庭劇団ペニノ『ダークマスター』02/01-12こまばアゴラ劇場

 岸田國士戯曲賞受賞者で海外でも大活躍中のタニノクロウさんが、2003年、2006年と上演を重ねた作品を大阪でリクリエーション。登場人物が大阪の人々になっています。

 前売りは完売。初日は開場時刻が遅れて、上演時間は約2時間20分、休憩なし。やっぱり超面白かったです♪ 



 ≪あらすじ≫ 劇場公式サイトより。(出演者)を追加。
大阪にある洋食屋「キッチン長嶋」。超一流の腕を持つマスター(緒方晋)が一人でやっている小さな洋食屋。
しかし、偏屈な人間性と極度のアルコール中毒のため全く客がこない。
ある日一人の若者(FOペレイラ宏一朗)が東京から客としてやってくる。自分探しをしている無職の男だった。
マスターは自分の代わりにここのシェフになれと提案する。しかし若者に料理人の経験はない。
マスターは若者にイヤホン型の小型無線機を渡す。そして自分は二階に隠れ、無線を使って若者に料理の手順を伝えるというのだ。
行く当てもない若者はそれを引き受ける。
そして、やがて有名な行列店になる。
しかしあの日以来マスターの声は聞こえるが姿を見かけない…。
 ≪ここまで≫ 

 観客は片方の耳にイヤホンを付けます(2人で1個利用)。客席は満席ゆえのベンチシート(背もたれなし)。

 見事な具象美術で実際に料理もするので、オムライスなどの洋食が調理されるといい匂いが充満!これはお腹が減ります(笑)。
 ギャグも笑えたな~。関西のボケ・ツッコミもあるんだけど、押しつけがましくないのが、とても好みです。

 原作漫画は20ページもないぐらいの短編だそうで、かなり肉付けされているんですね。岸田賞受賞作『地獄谷温泉 無明の宿』(⇒授賞式の記録)と同じテーマも描かれているように思いました。今回は、今、まさに失われているものの記録にもなっています。

 ここからネタバレします。記録のためのメモ程度です。間違ってたらすみません。

 東京出身のバックパッカーの若者(30代?)が、大阪のさびれた洋食屋に入る。中年男性のマスターはウィスキー「響」を飲んで「もう営業は終わった」とそっけなく答える。「水ならいいよ、セルフサービスで」等と言ううちに、食事を作ってやることに。オムライスの美味しさに唸る若者。

 やがてマスターは若者に「お前がこの店やれよ」「月50万円、いや、月70万円。今、手付で20万円やるから」と言い、ほとんど無理やりに、若者の右耳の中に超小型イヤホン(小型無線機)を仕込む。そして「この日が来るのを待っていた」とぽつり。若者は住み込みで働き始める。

 2階に行ったマスターはイヤホン越しに若者に指示を送り、ずっと降りてこない。若者によるワンオペ料理も接客も実地で遠隔操作。トイレに行くのも命令し、「酒呑め、男なら女を買って抱け」と煽り、若者は堕落していく。まるで古家に住みついた霊が人間を操るよう。マスターが家自体と一体化する様子(マスターが排尿もデリヘル嬢のサービスも体験している)から、建造物(たとえば新しい巨大ビル)によって、その地域の人々の昔ながらの生活が壊されることを連想した。

 マスターが巨人ファンゆえに「キッチン長嶋」。それを若者も受け継ぎ、店は巨人のマークでいっぱいになる。巨人軍とは読売ジャイアンツ。保守的でマッチョな男性らしい思考の象徴か。

 若者が金持ちの中国人客に金でいびられるのは、現代の拝金主義へのあからさまな批判と映る。そもそも若者は金に釣られて店に残った。若者の人種差別的思考もマスター由来。「再開発で大きなビルを建てたせいで、商店街がさびれた」「金を持ってる外国人(中国人)のせいだ」などと言っていた。

 観客もイヤホンをしているので、若者と同じ体験ができる。耳元で怒鳴られるし、たまに褒められる。「アメとムチ」の使い分けで操縦され、洗脳される感覚。

 劇場の天井に映像が映写される。再開発のせいで、下町(あべの)がよくある都会になっていく。若者が料理する姿を客が録画し、それが世界に発信される。録画されるので、料理と接客もパフォーマティブに進化する。今の社会を映している。

 若者が店を閉めてカウンターで酒(たしかバーボン?)を飲み始めると、バックパッカーが来店。冒頭と似た会話を繰り返し、彼が新たな生贄(いけにえ)になることがわかる。

 デリヘル嬢ナルミ(坂井初音):これ(耳に入ってくる超小型イヤホン)、他のお客さんの耳にも入ってた。

■挿入歌

・Carpenters – The End of the World

 「この世の果てまで(直訳は世界の終わり)」は一途な悲恋の歌だけど、滅私奉公のイメージもある。再演時は「ニューヨーク、ニューヨーク」だったはず。

・JOAN BAEZ ~ Donna Donna ~

 「ドナドナ」はドイツのナチスによるユダヤ人大虐殺を隠喩する歌。再演でも使用されていた。

≪大阪、東京、仙台≫ TPAMフリンジ
【出演】
男:FOペレイラ宏一朗
若者:井上和也
若手芸人:大石英史
ナルミ:坂井初音
中国人の男:野村眞人
マスター:緒方晋
客1、7:相馬陽一郎
客2、8:宮田潤子
客3、5:飯沼由和
客4、9:尾崎宇内
客6:岩田博之
客10:廣川真菜美
若手芸人の相方:杉田一起
風俗店の店員(声の出演):吉田雄一郎
原作:狩撫麻礼 画:泉晴紀 (株)エンターブレイン「オトナの漫画」所収
脚色・演出=タニノクロウ
美術=カミイケタクヤ
演出助手=葛川友理
舞台監督=夏目雅也、山下翼
照明=伏屋知加 阿部将之
音響=井尻有美
映像=三谷正(Pixel Engine LLC.) 松沢延拓
中国語翻訳=小野塚佳代子
英語字幕=門田美和
インターン=Zack Dorn
宣伝美術=甲賀雅章
舞台写真=堀川高志
制作助手=和田幸子
制作=小野塚央 さくらこりん 落合佳人
プロデューサー=中立公平
特別協力=一般社団法人KIO
企画=庭劇団ペニノ・OVAL THEATER
主催=合同会社アルシュ・有限会社PHI
助成=アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、
アサヒグループ芸術文化財団
芸術文化振興基金
前売り3700円/当日3,900円/学生3,000円 ※未就学児の入場がご遠慮下さい。
http://niwagekidan.org/performance_jp/494
http://www.komaba-agora.com/play/3518

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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