【レポート・俳優養成】新国立劇場演劇研修所「研修所説明会」12/03新国立劇場演劇研修所

 昨年(⇒レポート)に続き、新国立劇場演劇研修所(⇒facebookページ)の説明会に参加しました。今年は受験希望者と思われる若者とその親御さんが一緒にお見えになっていましたね、少なくとも3組はいらしたかと。

 昨年と同様、最初の30分間は事務局からの説明で、あとの1時間~2時間(私は計2時間半弱で退室)は、現役の3年生である10期生(男女2人ずつ計4人)への質問タイムでした。私的には今年も最高に充実した時間でした♪ 研修生は謙虚で率直で面白い!

 新国立劇場演劇研修所は日本唯一の国立の俳優養成所で、授業は全日制で3年間、返済不要の奨学金あり(2年次と3年次)。昨年の受験者数はこれまでで最も少ない人数でした。今年も募集人数は約16人です(2年次への進級前に選考あり)。チャンスです!

 試験についての昨年との違いは1次に筆記試験が増えたこと(但しあくまでも実技がメイン)。願書提出時の健康診断書の同封は不要(2次試験で必要)。作文は2つあります。応募要項をよく読んで、早く書き始めましょう!

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 ⇒【公式サイト】第13期生の募集内容(募集要項、願書はPDFファイルでダウンロードできます)
 ⇒【俳優養成】新国立劇場演劇研修所「13期生(平成29年度入所)募集」
 ⇒願書受付期間:2016年12月5日(月)~20日(火)(郵送必着)
 ⇒受験料:8,000円(税込。願書提出後、12月20日(火)までに振込)

 以下、私がメモした内容です。詳細は必ず公式サイトでご確認ください。

【事務局からの説明】昨年のレポートと合わせてどうぞ。

●選考試験、奨学金などは第12期生募集時とほぼ同じ
・1年から2年に進級する際に選考あり。※11期生までは入所すれば3年次まで自動的に進級可能。
・募集人数は昨年と同様、約16人。
・奨学金6万円/月(返済不要)は2、3年次に支給。1年次に奨学金はありません。
 2年次への選考に受かった人が奨学金を支給されることになります。
・3年次も1、2年次(22万円+税/年)の半額(11万円+税/年)の授業料が必要。

●第12期生募集時との変更点
・応募時の健康診断書の提出は不要。2次試験時に必要。
・1次試験に筆記試験あり(史上初)。ただし選考委員が参考にする程度で、実技がメイン。特に筆記試験のための勉強が必要というわけではない。

宮田慶子さんが研修所長に就任され(2016年4月~)、パンフレットが新しく作成されました。
宮田慶子さんが研修所長に就任され(2016年4月~)、パンフレットが新しく作成されました。

【事務局への質問コーナー】

●在学中に外部の仕事はできますか?
 できません。ただし3年次は所長、副所長の許可を得れば仕事もできます。10期生は3年次にラジオに出演しました。その他、プロンプターや演出部の経験も実習として認められる場合があります。

●1次試験の筆記試験はどんなもの?
 初めて筆記試験をします。ただ、ほとんど実技がメイン。選考委員が「受験生がどういう知識を持っているか」を参考にする程度。演劇の基礎知識を問う。また、国語力を問うものになる。かまえて勉強する必要はない。あくまでも実技(モノローグ)がメインです。

●健康診断書について
 心身ともにハードな研修生活になるので、2次試験の時に健康診断書が必要。大学で発行する簡易なものではなく、血液検査なども必要。

●試験会場について
 1次試験の会場はここ、演劇研修所です。2次、3次は初台にある新国立劇場の中のスタジオです。時間を選ぶことはできません。遅刻などしないようお気を付け下さい。

●時間割について
 今年4月から研修所長が宮田慶子に変わり、タイムテーブル(時間割)がルーティーンになりました(2年間の時間割がほぼ固定)。朝は10時から(9時半から清掃あり)。1年生は16時まで、2年生は18時まで。ただ、実習室が使えるので自習や自主稽古をする場合が多く、(1年生も)終了はだいたい18時まで。16時以降に上級生(2年生)の授業発表を観ることもあります。
 新国立劇場の演劇公演を観劇するのは必修(本番またはゲネプロ鑑賞)。月に3~4本の舞台鑑賞は必須。必須鑑賞の外部公演は学生料金や団体料金で半額以下で観られる場合もある。3~4本/月を観るとして、チケット代は2万円/月にはならない程度。

●1年次から2年次への選考について
 1年生の16人全員が2年生に上がれるわけではない。人数に限りはある。

パンフレット「修了生よりメッセージ」①
パンフレット「修了生よりメッセージ」①

【10期生との質問タイム(参加者が4つのグループ分かれ、研修生が1人ずつ各グループへと移動)】

●受験時のモノローグは何を選んだ?
・広島出身なので、先輩に勧められて『広島に原爆を落とす日』のモノローグにした。
・(自分は女性だが)『子午線の祈り』の男性の台詞。自分の良さが出る台詞を選んだ。
・自分が選んだモノローグは有名な戯曲のものじゃなかったから、周りを見て、絶対不合格だと確信した(笑)。でも、そのセリフのどこが好きなのかは、誰よりも熱く答えられた。

●試験内容について(あくまでも10期生の経験談です)
・選考委員は今の完成度より、今後どれだけ変わるかを見ている。モノローグを色んな方向性で言ってみるように言われて、1次と2次で2~3パターンやってみた。用意したモノローグは1次、2次、3次でも使う。
・翻訳劇の台本を2パターン渡されて、15分の準備時間があった。覚えるのも覚えないのも自由。グループワークの試験は実際に研修所で授業を持っている講師が担当。指導の後で、モノローグと詩の朗読をした。
・自分が試験の時に言われたことです(今はどうか知りません)。2次試験まで受かった人は誰が受かってもいい(ほどの力がある)。でも研修所に入った時のバランスを見る。演技がうまくても、他人を無視したりする人とは、一緒に研修出来ないから。自分が一人で目立とうとするよりも、みんなとやることが大切。
・試験の準備は特に要らない。受かりに行かないことが大事。「良く見せよう」という気持ちを優先すると失敗する。今、一番できることを頑張る。それは今でも、舞台に立つときも同じ。

●10期生の年齢構成/研修生活
・10期生は小劇場を経た2人、大学卒業が2人、高校卒業が4人。バラエティーに富んでいる研修所内では珍しい学年。他の期は社会人をやってから入所した人もいて、だいたい高卒は1学年に2人程度。
・1人暮らしは2人、ルームシェアが2人、4人は実家暮らし。10期生は東京の人が多かった。
・アルバイトだけで研修生活を送るのは難しい。(お金の面で)支えてくれる人はあった方がいい。1年次は課題が多い。2年次は精神的課題が多くなる。

●修了生の進路 ⇒修了生の活躍状況(2016年8月)
・進路はさまざま。俳優だけでなく、ダンスをしている人も。心理カウンセラーや整体師になった人もいる。

パンフレット「修了生よりメッセージ」②
パンフレット「修了生よりメッセージ」②

●研修所の特徴
・研修所では庭園とか美術館とか、色んなところに連れて行ってもらえる。見聞を広めて新しい感覚と出会うことを重視している。体験する楽しさを教えてくれる。
・「こんな自分は見たくない」と思うような自分を見させて、掘り起こしてくる。発見して、向き合って、立ち向かわなきゃいけない。
・辛いことは沢山あるが、少人数なので、講師は一人ずつをすごくよく見て下さってる。一対一で向き合ってくれるいい環境。問題にぶち当たるけど、乗り越える楽しみがある。新しい自分を発見した時、楽しい。自分の嫌な部分を使って表現できたら、すごく嬉しい。(俳優は)やめられないと思った(笑)。
・社会で生きてきて、自分は自分の欲求を隠すのが得意になっている。「声の授業」は自己探求をするから苦手だし、自分の欲求に気が付かないから、マイズナーテクニックの授業で自分から動けないこともある。でも自由になれた瞬間が一番楽しい。自分の性質がわかった。持ってないものに気づけるプログラム。
・俳優は孤独な職業。自分と向き合う孤独な闘いが続く。研修所は研修生を許容して、深い目で見てくれる。日本の舞台公演は芸術よりも興行と引っ付いてるから、研修所のやり方は少数派だと思う。

●授業、講師について(得意・不得意/好き・嫌い)
・ダンスや身体訓練など体を動かすもの、答えがあるものが得意。将来はフィジカルシアターもやってみたい。
・自分はダンスが苦手(録画をして振りを憶えたりした)。でも1年~2年まで1人の先生に見てもらえるので、自分のことをすっかりわかってもらえている。
・トレーニング(筋トレ)は自分を無理やり開拓してくれる。自分で自分を「ここまで」と制限するクセを取る。
・池内美奈子さんの声の授業が好き。(ちょっと不思議な内容なので)好き嫌いは分かれるけれど。
・池内さんの授業では例えば、オープンスクールでもやったように、自分の声を相手の手の平に声を乗せるワークをする。自分ではなく、相手に動かされる。日本語を明晰にする作業の前に、自分が一体どういう音を出せるのかを探る。
・バイオリンをやっていたので、弦楽器に慣れ親しんでいたこともあり、三味線が好き。3年生になって時間が出きたので、師匠を見つけて稽古を始めた。色々やってみて、楽しいと思ったものは2年でやめずに続けて、武器として継続していきたい。
・演技をする時、(役柄に没頭するのではなく)どこかに引いている自分がいないといけない。アレクサンダー・テクニックが今、すごく大事。宝物。これがないと(演技をするのは)無理。でも演劇とつなげるには時間がかる。1年次に習ってもわからないんじゃないか…。いや、時間がかかるからこそ早く始めた方がいいのかもしれない。
・プロの俳優が教えに来る授業について。俳優指導者のように「教えるプロ」ではないから、全部を真に受けて心が折れてしまう生徒もいた(研修所を辞めた人も)。指導者の言葉の聞き方、ダメ出しの受け方も学ばなければ。人間性を否定しているわけじゃないことを、知らないといけない。
・指導を受けた小川絵梨子さん、谷賢一さん、島守辰明さんは翻訳もできる演出家。島守さんはロシア語がペラペラで、素晴らしい演出家だと思った。

パンフレット「修了生よりメッセージ」③
パンフレット「修了生よりメッセージ」③

●木村早智さんの「演技基礎」
・ロンドンの俳優指導者、俳優である木村早智さんから1か月間、集中的に教えてもらえる。感覚を磨き、新しいことを発見していく内容。役者としての自分の広げ方を教えてくれる。実際にやってみて、広げるのが好き。
・1年に1度ロンドンから来てくださる木村早智さんの授業が良かった(1年次と2年次の2度、1回3時間以上、約3週間、毎日)。俳優として一番大切なことを教えてもらった。自分は「綺麗に、完璧にやりたい」と思っていたんだけれど、「そんなの誰も観たくない」「そんなのロボットがやること」と言われた。「人間が芝居をするから面白いんだ」「観客はあなたという人が舞台にいるのを観たいのよ」と教えてもらえた。心と体の全体が、人間の欲求が、そこ(舞台)に在るから面白いんだと。1年目でそれに気づいた。2年目はもっと先に行ける。
 木村早智さんの第一印象は最悪だった。もともと自分はスピリチュアルなことが嫌いだったから。相手と手を重ね合わせて見つめたままで数十分じっとしていて、早智さんに「何か心に湧き上がってきた?」とか聞かれて。最初は気持ち悪かった。でも実際、何かが起こって、涙が出て来たりするんです。
 「役が自分を乗っ取って働く」なんてあり得ないと思っていた。でも早智さんの授業でシェイクスピアの『から騒ぎ』をやった時、演じていた役の世界から戻って来られないという経験をした。そんな溢れんばかりの感情を、技術で制御することを学ぶ。感情が溢れ出てる人は一般社会で生活ができない。それは舞台も一緒だと教えてくれた。溢れ出る感情に「社会」で落とし蓋をする。その蓋から漏れ出るものに、観客は感動する。隙が無い演劇はロボットの演劇。

●先輩の影響
・3年生の朗読公演や試演会には1年、2年もスタッフとして現場に付きます。これがとてもいい。自分が1年の時の3年生(8期生)の修了公演『ミセス・サヴェッジ』は忘れられない。稽古場で「すっげな先輩!!」「自分は絶対に先輩のようにはなれない」「先輩が遠い…」と思っていた。でも2年の最後に『三文オペラ』をやった時、先生に「もう届いてる、超えてるよ」と言ってもらえた。
 1年生の時は緊張が抜けちゃう時がある。休みがちになったり。でも3年生の稽古場に行った時、緊張感が全然違ってて、「休んでる場合じゃない!」と皆で気を引き締めた。

●なぜ「演劇」?
・今の社会には人と人とが平等である場所がないのが、自分には窮屈。舞台上や稽古場は、先輩後輩や経験の違いはあるけれど、皆で作品を作る意味で平等。色んな意見を出し合える場所。意見を出して、分業せず、みんなで力を合わせるプロセスがすごく楽しい。

パンフレット「修了生よりメッセージ」④
パンフレット「修了生よりメッセージ」④

●研修所に入って、自分は変わった?
・生き方が変わった。世界の見え方が変わった。段階を経て、同じような疑問と問題にぶつかって、発見して…の繰り返し。テクニックを教えてもらうというより、徐々に役者になっていく感覚。「役者という職業を選んだのではない。役者という生き方を選んだのだ」を実感。終わりがない。
・高校卒業して4年間、小劇場でフリーの役者をやってから研修所に入った。圧倒的に視野が変わった(広くなった)。演劇に対して真摯になった。小劇場時代は色んな仲間と出会ったけど視野は狭かった。先入観で判断し、「ちゃんと見る」ことをしていなかった。たとえばシェイクスピアが大嫌いだった。知らないくせに。(今思うと)カッコ悪い。
 「ちゃんと見る」とは、すぐに決めないこと。疑問を常に持ち続けること。ちゃんと見た上で好き嫌いがあるのはいい(見ずに判断してはだめ)。色んな授業でそう言われてきた。授業で胸に突き刺さったことが、共通点が、自分の言葉になってきた。
 自分は小劇場で軽演劇ばかりやっていて、昔は新国立劇場の芝居は真面目でつまらないと思っていた。本当は面倒だからイメージを決めて、避けていたんだと思う(シェクイクスピアなども)。真摯にモノづくりをする人の姿から、目を背けていたのだと思う。怖かったのだと思う。

●将来の夢
・いつかこまつ座の舞台に出たいが、それは30代ごろに目指す夢。学校の演劇教育に興味がある。色んな事をしたい。
・三島由紀夫、岸田國士などの和物も好き。奥ゆかしくて細やかな演技ができる俳優になりたい。
・本当の演劇の面白さを知って、好きになって、今は起きてる間、ずっと演劇のことを考えていて、もう自分にとってはそれが当たり前になった。夢は変わった。有名になりたい、お金を儲けたいと思っていたけれど、今はそうじゃない。10期生の有志でロンドンに11泊して、演劇を観た。レベルが違った。自分は2割も英語が分からないのに、目が離せなくて、舞台で起こることに夢中だった。演劇をやる意味が詰まってる。面白すぎて、途中休憩の時に悔しくて泣いたぐらい。あの本当の面白さを、日本でもやりたい。仲間を作りたい。

●その他
・『ひめゆり』の稽古は13時から夕方まで。演出家は帰ってしまうし、不安で仕方がなくて、夕方以降はずっと自主稽古していました。対して『ロミオとジュリエット』は11時から21~22時まで稽古。食事休憩すらなかったことも(笑)。だから演出家によって稽古時間は異なります。
・「戯曲を読む」という授業で行ったのは、稽古の本読みでするような戯曲をさぐる作業。担当する演出家によるが、翻訳劇が多い。でもバランスはいいのではないか。河合祥一郎先生の授業では最初からシェイクスピアの原文にも当たる。2年次は自分で原文を紐解いたりもした。10期生は「戯曲を読む」という授業は少なくて、担当は文学座の俳優の富沢亜古さんだった。
・新国立劇場で上演された過去の演目で、情報センターで公開されていない記録映像も、研修生なら観ることができる場合がある。
・新国立劇場のものづくりは真摯。ストイック。挑戦の深さが圧倒的。バリエーションもある。小劇場演劇は独創的。でも悪いのはプロ意識の低さ。お子ちゃまなのが多い。新国立劇場こそ新作をやって欲しいと思っている。栗山民也さんの演出は常に社会を叩きつけてくるから好き。
・事務局が(俳優をマネジメントする)事務所の方々を朗読公演『ひめゆり』、試演会『ロミオとジュリエット』に呼んでくださったから、もう「この俳優が欲しい」と手を挙げてくれている事務所があるそうです(具体的なことは研修生には知らされていない)。修了時に複数の事務所から声がかかったら、自分で選ぶことが出来ます。自分から入りたい事務所に手紙を書くこともできます。その時には新国立劇場演劇研修所の名前は役に立つだろうと思います。

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参加した10期生:塚瀬香名子、角田萌果、岩男海史、田村将一
参加費無料、要予約。
http://www.nntt.jac.go.jp/play/training/news/detail/161010_009153.html

 ■2期生よりリプライいただきました。嬉しいです(2016/12/06)。

 ■公式facebookページでご紹介いただきました。ありがとうございました。

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