新国立劇場演劇『夢の裂け目』06/04-24新国立劇場小劇場THE PIT

 井上ひさしさんの東京裁判三部作の第一部にあたる『夢の裂け目』(2001年初演)の2度目の再演です。演出は栗山民也さん。2010年以来8年ぶりの上演で、キャストは木場勝己さん以外一新されました。今月のメルマガのお薦めNo.1作品です。上演時間は約3時間、途中休憩15分を含む。

 同じ戯曲の同じ演出だからこそ、時代も、世界も、自分も変わり果てたと思い知らされました。若い世代の俳優へのバトンタッチを目の当たりにしながら、私自身が何度も学び直さなければならないと思いました。

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夢の裂け目
夢の裂け目

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井上 ひさし
小学館
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●開幕によせて(栗山民也さんのコメント)
 井上ひさしさんは、いつも多様な笑いを生み出しながら、世の中の動きに対し、素直に怒ることを教えてくれました。
 敗戦のあくる年の焼け跡を舞台に、国の責任、個々人の責任を問うこの作品が、まるで2、3日前に書きあがったかのように、今の壊れゆくこの国の姿をくっきりと映し出しています。まさに、私たちが今、向き合うべき「記憶についての劇」でしょう。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
昭和21年6月から7月にかけて、奇跡的に焼け残った街、東京・根津の紙芝居屋の親方、天声こと田中留吉に起こった、滑稽で恐ろしい出来事。ある日突然GHQから東京裁判に検察側の証人として出廷を命じられた天声は、民間検事局勤務の川口ミドリから口述書をとられ震えあがる。家中の者を総動員して「極東国際軍事法廷証人心得」を脚本がわりに予行演習が始まる。そのうち熱が入り、家の中が天声や周囲の人間の〈国民としての戦争犯罪を裁く家庭法廷〉といった様相を呈し始める。そして出廷の日。東条英機らの前で大過なく証言を済ませた天声は、東京裁判の持つ構造に重大なカラクリがあることを発見するのだが……。
≪ここまで≫

 紙芝居屋、モンペ姿の女学生、柳橋の元芸者、復員兵らの生き生きとした姿を眺めながら、戦中、戦後の日本の姿は私から本当に遠ざかってしまった…と感じました。私が幼い頃はまだテレビ番組や映画にそれらの人々をよく見かけた気がします。路上に負傷兵の物乞いもいましたが、それは2018年の日本ではあり得ません。もちろん2001年の初演時もそうだったわけですが、初演から引き続き同じ装置、演出だからこそ、17年経ったことの重みが迫ってきました。

 終戦直後をたくましく生きる市井の人々の生活と、彼らの欲望、不満などが素直に表現され、可笑しいな、愛おしいなと感じながら、普通の人々(劇中では「フツー人」とも言われる)の無垢や無為の罪も同時に暴かれて、なんともいえずもやもやするような、うずうずとするような心地になりました。笑っていても、怒っていても、人々の周囲や裏側、奥底に何やら異なる空気が漂っているように感じるのです。そうなると「これは一体、何なの?」とずっと考えざるを得ないんですよね。舞台面側に楽隊がいる穴が見えている音楽劇で、異化効果が働いているせいもあると思います。

 ここからネタバレします。

 クルト・ヴァイル作曲、ベルトルト・ブレヒト演出『三文オペラ』などの名曲が劇中歌に使われます。パンフレットの栗山民也さんの言葉によると、舞台美術はブレヒトが東ドイツで立ち上げた劇団ベルリナー・アンサンブルの劇場を模したものだそうです。

 ドイツにはナチスが主導したユダヤ人大量虐殺の記念碑などが多く建てられていて、国として歴史を後世へと伝えています。しかし日本はどうでしょう。今の政府は公文書を改ざんし、その当事者を裁かず、リーダーが責任も取らず、のうのうと「記憶にございません」等とごまかしたり、自分の発言を簡単に覆したりしています。なんと恥ずかしい、恐ろしいことでしょうか。ドイツの劇場を模した空間で、ドイツの音楽が流れるなか、戦中・戦後の日本人と、今の日本人(私を含む)が裁かれ、試されているようでした。

 今回もやはり成田耕吉(上山竜治)が道子(唯月ふうか)に説く「世界の骨組み」の歌が胸に刺さりました。

 学問 それはなにか
 人間のすることを
 おもてだけ見ないで
 骨組み さがすこと

 人間 それはなにか
 その骨組みを
 研き 研いて
 次のひとに渡すこと

 最後は台本通り、「紙芝居屋の三郎、じつは玉置玲央さんです!」と一人ずつ紹介をしていきます。段田安則さんはじめ新たなキャストの名前が呼ばれ、その俳優が挨拶をする度に、この舞台が次世代へと引き継がれていくことが確認できました。演劇は上演ごとに古典が現代劇として生まれ、消えていくんですよね。新国立劇場の財産演目として長く上演していって欲しいと思います。


ます。

≪東京、兵庫≫
開場20周年記念 2017/2018シーズン
出演:段田安則、唯月ふうか、保坂知寿、木場勝己、高田聖子、吉沢梨絵、上山竜治、玉置玲央、佐藤誓
演奏:朴勝哲、佐藤桃、熊谷太輔、山口宗真
脚本:井上ひさし
演出:栗山民也
音楽:クルト・ヴァイル / 宇野誠一郎
音楽監督:久米大作
美術:石井強司
照明:服部基
音響:黒野尚
衣裳:前田文子
ヘアメイク:佐藤裕子
振付:井手茂太
演出助手:北則昭
舞台監督:加藤高
プロンプ:川澄透子
制作助手:小田未希
制作:永田聖子
プロデューサー:小澤雅子
A席:6,480円
B席:3,240円
学生当日割引:50%OFF
Z席:1,620円 
※就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください。
http://www.nntt.jac.go.jp/ticket/general/#anc06
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_009665.html
http://stage.corich.jp/stage/91379

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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