【つぶやき】新国立劇場演劇研修所・修了生の活躍状況(2016年8月)

 9月7日(水)から東池袋のあうるすぽっとで、KawaiProject『まちがいの喜劇』が開幕します。ご縁あって、9月8日(木)14時開演の回ポスト・パフォーマンス・トークにゲストとして登壇させていただくことになりました。

 KawaiProjectは英文学者、翻訳家の河合祥一郎さんの演劇企画で、『まちがいの喜劇』は第2回目の公演です。第1回目の『から騒ぎ』(19人中15人)に続き、新国立劇場演劇研修所の修了生が多数出演されています(18人中10人)。下記写真↓の沖田愛さんも、押田栞さんも修了生です。

 2005年の開所以来、自称“新国立劇場演劇研修所のオッカケ”である私が(笑)、2016年に計111人となった修了生の活動状況を、ごく一部ですが、ご紹介したいと思います。よかったらご笑覧ください
 ⇒修了生の出演情報は新国立劇場演劇研修所の公式サイトで更新されています。

 新国立劇場演劇研修所というと日本で唯一の国立の俳優学校で、新国立劇場と関係が深いため、もしかしたら堅苦しいイメージをお持ちの方が多いかもしれません。でも修了生の進路は、実はとてもバラエティーに富んでいるのです。
 「へ~、こんな俳優がいたのね」と新しく知ったり、なんとなく抱いていたイメージを刷新したり…そんな機会になれば幸いです。※以下、お名前の後の(数字)は“期”を示しています。

■多彩な進路(期が古い順)

 ここでは12人の修了生の今の活動についてご紹介します。

 【前田一世さん(1)】は新国立劇場演劇部門の公演によく出演されており、栗山民也演出『あわれ彼女は娼婦』のメインキャストでした。商業演劇への出演も多いです。吹き替え(声)のお仕事も多数。一番先輩なんですよね。↓写真の右から2番目です。

 中野成樹+フランケンズ所属の【小泉まきさん(1)】は同劇団の他に東京芸術劇場&マームとジプシー『cocoon』初演、再演や、藤田貴大さん演出『小指の思い出』にも出演されています。12月には同じく藤田さん演出の東京芸術劇場『ロミオとジュリエット』に出演予定。↓写真の右側です。

 テレビの世界に進まれた方もいらっしゃいます。【滝香織さん(2)】は坊ちゃん劇場『誓いのコイン』に主演され、ロシアのマールイ劇場での公演も成功させた実績があり(NHKで特集番組あり)、今は 愛媛県あいテレビのアナウンサーです。

 さいたまネクストシアターでヒロインを演じることが多かった【深谷美歩さん(2)】。今は東宝・こまつ座『頭痛肩こり樋口一葉』(2015年初演版が今年再演に)に出演中です。同じくこまつ座『きらめく星座』(⇒メルマガ号外)にも出演されており、NHKで舞台中継された時は、冒頭の作品解説の大役を担われていました。↓写真の一番左側です。

 【美月泉さん(2)】は華のん企画『三人姉妹』などで俳優としての活動も拝見しましたが、今はスロヴェニアで人形劇の道に進まれています。以下、「Embassy of Japan in Slovenia」の公式facebookページより転載(写真左側が美月さん)。熊本地震の際の美月さんのブログもよかったらお読み下さい。

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 劇団銅鑼を経てcompany ma(劇団「間」)の旗揚げメンバーとなった【土井真波さん(4)】は、児童演劇の世界へ。今年はオーストリアの国際児童青少年演劇祭に招聘されていました。ただいま創作児童劇『アリスがくれた不思議な時間』で九州ツアー中です。↓劇団「間」旗揚げ公演「雨ニモ負ケズ」の動画です。

 2.5次元ミュージカル系の舞台によく出演されているのは【林田航平さん(5)】。毎月のように新しい舞台に出演されており、ツイッターの写真投稿↓も活発です。

 ワタナベエンターテインメントに所属する【山﨑薫さん(5)】はただいま全国ツアー中の葛河思潮社『浮標(再々演)』(⇒メルマガ号外)に出演中。山﨑さんはコンサートを開催する歌手でもあります。トイプードルのようにやたらめったら可愛らしいのに、鉄のように固く冷たい意志も見せてくれるのが魅力。↓写真右側です。

 声のお仕事だと【横山友香さん(6)】のお名前もよく目にします。映画「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」吹き替え版(タイバ役)など。ミュージカルにも出演されていますね。

 白い劇場シリーズ第1弾からカンパニーデラシネラの作品に連続出演されている【野坂弘さん(7)】は、新国立劇場演劇『あわれ彼女は娼婦』のバーゲット役が大変好評で、後半に彼の出番がないことを残念に思ったお客さんは多かったはず…(笑)。「CoRich舞台芸術まつり!2016春」で演技賞を受賞。9月はご自身の新ユニット地平線『贖い(あがない)』の演出が控えています。

 研修所を出て1年半になる【スー・アサミさん(8)】の活動の幅の広さに、驚かされています。まず修了直後に出演したのがコンテンポラリー・ダンスの公演でした(⇒全編の動画)。新国立劇場演劇『かがみのかなたはたなかのなかに』の前説をバッチリ決めて(笑)、アジア舞台芸術祭2015『焦土』、松本雄吉演出『PORTAL』、9月は水戸芸術館の新作オリジナル音楽劇『夜のピクニック』に出演。11月の俳優座劇場プロデュース『ハーヴェイ』(西川信廣演出)へと続きます。

尾花藍子作品『フレームの日々が過ぎるまで』facebookより転載(中央がスーさん)
尾花藍子作品『フレームの日々が過ぎるまで』facebookより転載(中央がスーさん)

 今年3月に研修所を出たばかりの【村岡哲至さん(9)】は、MUIBO『わたしの物語~いかにして私がモンハ(修道女)になったのか~』、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース・やなぎみわステージトレーラープロジェクト『日輪の翼』と出演が続き、10月は新国立劇場の4人芝居『フリック』(2014年ピュリッツァー賞受賞作、マキノノゾミ演出)に出演。↓写真は9期生修了公演の稽古場レポートより(村岡さんは左側)。

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■SPAC・静岡県舞台芸術センターの俳優も

 宮城聰総監督のSPAC・静岡県舞台芸術センターでSPAC俳優として活躍する修了生も少なくありません。野口俊丞さん(1)のSPAC出演は宮城聰演出『ハムレット』(2008年初演)で初めて拝見しました。野田秀樹作・宮城聰演出『真夏の夜の夢』のときたまご役が可愛らしかった保可南さん(2)は、石井萠水さん(SPAC)とアイドルユニットMOKAを結成。↓写真左側が保さん。

 野口さんと保さんは今井朋彦演出『わが町』初演、再演でメインキャストでした。2010年初演では兄と妹、2013年再演では恋人同士を演じました。↓記念撮影させていただきました。

左が2010年、右が2013年
左が2010年、右が2013年

 パリで大好評だった2016年の新作『イナバとナバホの白兎』にも出演されており、保さんは看板女優の美加理さんと双子の兄弟役でした。↓こちらも静岡の野外プレビュー公演後に私が撮影。2010年から約5年半経って、お2人とも自信に満ちたお顔です。

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 若菜大輔さん(3)は初SPAC出演となった『黄金の馬車』(2013年)でメインキャストのスピーカー(1人2役のうちの語り)をつとめ、最近だと『メフィストと呼ばれた男』『黒蜥蜴』でも重要な役どころを演じ、11月のSPAC新作『高き彼物』(古舘寛治演出)に出演されます。中世ヨーロッパの彫刻のような美形で、私はいつも吸い込まれるように目を奪われます。↓2015年のSPAC公式ブログより。インタビューあり。

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 私に知る限りですが、他にも岡野真那美さん(1)、米川貴久さん(3)、長谷川直紀さん(7)、岩澤侑生子さん(7)らがSPAC公演に出演されています。

■わらび座&坊っちゃん劇場

 秋田の劇団わらび座や、愛媛の坊っちゃん劇場で数か月のロングラン公演に出演している方々も。先述の滝香織さん(2)は2011年~2012年のミュージカル『誓いのコイン』に主演。宇高海渡さん(3)、熊坂理恵子さん(3)も出演されていました。
 『誓いのコイン』はロシアのマールイ劇場でも上演され、NHKで特集もされました(⇒関連エントリー)。↓4分30秒あたりからインタビューの様子が見られます

 現在、わらび劇場でロングラン中のミュージカル『ハルらんらん♪』には長本批呂士さん(3)が出演中。宇高さん(3)も坊っちゃん劇場『お遍路さんどうぞ』の四国巡演ツアー中です。

■講師の実績

 俳優としてだけでなく俳優指導者、ワークショップ講師の仕事をする方々もいらっしゃいます。

 窪田壮史さん(1)は東京都立総合芸術高校、多摩美術大学で教鞭をとり、今は新国立劇場演劇研修所の講師でもあります。とうとう修了生から俳優指導者が誕生…!十余年の歳月のありがたみを感じます。

 辻村優子さん(3)のワークショップには私も参加させていただき、レポート(⇒)を書きました。次回は9月30日です。お薦めですよ♪

 子育て中の方々も活動中。河合杏南さん(1)は「親子ワークショップ」を開催したばかり。東京藝術大学音楽学部楽理科卒の浦島真理さん(3)はリトミック指導者になられています。

 講師ではないですが、東京藝術大学美術学部デザイン科卒の荒巻まりのさん(8)はチラシ、ポスターのデザイナーとしてのお仕事も多いようです。たとえば研修所の公演『嚙みついた娘』『ひめゆり』『ロミオとジュリエット』は荒巻さんのデザインです。キダハシワークス『島 island』、KawaiProject『まちがいの喜劇』、地平線『贖い(あがない)』もですね。

■自主企画

 2015年あたりから修了生の自主企画がぐっと増えました。やはり人数増加の影響は絶大!共通言語を持つ俳優のコミュニティーが育ってきています。以下、上演順にご紹介します(私の知る限りです)。

・ガプリヨツ:斉藤まりえさん(4)と日沼さくらさん(4)の劇団。第1回公演の舞台監督は森下康之さん(6)でした。過去レビュー⇒
・PLAY:クリスタル真希さん(4)、仙崎貴子さん(4)、川口高志さん(5)のユニット。脚本、演出を3人で手掛けた『CHOICES』のブラッシュアップした再演を希望。
キダハシワークス:窪田壮史さん(1)と田中圭介さんのユニット。第1回公演『島 island』には野坂弘さん(7)も出演。
・ラゾーナ川崎プラザソルの企画には梶原航さん(5)が関与されており、2015年9月の第1回公演『マクベス』(西沢栄治演出)の出演者は1人を除き全員が修了生。
マキーフン:藤井咲有里さん(2)の個人ユニット。第1回公演『胎内』が演劇評論家の渡辺保さんの「今月の3本(雑誌テアトロ)」に選出。共演に遠山悠介さん(2)も。
安全ピン:堀元宗一朗さん(8)と小川碧水さん(8)のユニット。演出家を迎えない方針で活動継続中。
地平線:野坂弘さん(7)の個人ユニット。9月に旗揚げ公演『贖い(あがない)』を上演。坂川慶成さん(8)と高橋美帆さん(9)の2人芝居です。窪田壮史さん(1)が制作を担当。

 ※キダハシワークスと地平線の公演は「NNTD Actor’s project」名義です(⇒解説込みのレビュー)。
 ※2015年に小川絵梨子さんと修了生によるワークショップが開催されました(⇒レポート)。

■修了生にフォーカスした記事

 トム・プロジェクトには修了生が3人所属されています。『百枚めの写真~一銭五厘たちの横丁~』初演に岸田茜さん(3)が、再演に森川由樹さん(6)が出演され、現在ツアー中の再々演では、森川さんと滝沢花野さん(8)が共演されています。演劇ぶっく社のウェブ媒体に森川さんと滝沢さんのインタビュー記事が掲載されました。研修時代についても語られています。こういう記事が増えて欲しいです。

■なぜ修了生に注目するのか

 ご縁あって新国立劇場演劇研修所の情報は開所前から耳にしており、2008年に1期生修了公演『リハーサルルーム』を観た時に、「これが、私の観たい(ずっと観たかった)演劇だ」と、震えるほど感動しました。以来、できる限り修了生を追いかけています。

 プロの俳優指導者による教育を3年間受けられる学校は、日本には今のところ、新国立劇場演劇研修所しかありません。また、研修生は税金で養成されています。日本人による上質のせりふ劇を観たいと切望している私には、この学校および修了生を応援しない理由が見つからない…。また、驚くほど顕著なのですが、修了生は数年で研修時代より各段に演技が上手くなります。やはり基礎があるから、現場での経験を上に積み上げられるのだと思います。

 もちろん演技には色んな手法があり、舞台芸術にはさまざまなジャンルがあります。日本は伝統芸能も海外製ミュージカルも盛んですし、長年活動している劇団もあり、若者が次々に新しい創作形態を生み出したりもしています。この百花繚乱の(玉石混交、カオスと言ってもいい)ありさまこそ、観客がありがたく享受すべき豊かさだと私は思います。

 そんな中で、「プロの教育を受けた俳優(および演出家)による演劇」が、1つのジャンルとして認識されてもいいのではないか。それが今、約15年ほど東京で演劇を観てきた私が、たどり着いた地点です。彼らこそが、私が観たいお芝居を作ってくれる(NTLiveみたいな!)。生きているうちには叶わないかもしれないけれど、そう信じています。

 ※このような公立の学校が日本に1つしかないのはとても残念なことで、できれば日本各地にあって欲しいと思っています。
 ご参考:フランスのパリには17の区立芸術専門学校があり、フランス全国には11の国立高等演劇学校があります。国立の3年間の課程を修了すれば大学卒業資格を得られます。いずれも学費は無料です。
 ⇒WL(ダブル)「【インタビュー】フランスで5年間、俳優修業の日々。竹中香子インタビュー」より。

 ※新国立劇場演劇研修所は18歳から30歳までしか受験できません。俳優指導者によるワークショップを見つけたら、なるべく多く拙サイトで情報発信するようにしています。プロの俳優、演出家の方々にご興味を持っていただけたら幸いです。

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