ラッパ屋『ユー・アー・ミー?』01/14-22紀伊國屋ホール

 鈴木聡さんが作・演出される劇団ラッパ屋の新作は、ある会社を舞台にしたサラリーマンの群像喜劇です。初日の上演時間は約1時間55分。

 2006年の『あしたのニュース』でメルマガ号外を発行(鈴木聡さんが紀伊國屋演劇賞個人受賞を受賞)。2015年に久しぶりに『ポンコツ大学探険部』を観て魅力にハマってしまい、昨年の『筋書ナシコ』もすごく面白かったんです。40代になってようやくラッパ屋をしみじみ楽しめるようになった気がします。

 ヨーロッパ企画の公演を観に行く時の気持ちに、よく似てるかもしれません。同時代を生きるおなじみの俳優がとことん道化を演じ、楽しませてくれて、そして考える時間をくれます。今回も大笑いしながら、今の日本について、自分について、考えました。

 ≪あらすじ≫
 主人公の小西(おかやまはじめ)は54歳。朝のメール確認もしない、ワープロ打ちさえできない(ノートに手書き)、時代遅れも甚だしいサラリーマン。
 社長が二代目になってから、彼の会社の雰囲気はすっかり変わった。誰もが自分のPCを覗き込んだまま、立ったままで、流行のカタカナ言葉が飛び交う短時間の会議。出世のためなら手段を選ばない、また、それを隠そうともしない弱肉強食のドライな人間関係…。昔の方がいい、自分はこのままで出世しなくていいと開き直る小西の前に、もう一人のコニシが現れた。
 ≪ここまで≫

 いわゆる「会社もの」のコメディーで時事ネタや懐かしネタにまずは爆笑。中盤以降、ちょっとヤバそうなエピソードが増えてきて、笑えなくなってきます。自分のためだけにズケズケと行動し、それを恥と思わず開き直り、大っぴらに公表することも厭わない女性社員の様子から、米国次期大統領のトランプ氏を連想しました。

 俵木藤汰さんが出てなくて寂しいなと思ったんですが、東宝『お気に召すまま』にご出演中でした。三鴨絵里子さんはNHKの大河ドラマに出ていらっしゃるんですね。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 舞台は会社のロビー兼会議室のような空間。六角形と思われる木製の台が中央にあり、会議はその周囲で立ったまま行われます。台の奥にはエレベーターの扉。日本橋三越本店のような雰囲気のレトロなデザインです。出入り口は中央のエレベーターと、上下2つずつ。上手手前が局長室。上手奥には飲み物の自動販売機。ところどころにソファや椅子が置かれていて、レトロにも見えるおしゃれなデザイン。新旧のイメージが混在しています。

 新しいおもちゃ(ガジェット?)を開発する局で、派遣社員の中年男性(武藤直樹)が消しゴムのカスを吸い取るミニ掃除機(だったかな)を提案。それが採用されるのですが、企画を進めるのは進歩的な社員たちで、デザインは中堅女性社員のタシロ(岩橋道子)が担当することに。いかにも今風の会社の風景がちょっとおおげさに、滑稽に紹介されていくのが楽しいです。

 社内報を制作している広報部所属で、いわば窓際族扱いの小西の前に現れたのは、進歩的なコニシ(松村武)。シュっとした姿のイケてるコニシは、「このままで終わるのか?いや、まだ大丈夫だ。メールチェックして、スタバ(のコーヒー)を買って、キャラ変(キャラクター変更)しろ!」と小西を鼓舞します。一度はその気になって周囲の空気を読む行動をした小西ですが、やっぱり効率性を無視した義理人情に厚い態度が出てしまい、社内での立場は逆戻り。すると、コニシが小西の代わりに社内で存在するようになって、小西は他人から見えなくなってしまいます。

 小西以外にも昔の会社員たちが登場し、それぞれが今風の会社員たちの分身です。2つの世界が並列に描かれ、やがて昔の社員が、今の社員の行動、態度について意見するようになります。たとえば、「他人のデザインを自分のものとして公表する。女性はそうでもしないと出世できない」と開き直るタシロを、昔のがさつだけど心優しい田代(弘中麻紀)が引き止めたり、局長のヤマザキ(木村靖司)とマネージャーのホリ(谷川清美)の浮気現場の写真をプリントアウトして役員室の前に置く(局長をおとしいれて自分が出世する)ことを企んだクボタ(中野順一朗)を、昔の久保田(岩本淳)が制したり。

 今風の会社員たちの言い分:
 「今、このチャンスをつかまないと終わる」
 「ボーっとしたいけど、そんな暇はない」
 昔の会社員たちの説得:
 「自分の出世のために他人を引きずりおろすのはやめよう(自分が頑張ればいい、いつかきっと日の目を見る)」
 「疲れてるんだから、休めばいい。お前が休めば皆、休めるから」

 小西の分身のコニシが、役員に高い食事をご馳走して、その領収書を取引先の企業に回して支払わせていたことが発覚します。責める小西に対してコニシが言い放った、「みんな変わったような振りをしてるけど、全然変わってない」という意味のセリフが特に印象に残りました。便利な機械を使って、手際よく効率的に生きてるようでも、結局はワイロと不祥事が社会生活を左右します。安倍首相と大手新聞社幹部の会食報道を思い浮かべました。

 それぞれの世界の住人たちが、お互いに理解し合って、励まし合って、やがて今風の会社員たちに代わり、昔の会社員たちが物語の中心となります。会議では紙の資料が配られて、誰もがざっくばらんに賑やかにおしゃべり。新しい外注先を増やしたので局の業績は赤字、新製品は大いに売れたけれど、コストがかかり過ぎたので赤字と報告されます。でも「取引先が喜んでくれてよかったね~」とみんな呑気です。すると、会議の後で上の階にある役員室に行った局長の山崎(宇納佑)が、下に降りてきた時にはヤマザキ(木村靖司)に変身していました。他の社員もまた、今風の会社員へと変わり、再び舞台は冒頭の空気に。戸惑う小西だけを照明が照らし、終演。

 脚本・演出の鈴木さんは2005年初演の青年座『妻と社長と九ちゃん』の脚本でも「古き良き昭和の会社」を描き、たとえ時代遅れであっても良いものなら残せばいいと伝えていました。もう10年以上前ですね…。私たちはさらに多くのもの・ことを失っています。何を捨て、何を残すのか。残すためには何をすればいいのか。

 昔の会社員が今風の会社員に「私はあなたよ」と説明する時、本人しか知らない情報を伝えて納得させます。「小西の中3の時のオナニーのおかずは雑誌GORO」には笑ったな~。私は10年ぐらい下の世代なんですが、雑誌は知ってますっ(笑)。コニシ役の松村武さんの笑いを生む演技は今回も凄かったです。

 小西が客席に向かって語る独白の時(ICレコーダーをマイク代わりに自分で録音してるっぽい)、1987年の映画「月の輝く夜に (Moonstruck)」の主題歌が何度か流れて、それだけで幸福な気持ちに。映画が大好きなのもありまして。プッチーニのオペラも流れてたはず。イタリア~ン。

 ↓ニコラス・ケイジさんの写真を無理に重ねるのやめて欲しい…

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 スタンダード・ジャズの”Someone to watch over me”(ガーシュイン作曲)が流れました。曲名紹介までありましたね、「誰かが必ず、あなたを見てくれている」ってことで。
 曲名がそのままタイトルになっている映画「誰かに見られてる」は、トム・ベレンジャーとミミ・ロジャース(当時トム・クルーズの妻)主演のサスペンス・ラブ・ストーリー。10代前半の時、一人で映画館で見ました。

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 その後、VHSでも何度か。主題歌を歌っている(カバーしている)のがSTING(スティング)なのです。これ、昔にもレビューで書いてます。なぜか、すごく好きなんです。ティーンネイジャーの頃の体験が人生を左右するものですよね。あまりにゆるぎないことです。だから若者には自分の好きなことをさせなければいけない、というのが私の信念です。私は隠れてやり続けました(時には見つかって怒られても・笑)。

≪東京、宮城≫
出演:おかやまはじめ、木村靖司、福本伸一、岩本淳、岩橋道子、弘中麻紀、ともさと衣、大草理乙子、松村武、谷川清美、中野順一朗、浦川拓海、青野竜平、林大樹、宇納佑、熊川隆一、武藤直樹
脚本・演出:鈴木聡
舞台美術:秋山光洋
照明:佐藤公穂
音響:島猛(ステージオフィス)
衣裳:花谷律子
演出助手:村西恵
舞台監督:村岡晋
照明操作:髙橋英哉 松村光子 宮崎由紀
音響操作:大久保友紀(ステージオフィス)
衣裳部:木村春子
舞台監督助手:藤林美樹
美術助手:古謝里沙
大道具:C-COM 林口奈未 くれよん
小道具:高津映画装飾 中村エリト
ウイッグ協力:PRISILA
トランポ:帯瀬運送
宣伝美術:m9design
舞台写真:木村洋一
宣伝:吉田プロモーション
制作協力:ミーアンドハーコーポレーション リトル・ジャイアンツ
票券:後藤まどか・武藤香織(Atlas)
制作助手:市瀬玉子 花澤理恵
制作:山家かおり 吉田由紀子 江口紀子 早川晃子
企画・製作:ラッパ屋
前売・当日:4,980円 特別料金:4,500円(1/14、16、17)
エコノミー券:3,000円(平日前売のみ・枚数限定)
U-25:3,000円(観劇時25歳以下)
http://rappaya.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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