東京都高等学校文化連盟、他「第27回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演」08/27-28国立劇場

 今年も東京都の高校演劇地区大会の講師をさせていただくことになり、昨年の全国大会で優秀賞を受賞した作品を拝見しようと、国立劇場に行ってきました。目当ては青森中央高等学校の『アメイジング・グレイス』。同じ日に上演された静岡県立伊東高等学校の『幕が上がらない』も拝見しました。

 「2016ひろしま総文 高校演劇全国大会」で両作品ともご覧になった工藤千夏さん(うさぎ庵/渡辺源四郎商店)の劇評↓をどうぞ。

 ⇒CoRich舞台芸術!「第27回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演「進化 国立劇場の夏」

 以下は一観客としての感想ですので、かなり辛口だと思います(講師をさせて頂く時は違う姿勢で拝見します)。

 ネタバレします。

■青森県立青森中央高等学校『アメイジング・グレイス』 60分
 作:畑澤聖悟 顧問:畑澤聖悟 山口香
 出演:木村紗智子(鬼村サチコ役)、菊池果歩(鬼池カホ委員長役)、三津谷友香(ミツヤトモカ役)、他

 2012年の全国高校演劇大会で最優秀賞を受賞した『もしイタ』の上演は継続されており、今年8月には三重県でも地元の高校生によって上演されました。『アメイジング・グレイス』のもとになった『7月28日を知っていますか?』は未見です。

 鬼ヶ島に転校してきた人間の女の子トモカは、クラスメートの鬼たちに徹底的にいじめられています。桃太郎(=人間)一行が鬼ヶ島で鬼たちを殺し、財宝を略奪していった1937年の史実について、歴史の授業で劇を作ることになりました。1937年というと蘆溝橋事件の年ですね。
 映画「スター・ウォーズ」の音楽に合わせて動いたり、動物の演技などをコミカルに見せたりするのですが、桃太郎と犬、猿、キジが英語で、鬼たちが青森弁(津軽弁?)で話すことから、鬼VS人間の構図はアメリカVS日本にも見えてきます。やがて、日本とアジアの国々、韓国と北朝鮮、日本政府と沖縄…なども連想させます。

 心優しい鬼のサチコ(北鬼ヶ島にホームステイ経験あり)と人間のトモカ(在鬼が島・人間大使の娘)が仲良くなり、トモカの指揮で「アメイジング・グレイス」を合唱することで、クラスが団結…したかと思いきや、人間の国で内戦が起こって、10万人の人間が難民となって鬼ヶ島になだれ込んできました(ここでの人間は標準語を話していました)。鬼に対してあからさまな差別意識を持つ人間たちは、鬼ヶ島で乱暴し放題。トモカの父親の指揮で鬼ヶ島の軍事要塞化が進み、漁師たち(サチコの家族)が立ち退きを強いられたりも。鬼たちは次々と鬼ヶ島を去り、人間の人口比率は上がっていきます。

 やがて人間の国の戦争は鬼ヶ島に飛び火。次々に爆弾が落とされて、鬼ヶ島は鬼なのか人間なのかわからない、まっ黒焦げの遺体が転がるばかりの焼け野原になってしまいました。舞台奥の幕が上がり、真っ白のホリ幕が広がって、舞台はしらじらとした残酷な明かりに照らされ、何もかもが剥き出しにされたような恐ろしい景色に。死んでしまったトモカとサチコらが、静かに起き上がって「アメイジング・グレイス」を歌います。神の恵みはあまねく人(&鬼)に降り注ぐ。真っ黒焦げになって鬼と人間の区別がつかなくなったことが、神の恵みであるかのようにも受け取れました。

 赤いTシャツを着て黄色い角を頭につけたら鬼、白いTシャツを着て角を取れば人間という風に、出演者は鬼にも人間にもなります。シンプルさを徹底したがゆえに痛烈かつ洗練された批評性があり、演劇ならではの多層構造にも唸らせられる、素晴らしいお芝居でした。『もしイタ』同様、Tシャツの着替えと角さえあれば、照明、美術、音響効果など全くなくても、どこでも上演できるのでしょう。
 
 
■静岡県立伊東高等学校『幕が上がらない』 70分
 作:伊東高校演劇部 加藤剛史 顧問:山本衣佳 コーチ:加藤剛史
 出演:井原亜里佐(オープニングで長いセリフ)、岡野楓(後輩男子の唇を奪おうと…しない)、永田莉子(女の子ネタ、弁士)、他

 田舎の高校演劇部の自虐ネタで70分…私にはきつかったですね。自虐は自慢でもあるので、そんなに興味も続かなかったです。ナンセンス・コント集だと解釈したとしても、同じパターンや似たネタが多くて、残念ながら私の笑いのツボはくすぐられなかったですね。演技の方法(手法)、観客に対する姿勢・態度などについては、私は基本的に求めすぎなのでノーコメント。

 ファック(「FAX」のスを省いたり)→女子の生理エピソードをくどくど繰り返す→童貞校長のセックスシーン(「攻めて攻めて攻めて!」など活動弁士的にたっぷり。まさかサイゴまでやるとはね・笑)と、下ネタを徐々にグレードアップさせていきます。用意周到でクレバーだし、かまととぶらないのが痛快です。花道のある国立劇場で観るからこそ、落差(笑)が強調されて良かったです。

 終演後に3年生女子が3人、舞台上で質問に答えてくださいました。「セリフは毎日変わることがあるし、いきなり6行増えたりもする。意地でも覚える」とおっしゃっていました。この学校に限ったことではなく、高校演劇ってそういう稽古不足が前提なんですよね。最初からそのつもりで観ないと、と思います。
 
 ※「全国大会出場が決まっていたのに、学校の公式サイトにその情報が載ったのが5月。だから4月入学の新入生が2人しか演劇部に入って来なかった」というエピソードは…ひどいなぁと思いました(きっと事実だろうと思ったので)。全国大会に出るだけでも凄いし、そして国立劇場にも招待されたのに…。伊東高校の先生方、どうか演劇部に注目してください!
 


 
テーマ 「進化 国立劇場の夏」 
※全国高等学校総合文化祭「演劇・日本音楽・郷土芸能」の3部門において選ばれた優秀校(各部門4校 計12校)が、国立劇場の舞台で演奏・演技を披露します。
協賛:独立行政法人日本芸術文化振興会
助成:公益財団法人三井住友海上文化財団
特別後援:朝日新聞社、読売新聞社
主催:文化庁、公益社団法人全国高等学校文化連盟、東京都教育委員会、東京都高等学校文化連盟
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2016/08/19/01.html
http://www.kobunren.or.jp/enterprise/tyo/details.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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