【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所12期生修了公演『るつぼ』01/29新国立劇場地下リハーサル室

チラシと上演台本
チラシと上演台本

 新国立劇場演劇研修所(⇒公式facebookページ、⇒公式ツイッター)の12期生修了公演『るつぼ』の稽古場に伺いました。12期生の現場に伺うのは『朗読劇「少年口伝隊一九四五」』、『トミイのスカートからミシンがとびだした話』以来、3度目です。

 『るつぼ』は米国劇作家アーサー・ミラーの代表作の1つで、1953年ニューヨーク初演のトニー賞受賞戯曲。演出は同研修所長の宮田慶子さんです(過去の稽古場レポート⇒)。宮田さんは2009年の同研修所3期生試演会と、2012年の新国立劇場演劇部門の本公演でも『るつぼ』を演出されています。

●新国立劇場演劇研修所12期生修了公演『るつぼ』⇒公式サイト
 02/08-13新国立劇場小劇場 THE PIT
 作:アーサー・ミラー 翻訳:水谷八也 演出:宮田慶子
 A席3240円 B席2700円 Z席(当日券)1,620円 学生券1000円(予約なくても1000円)。
 ※2/9(土)14時、2/10(日)14時は前売り完売。当日券あり。
 ※上演時間は3時間20分(1幕95分・休憩15分・2幕90分)。

写真左から:河合隆汰、坂川慶成、西原やすあき、福本鴻介 右下:川飛舞花
写真左から:河合隆汰、坂川慶成、西原やすあき、福本鴻介 右下:川飛舞花

 流れや結末を知っていてもハラハラドキドキさせられる、さすがの名作です。若者らしい弱さと焦燥感、躍動する身体が鮮烈で、同じ構造の演出でも全く違うお芝居になっていました。特にラストシーンの印象の変わり具合ときたら!俳優が違うとこんなに変わるのかと、改めて驚かされました。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
1692年、マサチューセッツ州、清教徒の町・セイレム。夜の森で、裸で踊る少女たちが目撃される。その一人アビゲイルが、かつて不倫関係にあった農夫プロクターの妻を呪い殺すための儀式だった。一人の少女が原因不明の昏睡状態に陥り、「魔女の仕業だ」という噂が駆け巡る。アビゲイルたちは自らのしたことを隠すため、無実の村人たちを次々に”魔女だ”と告発する。次第に聖女として扱われるようになったアビゲイルは、ついにプロクターの妻も”魔女”として告発する……。
 ≪ここまで≫

写真左から:伊澤日菜、坂川慶成、石原嵩志
写真左から:伊澤日菜、坂川慶成、石原嵩志

 『るつぼ』は4幕劇です。13時から3幕と4幕、夕方から1幕の稽古が行われました。原寸大の大道具、小道具がそろっており、スタッフさんも大勢いらっしゃる恵まれた環境です。まず演じてみてから、宮田さんのダメ出しがありました。いつもながら鋭く、厳しい指摘です。

 宮田:リアクションを取れるようになったし、それぞれの立場がよくわかってきた。ただ、反応すべきことを明確に持っていないと、舞台で迷子になっているのはすぐに見えるよ。

 宮田:意味はわかってきてるけど、本当の言葉になってないね。意志が前に出て、(観客がそれを)拾えるようにはなってるけど、演技が約束事に見えてる。腹に落としたい。感情で動いていくようにしたい。

写真左から:小比類巻諒介(11期修了)、宮田慶子(演出)
写真左から:小比類巻諒介(11期修了)、宮田慶子(演出)

 信仰心の厚い貧しい農民、権威を笠に着て強権を振るう聖職者、嘘で大人を翻弄する無垢な少女たちなど、『るつぼ』の登場人物は誰もが非常に人間らしく、それぞれが命がけで言葉を発します。息を付けない熾烈な争いが次々と起こるなか、どんでん返しも連続するという、とてもスリリングで面白い戯曲です。だからこそ、成立させるために越えるべき高いハードルがいくつもあるんですよね。セリフが膨大な役も多いです。

 宮田:(今の演技だと)言葉に頼ってる。(登場人物は)言葉を届けようと思っているのではないよね。伝えようとすると、意外に伝わらないから。内的圧力が加わると面白い。この場面は地位も名誉も捨てて、腹からしゃべって欲しい。

 宮田:のたうちまわって、もがき苦しんでから、なりふり構わないことを、しゃべって。表現しないと伝わらない(演技は情報伝達ではない)。

写真左から:川飛舞花、下地萌音、高嶋柚衣、伊澤日菜
写真左から:川飛舞花、下地萌音、高嶋柚衣、伊澤日菜

 比較的がらんとした舞台装置での大人数の群像劇です。舞台上に12人いる場面もありました。人物の配置によって劇世界が緻密に立ち上がっていきます。角度や位置取りによって伝わることが変わるんですよね。視線、動線についても細かい調整が行われました。

 宮田:ポジション取りがうまくいってない。椅子の間に埋まり込んでみて。
 宮田:ダンフォース副総督にはフェアな立ち位置でいて欲しいので、センター(=舞台中央)にいて。
 宮田:(あの女には)1.5m以上は決して近づかない。自分の中でルールにしてみて。

写真左から:福本鴻介、石原嵩志、西原やすあき、福永遼、坂川慶成
写真左から:福本鴻介、石原嵩志、西原やすあき、福永遼、坂川慶成

 宮田さんはご自身でセリフをしゃべってみせることが多かったです。セリフのサブテキスト(=言外の意味)となる役人物の思いや背景も、丁寧に言葉にして説明されていました。セリフや行動の根拠が明確になると、戯曲の骨格がくっきりと見えてくるんですね。

 『るつぼ』の舞台であるセイラムでは、キリスト教信仰に基づき審理されるはずの裁判所で、村民に次々と死刑判決が言い渡されるという、恐ろしい矛盾がはびこっています。恐怖にかられた人々は、必死で家族や仲間の命と尊厳を守ろうとするのですが、生きるためには嘘をつかなければならず、嘘をついて生き延びても自分と神様を裏切ることになるという、究極の選択を迫られることになるのです。

 迫られる側だけでなく、迫った側も絶体絶命の状況に陥っていくのが、この戯曲の凄いところ。誰もが自分の信念のため、または夢のために、よかれと思って行動しているから、理不尽な出来事が起こる度に胸が締め付けられます。それもとても頻繁に。

写真左から:河合隆汰、川飛舞花
写真左から:河合隆汰、川飛舞花

 今回は12期生の後輩である13期生が4人出演します。転換稽古も含めて、宮田さんは文字通り、手取り足取りの指導をされていました。俳優養成所の公演ならではですね。
 ダメ出しには演技の基礎、俳優が交流するお芝居の核、または肝とも言っていいであろう金言がどっさり!

 宮田:(演技には)遅くもなく、早くもない、ジャスト・タイミングというものがある。今は遅すぎたり、フライングしたり、色んなことになってるね。ジャスト・タイミングを探して。

 宮田:舞台の上では、(登場人物は)今、初めて(セリフを)言ってる。(俳優の)計算が見えるとつまらなくなる。(あなたは役人物として)今、初めて言うの。自分の中で、今そこで、紡ぎ出した言葉にして欲しい。

写真左から:川飛舞花、小川碧水、林真菜美、下地萌音、中坂弥樹、河合隆汰
写真左から:川飛舞花、小川碧水、林真菜美、下地萌音、中坂弥樹、河合隆汰

 個別の指摘のなかにも大切なアドバイスが沢山ありました。さらに少しご紹介しておきます。

 宮田:セリフに空気を入れると情緒的になるから、入れないで。
 宮田:(ここで)腕組みはやめた方がいい。主観が出ちゃうから。
 宮田:セリフが報告事項になってる。脳内で言わないで。(自分の)外に映像を作って。
 宮田:業務連絡のリズム感から逃れられてないから、実感が伝わらない。みんな一人ひとりが違うリズム感の方がいい。
 宮田:4幕、ハマリそこなったね。脳内の映像がおろそかになったんじゃないかな。頭の中でしっかりイメージづくりして。

写真左から:石原嵩志、高嶋柚衣、林真菜美、今井聡
写真左から:石原嵩志、高嶋柚衣、林真菜美、今井聡

 稽古は19:20で終了。翌日の通し稽古に向けて宮田さんがおっしゃったのも、俳優の在り方の基本を伝える激励の言葉でした。

 宮田:守りに入るより、このライン(=方向性)で、ナチュラルに、相手とコミュニケートしてね。今、うまくいったからといって、なぞるのはやめて。守りはやめよう。明日、また新たな気持ちで通し稽古しよう!

写真左から:福本鴻介、河合隆汰、今井聡、中坂弥樹
写真左から:福本鴻介、河合隆汰、今井聡、中坂弥樹

 同研修所の稽古場と公演を拝見してきて実感するのは、人間の成長は加速度的であるということ。じわじわと低空飛行してから、ぐっと急に伸びるんですね。この“じわじわ”期間を確保できるのが養成機関なのだと思います。

 同研修所の修了生が6人出演していますが、今回は研修生と修了生の実力の差をあまり感じませんでした。3年次の朗読劇と試演会、そして今回の稽古によって、12期生がぐんぐん成長されているのでしょう。

 前回の『トミイのスカートからミシンがとびだした話』は、私が昨年観た舞台で特に面白かったものでした(⇒2018年の私選ベストテン)。さらなる進化が遂げられていることを期待して、公演初日に観に伺います!

写真左から:永井茉梨奈、石原嵩志、西原やすあき、川飛舞花、福本鴻介、今井聡
写真左から:永井茉梨奈、石原嵩志、西原やすあき、川飛舞花、福本鴻介、今井聡
写真左から:永井茉梨奈、河合隆汰
写真左から:永井茉梨奈、河合隆汰

 ■関連ツイート

■公式ツイッターでご紹介いただきました!

■チラシのデザインは8期生の荒巻まりのさん

【出演】
新国立劇場演劇研修所第12期生:伊澤日菜 川飛舞花 下地萌音 永井茉梨奈 中坂弥樹 林真菜美 石原嵩志 河合隆汰 福永遼 福本鴻介 
修了生:西原やすあき(2期修了) 今井聡 (4期修了) 小川碧水(8期修了) 坂川慶成(8期修了) 髙倉直人(10期修了) 高嶋柚衣(11期修了)
第13期生:河波哲平、宮崎隼人、河野賢治、平良聡一郎
【脚本】アーサー・ミラー
【翻訳】水谷八也
【演出】宮田慶子
【美術】長田佳代子
【照明】中川隆一
【音響】信澤祐介
【衣裳】西原梨恵
【歌唱指導】伊藤和美
【演出助手】小比類巻諒介(11期修了)
【舞台監督】川原清德
【演劇研修所長】宮田慶子
【主催】文化庁、新国立劇場
【発売日】2018/12/14
A席:3,240円 B席:2,700円 学生券:1,000円
Z席(当日券):1,620円(公演当日、ボックスオフィス窓口のみで販売。1人1枚、電話予約不可)
※就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください。
https://www.nntt.jac.go.jp/play/the_crucible/

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