The end of company ジエン社『夜組』01/13-23シアターKASSAI

 山本健介さんが作・演出されるジエン社(The end of company)の新作を拝見。題材はラジオ。上演時間は約1時間30分。
 山本さんは宮沢章夫さんの演出助手もされており、Bunkamura+こまつ座『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』では宮沢さんとの共同脚本を担当されていました。

 あるお題についてメールを送ると、開演の30分前から5分前までの間に、それを舞台上で読んでもらえるかもしれません。ラジオ番組に投稿した気分を体験できます。私、読んでもらえました♪ 終演後に受付で送ったメールを見せたら、ステッカーをもらえます。劇場からでなくとも送信可。⇒詳細

 ≪あらすじ≫ CoRich舞台芸術!より
夜に起きるようになってしまってから、数か月経つ。

起きるのはたいてい、相撲中継が終わったあとだ。夏の間はそれでも日が差している時間もあったが、この季節になると寒さとともに、街は喪に服したような昏さになる。

川の近くの街だ。

電力は制限される前から、この街の夜はもともと昏い。この昏さの中、『死んでるさん』と呼ばれる死者が徘徊していると聞いたが、俺はいまだに出くわしたことのない。

川の近くに、キリン型の鉄塔がある。

そのキリン型の鉄塔の近くに、携帯型ラジオを持っていく。夜、その鉄塔の付近でのみ、声を拾えるラジオがあるのだ。俺はその声を聴きに行く。

「家族! ……本当の家族には言えないあなた日常を送ってください。採用された方には、ひょんめんみゃんもんすう、もうぺんはるもにあ、あごす、よごるよごろてりあ、まくろまふすう……」

深夜のラジオだ。時々、人間ではない違う生き物の言葉も入ってくるのは、この鉄塔が気持ち悪いせいだと思う。

「本当の家族には言えないあなたの日常」を送るという、そういう趣旨のコーナーにもかかわらず、投稿リスナーたちは次から次へと、ありえないシュールな日常を送ってくる。投稿のあまりの狂いっぷりに、パーソナリティの二人は笑い続ける。狂った言葉と、笑い声が、死体の匂いのする川の、小さい範囲に響いている。なぜこのラジオは、ここで聞けるのか。そもそも電力が制限されている中、深夜に聞けるラジオなんて、どうして存在できるのだろう。こんなに人が死んでいるさなか、どうして俺はまたここに、ラジオを聞きに来たんだろう。

向こう側で、誰かがこっちを見ている。昏くてよくはわからない。見ることはできない。ただ、存在するときに立てるわずかな音と、気配で、

何かがいるようなことだけはわかるのだ。

俺は思った。あいつも、俺も、「夜組」なんじゃないか、と。
 ≪ここまで≫

 出演者は8人ですが、登場人物が8人というわけではなく、1人を複数人で演じたり、居ると思ってる人が実は居ない状態だったりします。俳優が舞台で演技をする演劇だからこそ味わえる、演出の工夫が面白かったです。特に最初はどこで何が起こっているのか、誰が誰やら、わからなくて、とってもスリリング!

 夜通し起きて朝と昼は寝ている人や、どうしても会社に通えなくなった人など、今の社会のルールに沿った生き方をしない人たちが登場します。世間の常識からはみ出した人々の寛容さ、個性的な発想、静かな抵抗などが描かれ、小さきもの(すなわち私たち)への愛情を受け取りました。

 舞台美術がすごく良かったです。小さな劇場にきっちり建て込んでくださっていました。フローリングの床や壁が部分的に欠けていて、具象と抽象の境目を曖昧にしています。舞台奥の階段が豪華!下手上部から登場する人は、お能の橋掛かりから現れる死者とも思えました。

 私も若い頃、夜、寝床でラジカセを抱きかかえながら、ラジオを聴いた経験があります。夜更かしすると親に怒られるから、こっそりね(笑)。
 投稿といえば、中学生の時に映画雑誌「ロードショー」にはがきを出して、2回掲載されました。すごく嬉しかったのですが、2回投稿したのが両方載ったので、気が抜けちゃったんですよね。たぶん中学生だからってこともあったんでしょう。それで投稿は止めてしまいました。狭き門であることも大切ですよね~。

 ここからネタバレします。

 舞台は埼玉のどこか。計画停電が始まって5年になり、ラジオの電波も届かなくなった。ラジオ好きな人々は、わずかでも電波が受信できるスポットを探し、そこでラジカセのアンテナを伸ばす…。

 35歳で死んだ男性が生きている人と会話したり、部屋の中の人が脈絡なく、外の人の言葉に返答したり。ある女性が、実は他の女性と同一人物のようだったり。人間の多面性やネット時代の匿名性などを連想しました。

 ラジオは生放送で流れている時にオンタイムで聴いて、顔が見えないリスナーとパーソナリティーとの双方向のコミュニケーションが生まれることが醍醐味なんでしょうね。ラジオの場合、リスナー同士の姿が見えないのが、舞台との大きな違い。インターネットの動画やSNSと違うのは記録を残さないことですよね。「YouTubeに音声を残す」のはもちろん可能ですが、劇中ではそれは邪道扱いでした。広範囲に届いているようで、閉じてもいる、ラジオというメディアならではのコミュニケーションを、込み入った構成の会話劇で立体化されていることが面白いと思いました。

 あからさまな事件は起こさず、あえて起伏を作らない戯曲で、観客に向かって何かをアピールするような演技もさせない、そういう方向性の作品だったと思います。私は途中で少々眠気に襲われてしまいました…。事件が起こらないから、とかではなくて、目の前にいる俳優の方々が、何らかのルール(演出意図)に沿った演技をしていることに、徐々に飽きてしまったからだろうな~と思います。

第11回公演
出演:伊神忠聡、兎洞大、蒲池柚番、寺内淳志、中野あき(ECHOES)、由かほる(青年団)、高橋ルネ(ECHOES)、善積元
作・演出:山本健介
舞台美術:泉真
舞台監督:吉成生子
照明:みなみあかり(ACoRD)
音響:田中亮大(Paddy Field)
衣装:正金彩
宣伝美術:サノアヤコ
総務:吉田麻美
WEB:elegirl
写真:刑部準也
演出助手:萩野あやこ
制作補:柏木健太郎、塩野真弥、鴨居千奈
制作:土肥天
協力:ECHOES
主催:The end of company ジエン社 
【発売日】2016/11/06
前売 3400円
当日 3900円
高校生割引(要学生証・要予約) 1000円
リピート券 1500円
http://elegirl.net/jiensha/no11yorugumi

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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