劇団青年座『砂塵のニケ』03/23-31青年座劇場

 長田育恵さんが青年座に新作を書下ろし、宮田慶子さんが演出されます。青年座劇場での最終公演です。上演時間は公式によると約2時間35分(休憩15分を含む)。

 日本、フランス、ギリシャに想像を飛躍させることが出来る、熱い恋愛あり、家族ドラマあり、有名絵画、古代遺跡ネタありのエンターテインメントでした。これはテレビの2時間ドラマになるのもいいのではないでしょうか♪

≪あらすじ≫ 公式サイトより
ある日、美術修復家の緒川理沙は、ある絵画の修復を手掛けることになった。
それはパリの風景を描いた一枚の絵。
夭逝した天才画家加賀谷直人が遺したものだ。
修復とは、時代を遡って過去の痕跡をたどり、創作の原点を明らかにすること。
理沙は、手掛かりとなるその景色を求めてパリへと飛び立つのだった――。

一枚の絵が「過去」と「現代」を結び、「親」と「子」をつなぐ。
親が子に託すもの、親から子が受け継ぐもの、そして未来に渡すもの…。
悠久の時の流れの中、二つの世代を旅しながら、
現代に生きる一人の女性が自らの存在理由を探る。
≪ここまで≫

 20代の日本人女性・理沙(那須凜)が、19世紀からあるパリのアパルトマンに滞在し、数十年前に急逝した無名の日本人画家(綱島郷太郎)の絵画の修復と、その来歴を調べるのですが、彼女は絵画修復をルーヴル美術館で行うのです。これは…パリの美術館好きとしては、萌えたわ~~~(笑)。タイトルの「ニケ」はルーヴル美術館にあるギリシャの有名な彫刻です。その彫刻の修復にあたる考古学者たちも登場し、ギリシャ遺跡の話題も出て…楽しい!

 全体的にわかりやすく説明する演技、演出になっていたのは私好みではありませんでしたが、娯楽性の高いドラマにすることが最優先だったのかなと想像しました。

 理沙の母・美沙子役の増子倭文江さんの衣装が、いかにもアート通の高飛車なビジネス・ウーマン風で、大胆で良かったです。靴(黒いハイヒール2種類?)が素敵!娘の理沙はカジュアルかつボーイッシュな衣装で好対照でした。

 ここからネタバレします。

 舞台中央はパリのアパルトマンで、センスの良い木製家具とギリシャ遺跡の柱がそびえ立っています。上手手前は病院など、下手手前はルーヴル美術館の修復部屋で、下手奥は陣内のオフィス。中央の回り舞台は、カーテンなども含め抜け感がある場面転換が素敵でした。回り舞台の手前、舞台面側は床が一段下がっていて、「砂塵」を思わせる土のような色合いです。最後の場面で家具が取り払われると、石の柱と床、そして土という遺跡らしい少し殺風景な空間になります。

 冒頭は理沙が誰かの子供を中絶した後、睡眠薬の過剰摂取で入院している場面でした。理沙は美術修復家として自立したいと思っていますが、大企業の経営者である母の美沙子は娘の希望など省みず、跡を継がせる気、満々です。美沙子のビジネス・パートナーである陣内(横堀悦夫)は「君(理沙)にはがっかりした!」と病室で怒鳴りながらも、理沙にチャンスを与えます。近い将来、日本で予定されているフェルメール展の助手の仕事をくれると。ただし、加賀谷直人という既に亡くなった画家のある絵の修復と、その来歴を調べることが条件でした。しかもルーヴル美術館で働かせてくれるという好待遇。

 画家の加賀谷が理沙の父親なのだろうことはかなり早い段階でわかってしまいました。もともと隠す意図はなかったのかもしれませんが、個人的にはもう少し後で気づきたかったです。

 理沙が加賀谷が暮らしていたアパルトマンに滞在するので、現在と数十年前が交差し、混在していきます。若い頃、陣内経由で加賀谷と出会った美沙子は、「自分は“ニケ”という名の娼婦だ」と身分を偽りました。風景画が得意な加賀谷がニケをモデルに肖像画を描くうちに、2人は恋に落ちます。この男女の愛の形は個人的にとても信じられる関係で、納得できたし官能的でした。2人に嫉妬した(美沙子を好きだった)陣内が美沙子の素性を加賀谷にバラし、やがて2人は違う道を選んで別れてしまいます。

 ルーヴル美術館で働く日本人男性2人と出会った理沙は、若い方の男性・津村拓郎(久留飛雄己)と恋仲になり、加賀谷と母がむつみ合った同じ部屋で結ばれます。なんともロマンティックな展開です。津村は理沙との恋に関してもっと積極性を見せて欲しかった気がしますね。初対面の時点で「泣いている理沙を抱きしめたかった」ぐらいなので。
 
 最後はニケが出土したサモトラケ島で理沙と津村、陣内と美沙子が出会う場面でした。末期がんになった加賀谷は5歳になった理沙と、ほぼ誘拐同然で2か月間、ともに色んな国を旅しますが、車中で突然死してしまいます。理沙はこの記憶を失っていたんですね。娘を再び失いたくないと思った美沙子が、陣内に依頼してギリシャまで駆けつけたので、母娘が向き合うことができました。理沙が大人になり、美沙子もそれを認めるという大団円の雰囲気で終幕。

 東京からパリ、ギリシャのサモトラケ島へと旅していくのは、映像になると良さそうだと思いました(海外ロケ敢行の豪華テレビドラマのイメージ)。現代からギリシャへとつながるのは小川絵梨子演出『プライド』を思い出しました。

第231公演
出演:
緒川理沙=那須凜
緒川美沙子=増子倭文江
陣内敦夫=横堀悦夫
津村拓郎=久留飛雄己
篠田美玲=野々村のん
市來さおり=清瀬ひかり
加賀谷直人=綱島郷太郎
笹本譲治=松川真也
佐久間勉=山野史人
スタッフ:
脚本=長田育恵
演出=宮田慶子
美術=伊藤雅子
照明=中川隆一
音響=高橋巖
衣裳=半田悦子
舞台監督=尾花真
製作=紫雲幸一 小笠原杏緒
【発売日】2018/02/14
一般=4500円、U25(25歳以下)=3000円、初日割引(3/23)=3000円
http://seinenza.com/performance/public/231.html
http://stage.corich.jp/stage/89311

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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