りゅーとぴあプロデュース『エレクトラ』04/14-23世田谷パブリックシアター

 ギリシャ悲劇(原作:アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス)をもとに構成した笹部博司さんの上演台本を、鵜山仁さんが演出されます。初日の上演時間はカーテンコールを含めて約2時間55分(途中休憩15分込み)。

 昨年、劇団昴『グリークス』を観たので、登場人物だけでなく言及される人物(神)のこともうっすら覚えていて、ストーリーの理解の助けになりました。

 ギリシャ神殿を思わせる円柱型の背の高い柱が1本、舞台中央にそびえています。他には、椅子ぐらいの高さの切り株状になった同様の柱がぽつぽつとランダムに(4つぐらい?)置かれています。焼け焦げ、折れて朽ちた状態に見えるので退廃的な空間です。舞台奥の床が少しだけ奥に向かって盛り上がり、ゆるやかな坂になっていますが、ステージ全体は平板でした。床に膝をついたり、座ったり寝転がったりする演技は見えづらかったです。俳優さんが長いセリフの時間を持たせるのが難しそうだったので、関係性や距離感を視覚的に見えやすくするためにも、八百屋舞台だったり、高さ(台とか2階とか)があったりしたらいいのにな~と思いました。

 下手奥でマリンバなどのパーカッションの生演奏(作曲・演奏:芳垣安洋、高良久美子)がありました。太鼓をどんどこ叩いてドラマを盛り上げるなど、なかなかに存在感が大きく、ちょっとやりすぎでは(笑)と思うこともあったのですが、観終わった時には、なるほどなぁという感触でした。「おどろおどろしくて、可笑しくて、ためになるお説教もてんこ盛りの、おとぎ話」といった作風だったように思います。

 アングラ小劇場出身の大ベテランの俳優たちと、NHK朝ドラのヒロインを含む若手スターたちとの共演が見どころの娯楽舞台だと思えば、サービス盛り沢山ではないでしょうか。白石佳代子さんと麿赤児さんは出ているだけでエンターテインメントですし(笑)。『わたしは真悟』でも思いましたが、高畑充希さんはすごい貫禄ですね。

 ここからネタバレします。

・詳しいあらすじ(間違ってたらすみません)

 アルゴスの王アガメムノン(麿赤兒)がトロイア遠征に際し、風を起こすために長女イピゲネイア(中嶋朋子)を女神アルテミスの生贄にした。それを許せなかった妻クリュタイメストラ(白石加代子)は愛人アイギストス(横田栄司)と組んで夫アガメムノンを殺害。アガメムノンの次女エレクトラは妹クリュテミソス(仁村紗和)の反対を押し切って、老人(麿赤兒)とともに亡命先から帰ってきた弟オレステス(村上虹郎)に、母と愛人を殺させる。2人は太陽神アポロンの導きで復讐を果たしたのだ。

 殺されて幽霊になったクリュタイメストラは復讐の女神たちに向けて、娘と息子への呪いの言葉を吐く。赤黒い空間で白い照明が小刻みに明滅(私はまぶしくて目をつぶっていた。ここで休憩が入った…覚えあり)
 母と愛人殺しの罪を背負ったエレクトラとオレステスは、アルゴス市民により死刑判決を受ける。太陽神アポロン(麿赤兒)が現れ、エレクトラには「アルゴスを出て、夫に巡り合い子供を宿す」と予言。オレステスも命は奪われず、放浪の旅に出る。

 生贄になったイピゲネイアだが、女神アルテミスがぎりぎりのところで鹿と入れ替えたため、死は免れた。タウリケで巫女になって17年経ち、ギリシャ(=アルゴス)から流れ着いたオレステスと再会を果たす。タウリケのトアス王(麿赤兒)と神官(横田栄司)をだまし、イピゲネイアとオレステスは海へと逃れた。すぐに逃亡に気付いたトアス王は2人を追おうとするが、女神アテナ(白石加代子)が登場してそれを制す。アテナは「試練はもう終わった」「(あなたの中にいる)復讐の女神を崇めなさい」「愛の中に憎しみがある(憎しみは愛ゆえである)」と説く。エレクトラは「私は子を産む。その子には良い国を作ってほしい」「生きていこう」と誓う。※神が登場し事態を収める“デウス・エクス・マキナ”という演出手法。

・感想

 アガメムノン王の独白をしていた麿赤兒さんが観客に背を向けると、後頭部に被っていた赤い仮面が現れ、天井から落ちてきた網が体に被さって、真っ赤な照明が当たりました。アガメムノンがクリュタイメストラに殺されたことを示す場面です。劇的で楽しかった。

 神々に翻弄された人々がもがき苦しむ様を見せる、血生臭い愛憎劇ですが、あからさまにショーアップする仕掛けがたびたびあって、深刻なばかりではありませんでした。神の声がマイクを通して劇場中に響くとか、呪いの言葉を長々と語る場面で照明がピカピカと小刻みに明滅するとか、中央の柱が斜めに浮いて、中から女神アルテミスの金色の大きな立像が現れるとか、アトラクションのような演出に驚きました。どういう視点で観ればいいのかわからない時間もありましたが、サービス精神に富み、遊び心もある娯楽作だと思えばいいのかもしれません。好みは分かれそうですが、鵜山演出らしい気もします。

 客席に話しかけたり、拍手を促したり、舞台上の物語から突然はみ出すような演出があり、その都度客席は沸いていました。私があまり感心できなかったのは、切れ目がシンプルかつ鮮やかではなかった時。ぬるりとつながっていると意図を受け取りづらいし、安易な(観客に甘え、媚びる方向の)受け狙いに見えることもありました。演技の切り替えの問題な気がします。もっと繊細に、丁寧に、がっちりと、私を不意打ちして欲しい。

 若手3人とベテラン(大先輩)4人に世代がパックリと分かれる座組みだと、パンフレット(1500円)で高畑充希さんが言及されている通り、良し悪しではなく、違いははっきりしていました。白石さんは長いセリフで観客を楽しませ、飽きさせず、意味をはっきりと伝えてくださいます。でも朗読のような語り方で、人物(または神)の生の言葉に聞こえなかった時は少々退屈しました。麿さんは立ち姿だけで面白いです。ただセリフが精密ではなく、何を言っているのかわからない(受け取れない)ことはありました。横田さんは常にギラギラしていて大人のエンターティナーだなと思いました。

 高畑さんは生き生き、はつらつとしていて、存在しているだけで、その命の輝きっぷりにウキウキします。まだ25歳だなんて将来が楽しみすぎますね。セリフの細かいところまで意識が行き届いていて、観客へのアピールと両立させながら、小刻みかつ鮮やかに変化する演技は松たか子さんに似ている気がしました。エレクトラは常に精神的、肉体的に追い詰められています。それを表現するためなのか、句読点の間で息を吸う音が聞こるような発声をされていました。敢えて“息切れ”を表現しているのかもしれませんが、拙さにも見えて気になりました。声優さんもよくやるんですよね。
 村上虹郎さんを舞台で拝見するのは『書を捨てよ町へ出よう』に続いて二度目です(『シブヤから遠く離れて』は未見)。ずいぶんとこなれてらっしゃると思いました。映画「無伴奏」で好印象だった仁村紗和さんは今回が初舞台。電車のマナーのCMでもよく見かけますね。セリフを言う時に姿勢が前のめりになりがちなのがちょっと心配。また舞台に出ていただければと思います。

無伴奏 [Blu-ray]
無伴奏 [Blu-ray]

posted with amazlet at 17.04.16
キングレコード (2016-10-05)
売り上げランキング: 9,384

 イピゲネイア役の中嶋朋子さんの演技が素晴らしかったです。たぶん、最初のアナウンス(アガメムノンが聞いていた女神アルテミスの声)も中島さんだったと思います。なぜ、どのようにしてイピゲネイアが今の苦境に至ったのか。彼女の孤独と祈り、わずかな希望も、独白から伝わってきました。オレステスと再会できた時の驚きと喜びもリアルで、私は心動かされました。パンフレットによるとギリシャ悲劇への出演は『グリークス』(2000年)、『オレステス』(2006年)以来、3度目とのこと。シェイクスピア作品にもよく出演されているので、古典戯曲の長いセリフの経験も豊富なのだと思います。登場するなり台本3ページ分の長いセリフがあるそうですが、長さは全く感じず。ようやく普通の(笑)お芝居が始まった、という心地がしました。

 アイギストスのエピソード(※)も含め、描かれているのは血縁関係のある人々の間で起こる復讐の連鎖です。2500年以上前から生き残っている物語は、今もそのまま通用し、教訓を与えてくれます。俳優人生のベテランである大人(白石さんと麿さん)が経験が浅い若者(高畑さんと村上さん)に対して、悪人にも善人にもなり得る人間たちと、横暴だが慈悲深くもある神々を演じながら、人類の愛憎について、世界の歴史について、そして演劇について、身をもって教えてくださっているのではないかと思いました。

 ※アガメムノンの父アトレウスは弟テュエステスが妻と姦通したため、テュエステスの子を殺してその肉をテュエステスに食べさせた。テュエステスはその後に生まれたアイギストスに兄殺害を託し、アイギストスは伯父アトレウスを殺害した。

≪東京、新潟、兵庫、神奈川、茨城≫
出演:高畑充希、村上虹郎、中嶋朋子、横田栄司、仁村紗和、麿赤兒、白石加代子
原作:アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス 「ギリシア悲劇」より
脚本:笹部博司
演出:鵜山仁
作曲・演奏:芳垣安洋、高良久美子
美術:乘峯雅寛
照明:古宮俊昭
音響:清水麻理子
衣装:宮本宣子
ヘアメイク:佐藤裕子
演出助手:平井由紀
舞台監督:北条孝 有馬則純
広報:高仲典子
制作:高比良理恵 有賀美幸
プロデューサー:笹部博司
りゅーとぴあスタッフ
制作:今尾博之
広報:坂内佳子 富永広紀
制作統括:寺田尚弘
サブプロデューサー:真田弘彦
エグゼクティブプロデューサー:近藤博
主催:公益財団法人 新潟市芸術文化振興財団
製作:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
【発売日】2017/01/21
<全席指定>S席:8,500円 A席:7,500円
 ※未就学児の入場はご遠慮ください。
http://www.ryutopia.or.jp/performance/event/303/
http://hpot.jp/elektra/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガ↓も発行しております♪

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台

   

バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ