ミュージカル『手紙』製作委員会『ミュージカル「手紙」2017年版』01/20-02/05新国立劇場小劇場

ミュージカル「手紙」2017年版
ミュージカル「手紙」2017年版

 昨年1月にメルマガ号外を発行したミュージカルが再演されています。メルマガ2016年12月号でお薦め前売り公演として掲載し、今月号でもお薦めNo.1としてご紹介しました。上演時間は約2時間30分、途中休憩20分を含む。ロビーで初演のDVD(7800円)を購入しました。

 ある殺人事件の当事者たちの物語で、原作は東野圭吾さんの同名ベストセラー小説。映画化もされています。やっぱり素晴らしい作品でした…!今回は被害者側の事情、本音がくっきりと伝わって、主要人物の気持ちの変化に説得力が増していました。演出の大きな変更により祝祭性がやや抑制され、ドラマが深まったようにも思います。

 弟役は柳下大さんと太田基裕さんとのダブルキャストで、お二人とも今作には初出演。私は柳下さん版を拝見。役人物のバックグラウンドをきちんと作って、舞台上で素直に反応する演技をしてくださって、とても良かったです。高校生時代の初々しい少年らしさ、幼さと不器用さ、そして後半の変化(成長)も、自然で信じられるものでした。同じく今回初出演のヒロイン由実子役の小此木まりさんも良かったです。

 初演では客席側に舞台が設置され、舞台上がロビーへの通路になっていたのですが、今回はいつも通りのプロセニアムでした。そこが最も大きな変更点ですね。
 

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 ここからネタバレします。

・詳しい目のあらすじ

 引っ越し屋で働く寺島剛志(吉原光夫)は弟・寺島直貴(柳下大)の大学の学費欲しさに殺人の罪を犯し、懲役14年の刑を言い渡された。直貴は高校でいじめられ、バイトはクビになり、卒業式にも出なかった。リサイクル工場に就職して社宅に住むようになる直貴。兄が「いつかジョン・レノンの「イマジン」を歌ってくれ」と、プレゼントしてくれた中古のギターで、休日は歌と演奏を独学する。同僚の由実子(小此木まり)に励まされ、通信教育を受けて高校時代の友人、寺尾祐輔(藤田玲)と同じ大学に入学。ヴォーカルとして祐輔のバンドに入るが、デビュー間近という時に、兄のことがばれてバンド仲間から見捨てられる。

 大学卒業後、直貴は電化製品の量販店に就職。ここでもまた、兄のせいで埼玉県の倉庫へと転勤を命じられた。社長(川口竜也)からの助言は「差別はいけないことだが、なくならない。会社の人事は間違っていない。今、ここから人生を始めなさい」「人は人とのつながりの中で生きる。君は今、社会的には死んだ状態だ。でも君のことを思っている人(由実子)がいる。その人を大切にしなさい(由実子が社長宛てに「直貴は悪くない」という手紙を送っていたため)」、そして由実子との結婚後は「君たち夫婦は正々堂々と生きるというやり方だが、それは通用しない」とも。

 直貴と由実子に娘ミキが生まれるが、「剛志の出所が近づいている」との噂から、由実子は社宅で仲間はずれにされはじめ、保育園からも「ミキちゃんは預かれない」と言われる。そんな時、ミキを乗せて自転車に乗っていた由実子がひったくりに遭い、転倒。集中治療室で検査を受けるミキを待っていると、ひったくり犯の母(五十嵐可絵)が謝罪に来た。ミキの命に別状はなかったとはいえ、とても許す気になれない2人。ここで直貴は初めて、被害者の立場、思いを経験することになる。

 とうとう直貴は兄との決別を決心。手紙を書かない直貴の代わりに、由美子が直貴の名前でワープロで剛志宛ての手紙を書いていたが、「最後の手紙」として直貴が直筆の手紙を送る。自分だけならまだしも、ミキにまで兄の影響が及ぶ。そこまで家族を苦しめていることを、知ってもらわなければならない。それが兄の罪に対する罰なのだと。

 直貴は被害者・緒方敏江(五十嵐可絵)の息子・緒方忠夫(染谷洸太)に連絡し、直接会って謝罪をする。それは兄がずっと望んでいたことだ。兄が10年間、毎月、忠夫宛てに手紙を送っていたことを知る。最近、兄が「最後の手紙」として送ってきた手紙のことも。そこには直貴から最後の手紙が送られてきたことも書かれていた。自分の謝罪の手紙が忠夫を苦しめていたことに気づいた、とも。直貴、剛志、忠夫の3人が歌う「最後の手紙 M23 リプライズ」がいい。直貴は泣きながら「この手紙が俺を育てた」と言い、忠夫が直貴に「お互い、長かったな」と声をかける。

 28歳になってもバンド活動を続けている祐輔の誘いで、直貴は兄が収監されている刑務所を慰問することに。囚人たちを前に、「イマジン」を弾き語りすると言う直貴。滂沱の涙を流す兄が立ち上がり、直貴と目が合う。「イマジン」の歌声は聞こえない。

・感想

 一般人が囚人服を羽織っただけで、すぐに塀の中の人になるのがいい。剛志に殺された女性を演じていた俳優が、後半でひったくり犯の母役で登場するなど、加害者と被害者の両方を演じる配役も効果的。

 初演の最後の最後に歌われていたクリスマスの歌がカットされていた。俳優が客席通路に出ての大合唱が感動的だったので、それがなくなったのは残念。舞台美術の反転がなくなったのも。ただ、上演しやすい構成にするのは、今後の展開を考えると重要なのだろうと思う。海外でも上演されてほしい。パンフレット(2000円)では韓国上演も視野にあるとのこと。

≪東京、兵庫≫
出演:柳下大(Wキャスト)、太田基裕(Wキャスト)、吉原光夫、藤田玲、加藤良輔、川口竜也、染谷洸太、GOHIRIS WATANABE、五十嵐可絵、和田清香、小此木まり、山本紗也加
生演奏:村井一帆、井上“KB”幸法、関谷友貴、土屋玲子
原作:東野圭吾『手紙』(文春文庫刊)
脚本・作詞:高橋知伽江
演出:藤田俊太郎
作曲・音楽監督・作詞:深沢桂子
振付:新海絵理子
音楽監督助手:村井一帆
美術:原田愛
照明:日下靖順
音響:山本浩一
技術監督:小林清隆
舞台監督:倉科史典
演出助手:堀内立誉
衣裳:小林巨和
ヘアメイク:糸川智文
宣伝美術:菊田参号
写真撮影:園田昭彦
宣伝ヘアメイク:松本円
制作:難波利幸
制作補:村彩菜
衣裳協力:Z-IN-X SUBLIMINAL TETRAGON
企画協力:文藝春秋
製作:ミュージカル『手紙』製作委員会
票券:サンライズプロモーション東京
制作:NO.4
9,800円 リピーター割引8000円 ※未就学児童不可
http://no-4.biz/tegami2/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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