【写真レポート】新国立劇場「2020/2021シーズン・ラインアップ説明会」01/08新国立劇場地下2階

 新国立劇場オペラ部門、舞踊部門、演劇部門の芸術監督3名(大野和士さん、吉田都さん、小川絵梨子さん)による「2020/2021シーズン・ラインアップ説明会」が開催されました。舞踊部門の吉田さんは今年9月から就任されます。⇒公式サイトに詳細あり ⇒2019/2020シーズン

 芸術監督3人ともが「舞台を観たことのない人にも劇場を訪れてほしい」と声をそろえ、幅広い客層にリーチする作品を紹介しました。2020年8月の「子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ『Super Angels スーパーエンジェル』」は3部門共同製作です。

写真左から:小川絵梨子、大野和士、吉田都
写真左から:小川絵梨子、大野和士、吉田都

 説明会後は各部門ごとに芸術監督との懇談会が開かれました。以下に演劇部門の情報をまとめました。私個人のコメントも含みます。

【2020/2021シーズン 演劇 ラインアップ】

●2020年9月 パリ・オデオン劇場『ガラスの動物園』 [海外招聘公演]
 出演:イザベル・ユペール ナウエル・ペレ・ビスカヤー ジャスティーン・バチェレ シリル・グエイ
 作:テネシー・ウィリアムズ 演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ

 パリの国立劇場・オデオン座で2020年3月に開幕する新作が日本にやってきます。世界中で大人気のオランダの演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェさんが中劇場に初登場。主演はフランスを代表する女優のイザベル・ユペールさん。演目はテネシー・ウィリアムズ作『ガラスの動物園』です。

 小川:ホーヴェさんの作品は芸術監督になる前から拝見していて、好きな演出家でした。最近だと特に『ネットワーク』が素晴らしかったです。できれば初めのシーズンから海外招聘はしたかったのですが、3年目でようやく叶いました。

 ※日本で過去に上演されたホーヴェ演出作品は2つです。
  東京芸術劇場『オセロー』(2017年)
  SPAC-静岡県舞台芸術センター『じゃじゃ馬ならし』(2006年)
 ※NTLiveでは3作品が上映されました。
  「橋からの眺め
  「ヘッダ・ガーブレル
  「イヴの総て

●2020年10月『リチャード二世
 出演:岡本健一 浦井健治 中嶋朋子 立川三貴 横田栄司 勝部演之 吉村直 木下浩之 田代隆秀 一柳みる 大滝寛 浅野雅博 那須佐代子 小長谷勝彦 下総源太朗 原嘉孝 櫻井章喜 石橋徹郎 清原達之 鍜治直人 川辺邦弘 亀田佳明 松角洋平 内藤裕志
 作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:小田島雄志 演出:鵜山仁
 
 鵜山仁芸術監督の時代から始まった、シェイクスピアの歴史劇シリーズがとうとう完結。お馴染みの俳優が引き続き登場してくれるのも嬉しいですね。11月には過去作品の上映会も企画されています。

●2020年12月『ピーター&ザ・スターキャッチャー』 
 作:リック・エリス 原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン 音楽:ウェイン・バーカー
 翻訳:小宮山智津子 演出:ノゾエ征爾

 2004年に米国で出版された小説『ピーターと星の守護団』をもとにした戯曲で、『ピーター・パン』の前日譚とのこと。2012年トニー賞9部門にノミネートされ、5冠を獲得した音楽劇です。香川、愛知、福岡、茨城公演あり!

 小川:ノゾエ征爾さんはご自身の劇団もあり、彩の国さいたま芸術劇場などの公共劇場でも作品を創作されていて、また色んな施設に作品を持って行ってくださっています。地に足のついた優しい人。聴く耳を持っていて、様々な人たちの声を平等に聴ける方というイメージです。ノゾエさん、違ってたらごめんなさい!

ピーターと星の守護団 (上)
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●シリーズ「人を思うちから」

 個人と全体を問う「ことぜん」シリーズから続く、3作品連続上演の今回のテーマは「人を思うちから」です。

 小川:日本人は人のことを思うことができる。独立心も個性も大事ですが、我々にはこんな素敵な側面をあるんだということを、みんなで感じられたらと思い、このタイトルにしました。
 小川:どれも地に足を付けた市井の人々を描いた作品で、その心には思いやりや優しさや愛があります。現実と葛藤するなかで、前に進んでいく道をお互いに見つけていく3作品です。

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・2021年4月 其の壱『斬られの仙太』 [フルオーディション3]
 作:三好十郎 演出:上村聡史

 小川:『かもめ』『反応工程』に続くフルオーディション企画の第3弾です。フルオーディションを増やしていきたいし、オーディションが当たり前になっていけばいいと思っているので、今回は個別の企画ではなくシリーズの中に入れました。

 小川:上村さんは非常にクレバーな頭のいい方。すごく調査をされるので資料もいっぱいあるし、丁寧にコツコツとやられる人。独立心があって、一人ぼっちになっても構わないという強さのある人。そのぶん優しい人だと思います。(彼とは)お互いの作品について素直に話したり、批評し合える。勝ち負けではなく高め合っていける。尊敬申し上げております。

・2021年6月 其の弐『東京ゴッドファーザーズ』 [新作]
 原作:今敏(こん・さとし) 作:土屋理敬(つちや・みちひろ) 演出:藤田俊太郎

 台本の土屋理敬さんにも注目ですね! 土屋戯曲はよく上演されています(⇒CoRich舞台芸術!での検索結果)。私は演劇集団円への書き下ろし作品を拝見しました。

 小川:アニメ映画『東京ゴッドファーザーズ』の初舞台化です。『パプリカ』『パーフェクトブルー』など、私は今敏監督作品の大ファンでした。

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 小川:演出の藤田俊太郎さんは新国立劇場初登場です。ミュージカルのオファーが多いようですが、ストレート・プレイもやりたいという強い思いを持ってらっしゃいます。私は藤田さん演出の舞台『Take me out』に翻訳として参加し、彼の現場にも入っていたので、どんな演出をされるのかも見ていました。藤田さんはどんなことがあっても、俳優に「ありがとうございます」と言って向き合う人。一人ひとりに真摯に向かう、優しい、頭のいい方です。藤田さんが一番のびのびできるキャストとスタッフで進められたらいいなと思っています。

・2021年7月 其の参『キネマの天地
 作:井上ひさし 演出:小川絵梨子
  
 とうとう小川演出の井上ひさし戯曲が観られます!

 小川:私が中学1年生の時に、初めて演劇部のオーディションで勝ち取ったのが『キネマの天地』の小春役でした。学園祭のメインではない、観客も3~4人しかいない公演でしたが、今もずっと好きで、心に残る作品です。井上さんの作品には優しさと愛がある。愛というのは、口にするのが少し恥ずかしい言葉ではあるんですが、国立劇場だからこそ声を大にして言ってもいいと思います。『キネマの天地』は人への愛、そして演劇への愛と感謝の作品です。

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●2021年7月 『短編フェスティバル「嘘」(仮題)-はじめての演劇ー
 
 舞台上はもちろん、客席や舞台裏など、劇場のいろんな場所で短編作品を展開するフェスティバルです。ベテラン演出家も参加予定とのこと。

 小川:世界中に5分、10分で終わるような短編の、いい作品がいっぱいあるんです。たとえば岸田國士、ピランデッロ、ベケットなど。でも上演機会が少ない。古典から日本人劇作家の新作まで、幅広い作品群で、挑戦的に短編演劇を上演するフェスティバルです。
 「はじめての演劇」という副題もつけました。演劇に触れたことのない方々に劇場に来ていただいて、演劇の面白さ、素晴らしさを感じていただきたい。演劇への道が広がっていったらいいなと思っています。

写真左から:小川絵梨子、吉田都、大野和士
写真左から:小川絵梨子、吉田都、大野和士

【継続中のプロジェクト・その他】 

 新国立劇場演劇部門では小川芸術監督のもと、公立劇場だからできることを粘り強く続けてくださっています。

こつこつプロジェクト ―ディベロップメント― 
 
 ただいま3人の演出家が取り組んでいますが、次は新たな演出家が参加するとのこと。

ロイヤルコート劇場×新国立劇場 劇作家ワークショップ 

 14人の若手劇作家が参加中。各人が提出した戯曲を全員が読み、ディスカッションを経てディベロップし、今年6月には稽古場で日本の俳優、演出家とともに稽古予定。今年中の英国でのリーディング上演を目指すとのこと。ワークショップの過程で、全ての戯曲がロイヤルコートで英語に翻訳されています。

 小川:最初は緊張されていたと思いますが、今では参加者もロイヤルコートの人たちとフランクにやりとりをしています。時間をかけて関係性をつくっていくことは大事だし、時間をかけていいんだということです。

 小川:作り手は常に与えられた期間内で傑作を生み出そうとしますが、一年かければ傑作が生まれるかというと、必ずしもそうではない。本当は10年20年、50年100年かかってもいいんじゃないかって私は思うんですね。トニー・クシュナーの『Angels in America』は5年かけているし、最近の『The Inheritance(インヘリタンス)』だって数年かかってる。3週間でできたのは(名作だと)オールビーの『動物園物語』ぐらいでは? 時間をかけていくと、作品の強度もアーティストの強度も上がります。やっぱり地道に向き合っていかないと。公共しかやれないし、公共がやっていかなきゃいけないことです。

 小川:一人でも多く、今の時代とともにある、いい作品をと、思っています。(この場合の成果とは)作品の命の話です。もしうまくいかなくても、それは劇場側の問題です。(「こつこつプロジェクト」も「劇作家ワークショップ」も含め育成の)システムは守っていかないといけないと強く、強く思っています。

 ⇒「ロイヤルコート劇場のメンバーが、新国立劇場との「劇作家WS第1段階」語る」(2019年5月26日 )
 ⇒「ロイヤルコート劇場の劇作家WSに前川知大が登場、英国劇作家と共感し合う」(2020年1月7日)

【質疑応答】

 質問:前シーズンに続き、40代前後の演出家が多数起用されています。同世代の演出家への思いは?

 小川:(アメリカ帰りの)自分にはホームや所属がなく、不安だった時に支えてくださったのが同世代の演出家でした。前の世代が築き上げてきてくれたこと、足りなかったこと、じゃあ、私たちは何をしていったらいいのかなど、非常によく話しました。意見が全部一致するわけではなかったんですが、私の心の支えだったんです。ずーっと。

 小川:(今は亡き俳優の)中嶋しゅうさんも特別な存在ではあったんですが、宮田慶子芸術監督がどこの馬の骨ともわからない私を取り上げてくださって、シリーズ企画「Try・Angle(トライ・アングル) ─三人の演出家の視点─」で上村さんと森新太郎さんに出会っていなかったら、続いていなかったです。そして谷賢一さん、熊林弘髙さん、前川知大さん…ノゾエさんもそうですし、蓬莱竜太さんも。助けていただいた。

 小川:芸術監督のお仕事をいただいた時、僭越ながら、私一人ではなくこの世代として受けているようだと思ったりもしていました。(今回参加の方々は)ほぼ同世代で、私よりちょっと上の方もいらっしゃるんですが、新国立劇場ではベテランのみならず、なるべく若い方に演出をやってただきたい。
 ※小川さんは「若い人と言っても、私は若くないんですが!」と何度も付け加えていらっしゃいました。

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 質問:中東で戦争勃発の危機にある今、「人を思うちから」というテーマは想像以上に強烈なメッセージになるのでは?

 小川:個人的なことで申し訳ないんですが、私は演劇を始めた時からずーっと、誰かが(私のことを)思ってくれて、助けてくれたと思ってきました。損得とか、正しい/正しくないとか、政治的に合ってる/合ってないとか…そんなことよりも、まず根本にある「人が人を思える力」が非常に大事なんじゃないか。

 小川:3作品とも、海外じゃ書かれないと思うんです。海外と言っても、少なくとも私には欧米のことしかわからないんですが。なぜなら、人の情(じょう)のお話だから。これは日本にしかないなと思う3作品です。

 小川:アメリカに居た時には「人を思える力」はあまり感じたことがなくて。もっと違う、「個性」「個人」「(個人の)権利」といった強い文脈が流れていました。日本人は人を思うことができる。アメリカに居た色んな国の人としゃべりましたけども、こんなに人のことを思える文化ってなかなかないんじゃないかなと、しみじみ感じていました。

 小川:私たちがなぜかずっと持っている「人を思える力」というものを、改めてみんなに知ってもらいたい。上から目線で言うのではなくて、ただ「あるんだ」ってこと。理論ではなく、心にある。これってすごいことだと思うんです。正義や信念ももちろん大事ですが、人を思える力を改めて、自分たちの誇りに思いたい。

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【取材を終えて】

 小川さんの3度目のラインアップ説明会と懇談会に参加させていただき、ようやく彼女が望んでいたことができ始めたのではないか…と感じました。海外招聘公演が実現して本当に良かったなと思います。演劇部門では久しぶりですよね!栗山民也芸術監督時代の2005年6月公演『アルトゥロ・ウイの興隆』以来ではないでしょうか。

 継続しているプロジェクトについては、私が勝手にツイッターでウォッチしていることも踏まえると、参加中のアーティストの皆さんの協働は大いに意味のあるもので、一観客として、今後のそれぞれの仕事がとても楽しみになっています。

 フルオーディションも3度目の公募が行われました。小川さんのおっしゃるとおり、民間の劇場や制作会社ではリスクが大きすぎてできないんですよね。やはり芸術監督は少なくとも2期は続けていただきたいなと、今年も思いました。

 2016年に小川芸術監督誕生の報を受けて書いた「つぶやき」に、小川さんについてのこれまで主なレポートのリンクを貼っています。それ以降で参考になるであろう非公式レポートは下記です。

非公式レポート】新国立劇場演劇「マンスリープロジェクト・トークセッション「スペシャル対談 宮田慶子×小川絵梨子」」01/14オペラ劇場ホワイエ

非公式レポート】新国立劇場情報センター【ギャラリー・プロジェクト】★演劇噺★ Vol.2「フルオーディションの可能性」04/14新国立劇場小劇場

↓2020/01/15加筆

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