『エレファント・ソング』はカナダの三人芝居。2004年英国初演でパリでも上演され、フランス演劇界のモリエール賞・二部門にノミネートされたそうです。吉原豊司さんの翻訳を扇田拓也さんが演出されます。上演時間は約1時間40分弱。精神病院が舞台の心理サスペンスでした。
無料配布の当日パンフレットによると原作者のニコラス・ビヨンさんは39歳。オタワ出身、モントリオールで大学を卒業し、現在はトロント在住。『エレファント・ソング』は処女戯曲で、2014年にグザヴィエ・ドラン主演で映画化されました(シャルル・ビナミ監督)。
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2014年初演の『アイスランド』『屠殺人 ブッチャー』もビヨンさんの代表作で、『屠殺人 ブッチャー』は6/23-30に名取事務所で上演予定(日本初演)。『アイスランド』はYUKIプロデュースにより6/30-7/2にブローダーハウス(世田谷区)にて上演予定あり。
ここからネタバレします。
・詳しい目のあらすじ ※間違ってたらすみません。
精神病院の院長ドクター・グリーンバーグ(藤田宗久)は行方不明になった男性医師ジェームス・ローレンスの消息を調べるため、ローレンスが失踪直前に診察していた23歳の男性患者マイケル・アリーン(佐川和正)と会う。場所はローレンスの診察室。女性看護師ミス・ピーターソン(安藤みどり)は「マイケルは普通じゃない、気を付けてください。何かあったらすぐに私を呼んでください」とグリーンバーグに再三、伝える。
グリーンバーグは今すぐにでもローレンスの居場所を聞きたいのだが、マイケルは謎かけのような話ばかり。「ローレンスを殺してクローゼットに入れた」「ローレンスに性的虐待を受けた」といった爆弾発言も。クローゼットから見つかったのは象のぬいぐるみだったし、鍵を開けたデスクの引き出しから見つかったのも、2人のなまめかしい密会現場の写真ではなく、象の写真だった。マイケルは頻繁に「取引をしよう」と言い、グリーンバーグは致し方なく応じる。マイケルは「正直に話すことと交換条件に、引き出しの中に入っていたチョコレートを1粒、いや、2粒欲しい」などと言う。ローレンスが診療時のご褒美としてくれていたからだ(マイケル談)。
マイケルは同性愛者でローレンスを愛しており、ローレンスも彼に応えていたが肉体関係は拒否していた。マイケルの生みの親である父と母との関係は一夜のアバンチュールのみ。8歳の時にエンジニアの父に会いに、父が住む南アフリカのケープタウン(?)に行った。旅行の終盤に象狩りに同行し、ショックを受ける。父の銃弾に倒れた象の眼から涙がこぼれていた。象の断末魔の叫びを真似するマイケル。父のダメ押しの一発で象は死ぬ。
帰国したマイケルは長時間、寝込んでしまい、目覚めると母が象のぬいぐるみをくれた。象のぬいぐるみの名前はアーサー。名付け親も母だ。母は枕元で象の数え歌(エレファント・ソング)を歌ってくれた。母が母親らしい愛情を注いでくれた一瞬の、唯一の時間だった。母は有名なオペラ歌手で世界中を演奏旅行しており、マイケルはずっと寄宿舎生活。彼はグリーンバーグに「自分は愛に飢えていた」と告白する。マイケルは15歳(たぶん)の時から入院しており、それは母が薬物自殺をしたころだった。母はオペラ歌手として落ち目で、「音程が3度もズレた」と何度も言って死んだ。駆けつけた息子マイケルのことは全く気にかけずに。
ローレンスはポート・フランシスという場所に居た。「姉が発作」との連絡があり、飛んで行ったのだ。愛するローレンスが、診察中(いわば逢引中)にもかかわらず、自分を放って姉のところに行ってしまった。母親らしいことを全くしなかった母と同様に、ローレンスもまた自分を捨てたのだと思ったマイケルは、自殺を決意。自分がローレンスに贈ったチョコレートが、鍵がかかったデスクの引き出しに入っている。グリーンバーグとの問答は、それを手に入れるためだったのだ。
グリーンバーグはマイケルからローレンスが残した書き置きを受け取り、そこに書かれていた電話番号に電話する。マイケルの言ったとおり、ローレンスはポート・フランシスにいて、姉のそばにいた。電話に出たマイケルはローレンスに「いい子にしてる。ちゃんとグリーンバーグ先生からチョコレートももらった」「泣かないで」と言ってチョコレートを食べる。そして、電話を切ってしまう。すぐに電話が鳴るが、マイケルが受話器を取ってまた切ってしまった。
あわててミス・ピーターソンがやってきた。おそらく電話の音で異変に気付いたのだろうが、時すでに遅し。マイケルはチョコレート・アレルギーだったのだ。慌てて薬を取りに行くグリーンバーグ。マイケルを胸に抱き、ピーターソンが「息をして!」と必死に語り掛けるが、彼は息を引き取った。終幕。クリスマス・イヴに起こった悲劇だった。
・感想
舞台はプロセニアムで床は正方形。1つの角が客席中央方向にせり出していて、正面から見ると床はひし形。デスク、イスなどは具象。舞台奥の壁に小さな窓が3つ。少し曇った窓ガラスに照明が当たり、色の変化で雰囲気が変わる。終盤は変化が乏しかった気がする。
1時間40分の上演時間は、3人が会話していた時間そのものだった。何時ごろなのか(昼なのか夜なのか)が私にはわからなかった。
グリーンバーグはマイケルの診察ファイル(紫色のファイル)を最後の最後まで読まなかった。彼はマイケルが母を15歳の時に殺していたこと(本当は母の薬物自殺)、彼がチョコレート・アレルギーであったことを知らなかった。マイケルはグリーンバーグが自分の病状をどこまで知っているのかを、会話の中で確かめていた。アレルギーの話題も一度だけ出していた。よくできたサスペンス。
マイケル役の佐川和正さんは堂々と嘘をつく若者を、はっきりとした語り口で演じて好印象。色気があってゲイに見えたのが素晴らしいと思った。本気か冗談(嘘)かを曖昧にすることで会話がスリリングになる。ただ、「これは本気(真実)だ」と明らかにわかるポイントは欲しいと思った。また、焦って、不安になって、崩れてしまうような、弱者の演技も観たかった。とてもいい体格だからかもしれない。もっと揺れ動いて欲しい。
マイケルがゲイだと告白した後、妻のあるグリーンバーグとの間にも色っぽい空気が流れる時間が、もっとあってもよかったのでは。
マイケルの母はオペラ歌手のアマンダ・セント・ジェームス。看護師ミス・ピーターソン役の安藤みどりさんがアマンダ役も演じた。真っ赤な口紅をして大きなつばの帽子をかぶり、毛皮の襟が付いた上品そうなコートに身を包んで、背の高いハイヒールを履いてる。舞台を無言で横切っただけだったが、母親像を想像しやすくなって効果的だった。ただ、ハイヒールを履きこなせていないのが残念だった。
ピーターソンは「マイケルは普通じゃない」と、ほとんど脅すぐらいの勢いでグリーンバーグに何度も伝えるが、実際のところ、院内においてマイケルを最も理解し、愛している者の一人だった(ローレンスを除く)。彼がどのように「普通じゃない」のか、そして、それがなぜそんなに恐ろしいことなのかが、私には想像できなかった。重要なセリフを聞き逃したのかもしれない。
“The Elephant Song” by Nicolas Billon
出演:藤田宗久、佐川和正、安藤みどり
脚本:ニコラス・ビヨン 翻訳:吉原豊司 演出:扇田拓也
美術:内山勉 照明:桜井真澄 音響:井出比呂之 衣裳:樋口藍 舞台監督:小島とら 制作担当:栗原暢隆 プロデューサー:名取敏行 製作:名取事務所
<全席指定>
前売:4,000円
当日:4,500円
シニア3,000円(70際以上)/学生2,000円(シニア・学生は名取事務所のみにて取り扱い)
http://www.nato.jp/prof/prof_2017_elephant.html
http://www.confetti-web.com/detail.php?tid=37477
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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