Bunkamura/キューブ『8月の家族たち August:Osage County』05/07-29 Bunkamuraシアターコクーン

8月の家族たち
8月の家族たち

 ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが米国人劇作家トレイシー・レッツさんの2007年初演戯曲を演出(⇒2009年のレビュー)。上演台本も手掛けてらっしゃいます。上演時間は約3時間15分(途中15分休憩を2回挟む)。

 『8月の家族たち August:Osage County』はピュリッツァー賞戯曲部門や、トニー賞最優秀作品賞を含む4部門を受賞したブラックコメディーで、メリル・ストリープ&ジュリア・ロバーツ主演で映画化もされました。ベネディクト・カンバーバッチも出演してるんですね~。パンフレットによると、映画版はあまり笑えるタイプではなかったようです。

 でも今回の舞台版では客席で大いに笑いが起こっていました。登場人物の置かれた状況はとても悲惨だけれど、あまりに愚かな様子が滑稽で、クスっと吹きだしたり、ワハハと笑えるように作られているのです。真面目さ、深刻さに沈みこまないように、それでいて、ネタを連発させ過ぎてしらけないように、バランスよく組み立てられていると思いました。

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 ⇒CoRich舞台芸術!『8月の家族たち August:Osage County

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(俳優名)を追加。
 8月、オクラホマ州のオーセージ郡。うだるような暑さの中、ウェストン家の三姉妹のうち、長女バーバラ(秋山菜津子)と次女アイビー(常盤貴子)が実家に戻ってきた。詩人でアルコール中毒の父ベバリー(村井國夫)が失踪したというのだ。ベバリーは家政婦ジョナ(羽鳥名美子)を雇った直後に、姿を消していた。家に残されていたのは、薬物の過剰摂取で半錯乱状態となり、口を開けば罵声を娘たちに浴びせる母バイオレット(麻実れい)だ。長女バーバラは夫のビル(生瀬勝久)、娘のジーン(小野花梨)を伴っていたが、家族には明かせない問題を抱えている。両親想いの次女アイビーもまた、家族には秘密の恋愛を育んでいる。ぎくしゃくした母と娘たちの緩衝材は、陽気な叔母マティ・フェイ(犬山イヌコ)と夫のチャーリー(木場勝己)だ。そして一家に、衝撃的な現実が突きつけられた。やがて三女カレン(音月桂)が婚約者のスティーブ(橋本さとし)を連れて姿を現す。叔母夫婦の息子リトル・チャールズ(中村靖日)も到着し、ようやく一族全員が揃ったディナーのテーブルで、それぞれが抱える鬱積が爆発し…。
 ※藤田秀世さんは長女バーバラの幼なじみの保安官役でした。
 ≪ここまで≫

 KERAさんはシアターコクーンや世田谷パブリックシアターといった大き目の劇場でのストレート・プレイの演出について、ご自身の方法を確立されているのだろうと思いました。もう「庭」レベルというのか、余裕を感じます。
 笑いは頻繁に起こっていましたが、私が笑ったのは2~3回でしょうか。決してつまらなかったのではありません。計3時間15分という長丁場でしたが、全く退屈はしませんでした。あらゆる人々が七転八倒し、自分を傷つける行為ばかりし続ける様が、とても悲しかった…。私はこうやってお芝居を観ることで、家族について、命について教わっています。

 麻実れいさんと秋山菜津子さんの怒りのバトルは、細やかな演技の変化に見入りました。激しさ、愚かしさ、傷つきやすさを周到に準備して、生き生きと舞台で披露してくださいます。ただ、演技の種類として私が一番好きなのは常盤貴子さん。透明感があって、静かにただそこに在ろうとする態度(演技の姿勢)に引き込まれます。『タンゴ・冬の終わりに』を思い出しました。
 冒頭の村井國夫さんの長いセリフは味わいがありました。生瀬勝久さんのイケメンっぷり(ちょいワル教授)が新鮮。

 パンフレットは読みごたえがありました。俳優の座談会で家族談義になると、それぞれに経験も考えも違うから、色んな家族像が想像できます。出演者の年齢の幅が大きいから、世代間の差も出て面白いですね。
 KERAさんとニュースキャスターの膳場貴子さんの対談には驚き!膳場さん、高校生の頃からKERAさんの音楽を聴いてらしたんですね。そして趣味が観劇やライブ鑑賞という…嬉しいな~。

 ネット上の写真付き掲載記事が沢山あったので、下記に貼り付けてみました。壮観ですね~。

 ここからネタバレします。

 自分が親にされたことを自分の子供にもしてしまう(母が三人姉妹に厳しく当たる、もしくは意地悪をする)。どうしても親に似てしまう(長女は最後、父のようにウィスキーをがぶ飲みしていました)。よく言われるし、よく見られることですよね。でも私個人としては、ただの思い込み、刷り込みなんじゃないかなぁ…とも思います。自分が自分に呪いをかけているというか。なかなか自覚できないし、抜け出せないんですけどね。

 葬儀の後の晩餐の場面で、装置の床がゆるやかに上手に移動しながら、楕円形の大きなテーブルとイスが載った部分が回転します。俳優の演技がちゃんと見えるし、さりげなさがかっこいい!

 屋根裏部屋まで作り込まれた家の柱に照明が当たることで、家自体の存在感が大きく示されました。家というか家屋ですね。長らく暮らしてきた建物に、人間は縛られます。もちろん家に居るのは人間、家族ですから、家族が鎖になっているという意味でもあると思います。
 パンフレットの藤田惇志さん(愛知学院大学准教授)の寄稿では、代表的なアメリカ家族劇としてユージン・オニール『夜への長い旅路』、サム・シェパード『埋められた子供』『飢えた階級の呪い』、エドワード・オルビー『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』、ベス・ヘンリー『心の罪(クライムス・オブ・ザ・ハート)』、リリアン・ヘルマン『子狐たち(The Little Foxes)』が挙げられていました。私はサイモン・グレイ『ジェイプス』を思い出しました。誰かまた上演してくれないかな~。

≪東京、大阪≫
出演:麻実れい、秋山菜津子、常盤貴子、音月桂、橋本さとし、犬山イヌコ、羽鳥名美子、中村靖日、藤田秀世、小野花梨、村井國夫、木場勝己、生瀬勝久
テレビの声:廣川三憲 山西惇
脚本:トレイシー・レッツ 翻訳:目黒条 上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 美術:松井るみ 照明:関口裕二(balance,inc.DESIGN) 音響:水越佳一(モックサウンド) 衣裳:伊藤佐智子 ヘアメイク:宮内宏明(M’s factory) 擬闘:栗原直樹(WGK) 演出助手:坂本聖子 舞台監督:福澤諭志(STAGE DOCTOR)
Bunkamura チーフ・プロデューサー:加藤真規 プロデューサー:松井珠美 大宮夏子 制作:伊勢谷能宣 票券:小瀧香 劇場舞台技術:野中昭二
キューブ チーフ・プロデューサー:北牧裕幸 プロデューサー:高橋典子 制作:川上雄一郎 前田優希 宮崎悠可子 広報宣伝:米田律子 
企画・製作・東京公演主催:Bunkamura キューブ
【発売日】2016/02/20 S席:10,000円 A席:8,000円 B席:5,000円
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_august/index.html
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_august.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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