Kawai Project『お気に召すまま』09/06-09シアタートラム、09/13-17彩の国さいたま芸術劇場・小ホール

 シェイクスピア研究者の河合祥一郎さんが、ご自身の新訳や新作を演出されるKawai Projectの第5弾は、上演頻度が高いシェイクスピアの恋愛喜劇『お気に召すまま』(過去レビュー⇒)。上演時間は約2時間45分(途中休憩15分を含む)。

 河合さんの精力的な活動はいつも超人的だと思います(過去レビュー⇒)。上演に合わせて戯曲本も出版されており、なんと『お気に召すまま』だけでなく新橋演舞場で上演中の『オセロー』も!

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 シェイクスピア作品の演出としては全体的にオーソドックスなもので、個人的には新解釈がツボ。戯曲本に解説がありますので、観劇と合わせてどうぞ。ロビーで販売されています。東京公演は開幕前に完売、さいたま公演(09/13-17)は残席あり。

 客席が三方を囲む抽象美術で、舞台下手奥に演奏スペースがあります。床に土や市松模様のシートが貼ってある、平板なステージです。「ムッスュー」というセリフがよく発せられ、場所がフランスであることが印象づけられました。衣裳は時代背景に忠実なデザインのようです。

 パンフレットの“ミニ解説”には「この公演では、「役者が役を演じる」という点を強調すべく、リアリズムではないシェイクスピア風の表現法を目指しました」とあります。一人の俳優が複数役を演じること自体を楽しむ演出が多々ありました。

 喜劇とはいえ海外古典ですし、これでもかと繰り出されるダジャレに、誰もがすんなり笑えるわけではありません。シェイクスピア戯曲ならではの味わいを芯に置きながら、現代の観客が楽しめるように、座組み全体で試行錯誤と工夫を重ねて来られたことが、よくわかる上演になっていました。俳優の力があってこその仕上がりだと思います。恋に落ちた若者は、ものすごいスピードで歓喜と絶望を行き来します。グラグラ、ぐつぐつしている様子をこれでもかというぐらいに、はつらつと、滑稽に演じ、最終的にはクスっと笑えるオチが待っていたりします。若い俳優が多い座組みで、それぞれの健闘っぷりが見て取れる、さわやかな観劇になりました。

 ロザリンド(ギャニミード)を演じる主役の太田緑ロランスさんは、文字通り八面六臂の大活躍。戯曲本の解説によると、ロザリンドはシェイクスピア作品の女性役の中で、もっともセリフ量が多いそうです。新国立劇場『海の夫人』でも共演されていた、妹分シーリア役の山﨑薫さんと、とても息が合っていました。初日は少々、急ぎすぎの感がありましたが、最後の口上まで立派につとめられていました。

 KawaiProjectの『から騒ぎ』『間違いの喜劇』に続き今回も、新国立劇場演劇研修所の修了生が多数出演されています。山﨑薫さん(5期生)はコケティッシュな魅力を存分に発揮されていて、演技の組み立ての緻密さも、場面の意図を明確にする姿勢や位置取りも、観客に開かれたコミュニケーションも、いつもながら素晴らしいと思いました。
 常々感じていることですが、修了生の皆さんが作り出す空気は、優しくて、柔らかくて、澄んでいます。初日は緊張ゆえか、硬さが少々気になりましたが、回を重ねてもっとポジティブに、アクティブになっていってもらえたらと思いました。

 ここからネタバレします。正確性は保証できません。

 レスリングの場面はどうするのかしら…と最初から気になっていたんです。選手2人(オーランドーとチャールズ)を含め、観衆たちも一緒に群舞することで、試合とその顛末を表現。こういう見せ方で進んでいくのかと、序盤で安心しました。オーランドー役の玉置玲央さんが見事な側転(?)で身体能力の高さを披露してくださり、強さの説得力になりました。

 ロザリンドがシーリアの父王によって宮廷から追放される場面は、驚きと恐怖、そして武者震いにいたるまで、女優2人が細やかに、スリリングに演じてくださいました。NTLive版でも素晴らしかった場面です。この女性二人は本当に一心同体なのだと納得できました。

 追放された王とその弟王を1人の俳優(今作では鳥山昌克)が演じることはよくありますよね。今回は王と部下たち(峰崎亮介、三原玄也)が、慌てて上着を脱ぎ着して役柄を変更するのを観客に見せる趣向でした。
 道化師タッチストーンと憂鬱なジェイクィズの2役を釆澤靖起さんが演じます。2人が同時に登場する時は、梶原航さんが登場してもう1人の役柄の動きを担当し、釆澤さんが顔を腕の中に隠してそのセリフを言うのです。これは…普通に考えると変ですが(笑)、1人複数役の趣向は前半から徐々に観客に伝わっていましたので、究極にあけっぴろげの1人2役の演じ方として、微笑ましく観ていられるものでした。

 興味深かったのは何といっても、オーランドーが結婚前に「ギャニミード(太田緑ロランス)の正体はロザリンドである」とわかっていたという解釈です。改心した弟オリヴァー(玲央バルトナー)が偶然、ギャニミードの胸を触ってしまったことで、彼女がロザリンドであることを知り、それを兄オーランドーに伝えていたという流れになるんですね(私の解釈です)。あんなに憎み合っていた兄弟が仲直りする経緯は、オリヴァーのセリフでのみ説明されますので、観客にとってはかなり唐突なのです。でもこの解釈によって、オリヴァーとオーランドーの関係改善がはっきりと伝わり、個人的には、舞台上では描かれない人間関係の厚みが想像できてとても良かったと思います。

 終演後に知人と感想を話し合ったところ、「『お気に召すまま』ならではの、都会と森の対比が曖昧になっている」という指摘があり、それはそうだなと思いました。1人2役を強調することで、場所と時間が重なる感触が強まったのかもしれません。

 ↓2018/10/20加筆

KawaiProject『お気に召すまま』劇評(大橋洋一)
http://utenglishohashi.seesaa.net/article/461687326.html
http://utenglishohashi.seesaa.net/article/462246739.html

Vol.5
≪東京、埼玉≫
【出演】
ロザリンド(ギャニミード):太田緑ロランス
オーランドー:玉置玲央
シーリア(エイリエーナ):山﨑薫(新国立劇場演劇研修所第5期修了生)
オリヴァー:玲央バルトナー(同11期修了生)
オードリー:岸田茜(同3期修了生)
道化師タッチストーン/ジェイクィズ:釆澤靖起
フィービー:荒巻まりの(同8期修了生)
シリヴィアス/ル・ボー:遠山悠介(同2期修了生)
ファーディナンド前公爵/フレデリック公爵:鳥山昌克
アダム、/コリン/婚礼の神:小田豊
チャールズ(レスラー)/ウィリアム:峰崎亮介(同7期修了生)
ジャック/牧師:三原玄也(同1期修了生)
エイミアンズ:Lutherヒロシ市村 
宮廷貴族/ほか:梶原航(同5期修了生)
楽士:後藤浩明 川上由美 
作: ウィリアム・シェイクスピア 新訳・演出:河合祥一郎
美術・衣裳:小池れい 照明:阿部康子 音楽:後藤浩明 音響:星野大輔(スンドウィーズ) 衣裳:多部直美 ヘアメイクプラン:片山昌子 舞台監督:村田明
演出助手:小比類巻諒介(同11期修了生) 山田健人(同11期修了生) 演出部:澤嶋操 梶原航(同5期修了生) 川澄透子(同11期修了生) 植栽:櫻井忍 大道具:C-COM(伊藤清次) 小道具協力:高津装飾美術 制作:加藤恵梨花 票券:水流あかね 宣伝美術:荒巻まりの(同8期修了生)
【発売日】2018/07/07
一般:4,000円
U25:2,500円
高校生以下:1,000円
https://www.kawaiproject.com/vol-5
http://stage.corich.jp/stage/93439

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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