新国立劇場演劇研修所10期生修了公演『MOTHERー君わらひたまふことなかれ』02/10-15新国立劇場小劇場

 新国立劇場演劇研修所10期生修了公演『MOTHERー君わらひたまふことなかれ』初日を拝見。稽古場レポートを書かせていただいた公演です。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
明治42年1月、千駄ヶ谷の与謝野寛(鉄幹)晶子夫妻の家で、北原白秋、石川啄木、佐藤春夫が引っ越しの手伝いをしている。すでに 新居へ向かった夫妻を訪ねて、平塚明子、管野須賀子がやってきた。鉄幹に心酔する平野萬里も大八車を引いて到着したところで、詩壇についての口論から華々しい喧嘩となる。そこへ、夫婦喧嘩中の夫妻が戻ってきた……。不穏な時代にそれぞれの立場で奮闘する若者たちの物語。
※「石川啄木」の「啄」の字はキバ付きです。 
 ≪ここまで≫

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。間違ってたらごめんなさい。

 鉄幹と晶子の喧嘩の原因は、晶子のへそくり(生まれてくる子供のための貯金)を鉄幹が使ってしまったこと。鉄幹は一夜の遊興に使ったと言うが晶子は信じない。本当の理由を言わないことに怒っている。やがて白秋が、その金は彼の処女詩集「邪宗門」の装丁(金粉)のため、鉄幹が貸してくれたと白状する。鉄幹が「邪宗門」を読んだ感動を語るのがいい。詩の美しさ、その美しさの尊さが伝わった。
 鉄幹:芸術とは、そういうものだよ。美しいということは、そういう単純なことなんだよ。
 鉄幹:『邪宗門』は、どうあっても、最高の装丁で世に出なければならない。

 前半は時代背景、登場人物の解説。元気いっぱいの若者たちの恋、師弟愛、ライバルとの闘い、理想と現実の間での葛藤が、鮮やかな感情表現、分かりやすいステージング(人物配置)などで豊かに表現される。言論弾圧が厳しくなる時代背景もしっかりと。総じて娯楽作に徹しているのが清々しい。

 休憩をはさんで後半。せっせと家事を手伝う鉄幹を晶子が疎ましく思っている(だって役に立たないし)。詩が書けずスランプ状態の鉄幹は、晶子に当たりながら、すがる。晶子はそれが嫌で仕方がない。無政府主義者の大杉栄が登場。厚かましく居座る彼を、鉄幹は歓迎する。
 鉄幹の弟子で学生の佐藤は子守りも手伝う。居間には大勢の子供たちがいるのだが、舞台は無人。佐藤は無対象で「高い高い」する演技をする。後でこれ(無対象)が効く。

 刑事が部下を連れてやってきて、晶子に投獄されていたる管野須賀子との関係を問いただす。晶子は、鉄幹をバカにした刑事に向かって殴りかかり、「先生に謝れ!」と強くあたる。させるがままにしている刑事。とうとう晶子も警察に捕まってしまうのか…という緊迫した空気の中、息子がおつかいから帰宅して、居間への引き戸を開けた(無人で戸だけが動く)。取っ組み合いをしていた大人たちはピタリと静止し、鉄幹と晶子は子供に心配させないように、息子を褒めて、部屋から出て行かせる。刑事も詩人も皆、子供に醜いケンカを見せない。子供こそ人類の希望であり、それを誰もが共有できていた(今とは違う)。

 処刑された須賀子が幽霊になって現れる。「自分のせいで鉄幹が苦しんでおり、鉄幹を愛せなくなりだ、そんな自分が嫌いだ」と言う晶子に、須賀子は「手放せばいい」と促す。晶子は鉄幹の外遊(パリ行き)を許す。
 平塚らいてうが「青鞜」の巻頭言を書いてほしいと依頼に来た。「楽しくなさそう」と返す晶子に、平塚は憤慨する。「奪われている女性の権利を取り戻すために、楽しんでいる場合ではない」と言う平塚に対し、晶子は「果たして抑圧されているのは女だけ?男もじゃないの?」と切り返す。この女性同士のバトルは俳優の怒りが本物で、とても気持ちが良かった。

 晶子:この世が本当はもっと楽しい場所であることを、そうでなければならないことを、男も女も忘れて暮らしちゃいないかしら?
 晶子:私はただ、美しいものが好き。美しい歌が好き。美しい言葉が好き。美しい夕焼けが好き。美しい千代紙が好き。子供たちの美しい手足が好き。夕日に群れて飛ぶ赤とんぼが好き。美しいものが好きな私が好き。
 晶子:敵はいる。大きな敵が、強大な敵が、彼方にいるわ。(略)その敵と闘う方法を、そのための武器を私たちは間違えて選んじゃいけないのよ……

 桜の花が散る春の夜、弟子たちと大杉が集まる居間で、鉄幹がいるパリに自分も渡航することを決めた晶子は、晴れ着を新調してご満悦。樽いっぱいの酒を差し入れた白秋の顔には殴られた跡があり、体もよたよた、フラフラ。不倫の恋がばれて「姦通罪」で訴えられると嘆き、自殺するともらす。「そんなことをしても鉄幹は喜ばない。あなたの才能がこの世から消える方が罪深い」と晶子。優しく慰める啄木は既に死んでいる。夜桜見物に繰り出そうとしたところに刑事がやってきて、大杉を連行する。

 パリから帰った鉄幹は風邪を引いて寝ている。熱心に看病する平野萬里。晶子もまた風邪を引いているが、生活のための原稿執筆は止められない。相変わらず、またもやケンカする2人。激怒して布団の中に潜り込む晶子に、鉄幹が告白する。
 鉄幹:僕にとっておまえを妻とすることは、同時に歌を妻とすることだったからな。こんな女はこの世に二人といない。……おまえの歌を読んで時々、こんな凄い女が僕の妻なのかと思ったら、茫然としちまうんだ。どうしたらいいのかわからなくなっちまう。もったいなくてな、何だか、怖くなっちまうんだ。歌ってのはそれくらい大きくて……素敵なものなんだ。僕は詩人であることに誇りを持ってるし、同時に…おまえのことをもっとも誇りに思うんだ。
 鉄幹:ジュテエムだ。

 8人目の子供の名前はオーギュスト(ロダンが命名)。「学校でいじめられる」と言う晶子に「与謝野オーギュスト、立派な名前だ!」と堂々と返す鉄幹。晶子は惚れ直したようだ。
 完全暗転の後、大杉が登場し、寝間の明かりをつけると鉄幹の布団に晶子が入っていた。慌てて退出する大杉。終幕。

【出演】
与謝野晶子:角田萌果
与謝野寛〔鉄幹〕:田村将一
北原白秋:髙倉直人
石川啄木(*琢はキバ付):岩男海史
佐藤春夫:永田涼
平野萬里:中西良介
管野須賀子:田村彩絵
平塚明子:塚瀬香名子
大杉栄:長谷川直紀(第7期生)
刑事A〔蕪木貴一郎〕前田一世(第1期生)
刑事B〔安土兵助〕永澤洋(第8期生)
女中〔千代。声のみ〕:加茂智里(第9期生)
作:マキノノゾミ 演出:宮田慶子 美術:伊藤雅子 照明:田中弘子 音響:信澤祐介 衣裳:清水崇子 ヘアメイク:川口博史 擬闘:渥美博 舞台監督:米倉幸雄 演出助手:永澤洋 プロンプター:加茂智里
演劇研修所長:宮田慶子 主催:文化庁、新国立劇場
文化庁委託事業「平成28年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
A席3,240円 B席2,700円 学生券1,000円 Z席1,620円
就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/161124_009535.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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