【非公式レポート】SCOT SUMMER SEASON 2015「鈴木忠志トーク」08/23新利賀山房

 生まれて初めて富山県の利賀芸術公園を訪れ、「SCOT SUMMER SEASON 2015」の演目を拝見ました。2015年はSCOT創立50周年、利賀に移住して40年という記念イヤーなのです。北陸新幹線が開通したので、東京から富山駅まで1本!これも後押ししてくれました。
 ※2泊3日の旅行記録⇒金沢編富山編

 8/22に『リア王』、『チョウ・ダンス』(インドの仮面舞踊)、『世界の果てからこんにちは』、8/23に『トロイアの女』を拝見。以下、8/23の朝10時から2時間以上あった「鈴木忠志トーク」のレポートです。私がメモできた鈴木さんのご発言を羅列しただけですが、ご参考になればと思います。

 舞台にはイスに腰掛けた鈴木さんお1人だけ。参加者からの質問に対して鈴木さんが答えていき、進行もすべて鈴木さんが担当されます。特に芸術と文化の違いについては、目から鱗が落ちる思いでした(⇒2013年のレポート)。文化行政とは何かといった根本的な問いに答えてくださった、5/23(土) のゲンロンカフェでのトークイベントも凄かったんですよね(⇒ニコニコ動画へのリンク)。

開場前に整理番号順に並びます
開場前に整理番号順に並びます

 ・演劇は集団、言語、身体の3つを使う。私は民族について研究するために演劇をやっている。「3人以上集まれば国家」と言うように、集まった人々が色んな諍いをしながら、ルールを作り、うまくやっていくのが国家。

 ・演劇を見れば民族、国民の精神性がわかる。私はその疑問から演劇に近づいた。ジュリアード音楽院、ロシア、中国などでスズキメソッドを教えている。昔は皆それぞれに人間は違っていた。違う人々と出会った時の驚きが、自分とは何かを考え得るのに役立った。

 ・今も利賀には25ヶ国の人が来ている。異質なものと出会うと、人間は考える。人間が一番怖いのは暴力と狂気。ISISもスターリンもヒトラーもそう。自分で直せとメッセージを出したのは芸術家。

 ・人間はどこか不完全。健康な人なんていない。どこが病気なのかを研究したのが、ギリシャ演劇からの歴史。主役はたいてい犯罪者。エネルギーが必要だから。
 皆、病を持って生きている。「同じ病を持っているね」と連帯するのはダメ。そういうのを「しみじみ民主主義」と言った。アメリカは「ニコニコ民主主義」。これも良くない。最悪の事態を避けるのが多数決。どこにいても病気だと考える。

 ・一流の製品を作る工場はどこにある?東京にはない。経済効率重視の日本では難しいことだが、SCOTでは今、何かを思いついたら、夜中でもやる。そうじゃないとプロにはなれない。世界に通用しない。人間は偶然性が作用した時に、すごいクリエーションができる。時間を自由に使えることが何より重要。人間の最新の偶然性を確保できる空間があればあるほどいい。SCOTのテンションの高さは他にないと思う。SCOTは今30人ぐらいいて、夜中でも全体で何でもやる。

 ・SCOTのトレーニング・コースでは世界から集まった30人がSCOTの訓練をしている。2週間で10万円の費用と、渡航費は参加者持ち。食事付き、シャワー付き、個室生活。
 
 ・芸術活動は地域、国家を超える。世界共通の財産になることが可能。文化は1つの共同体のもの。だから文化摩擦が生まれる。他者と共存し、対話できる芸術を作るには、田舎がいい。そして自分に関係ない場所で始める方がいい(自分の故郷でやらない方がいい)。その方が世界から人が集まりやすい。

 ・ここにはここのルールがある。宗教上、文化的背景の違いを主張するのはなし。先に利賀のルールがあるのだから。たとえば1日に5回お祈りをするとか、肉は食べないとか。それは個人の意志の問題。

 ・利賀は日本のスコットランドみたいな場所。日本と平和共存している。私は在日利賀村民(笑)。

 ・初めて来た時は1570人いた村民が、今は500人以下になって65歳以上が半分以上。過疎は進んでいる。公立劇場については水戸、静岡、新国立などは最初はがんばっているが志を無くしてしまう。やはり人、そして愛情、哲学、思想が必要。私はもう76歳になるから状況は深刻です。

左は百瀬川。最高の気候で天国にいるような気分。
左は百瀬川。最高の気候で天国を歩いているような気分。

 ・(インプロビゼーション=即興についてどう思うかという質問に対して)即興は必ず反復することになる。いくら偶然性といっても、続ければただのクセになる。一回性=インプロビゼーション=ファインプレー。ファインプレーは思わず、とっさに、変則的なことができた時をいう。人生こそインプロビゼーションでしょう。インプロなんて人生でやってる(だから演劇でやることはない)。
 私がやっているのは文法。日本語を優雅に語ろうとすると似てくる。たとえば水平移動は能。基本的な文法というものが存在するものだ。ただ日本には学校もない。

 ・演劇では幽霊、神様というイメージ(実際には存在しない、目には見えないもの)を表す。シェイクスピアもギリシャ悲劇も日常をもとにしたスタニスラフスキー・システムではできない。私がやっているのは型ではなく文法。文法をよく身に付けていない人がやると、型に見える。たとえば『リア王』は5か国語でやっても間違わない。呼吸と文法で聞いてるから。舞台上の文法が同じだからできる。

 ・何事も一生懸命やっていくと、病気が出てくる。自分と合う病気を探せばいい。病気=不完全。健全がそのまま通じるわけじゃない。医者の誤診もある。

 ・日本人は劇場を作品だと思っていない。私は思ってる。劇場ができたら50%作品は出来たと思ってる。空間が体に入ってる。故郷がそう。鈴木演劇は体の故郷を作らないといけない。そうじゃないと精神的になれない。

 ・日常には亀裂がないとダメ。先人の宗教的ふるまいがそう。神棚を拝んでみたり。お寺に行ったり。本能的に惰性的な日常に亀裂を入れたい。今やスポーツ選手の方が俳優よりいい顔をしている。昔の役者、歌舞伎役者は自宅に稽古場を持っていた。基本的に自分の慣れ親しんだ空間を持っていた。日本に特徴的な空間を持った劇団がなくなった。たとえば『世界の果てからこんにちは』で車イスの人々が細い橋の上を進むとき、雨が降ると滑るから怖い。ここでしかできない究極のすり足だと思う。

 ・人間を見るとき、私は健全で、正義で、お前は間違ってる!となる。戦争する時、かならず為政者は正義だと言う。完全、あるいは正義という観念に憑りつかれた病気。その中でどうやってルールを作っていけるか。

左はグルメ館。テントの前でいわなの塩焼きを買って食べました。
左はグルメ館。テントの前でいわなの塩焼きを買って食べました。

 ・自分で書いた脚本を自分で演出する人たちの中には、演劇を自己表現だと思っている人が多い。演劇は人間の歴史を見る方法。世界の見方を表現するもの、「私はこう見てますよ」と、人類が遺してきた財産(戯曲など)を使って、今の世界を、社会を作っていく。問題提起をする。今の人たちは寂しい仲間同士で同じことをやる。社会批判のつもりなのかな。

 ・私は国を超えていく。日本人相手にわかってもらいたいのではない。世界共通の問題だと思うものしかやらない。その意味で、他の演劇人とは演劇に近づく入射角が違う。悲惨で不幸な人を描き、考えようと問題提起するのが演劇。君たちの日常で解決できるものは、人に見せるものじゃない。

 ・ある凄惨な殺人事件の報道で、見出しに「これでも人間か?」とあった。違うだろう、「これが人間だ!」だろう。私は「これが人間だ」と書かれている戯曲を選ぶ。異文化にも説得力を持つものとして書かれているかどうかが問題。芸術家の使命は、自分と敵対する人、理解していない人に、自分の考えを説明すること。

 ・リーダーになろうとする時、異文化の人たちが集まる場で、説得力を持っているかどうかが重要。例えば米国人なら、中国人ならどう考えるのかと知っておく必要がある。私は世界の演劇界のホストとして、リーダーとしてやってきた。何も知らずに「私は日本人です、すごいんです」なんて言えない。努力する。本も読む。ギリシャ演劇も勉強するしかない。相手の立っている前提を知らないと、何かを言ってはいけない。

 ・異国の専門家と議論できるかどうか。私はジュリアード音楽院、モスクワ芸術座で教えている。日本の演出家が自分の書いた戯曲だけを演出しているのなら、それは演出家とは言わない。演劇人とは認めない。それは趣味の世界。他のジャンルと比べればわかること。たとえば1曲のクラシック音楽を世界の色んな指揮者が指揮している。

 ・今度英語で出版される私の本では、スタニスラフスキー批判も米国批判も書いている。「国際レベル」がまずあって、その上で考えると言わないと問題にもならない。追随するにも理由がいる。フェアーにやらなきゃ。日本人の政治はフェアーじゃない。国民に対しても。アングロサソンはそういう態度はフェアー。理論は間違っているけど。日本人はどんどん曖昧模糊としてきた。人口減を理由に地方の選挙区を合体させたり。自民党の石破さん、鳥取県が地盤なのに、どうなんだ。「地方創生」なんて言ってるのに。

 ・ネイティブの言語がちゃんとしてないのに、外国語は上達しない。

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。

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