MONO『アユタヤ』03/02-03/07あうるすぽっと

 京都の劇団MONOの新作ツアーです。3月6日(土)19:00東京公演のライブ配信を拝見。上演時間は約2時間15分、途中休憩10分を含む。

 大阪公演、東京公演のアーカイブ配信は3月21日(日)23:59まで見られます。視聴券は手数料込みで2,398円でした。自宅のテレビで母と見たので、割り勘にしたら1人1,400円でした。安い!

≪あらすじ≫ https://stage.corich.jp/stage/110213
軽き心持で意見を述べたら皆から騒がれ
依怙地になったら戻れなくなった
大勢が迫ってくる 逃げろ逃げろ、ゆうとぴあに駆け込め

17世紀前半のシャムロ(現在のタイ)、王宮のあったアユタヤ郊外に『日本人町』があった。
様々な理由から祖国を離れ暮らす人々。しかし、そこからも逃れて肩を寄せ合う人たちがいた。
全ての群衆から逃れ、安息の場所を求めるのだ。

辛辣な時代に一瞬の夢が見たい。時代劇なのに現代劇。
舞台は海外、MONOの新作はありふれたユートピア喜劇。
≪ここまで≫

 火事をきっかけに不穏な噂が広まり、仲良く助け合ってきた人々が分断され、町の有力者による締め付けが始まります。声をあげて抵抗するも、黙って従うもいばらの道。のっぴきならない状況を何度も乗り越えた仲間たちが、最終的に選んだ道は…。

 風通しのいい空間でとぼけた会話が交わされ、のどかで優しい空気が満ちています。でも次々に起こる事件はどれも深刻で、とてもじゃないが笑ってなどいられないはず…なのだけれど、登場人物たちはパニックになって叫んだり、悲壮感にさいなまれたりせず、落ち着いて受け止め、笑います。このフィクションのおかげで、物語を“楽しむ”ことができたのだなと思います。

 2月13日の地震発生時に、SNSに「●●人が井戸に毒を入れた」という許しがたいデマが流れましたよね。2021年の今、タイムリーな上演であり、まさに“時代劇なのに現代劇”でした。

 ここからネタバレします。私が鑑賞したのはライブ配信(映像)です。当日パンフレット等を入手しておらず、役名はカタカナ表記にします。間違いもあると思います。セリフなどは正確ではありません。

 舞台はシャムロ(タイ)。親の代から商売をしてきた兄妹の店。元武士の兄(イチノスケ)はシャムロ生まれの日本人ウメゾウを雇い、革職人の日本人夫婦(ゲンタとクラ※クラはダブル?)、日本語が通じない外国人(?)ホワンと仕事をしています。兄が「大阪の役」でともに戦った武士キザエモンは呑気でおつむが弱く、その妻ヒサはお高く留まった日本人女性で、シャムロ人を差別して下人扱い。妹(ツル)は差別と分断が進む日本人町を変えるべく、ツルに思いを寄せるゲンタとともに匿名の意見書を貼り出すなどの、「おなおし」活動をする行動派です。やがて兄妹は長崎から来たばかりの日本人男性ショウエモンを店でかくまうことに。彼はシャムロ人をないがしろにする日本人町の統領テラマツ(登場しない)に茶碗を投げつけ、追わわる身になっていたのでした。

 日本の身分制度にすっかり寄りかかっていた女性ヒサの変わり身の早さは滑稽で、素直で正直なところはすがすがしくもあります。この劇中で彼女に起こったことを振り返ると、実は波乱万丈なんですよね。自宅が火事になると夫のキザエモンは妻の自分を置き去りにして一人で先に逃げてしまい、ヒサは見下していた外国人(ウメゾウとホワン)に命を助けられます。焼け出されて夫婦ともども兄妹の家に2か月間も居候することに。ヒサは高飛車な態度を改め、ウメゾウたちに今までの無礼を土下座して詫びます。やがて、ウメゾウを助けるために大勢の敵に立ち向かっていった夫が行方不明に。半年後、ヒサは独り身のまま、兄妹たちとともにシャムロを出てカンボジアへと渡る…悲惨ですよね…。

 こうやって自分の感想を文章にしていく過程で、ようやくこの作品で描かれていたことが少しずつわかってきます。それほどオブラートに包まれているというか、笑顔で優しくくるんで、受け止めやすくしてくださっていたんですね。MONOの舞台はもともとそういう作風だと言われたら、確かにそうだとも思いますが、なぜか私は今回、特にそう感じたようです。

 穏やかで気のいい性格の兄イチノスケは「みんな穏やかに笑っていられるようにしたかった」だけで、「(自分には妹のような)信念はない」と言い、妹ツルは「兄は誰とでも仲良くする。心持ちのいい人と付き合う。それは信念だ」と返します。兄はそれを受けて、「見知った人のことはよくわかる。それより広くなるとわからないことが増える。信念を言葉にすると零れ落ちるものがある。言葉にすると、やがて憎むことになる。互いのことがわからなくなる。それが恐ろしい(大意)」とも言っていました。あることを言語化したせいで、それ以外のことが零れ落ち、なかったことにされる…といったことは起こると思います。

 このお芝居も、出来事の意味がはっきりとセリフで語られていたら、観るのが辛くなったかもしれません。セリフばかりが印象づけられると、暗にほのめかされた部分を見落とし、解釈が一面的になる可能性もあります。リラックスして全体を俯瞰する視点を保てたから、登場人物それぞれを愛おしむことができた。だから後になって色んな立場、方向から作品のことを考えられているのだと思います。

 かんしゃく持ちのショウエモンのせいで兄たちは凄く苦労したけど、彼の衝動的な行動のおかげで、妹は牢獄から脱出できたんだよな…。ゲンタみたいにわがままな人は面倒だな…とはいっても、彼が自分の失敗から学んだからこそ、ショウエモンを呼び戻せたのだし…。そういえばお馬鹿さんのキザエモンが多勢に無勢を気にせず飛び込んだおかげで、ウメゾウは助かったんだった…。ぐるぐるとめぐる助け合いの輪が見えてきて、多種多様な人々が支え合い、赦し合うことがいかに大切かがわかってきます。私も兄のような優しさを身につけたい…と思いました。

 胸を叩きながら「ここたい、ここ(心だよ、心)」と言い合う会話が何度か繰り返され、ほんわかとコミカルに演出されていたように思います。言葉の意味としてあまりに直球だし、表面的にはきれいごとに映るかもしれませんが、私はそれが人間の真実だと思いました。コロナ禍で私自身が弱っているせいもありますが、人間は心で通じ合い、心に動かされるのだと信じるのは希望だとも思います。

≪大阪、広島、東京≫
出演
ゲンタ(革職人、クラの夫、ツルのことが好き):水沼健 
キザエモン(武士、ヒサの夫、おつむが弱い):奥村泰彦 
イチノスケ(両親の跡を継ぎタイで商売をしている):尾方宣久 
木村ショウエモン(長崎でキリシタンをかばった容疑で日本脱出、9歳のツルを救った人?、シャムロ人をかばって追われる身に):金替康博 
ホワン(シャムロに暮らす異国人?、海外の商人の人脈あり):土田英生 
ヒサ(キザエモンの妻、選民意識が強かったが後に改心):石丸奈菜美 
クラ(ゲンタの妻、シャムロ出身、母は三河出身?):高橋明日香 
ツル(イチノスケの妹、正義漢の行動派、9歳の時に自分を救った男性を思い続けている):立川 茜 
ウメゾウ(イチノスケの家の使用人、シャムロ育ちだが両親は日本人):渡辺啓太
作・演出:土田英生
舞台美術|柴田隆弘
照明|吉本有輝子(真昼)
音響|堂岡俊弘 
衣裳|大野知英
演出助手|鎌江文子
演出部|習田歩未
舞台監督|青野守浩
大道具制作|北五美術
イラスト|川崎タカオ 
宣伝美術|西山榮一(PROPELLER.) 大塚美枝(PROPELLER.)
配信|虹映社(大阪公演)、彩高堂(東京公演) 舞台写真|井上嘉和
制作|垣脇純子 池田みのり 谷口静栄
協力|Queen-B radio mono
【発売日】2021/01/09
指定席・未就学児童入場不可
一般:4,200円
ペアチケット:7,600円(前売のみ/座席指定引換券/2名分の料金です。)
25歳以下:2,000円(前売のみ/対象25歳以下/入場時証明書を確認いたします。)
https://c-mono.com/stage/
配信視聴券 :2,200円×1枚
サービス利用料:198円×1枚
合計金額:2,398円
https://s.confetti-web.com/detail.php?tid=60187

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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