感心しました。
俳優同士がお芝居で会話をする際、生の感情の交流は特になく、空に向かって独白をする人たちが交互に話をしている印象でした。手を伸ばせば届くぐらいの至近距離に観客がいるのですが、俳優は観客と積極的には交流しませんでした。せっかくの家屋の中での上演なのに、もったいない気がしました。
終演後に演出の黒田さんとゲスト (演出家・青年団演出部の蜂巣ももさん)との「歓談」という形式のトークがあり、作品理解の助けになりました。畳に座布団を敷いて、全員がゆるやかに円になって座ります。観客はお二人が話すのを聞くだけで、質問できる雰囲気にはならなかったので、「歓談」ではなく「ポスト・パフォーマンス・トーク」としてもよかったのではないかと思いました。
本拠地公演 戯曲の棲む家vol.6
出演:渡辺恒(ハムレットなど)、崎田ゆかり(オフィーリアなど)、河原舞(ホレーシオなど)
脚本:W. シェイクスピア
引用訳:小田島雄志 松岡和子 木下順二
演出:黒田瑞仁
美術:柴田彩芳〔現代美術家〕
衣装:森弓夏〔服飾デザイナー〕
空間:渡辺瑞帆 (青年団 演出部)
照明協力:磯野いるか 鈴木麻友
記録映像:絵空衣音
チラシデザイン:岸本昌也
チラシ写真:瀬尾憲司
制作:岡田萌
制作補助:川口潮奈
後援:蕨市 蕨市教育委員会
☆終演後のお茶会に、歓談ゲストあり。
1日(土)17:00…近藤弘幸さん (シェイクスピア研究者・東京学芸大学教授)
2日(日)13:00…蜂巣ももさん (演出家・青年団演出部)
7日(金)20:00…佐々木透さん(リクウズルーム主宰・劇作家・演出家)
9日(日)17:00…蕨市民会館 岡本館長・蕨市立文化ホールくるる 井田館長
【発売日】2017/01/05
一般 2,000円
高校生以下 500円
蕨市民 1,000円
プチ・パトロンチケット 3,000円
(特典はありません。このチケットのご購入が団体の継続的な活動につながります。ぜひもう一押し、応援ください。)
※当日券は随時お問い合わせください。
※各回限定15席ですので、お早めのご予約をおすすめいたします。
http://geckoparade.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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