パルコ・プロデュース『大地(Social Distancing Version)』07/01-08/08パルコ劇場

 三谷幸喜さんが作・演出される新作のお芝居を拝見しました。上演時間は約2時間55分(休憩25分を含む)。リニューアルしたパルコ劇場に伺ったのは初めてです(『ピサロ』は予約日に上演がなかったので・涙)。

 舞台に俳優がいて、観客がそれを観る…カーテンコールでマスクの内側を涙が伝いました。当日パンフレット(1500円)の俳優一人ひとりの写真がいいですね。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
とある共産主義国家。独裁政権が遂行した文化改革の中、反政府主義のレッテルを貼られた俳優たちが収容された施設があった。
強制的に集められた彼らは、政府の監視下の下、広大な荒野を耕し、農場を作り、家畜の世話をした。
過酷な生活の中で、なにより彼らを苦しめたのは、「演じる」行為を禁じられたことだった。
役者としてしか生きる術を知らない俳優たちが極限状態の中で織りなす、歴史と芸術を巡る群像劇の幕が上がる!
≪ここまで≫

 (Social Distancing Version)と名付けられたとおり、客席が1席置きになっているだけなく、出演者らが近づきすぎない工夫が凝らされていました。登場人物それぞれに居場所としてのベッドがあてがわれており、舞台上で静かにしている時は、ほぼ定位置にいつづけます。誰かが近づいていくと、後ずさりして離れるという動作が多かったですね。稽古もさぞ大変だっただろうと思いました。上演があること自体が尊いです。

 世間から隔離されたプライバシーのない収容所で、俳優、演出家、大道芸人らが、政府役人らの理不尽な要求、命令に屈っしながらも、どうにかこうにか楽しく生き延びようとします。何もないところに何でも生み出すのが俳優なんですよね。冷静に考えたらすぐに嘘だわかることでも、目の前で誰か(俳優)が本気で楽しんでいたり、怒っていたりすると、それが真実に思えてくるものです。虚構が人間を動かし、実社会を変えていくことが信じられます。そういえば最近見た三谷さんの映画は「記憶にございません!」。面白かったです。中井貴一さん、大好き。

 有名俳優が多数出演し、三谷さんおっしゃる通り、脚本はそれぞれに当て書きされています。個性や持ち味を生かす人物像、背景、出番が用意されていて、ドタバタ喜劇のように声を出して笑える場面も多いです。とはいえ設定はシリアスで、苦みも残る物語でした。

 ※劇場のウイルス対策について
 パルコのビルの入口にアルコール消毒液があり、エレベーターに乗って8階に着くと、大勢の案内係の方々の姿が目に入りました。劇場ロビー入口では消毒液で濡れたシートを踏んで靴を消毒。手指も再び消毒し、手首で検温をしてもらって、チケットをもぎっていただいてロビー内へ。距離を置くための注意書きが床にもテーブルにもたくさん。ロビー開場中も上演中も、観客はしっかりマスクをしています。案内係の皆さんはフェイスシールドを装着。ロビーの外にある野外テラスの出入り口にも案内係の方がいらして、消毒液も完備。ここまでやってくださって、客席は半減なんですよね…赤字ですよね…(涙)。

 ここからネタバレします。セリフなどは不正確です。

 最初に客席が溶暗していくなか、三谷さんのアナウンス(前説)が流れました。1924年に築地小劇場がオープン。日本の演劇の夜明けとも言われるその時から約100年を経て、演劇界は誰も経験したことのない状況に。でも、舞台に役者がいて、客席に観客がいれば、幕は開く…と。築地小劇場と同様に銅鑼を鳴らして開幕。

 登場人物の名前から察するにモデルはソ連(ロシア)でしょうか。シベリアの強制労働などを想像しました。収容所での劇中劇は数々の名作へのオマージュとも受け取れます(パっと思いついたのは『アイランド』『マンザナ、わが町』『LILIES』『ラ・マンチャの男』『マラー/サド』など)。ここでは芝居好きの指導員ホデク(栗原英雄)の提案(というか命令)で、『ウィンザーの陽気な女房たち』を『ウィンザーの陽気な兵隊さん』と脚色して稽古をします。

 一番若いミミンコ(濱田龍臣)とその恋人(まりゑ)が政府役人ドランスキー(小澤雄太)の部屋で二人っきりになれるように、皆でドランスキーを大部屋に誘い込んで足止めします。「そんなの、ありえないよ!」という突っ込みをいくらでも入れられる展開の連続ですが、ドランスキーが俳優の演技の真実味にだまされる様子は微笑ましいです。

 老パントマイマーのブルーハ(浅野和之)の密告のせいで嘘がバレて、ドランスキーは全員を丘の向こうにある劣悪な環境の収容所に送ると決めます(死と同義)。ホデクの嘆願もあって、全員ではなく1人だけに減刑されますが、皆でその1人を選ぶことに。最終的にホデクがチャペック(大泉洋)を選び、彼だけが大部屋を去ります。全員そろって演劇興行に出ようと話すぐらいの仲間だったのに、身代わりと言っていい犠牲を出してしまった絶望は大きいです。

 再び演劇の稽古を始めますが、座長(辻萬長)が中断。演出助手およびスタッフとして稽古につきっきりだったチャペックがいなくなり、「我々は観客を失ってしまったのだ」と。冒頭の前説につながるんですね。やがて為政者が変わり、皆、収容所から解放されますが、舞台芸術の世界に戻ったのはミミンコだけ。語り部でもある彼は「英雄ばかり演じてきた映画スターのブロツキー(山本耕史)も映画界に戻るが、二度と英雄を演じることはなかった」と締めくくります。

 途中休憩の時にスマホを確認したら、東京都の今日の感染者数は224人というニュース(涙)。昨日は75人だったので、いきなり倍以上です。その前に100人超えがほぼ1週間続いていましたから、いわゆる指数関数的増加ペースですよね。『大地』の登場人物が解放されたのは、チャペックが出て行ってから5年後でした。私たちはどうなるでしょう。

↓2020/07/15加筆

≪東京、大阪≫
【出演】
チャペック(便利屋/演技は下手だがスタッフとして優秀/できればここに残りたいとも発言/山の向こうの地獄のような収容所にひとりだけ送還):大泉洋 
ブロツキー(人気映画俳優/英雄役ばかりだが中身は凡人/出所後は映画俳優に復帰するが英雄を演じることはなかった):山本耕史
ツベルチェク(女形/妻子持ち/ドランスキーに気に入られる):竜星涼 
ピンカス(大道芸人/最高指導者のものまねが上手):藤井隆
ミミンコ(学生、語り部/出所後に舞台俳優を続けるのは彼のみ):濱田龍臣
ズデンガ(ミミンコの恋人):まりゑ 
ツルハ(演出家、部屋一番の問題児):相島一之
ブルーハ(世界的パントマイマー/腰痛持ちの老人/湿布欲しさにドランスキーに内情を密告する):浅野和之
バチェク(国民的舞台俳優、ベテラン、リーダー):辻萬長
ホデク(指導員/芝居好きで『ウィンザーの陽気な女房たち』を脚色、演出し主演もしようとする):栗原英雄
ドランスキー(政府役人/文化芸術に興味なし、読書もノンフィクションのみ):小澤雄太

作・演出:三谷幸喜 美術:堀尾幸男 照明:服部基 音楽:栗コーダーカルテット 音響:井上正弘 衣装:前田文子 ヘアメイク:川端富生 舞台監督:本田和男 演出助手:伊達紀行 所作指導:篠井英介 票券:亀川佳枝 制作:藤原治 プロデューサー:毛利美咲 製作:井上肇 企画制作:株式会社パルコ

料金(全席指定・税込)
12,000円
U-25チケット:6,000円(観劇時25歳以下対象、要身分証明証 当日指定席券引換/チケットぴあ、「パルステ!」にて前売販売のみの取扱い)
WOWOWメンバーズオンデマンド/Streaming+にて有料配信あり
イープラス「Streaming+」 配信チケット:3,000円(税込)
※配信チケットは一般発売のみの取り扱い

https://stage.parco.jp/program/daichi/
「大地」払い戻しのご案内(5/27公開):https://stage.parco.jp/blog/detail/2326

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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