烏丸ストロークロック『まほろばの景』03/01-04東京芸術劇場シアターイースト

 柳沼昭徳さんが作・演出される京都拠点の劇団、烏丸(からすま)ストロークロックの初東京公演です。岸田國士戯曲賞最終候補となった戯曲『新・内山』を読んで、とても面白かったので期待して伺いました。初日の上演時間は約1時間40分。

 過去から未来へと続いていく時間の射程が長い作品で、地球や人類の誕生と進化(退化)も想像できました。終演後はしばらく客席に残り、深い余韻を味わいました。

≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
故郷を失った男が、理想郷を求め辿り着いたのは…
京都の烏丸ストロークロックが地域を越えて挑んだ連作の集大成
この『まほろばの景(けい)』シリーズは、2017年7月の宮城県仙台市での滞在制作からスタートしました。東日本大震災以降、“被災地”と漠然と捉えていた彼の地での人びとの声、営みとの出会いは、私たちが日常無意識に感じるあらゆる隔たりとの対峙でもありました。隔たりを超え「交ざりあう」ことをテーマに東京・京都での朗読劇、広島での短編と1年をかけて連作を重ね、この長編「まほろばの景」へと物語は集成します。
≪ここまで≫

 半透明の長細い幕が幾枚も天井から垂れ下がっており、その中央奥に生演奏をする人がいて、幕の奥や中から俳優がゆらりと登場します。
 私たちの卑近な日常の営みと、命についての哲学的な問いかけが、ぴったりと合わさって存在する静かな世界でした。荘厳さを湛える空気にダジャレが紛れ込むのがいいですね~。ウケ狙いでないのも良かった。肉感があって官能的なのも好みです。

 主役の男性A(※役名を失念したため勝手にアルファベットにしました)を演じる小濱昭博さんは仙台の劇団 短距離男道ミサイル所属です(⇒CoRich舞台芸術まつり!2017春・グランプリ受賞団体)。その場で起こることに素直に反応する柔軟さが素晴らしく、それでいて役人物の人生もちゃんと身体に保っているので説得力があります。
 山伏やAの父親を演じる小菅紘史さんのどっしりとした安定感のある歩みと、厚みがありながら、さわやかに響く声も良かったです。

 当日配布のパンフレットでは、俳優が何の役を演じているのかがわかりませんでした。ネタバレにならない程度に配役表を載せてくださるとありがたいです。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 A(小濱昭博)は故郷の宮城で東日本大震災に遭い、両親や兄弟の命は無事でしたが、家は津波に流されました。介護士の資格を取って関西に移り住み、2016年の地震後の熊本に、ボランティア活動に行っています。現在は定職には付いていないようです。小濱さんは宮城在住で熊本で劇団公演もされていますので、実人生が反映されたせいなのか、何を言ってもやってもごく当たり前のような、自然なたたずまいでした。

 知的障碍を持つ25歳の男性Bが失踪し、彼の担当だったAは、半年経った今も京都の笠置山(たぶん)で捜索をしています。山中で山伏の集団と出会い、Aの回想が始まります。東日本大震災が起こった時期の宮城での生活、2016年の地震後の熊本でのボランティア、大阪に定住を決め故郷を捨てたらしい友人との乾いた談笑、Bとその姉が暮らす古屋での切なくて激しい逢瀬…。井戸だけが残った実家でAの父がつぶやいた「夢みたいだ」という言葉どおりに、夢かまことか判別できないエピソードが重なっていきます。

 宮城で避難生活をしている元恋人(?)に自宅のユニットバスを貸してあげる場面で、Aは彼女の下腹部に残った子宮摘出手術の傷を触ろうとします。「見せて」とまっすぐに要求するのがエロい! 知的障碍を持つ男性Bが暮らす家で、Bを介護する姉がズボンをたくし上げて生足をチラ見せするのもエッチ! 
 私が大阪育ちだからか、喫茶店でブツブツとギャグまじりに他人に話しかける“オバチャン”がリアルだと思いました。ああいう人、確かにいた(いる)と思います。

 Aがかすかに覚えている仙台の神楽の振付と、山伏のお経(?)とが混じり合っていきます。いつの間にか床には水がしみ出していました。かすれた声を張り上げるのは、少々聞き苦しかったです。あと、全体的にストイックだった照明は、カラフルな演出を施してもいいんじゃないかと思いました。

 すだれの奥の台を登ってAがつぶやく最後のセリフは、たぶん「山がある」でした。客席後方を眺める彼の目には大きな山が映っています。そしてカーテンコールの後には、黒い床の真ん中に大きな水たまりが。爆心地、蔵王の御釜、月のクレーターなどに見えてきました。そびえる山と静謐な水とともに、雄大な自然、宇宙と、ちっぽけだけれど確かに存在する無数の星々のような命を想像しました。

まほろばの景シリーズ長編 ≪京都、東京≫
出演:阪本麻紀、澤雅展、角谷明子、小菅紘史(第七劇場)、小濱昭博(劇団短距離男道ミサイル)、松尾恵美
音楽・演奏:中川裕貴
脚本・演出:柳沼昭徳 
舞台監督/山中秀一
舞台美術/杉山至
照明/筆谷亮也
照明操作/吉津果美
音響/甲田徹
演出助手/中島由美子 一人静
宣伝美術/橋本純司
制作/富田明日香(quinada)
主催/烏丸ストロークロック
共催/ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団) 京都市 [京都公演]
提携/東京芸術劇場 [東京公演]
助成/芸術文化振興基金助成事業 京都府文化力チャレンジ補助事業 [京都公演]
京都芸術センター制作支援事業
後援/特定非営利活動法人京都舞台芸術協会
企画・製作/オフィスバックヤード
【発売日】2018/01/13
<整理番号付自由席>
一般:前売3,500円、当日4,000円
25歳以下:前売2,500円、当日3,000円
http://www.karasuma69.org/pages/736580/next
http://stage.corich.jp/stage/89698

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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