【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所11期生修了公演『美しい日々』01/24新国立劇場地下・合唱リハーサル室

台本とチラシ
台本とチラシ

 新国立劇場演劇研修所(⇒facebookページ)の11期生修了公演『美しい日々』の稽古場に伺いました。11期生の現場に伺うのは3度目です。
 ⇒『朗読劇「ひめゆり」』(⇒稽古場レポート
 ⇒『ある階段の物語』(⇒稽古場レポート

 『美しい日々』は松田正隆さんが1997年に発表された戯曲で、4期生の修了公演(2011年2月)でも上演されました。同研修所では7年振り2度目の上演となり、演出は今回も研修所長の宮田慶子さんです。

 通し稽古を拝見したところ、やはりすごく面白かった! 自分で自分を追い詰めてしまう心優しい人々の姿を滑稽に、または残酷に描き出す現代群像劇です。土日は残席少ないですのでお早めにご予約を。チケットもお買い得価格ですよ~!学生はなんと1,000円!!

●新国立劇場演劇研修所11期生試演会『美しい日々』公式サイト
 02/02-07新国立劇場小劇場 THE PIT
 作:松田正隆
 演出:宮田慶子(新国立劇場演劇研修所長)
 A席3,240円 B席2,700円 学生券(A・B席共通)1,000円 Z席(当日券)1,620円
 ※上演予定時間は約2時間30分、休憩15分を含む。

左から:川澄透子、生地遊人、上西佑樹
左から:川澄透子、生地遊人、上西佑樹

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
健一は、すくむ足を一歩踏み出し、闇の中へ。
そして、美しい日々に別れを告げた――
東京の中央線の、とある駅の近くにあるアパート。そこに住む、私立高校で教師をしている永山健一の部屋には若い女性が出入りしている。隣の部屋では兄妹が暮らす。……九州の、海のある小さい町。永山が実家に帰ってくる。そこを訪ねる東京の友人、そして、土地の人々との交わりを経て……。
 ≪ここまで≫

左から:バルテンシュタイン永岡玲央、椎名一浩、金聖香
左から:バルテンシュタイン永岡玲央、椎名一浩、金聖香

 可動式の装置が揃い、衣装も髪型も具体的に決まってきています。セリフをしっかり憶えた状態での通し稽古も数回目。いつも思いますが非常に贅沢な環境です。公演中に演出部の仕事をする12期生(下級生)が初めて見学にやってきました。舞台監督、音響、小道具などのスタッフも含め大人数が見守る中、14時から通し稽古が始まりました。

 『美しい日々』の舞台は1990年代後半の日本。前半と後半で景色も空気もガラリと変わる群像劇です。4期生の時よりも装置の移動が増え、演出も変わっていました。再演といえどお芝居は常に新しく生み出されるものだなと実感します。

左端から3人:堀元宗一朗(演出助手・8期修了生)、宮田慶子(演出)、香織(プロンプター・9期修了生)
左端から3人:堀元宗一朗(演出助手・8期修了生)、宮田慶子(演出)、竹内香織(プロンプ・9期修了生)

 通し稽古終了後、短い休憩を挟んで宮田さんによるダメ出しが始まりました。このお芝居に登場するのは兄妹、恋人、親戚、同僚といった市井の人々で、畳の部屋で行われるのは主に日常会話です。動きや声をほんの少し変えるだけで、意味も空気も一変します。客席からの見え方もポイントです。細かく指摘し、試すことで精度を上げていくんですね。

 宮田:もうちょっと上体を起こせば、表情が見える。
 宮田:意を決している感じを出したいから、しっかり座ってから話し始めてみて。

 宮田さんは会話の流れを整理していくために、空気が滞る原因を探ってさまざまな提案をされます。ため息を入れる、ウィスパー(息声)を使う、小道具使いのリズムを作る、一歩足を踏み出す、立ち上がるタイミングを決める…。小さな工夫でサっと流れが変わる度に驚かされます。

左から:田渕詩乃、小比類巻諒介
左から:田渕詩乃、小比類巻諒介

 演出家として演技がどう見えたか、どう変えたいかを伝えた上で、言い方や動きの具体的変更を指示していくこともあります。

 宮田:ここでは“あざとい芝居”をしてるんだよね。お客さんが「ああ、わざとやってるんだな」とわかるように、空気抜きをしてみようか。空気を抜く動作をあえて利用して、“芝居”に見えるように。
 宮田:論理的な間(ま)が空いちゃうのが嫌なんだよね。観念的なセリフになったらだめ。いちいち胸に落ちない内にしゃべっちゃおうか。(セリフの途中で)胸に落とすのを一旦やめてみよう。普通にしゃべってみて。

左から:佐藤和、バルテンシュタイン永岡玲央
左から:佐藤和、バルテンシュタイン永岡玲央

 また、見え方だけを変えても演技としては不完全であることが、この稽古場では共有されていました。演出家が「○○に見える演技」をさせるのではなく、「○○に見える」ためにどうするのかを、俳優が考えるのです。俳優の中にある感情や意志が、表情、動き、声として表に現れます。たとえば「破談」と言ってみてから、その気持ちで「結婚」と言ってみた時の変わりっぷりは凄かった(笑)!

左から:川澄透子、上西佑樹
左から:川澄透子、上西佑樹

 逆に、目に見える動きを変えれば気持ちに影響する場合もあります。セリフの根拠を探り出し、試していくことも大いに助けになっているようでした。

 宮田:髪型を変えたら? 分け目をつくるとか。思い切ってやってみよう。(髪型が変われば)自分も変わると思うし。
 宮田:「学校をお辞めになったんでしょ」というセリフのサブテキスト(文字にはないが暗に示される事柄)は、「そういうワケアリのご家庭だったんですね(だから辞めて当然)」だよね。

左から:生地遊人、山田健人
左から:生地遊人、山田健人

 演技の提案だけでなく、宮田さんは研修生のための演技指導もされます。ここが一般の公演とは大きく違うところでしょうね。

 宮田:呼吸を止めないで。空気が緊張するから。
 宮田:顔で演技しないこと。わざとコミカルにやってるように見えて、芝居じゃなくなっちゃうよ。
 宮田:目線が決まらないと、芝居は決まらないよ。何を、誰を、見るのか。空(くう)を見るのもあるし、色々できる。でも同じことをし続けるのもだめ。きちっと(目線を)分けないと。
 宮田:(登場人物たちが)お互いに違う行動路線だから、重層的になる。ストーリーをなぞるだけではドラマが起こらない。

左から:生地遊人、佐藤和
左から:生地遊人、佐藤和

 私が伺った日は13時稽古開始でした。ある場面の繰り返し稽古の後、14時から通し稽古。16:40からダメ出しが始まり、最後に二幕の最初の場面の繰り返し稽古をして、19:10に終了。途中で約15分間の休憩が3度ぐらいあったでしょうか。常に全方位に向かって真剣勝負ですから、緊張と集中が続きます。私は観ていただけですが、帰る頃にはもうヘトヘト…。研修生の中には朝と夜にアルバイトをしている人もいるでしょう。演劇人の仕事と生活を実地経験する研修でもあるんですね。

今回も参考資料、関連書籍のプチ図書館が登場!
今回も参考資料、関連書籍のプチ図書館が登場!

 1990年代後半というと今から約20年前です。1995年のWindows95の発売以降にインターネットが、この10年間にスマホが普及したと考えると、一昔前とはいえ隔世の感がありますね。1995年といえば阪神・淡路大震災、オウム真理教徒による地下鉄サリン事件もありました。若い研修生にとっては体験したことのない歴史になるため、一から勉強して取り組まれています。

左から:篠原初実、高嶋柚衣、バルテンシュタイン永岡玲央
左から:篠原初実、高嶋柚衣、バルテンシュタイン永岡玲央

 劇中ではごく平凡な社会生活の中で起こる浮気、不倫、ストーカー行為、殺人などが描かれ、今も切実な問題である“ひきこもり”も登場します。生きづらさを抱える人々が静かに犯した“取り返しのつかない過ち”と、彼らの心の奥に埋もれた思いがこぼれ出て、目も当てられない状況が錯綜するのがスリリング!

 上演によって次の世代へと手渡されて欲しい戯曲ですので、若い俳優の挑戦は大変ありがたいことだと思います。今の若者の身体によって1990年代が立ち上がる、重層性を楽しめる舞台が期待できそうです。⇒公演詳細はこちら

 ■稽古場の様子(随時追加予定)

 ■俳優紹介(随時追加予定)

■当レポートを公式でもご紹介いただきました

【出演】新国立劇場演劇研修所第11期生(川澄透子 金聖香 佐藤和 篠原初実 高嶋柚衣 田渕詩乃 生地遊人 小比類巻諒介 椎名一浩 上西佑樹 バルテンシュタイン永岡玲央 山田健人)
<役名/キャスト> ※4人が二役を演じます。
永山健一/バルテンシュタイン永岡玲央
鈴木洋子/金聖香
井口時夫/椎名一浩
西部良人/小比類巻諒介
堤佳代/高嶋柚衣
白石真理子/篠原初実
島村豊/上西佑樹
島村やよい/川澄透子
山田秀雄/生地遊人
安木康志/山田健人
安木京子/篠原初実
安木憲二郎/小比類巻諒介
安木優子/田渕詩乃
志水富男/生地遊人
志水美津子/佐藤和
小泉綾子/川澄透子
【作】松田正隆
【演出】宮田慶子
【美術】池田ともゆき
【照明】中川隆一
【音響】信澤祐介
【衣裳】半田悦子
【方言指導】柄澤りつ子
【舞台監督】澁谷壽久
【演出助手】堀元宗一朗
【演出部】竹内章子
【プロンプ】竹内香織
【演劇研修所長】宮田慶子
【主催】文化庁、新国立劇場
【企画・制作】新国立劇場
A席3,240円 B席2,700円 学生券(A・B席共通)1,000円 Z席(当日券)1,620円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_011246.html

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