【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所12期生試演会『トミイのスカートからミシンがとびだした話』12/17新国立劇場・合唱リハーサル室

 日本唯一の国立俳優養成所である新国立劇場演劇研修所(⇒公式facebookページ)が、12期生の試演会として三好十郎の1951年初演作『トミイのスカートからミシンがとびだした話』を上演します。67年ぶり、初演以来初めてという、とても貴重な公演です。前回の朗読劇に続いて、12期生の稽古場にお邪魔しました。

 過酷な状況に右往左往する自分自身を笑い飛ばし、時に健気に、時にふてぶてしく乗り越えていく、庶民の群像劇です。台本を一読し、くすりと笑いながら涙ぐんでしまいました…。
 本格的な美術、衣装などが揃う公演で、いつもながらチケット代が安い!

●新国立劇場演劇研修所12期生試演会
 『トミイのスカートからミシンがとびだした話』⇒公式サイト
 会場:新国立劇場小劇場THE PIT
 10月26日(金)19:00
 10月27日(土)14:00 ※残席わずか!終演後に研修所説明会あり♪
 10月28日(日)14:00 ※残席わずか!
 10月29日(月)19:00
 10月30日(火)19:00
 10月31日(水)14:00
 上演時間:約2時間半(休憩15分を含む)を予定。
 A席3,240円 B席2,700円 Z席(当日券)1,620円 学生券1,000円
 ⇒チケット購入サイト ⇒チケット購入用電話:03-5352-9999

写真(敬称略):演出の田中麻衣子(右端)
写真(敬称略):演出の田中麻衣子(右端)

 公演中に無料の説明会↓があります。関心がある方なら誰でも参加可能。観劇とあわせてどうぞ!

 15期生の募集概要↓も公開されています(⇒告知エントリー)。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
戦後、東京周辺の都市、明け方に近い時分。身体を売って生計を立てていた富子と、その仲間たちが酒を飲みながら歌を唄っている。貯めた金でミシンを手に入れ、洋裁で生活していこうとする富子の送別会である。
東京郊外の伯父の家に戻った富子は、伯父夫妻の助けを借り、弟・妹と暮らしながら洋裁店を開く準備を進めている。そこへ、新聞記者がインタビューに訪れ、世の中に明るい希望を与えるために富子のことを記事にしたいと言う。……
≪ここまで≫

 私が伺ったのは初日の9日前でした。初日2週間前には初めての通し稽古を終えたそうで、順調に進行している様子です。1日の稽古時間はなんと12時~21時という長時間! 私は12時から16時までお邪魔し、1~10場あるうちの5場まで拝見しました。2場まで観た時点で「めっちゃ面白い!」とつぶやいてしまった…! 次々と畳みかけるように事件が起こり、人々は翻弄されて節操なく変貌していきます。それぞれの心の機微がギュっと凝縮された群像劇なのです。

写真(左から敬称略):林真菜美、中坂弥樹、石原嵩志、永井茉梨奈
写真(左から敬称略):林真菜美、中坂弥樹、石原嵩志、永井茉梨奈

 今回の演出は、2005年の開所以来ずっと同研修所にかかわっていらっしゃる田中麻衣子さん。研修生の公演を演出されるのは5回目です(過去レビュー⇒1234)。1場面ごとに改善点を指摘していく“返し稽古”では、自然に交わされる会話から関係性がはっきりと伝わるように、細かい部分を詰めていきます。

 田中:「それなんです」の「それ」が指すものを、もう少しわかりたい。
 田中:彼はお金のことで頭がいっぱいのはず。今の演技だと、のんびりしているみたい。

写真(左から敬称略):中坂弥樹、福永遼
写真(左から敬称略):中坂弥樹、福永遼

 舞台上で起こるほんの些細なことが、観客に与える情報を左右します。たとえば何の目的でその場に存在するのか、相手役に同調か反発かなどは、セリフを発さなくても目に見えるんですよね。日常のたわいない仕草や位置取りなど、驚くほど小さな部分を確認していきます。

 田中:位置が相手の真横すぎる。お尻をもう少し奥にして。そうすれば角度ができる。
 田中:飲み物を飲むタイミングと、飲み方が変だね。(その場に自然に居られるように)いつ、どのように、飲むのか。持ち方も考えてみて。

写真(左から敬称略):永井茉梨奈、下地萌音
写真(左から敬称略):永井茉梨奈、下地萌音

 研修生の試演会なので、丁寧な演技指導も挟みながら、さまざまな試行錯誤が続きます。

 田中:ちょっと試したい。スガがトミイ(=富子)の腕を取って、一緒にミシンの周りを回ってみようか。
 田中:しゃっくりをするじゃなくて、「ん~~~!(高音)」と言うのに変えてみよう。
 田中:トミイの入り(=登場)を遅らせて。ほんの1秒のことなんだけどね。

写真(左から敬称略):林真菜美、村岡哲至(第9期修了)
写真(左から敬称略):林真菜美、村岡哲至(第9期修了)

 12期生の今公演で演出部を担当する13期生が、初めて稽古場にやってきました。舞台監督の田中伸幸さんの指導のもと、場面転換の段取りを試していきます。今回は大がかりな装置の移動があり、小道具もたくさん! 袖にハケる(=去る)俳優とぶつからない動線の検証も含め、丁寧なシュミレーションが重ねられました。1学年上の先輩が出演する公演の演出部研修は、貴重かつ重要な体験で、同研修所で代々続いています。下級生にとっては、1年後の本番の予習にもなるんですね。

写真:指導を受ける13期生
写真:指導を受ける13期生

 足踏みミシン、ちゃぶ台、座布団、姿見…1950年代の日本の道具の扱いは、若い俳優にとってハードルが高いはず。時代考証を踏まえて、所作指導の専門家や一流のスタッフに支えられながら、“初めて知る昔”を心身に沁み込ませていきます。過ぎ去った歴史を今によみがえらせ、身体と肉声で伝承していくことは、俳優(を含む実演家)にしかできない仕事だと思います。

写真(左から敬称略):河合隆汰、伊澤日菜、伊澤日菜 ※タバコは害のないネオシーダーを使用しています。
写真(左から敬称略):河合隆汰、伊澤日菜、川飛舞花 ※タバコは害のないネオシーダーを使用しています。

 音楽を担当する国広和毅さんは、Theatre MUIBOで演出の田中さんと長年、創作を共にしてこられた方です。今や大手演劇公演に引っ張りだこの、超売れっ子の音楽家ですね。
 ダンスの振付は、なんと、黒田育世さんです! ネタバレになるので詳細は控えますが、当然のことながら、刺激的な場面になりそうですよ♪

写真(左から敬称略):下地萌音、石原嵩志
写真(左から敬称略):下地萌音、石原嵩志

 戦中・戦後の劇作家の三好十郎といえば、葛河思潮社で繰り返し上演された『浮標』や文学座『冒した者』が記憶に新しいですよね。2017年の新劇交流プロジェクト『その人を知らず』も話題になりました。『胎内』や『廃墟』も近年よく上演されています。どれも戦争や貧困などの理不尽に憤る知的な人物が、激しく葛藤して哲学する骨太な作品です。

写真(左から敬称略):石原嵩志、川飛舞花、永井茉梨奈、河合隆汰、伊澤日菜、福本鴻介
写真(左から敬称略):石原嵩志、川飛舞花、永井茉梨奈、河合隆汰、伊澤日菜、福本鴻介

 『トミイ~』には絵に描いたような“インテリ”と呼べる人物は登場しないのですが、『浮標』にあった「神様は在るの?」という根源的な問いを、主人公の富子が口にします。

 富子:もし神さまがすべての物をお作りになったんだったら、全体どうして世の中はこんな不完全に出来てて、人間が苦しむんですの?

 元娼婦の富子はまっとうに生きようとしますが、世間がそれを許しません。女性蔑視、職業差別、報道の横暴などが描かれ、今、世界的に起こっているme too運動とも重なります。

写真(左から敬称略):永井茉梨奈、坂川慶成(第8期修了)
写真(左から敬称略):永井茉梨奈、坂川慶成(第8期修了)

 舞台を闊歩するのは、ごくごく普通の人々です。彼らは時代の荒波に逆らおう、もしくは乗りこなそうと必死でもがきながら、明るく、元気に日常を生きようとします。富子役の永井茉梨奈さんは真面目にやればやるほど、なぜかとぼけた空気が生まれる素敵なコメディエンヌでした(笑)。
 降りかかる不幸にジタバタし、愛を求めてもがく滑稽で劇的な人生を、若い俳優がまっすぐ、ポジティブに生きてくれそうです。登場人物が多く、1人の俳優が複数役(最大4役)を演じ分けるのも見どころですよ♪

写真:永井茉梨奈
写真:永井茉梨奈

新国立劇場演劇研修所12期生試演会
『トミイのスカートからミシンがとびだした話』⇒公式サイト
10/26-31新国立劇場小劇場THE PIT
A席3,240円 B席2,700円 Z席(当日券)1,620円 学生券1,000円
チケット購入サイト ⇒チケット購入用電話:03-5352-9999

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■公式facebookページ

【配役表】
律子 林 真菜美
ベス 中坂弥樹
德平 福本鴻介
富子 永井茉梨奈
藤村 福永 遼
スガ 下地萌音
狂介 石原嵩志
塚本 村岡哲至(第9期修了)
平助 河合隆汰
八郞 福永 遼
おかみ 下地萌音
お杉 伊澤日菜
春子 川飛舞花
健 石原嵩志
金森 福本鴻介
靑年一 坂川慶成(第8期修了)
靑年二 村岡哲至(第9期修了)
中年男 村岡哲至(第9期修了)
學生一 福本鴻介
學生二 福永 遼
靑年 坂川慶成(第8期修了)
川本 坂川慶成(第8期修了)
佐伯 村岡哲至(第9期修了)
看護婦 川飛舞花
紳士 河合隆汰
九鬼源造 福本鴻介
女の聲 伊澤日菜
【作】三好十郎
【演出】田中麻衣子
【美術】伊藤雅子
【照明】中川隆一
【音楽】国広和毅
【音響】黒野尚
【衣裳】宮本宣子
【ヘアメイク】馮啓孝
【振付】黒田育世
【演出助手】菅井新菜
【プロンプター】永田涼(第10期修了)
【舞台監督】田中伸幸
【演劇研修所長】宮田慶子
【主催】文化庁、新国立劇場
A席3,240円 B席2,700円 Z席(当日券)1,620円 学生券1,000円
ボックスオフィス 03-5352-9999
WEBボックスオフィス http://nntt.pia.jp/event.do?eventCd=1827363
公演情報 https://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_012609.html

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