【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所13期生修了公演『社会の柱』02/11新国立劇場地下・Dリハーサル室

 新国立劇場演劇研修所(⇒公式facebookページ、⇒公式ツイッター)の13期生修了公演『社会の柱』の稽古場に伺いました。演出は同研修所の所長である宮田慶子さんです。13期生の稽古場レポート⇒

 『社会の柱(The Pillars of Society)』は“近代演劇の父”と称されるノルウェーの劇作家イプセンの、1877年初演戯曲です。『ペール・ギュント』と『人形の家』の間に書かれたんですね。

写真左から:宮崎隼人、大久保眞希
写真左から:宮崎隼人、大久保眞希

 日本での公式な上演記録はなかなか見つからないそうで、今回はアンネ・ランデ・ペータスさんによる新訳上演でもありますから、“ほぼ日本初演”と思っていいかもしれません。貴重な機会です!

●新国立劇場演劇研修所13期生修了公演『社会の柱』⇒公式サイト
 作:ヘンリック・イプセン
 翻訳:アンネ・ランデ・ペータス 演出:宮田慶子
 会場:新国立劇場小劇場 THE PIT
 日時:2020年2月
  21日(金) 18:30
  22日(土) 14:00
  23日(日) 14:00
  24日(月) 14:00
  25日(火) 18:30
  26日(水) 14:00
 A席3,300円 B席2,750円 Z席(当日券)1,650円 学生券1,000円(A席・B席とも予約なくても1000円) 
 ※予定上演時間:★約3時間(休憩あり)

 天井の高い快適な稽古場に、装置がしっかり建て込まれていました。いつもながら贅沢ですね~♪ 壁には戯曲やその時代背景についての資料をはじめ、ノルウェーの地図、衣裳のイラストなどが貼られています。

 私が伺ったのは公演初日まであと2週間という時期。通算3度目となる通し稽古の前に、ある場面の繰り返し稽古が行われました。
 

写真左から:松内慶乃、島田恵莉、鈴木麻美(8期修了)
写真左から:松内慶乃、島田恵莉、鈴木麻美(8期修了)

 舞台は波音が響くノルウェーの小さな港町。庶民から“社会の柱”と呼ばれ、慕われているベルニック領事の邸宅のサンルームで、3人の女性がうわさ話をしています。屋敷の人間関係や過去のスキャンダラスな事件について語り、後から登場する人物も話題にのぼる、重要な場面です。

 宮田:(3人のうち)何も知らない人が1人いて、次々に新しい人名が出てくる。ある事件についてのストーリー・テリングなんだよね。今のだと、ただの業務連絡になっている。“お話”が“情報”になってしまう。

 たしかに…観客はセリフの意味を頭に入れるだけでなく、語る人物と聴く人物の態度や、その場に生まれる雰囲気、状況の変化など、舞台で起こること全体を感じ取っていきます。「誰かが、何かをした」というセリフを正確に言うだけでは、足りないんですね。

写真左から:松内慶乃、島田恵莉、鈴木麻美(8期修了)
写真左から:松内慶乃、島田恵莉、鈴木麻美(8期修了)

 宮田:食べながらやってみよう。甘い蜂蜜を舐めてみて。…次は硬いおせんべい。…紅茶を飲もう。…ここからお酒に変わったよ。

 宮田さんが言った食べ物(飲物)を口に運ぶパントマイムをしながら、台本どおりの会話を続けてみます。食べ物の種類が変わると自然に表情も、声も動作も変わっていくんですね。面白い!

 宮田:(蜂蜜やおせんべいを)食べてて楽しいでしょう? (会話は)楽しいものだということを忘れないで。3人で共有して楽しんで。

写真左から:宮田慶子(演出)と高嶋柚衣(演出助手、11期修了)
写真左から:宮田慶子(演出)、高嶋柚衣(演出助手、11期修了)

 15時ごろから始まった通し稽古は、途中休憩15分を含め、全体で約3時間でした(本番も同様になりそうです)。

 舞台となるベルニック領事の邸宅には、彼が経営するベルニック商会の支配人や、造船業者らが出入りしています。

写真左から:野坂弘(7期修了)、小比類巻諒介(11期修了)
写真左から:野坂弘(7期修了)、小比類巻諒介(11期修了)

 広々としたサンルームには領事夫人ベッティーと懇意の女性たちが集まり、男性教師レールルンが道徳について持論を展開中。領事の妹で教師のマルタもその場にいて、彼女が引き取った孤児の若い女性ディーナは、とても居心地が悪そう。

写真左から:ユーリック永扇、椎名一浩(11期修了)、松内慶乃、今井仁美、松村こりさ、鈴木麻美(8期修了)
写真左から:ユーリック永扇、椎名一浩(11期修了)、松内慶乃、今井仁美、松村こりさ、鈴木麻美(8期修了)

 誰からも信頼され、一目置かれている領事とその取り巻きたちが、いつも通りの平和な日常を謳歌していると、招かれざる客がやって来ました。15年前のある事件の後、アメリカへと“逃亡”したベッティーの弟ヨーハンと、姉ローナです。突然“自由の国”の風が吹き荒れ、屋敷は大騒ぎに。

写真左から:ユーリック永扇、河野賢治、大久保眞希
写真左から:ユーリック永扇、河野賢治、大久保眞希

 ローナ役のモデルは実在の人物です。公式facebookページの解説によると「1820年から1920年の間に、73万人以上のノルウェー人がアメリカに移住」したんですね。港町には鉄道誘致や造船技術の機械化など、近代資本主義の波も押し寄せており、それに対する反発も顕著です。

写真左から:宮崎隼人、古川龍太(1期修了)、原一登(4期修了)
写真左から:宮崎隼人、古川龍太(1期修了)、原一登(4期修了)

 「道徳や規範を守りたい」「このまま幸せでいたい」と思う人々は、「よそ者は受け入れない」「新しい鉄道はいらない」という姿勢を隠しません。彼らのそばには「しがらみから抜け出したい」「自由になりたい」と感じている人もいて、「新天地で、他人に頼らず、自分の力で生きていきたい」という夢を見始めます。

写真:小比類巻諒介(11期修了)、宮崎隼人
写真:小比類巻諒介(11期修了)、宮崎隼人

 16人の顔の見える登場人物たちが、それぞれの信念に基づいて行動を起こしていくのですが…これが本当に、自分勝手な人ばかり!(笑)

写真中央:河波哲平
写真中央:河波哲平

 恋愛、差別、嘘と汚職…。約150年前の戯曲ですが、今も変わらない、愚かで愛らしい人間が居ました。それぞれの望みはシンプルです。たとえば「金と地位と名誉、名声を我がものにしたい」「家族を守りたい」「愛する人を待ち続けたい」、そして「故郷に帰りたい」。2020年の日本で起こっている数々の問題とも重なり、私自身に起きていることだと思えました。

写真左から:ユーリック永扇、髙橋美帆(9期修了)
写真左から:ユーリック永扇、髙橋美帆(9期修了)

 15年前の事件の真相が明かされてからは、ベルニック領事を中心に、どんでん返しが連続します。やがて2隻の船の行方が大勢の命を危険にさらす展開へ。先が予想できない、はらはらドキドキの群像劇でした。最後の場面の人物配置、照明や音響などの演出で、作品全体のイメージが変わりそうな予感…♪

写真:今井仁美、宮崎隼人
写真:今井仁美、宮崎隼人

 通し稽古の後は少し休憩を取って、18時ごろからダメ出しへ。戯曲の最初から最後まで、細かく確認をしてきます。顔の向きを変えたり、動線を変更・追加したり。意味や状況を伝わりやすくするために、セリフをほんの少し変えることもありました。

 宮田:2つの船のいきさつが見えてきた。感じたことを演じれば大丈夫。

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 ここ数年、よく上演されている『民衆の敵』と同様に、この戯曲もまさに“社会の縮図”です 題名の『社会の柱』とは何なのか…。なんと、イプセンがはっきりと書いてくれています。ぜひ劇場で確かめてください! 

写真左から:ユーリック永扇、椎名一浩(11期修了)
写真左から:ユーリック永扇、椎名一浩(11期修了)

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 ⇒ご予約はこちら
 ⇒学生券:1,000円(A・B共通)申込みフォーム
 ⇒新国立劇場のチケットについて

写真左から:大久保眞希、河野賢治、ユーリック永扇、松村こりさ
写真左から:大久保眞希、河野賢治、ユーリック永扇、松村こりさ

■公式facebookページ

【出演】
新国立劇場演劇研修所第13期生:今井仁美 大久保眞希 島田恵莉 松内慶乃 松村こりさ ユーリック永扇 河波哲平 河野賢治 宮崎隼人
修了生:古川龍太(1期修了) 原一登(4期修了) 野坂弘(7期修了) 鈴木麻美(8期修了) 髙橋美帆 (9期修了) 小比類巻諒介(11期修了) 椎名一浩(11期修了)

≪配役≫
ベルニック領事      宮崎隼人
ベルニック夫人(その妻) 今井仁美
オーラフ(夫妻の息子)   髙橋美帆
マルタ・ベルニック嬢(領事の妹) 松村こりさ
ヨーハン・トンネセン(夫人の弟) 河野賢治
ローナ・ヘッセル嬢(夫人の父親違いの姉)大久保眞希
ヒルマール・トンネセン(夫人のいとこ) 河波哲平
レールルン(教師)  椎名一浩
ルンメル(卸売業者) 古川龍太
ヴィーゲラン(商人) 原一登
ディーナ・ドルフ(領事の家に住んでいる若い娘) ユーリック永扇
クラップ(支配人)   小比類巻諒介
アウネ(造船業者)   野坂弘
ルンメル夫人      島田恵莉
ホルト夫人(郵便局長の妻) 松内慶乃
リンゲ夫人(医者の妻)   鈴木麻美

【作】ヘンリック・イプセン
【翻訳】アンネ・ランデ・ペータス
【演出】宮田慶子
【美術】池田ともゆき
【照明】中川隆一
【音響】信澤祐介
【衣裳】西原梨恵 東宝舞台衣裳部(佐藤憲也、水谷友美)
【演出助手】高嶋柚衣(11期修了)
【翻訳協力】今村麻子
【舞台監督】澁谷壽久
【演出部】竹内章子
【制作助手】藤田侑加
【後援】ノルウェー大使館
【演劇研修所長】宮田慶子
【主催】文化庁、新国立劇場
【企画・製作】新国立劇場

【発売日】2019/12/12
A席:3,300円 B席:2,750円 学生券:1,000円 
Z席:1,650円 公演当日、ボックスオフィス窓口のみで販売。1人1枚、電話予約不可
https://www.nntt.jac.go.jp/play/pillars_of_society/

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