『Defiled -ディファイルド-』は2000年米国初演の男性二人芝居です。日本では2001年、2004年に上演され、私は2001年初演版(出演:長塚京三、大沢たかお)を観ています。演出は今回も鈴木勝秀さん。
主催者であるシーエイティプロデュースは、約200席のDDD青山クロスシアターで今年4月から200日間、演劇とミュージカルのロングラン上演をするそうです。『Defiled』はその第一弾で、第二弾は5月公演『ミュージカル I LOVE A PIANO』、第三弾は8月公演『Glorious!』です。4/2に終演した『スーツの男たち』も80席弱の小劇場での上演でした。
≪作品紹介・あらすじ≫ 公式サイトより
2000年5月、アメリカ・ロサンゼルスで初演された本作。 刑事コロンボでお馴染みのピーター・フォークとテレビで活躍するジョン・アレキサンダーの 2大スターの競演、さらにその脚本の完成度の高さで一躍話題になった。
世界中がテロの恐怖に怯えた2001年。その年の10月、「Defiled」日本初演。 立てこもり犯と、警察の交渉人の絶妙なる駆け引きー。息を呑む展開に舞台が揺れた。そして2004年11月には待望の再演を果たす。
ハリー・メンデルソン = 歴史ある図書館に立てこもった男。
ブライアン・ディッキー = 説得にあたる定年間際の老練刑事。
ハリー・メンデルソン、図書館員。自分の勤める図書館の目録カードが破棄され、コンピュータの検索システムに変わることに反対し、建物を爆破すると立てこもる。目まぐるしく変化する時代の波に乗れない男たちが、かたくなに守り続けていたもの。神聖なもの。 それさえも取り上げられてしまったら・・・。
交渉にやってきたベテラン刑事、ブライアン・ディッキー。緊迫した空気の中、巧みな会話で心を開かせようとする交渉人。拒絶する男。次第に明らかになる男の深層心理。危険な状況下、二人の間に芽生える奇妙な関係。
果たして、刑事は説得に成功するのかー。
≪ここまで≫
図書目録は蔵書を管理するためのカードです。本に付属する貸出管理のための図書カード(アニメ映画「耳をすませば」に出てきますよね)とは違うもの。舞台上にあった図書目録が入っている木製の引き出しを見て、あぁ私の小学校にもあった…と思い起こしました。
ここからネタバレします。
・詳しい目のあらすじ
立てこもり犯は、10年間、図書館で働いてクビになった青年ハリー(戸塚祥太)。本棚のあちこちに爆弾を配置し、起爆スイッチを手元に置いて、いつでも図書館もろとも自爆可能。交渉人として単独でやってきたディッキーは初老のベテラン刑事で、ポット入りのコーヒーを片手に、極私的な雑談をしながらハリーの気持ちを和らげようとする。妻がイタリア系で料理上手だとか(ディッキー談)、長男がゲイかもしれないとか。
ディッキーが上司と交渉に行って一人きりになった時、自爆テロ(自殺)の意志を固めているハリーは、唯一の肉親である姉に電話するが、全く噛み合わない。電話は外の世界に通じる唯一の経路として大活躍する。たとえばハリーが前の恋人と話したり、ディッキーの妻と話すこともあった。
ハリーのために、ディッキーはヨーロッパ(イタリアかフランス)行きの飛行機の切符と滞在費を獲得して戻る。ディッキーはその時にこっそり持ち込んだ銃をハリーに向け、武器を持つ者同士の戦いになるが、ハリーの方が折れて、2人で図書館を出ることに。
マスコミや警察、野次馬で大賑わいの図書館の玄関から、2人が出てきて一件落着…かと思いきや、ハリーはディッキーを図書館から追い出すと、自分だけが戻ってドアに鍵をかけて、再び一人きりで立てこもる。電話が鳴っても、もう出ない。
しかし、ハリーは銃で胸を打たれて倒れ(自殺か他殺か私にはわからず)、起爆装置のスイッチを押すが、不発。「テクノロジーなんて(役立たず)!」とつぶやいて悔しがるハリー。やがて大きな爆発音が鳴って終幕。
・感想
開演前はブルース・スプリングスティーンの「Born in the U.S.A」など、アメリカのヒットソングが流れていました。開幕、終幕時はカッチーニ作曲の「アヴェ・マリア」でしょうか。スタジオ・ライフの『トーマの心臓』のテーマソングになっているので耳によく残っています。
濃い目の灰色一色に塗り固められた本棚が、舞台の背景になっています。中央には図書目録が入った小さな引き出しが多数ある木製の棚が数脚。舞台両端(上下の両方)の本棚が客席の方に張り出しているのが良かったです。舞台が客席に迫っているようで、自分も図書館の中にいるような臨場感を得られました。ハリーが棚にランダムに置いていったダイナマイトは、現物らしい配色なので、灰色の空間では目立っていました。そびえる灰色の物体は堅固な岩石、または墓石のよう。本の息遣いが感じられなくて、あまり私好みではなかったです。
“名だたる司書たちが手書きで作った図書目録”が、利便性を追求したコンピューターの検索システムのせいで廃棄されることに、ハリーは異を唱えていました。日本でもシステムが充実して図書目録は使われなくなり、スマホやタブレットなどの普及と電子書籍の増加によって、本そのものがなくなる可能性も想像できるようになりました。私たちは手のひらのスマホの無料の便利機能や、ワン・クリックで買った物がほぼ自動的に家まで配達されること等に慣れて、沢山のもの・ことを失っています。技術の進歩と消費者の盲目的な利便性の追求によって、自分たちが慣れ親しみ、愛したものが失われていくことは、誰もが気づいているにもかかわらず、止められないのだと思います。
ハリーはディッキーの妻に電話で「(イタリアの)あの素敵な喫茶店がスターバックスになってしまう前に行かなきゃ」といったことを強く主張していました。大きな流れは止められなくても、せめて、自分が愛したものを守る努力はしなければならない。
最後の大きな爆発音は、図書館が爆破されたという意味なのでしょうか…。古代の遺跡を破壊した“イスラム国”がすぐに思い浮かびました。その他、さまざまな自爆テロと、チベット人の焼身自殺も。
勝村政信さんが若々しくてお元気で声も大きくて、安定感のある振る舞いをされていました。ただ、役の設定である“定年間際”には見えづらかったです。弁護士の息子(ゲイかもしれない)がいるほどの高齢には見えないというか。冒頭あたりの「一番最近、図書館に行ったのは40年前かも…」といったセリフも、ちょっと昔過ぎる気がしました。「20年前」とかに変更しても良かったんじゃないかしら。
戸塚祥太さん(A.B.C-Z)はジャニーズ事務所所属の方で、終演後にはお約束のようにスタンディング・オベーションがありました。つかこうへい作品によく出演されているそうで、納得でした。
パンフレット(1,500円)掲載の小田島恒志さんの寄稿によると、「Defiled」は「神聖なものが穢される」という意味であり、「file=ファイル(カード目録)が廃棄される」という意味を掛けられているとのこと。
図書館といえば、TSUTAYAを経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する図書館のニュースをよく見ます。
周南市もCCC的読めない洋書インテリア図書館建設なのか。おじさんは悲しい。読めない本に何の意味があろうか
/https://t.co/R7kFqSJqwh
ツタヤ図書館、お飾り用の読めない洋書購入に巨額税金投入…高さ9mの棚に固定 | ビジネスジャーナル スマホ— n_akiya (@n_akiya) 2017年4月22日
■感想ツイート
『ディファイルド』①勤務する図書館の目録カードが破棄されデータベース化されることに抗議し図書館に立て籠るハリー(戸塚祥太)と、そこに単身乗り込む刑事ブライアン(勝村政信)の交渉。哀しく愛おしく身につまされる話だった。ハリーの行為は傍目には愚行だがその気持ちも痛い程分かる。(続く)
— 高橋彩子 (@pluiedete) 2017年4月6日
『ディファイルド②』人が傷つき怒るのは、愛するものが世の趨勢によって消えること以上に、それが何の敬意も払われず粗略に扱われることだ。例えば私にとっては大阪の芸能・文楽が大阪市長に「二度と見に行かない」「エンターテイメントになっていない」と否定された時。このことを今書くのは(続く)
— 高橋彩子 (@pluiedete) 2017年4月6日
『ディファイルド③』実用性や利便性や数の論理では計れない極私的な事柄こそハリーが「オリジナル」で「ユニーク」なものとして尊重し訴えているものだから。奇しくも“ファイル”であるマイナンバーにも思いを馳せつつ、政治状況を考え、この作品が今上演されることに頷かずにいられなかった。(了)
— 高橋彩子 (@pluiedete) 2017年4月6日
≪東京、大阪、福岡≫
【出演】ハリー:戸塚祥太 ディッキー:勝村政信 声の出演:中村まこと 佐藤真弓
脚本:リー・カルチェイム(LEE KALCHEIM)
翻訳:小田島恒志
演出:鈴木勝秀
美術:原田愛
照明:原田保
音響:井上正弘
衣裳:関けいこ
ヘアメイク:奥山信次
演出助手:元吉庸泰
舞台監督:榎太郎
舞台製作:クリエイティブ・アート・スィンク 加賀谷吉之輔
宣伝美術:永瀬祐一
宣伝写真:西村 淳
題字:中島瞻風
版権コーディネーター:マーチン・R・P・ネイラー
宣伝:吉田プロモーション
票券:インタースペース
制作協力:ミーアンドハーコーポレーション
制作:伊藤夏恵、竹葉有紀
プロデューサー:江口剛史
企画・製作:シーエイティプロデュース
全席指定 8,500円 ※未就学児童入場不可
http://www.defiled.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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