【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所10期生修了公演『MOTHERー君わらひたまふことなかれ』01/28新国立劇場地下Dリハーサル室

MOTHER
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 新国立劇場演劇研修所(⇒facebookページ)の10期生修了公演『MOTHERー君わらひたまふことなかれ』の稽古場に伺いました。10期生の現場に伺うのは『ロミオとジュリエット』以来、2度目です(⇒前回のレポート)。

 『MOTHER~』はマキノノゾミさんの1994年初演戯曲で、与謝野鉄幹・晶子ら明治の文豪が登場する、コミカルな歴史群像劇です。演出は新国立劇場演劇部門の芸術監督であり、新国立劇場演劇研修所長の宮田慶子さん。
 1月末に拝見した通し稽古が、既に、面白かった~! 土日完売ですのでチケット予約はお早目に!

写真左から:田村将一、角田萌果
写真左から:田村将一、角田萌果

 ●新国立劇場演劇研修所10期生修了公演『MOTHERー君わらひたまふことなかれ』公式サイト
 02/10-15新国立劇場小劇場 THE PIT
 作:マキノノゾミ 演出:宮田慶子
 A席3240円 B席2700円 Z席1,620円 学生券1000円(予約なくても1000円)。
 ※現段階の上演時間は約2時間50分(休憩15分込み)を予定(あくまでも予定です)。
 ⇒修了生の活躍状況(2016年8月)
 ⇒修了生の出演情報(公式)
 ⇒CoRich舞台芸術!『MOTHER

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
明治42年1月、千駄ヶ谷の与謝野寛(鉄幹)晶子夫妻の家で、北原白秋、石川啄木、佐藤春夫が引っ越しの手伝いをしている。すでに 新居へ向かった夫妻を訪ねて、平塚明子、管野須賀子がやってきた。鉄幹に心酔する平野萬里も大八車を引いて到着したところで、詩壇についての口論から華々しい喧嘩となる。そこへ、夫婦喧嘩中の夫妻が戻ってきた……。不穏な時代にそれぞれの立場で奮闘する若者たちの物語。
※「石川啄木」の「啄」の字はキバ付きです。 
 ≪ここまで≫

 舞台は明治42年(1909年)~大正2年(1913年)の東京。社会主義者・無政府主義者24名が処刑された1910年の「大逆事件」を背景に、国語や日本史の教科書に出てくる歴史上の人物の、若き日の姿が描かれます。

 芸術を志し、恋に溺れ、日本を変えようと奮起しながら、生活に追われる文学者と社会活動家たちが、文字通りぶつかり合います(笑)。マキノさんの戯曲はギュっとしんみりしたかと思ったら、いいタイミングで笑わせてくれるんですよね~!

写真:角田萌果
写真:角田萌果

 鉄幹の襦袢を繕う晶子の演技を見ながら、「あぁ、私はこの世界をもう、失ってしまったのだ…」と思いました。舞台で“洗濯物”として使われる、白地に紺色の模様の着物(下着)は、私の祖母が部屋着として着ていました。手術をした病院でも。その祖母が亡くなってもう10年以上経ちます。

 歴史上の人物は言うまでもなく死者であり、死者の言葉を今、生きている人間の肉声で伝えるのが演劇です。晶子の歌集「みだれ髪」(⇒青空文庫)などの文学作品の引用も多数あります。『MOTHER~』は「歴史の記憶装置」としての演劇であり、心の滋養になる娯楽作です。
 ※セゾン文化財団ニュースレター「viewpoint No.77【特集: 不在/亡霊の演劇】」をお勧めします。

写真左から:田村将一、角田萌果、中西良介 横たわるのは岩男海史
写真左から:田村将一、角田萌果、中西良介 横たわるのは岩男海史

■ダメ出しの語尾は「~したい」/全員でイメージを共有する

 宮田さんは、演出席で自分で実際に演技をしてみて、意図を解説し、「たとえばこういうのどう?」「こういう感じは?」「~でいいんじゃない?」と尋ねながら、進めていきます。「~が良かった」「~も良かった」と改善できたとろを確かめて、ダメ出しをする際は「~しなさい」という命令形より、「~したい」という語尾で終わることが多いです。目指すべき方向を全員がイメージして共有していく感覚でした。

写真:宮田慶子
写真:宮田慶子

 宮田:キャラクターを作ってるのは面白いけど、今の状態だとダンドリっぽい。演劇的に無理した状態は良くない。中身を外に見せるように持って行きたい。

 宮田:自分の中で誠実に進めようとしているのはいい。その、頭の中の変化を、客(外)に見えるようにしたい。観客は、晶子の目が革新的に変わっていくところを見たい。

 宮田:言葉と言い回しの美しさが出るとすごくいい。(鉄幹)先生が、言葉をすごく選んでいたとわかりたい。言葉のチョイスが感動的に聞こえたい。

写真左から:田村彩絵、角田萌果
写真左から:田村彩絵、角田萌果

 「(セリフを)具体的に誰かに当てろ。空間に向かってしゃべってるから、いつまでもありきたりのセリフなんだよ」と厳しく指摘されることもありましたが、「今になって、動きを変更したいんだけど、いいかしら?」「思い切ったカットをしましょうか。今さらだけど。大丈夫ですか?」と、研修生たちの様子を見ながら、丁寧に大きな決断を伝えることもありました。やはり研修生に対しては“指導者”として接する姿勢でいらっしゃるようです。

 稽古は12月から始まっており、私が伺った時期は通し稽古を繰り返しながら、仕上げに入る段階でした。宮田さんは単語ひとつひとつについて、細かく指摘されます。

 宮田:このセリフはリズムを取るとやりやすい。手ではたくとか、ブレスを入れるとか。鉄幹が強がりだってことを、はっきりさせるために。
 宮田:「唾棄(だき)すべき」っていう言葉が難しいから、手の動きを添えようか。
 宮田:詩人たるもの、ポエティックに、ウィットに富んで、ね。ここは実感先行。回数をやった方がいい。

■アクション指導

写真左端:渥美博、中央:髙倉直人
写真左端:渥美博、中央:髙倉直人

 擬闘を担当される渥美博さんによる、乱闘(?)シーンの振付、指導がありました。若き文豪たちは、かな~り派手なケンカをするんです(笑)。

 危険なく転ぶ方法や、相手の頭を守りながら投げる方法があるんですね。渥美さんのアクションをお手本に、俳優たちが組み方を改良していきます。殴っていないのに殴っているように見えるし、リズムを作ることでダンスのような見せ場にもなるし。技が決まった時は思わず拍手したくなるほど、お見事!

 渥美:ほら、台本に「ドロップキック」って書いてあるだろ!(だからやるんだよ)
 渥美:そこまで「命はれ」って言ってないよ(笑)!

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■修了生の賛助出演/下級生の裏方参加

 今回の賛助出演は前田一世さん(第1期生)、長谷川直紀さん(第7期生)、永澤洋さん(第8期生)の3人です。永澤さんは演出助手も兼ねており、プロンプの加茂智里さん(第9期生)は声の出演をされています。

写真中央:前田一世、右端:永澤洋
写真中央:前田一世、右端:永澤洋

 やはり修了生は上手いですね。「舞台に立つこと」「そこに居ること」ができていているので、登場するなり空間が引き締まります。役人物として堂々と居てくれるので、私はすっかり観客になって安心して観ていられました。

 10期生の舞台裏には、11期生が入り、演出部の仕事をします。暗転中の道具の移動や、美術の転換などを、プロのスタッフさんから学ぶのです。公演が始まると劇場ロビーでの会場案内も、開演前のアナウンスも下級生が担当するので、試演会と修了公演は学校全体でかかわる行事になっているんですね。
 ※2016年の「研修所説明会」で、10期生が「先輩の影響」について語っています(⇒レポート)。

写真左から:長谷川直紀、永田涼
写真左から:長谷川直紀、永田涼

■宮田さんへのインタビュー

―この戯曲を10期生の修了公演に選んだ理由を教えて下さい。

 宮田:8月の朗読劇『ひめゆり』の後、11月の『ロミオとジュリエット』が洋物だったので、和物をやりたいと思ったんす。同じ時代が舞台の宮本研の名作『美しきものの伝説』『ブルーストッキングの女たち』へのとば口として、研修生にはこの時代の空気を体験して欲しいんですね。明治末期に、こんなにはっきりと戦っていた文学者、思想家がいたということを。

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―マキノノゾミさんが劇団青年座に書き下ろし、宮田さんが同劇団で演出されてきた作品ですね。

 宮田:私にとって、とても、とても大切な戯曲です。テーマが普遍的で、大いに笑えるだけではなく、ドラマもある。10期生は冷静で優秀だから、ちゃんと距離感を持って、細かく、真剣に、このエンターテインメントと向き合ってくれると思う。

 宮田:10期生は女性が3人だけという珍しい期で、この戯曲にぴったりなんですよ。この研修所ではたぶん、もう二度と上演できないんじゃないかな(人数の理由で)。

―この舞台には、私の幼少時代にはあったけれど、今はすっかりなくなってしまったものが、沢山あると思いました。

 宮田:本当にそうですよね。スタッフさんも「久しぶりに建具を立てました」「久しぶりにこの時代の着物を出せます」とおっしゃってね。着物だけじゃなく、座布団とかもね。日本舞台人の基本的素養として、今の時点で出会って、通過して欲しい戯曲なんです。

写真左から:塚瀬香名子、角田萌果
写真左から:塚瀬香名子、角田萌果

■人間は体が資本・継続は力なり/すぐに無料で学べる環境が人を育てる

 宮田さんは稽古開始前に、バレエ用のバーを使って華麗にストレッチをされていました。まっすぐ伸びた足が腰より上に! 凄いっ!!(ひたすら尊敬…) 宮田さんは劇団青年座に所属されており、若い頃には俳優修行もされています。やはり長年のご活躍には理由がありますね。

 稽古場の入り口に簡易図書館があり、関連図書を借りられるシステムになっていました。こういう環境が人を育てるのだと思います。研修生は参考文献、資料に当たり、稽古を重ねるという至極まっとうな演劇の現場を体験されているんですね。その成果を観られることを、一観客としてありがたく思います。

借りる本と名前を書く貸出票が用意されています
借りる人の名前と本の題名を書く貸出票が用意されています。

【出演】
与謝野晶子:角田萌果
与謝野寛〔鉄幹〕:田村将一
北原白秋:髙倉直人
石川啄木(*琢はキバ付):岩男海史
佐藤春夫:永田涼
平野萬里:中西良介
管野須賀子:田村彩絵
平塚明子:塚瀬香名子
大杉栄:長谷川直紀(第7期生)
刑事A〔蕪木貴一郎〕前田一世(第1期生)
刑事B〔安土兵助〕永澤洋(第8期生)
女中〔千代。声のみ〕:加茂智里(第9期生)
作:マキノノゾミ 演出:宮田慶子 美術:伊藤雅子 照明:田中弘子 音響:信澤祐介 衣裳:清水崇子 ヘアメイク:川口博史 擬闘:渥美博 舞台監督:米倉幸雄 演出助手:永澤洋 プロンプター:加茂智里
演劇研修所長:宮田慶子 主催:文化庁、新国立劇場
文化庁委託事業「平成28年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
A席3,240円 B席2,700円 学生券1,000円 Z席1,620円
就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/161124_009535.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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