CHAiroiPLIN『peeeeep~踊る小説2~』01/07-08東京芸術劇場シアターイースト

 コンドルズにも所属するスズキ拓朗さんが振付・構成・演出される集団CHAiroiPLIN(チャイロイプリン)の新作は、江戸川乱歩作「屋根裏の散歩者」(⇒青空文庫)のダンス化。上演時間は約1時間35分。

 CHAiroiPLINは3/25-26のコンドルズ×あうるすぽっと・大赤字コンテンポラリーダンスフェス第一弾『可能性の獣たち2017』に出場。その後、12/3-4に『踊る戯曲Ⅳ ロミオとジュリエット(仮)』で東京グローブ座に進出。3/19-20にオーディションあり⇒詳細

 スズキさんはコンドルズ公演などへの出演の他、テアトル・エコーの6月公演、あうるすぽっとでの8月新作公演の振付・構成・演出と、今年も引っ張りだこです。4/29-30にはあうるすぽっとで子供向けワークショップを実施。

 2015年末回顧で舞台評論家の堤広志さんが「2015年一番活躍したのは、なんといってもスズキ拓朗」と評されていました。

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)
江戸川 乱歩
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 ≪あらすじ≫
 新しくできた“東栄館(とうえいかん)”は各部屋鍵付き、食事つきの下宿屋。入居してきた若者、郷田三郎は人生に退屈していたが、屋根裏から他の住人の部屋を覗き見できることを発見し、夢中になる。ある日、東栄館の住人の死体が発見され、名探偵、明智小五郎とその助手、小林少年は現場に向かうが、警察は自殺と断定。明智はかつての知り合いの郷田も東栄館の住人であると知り…。
 ≪ここまで≫

 創作楽曲を歌い、大勢で元気に踊り、飛び出す童話絵本のような楽しい舞台でした。演技とスタッフワーク(映像、照明など)の連携で見た目も面白く、客席通路などを使った演出で観客と舞台との距離も近いです。粗削り感はありますが、それも団体のカラー、作風と思えます。

 終演後に舞台関係者(プロデューサー)さんと少し感想を話し合ったところ、「よくできてるし、お客さんもついてきてる」といったことをおっしゃっていました。観客の私にはなかった視点で、新鮮でした。「作品の内容についていけている」という意味もあるでしょうけど、なんとなく、「団体のファンがいる」ということかな、と。私もいくつかのCHAiroiPLIN公演やスズキ拓朗演出作を拝見して、所属メンバーの顔と名前が一致し始めました。

 ⇒CHAiroiPLIN公式ブログ・今日のプリン「ブック・マウンテン・スリー・ファイヤー

 ここからネタバレします。敬称略。間違ってたらごめんなさい。

 開場時間のBGMは大正歌謡。幕開けは下手面側に登場したスズキ拓朗さんのタバコについての前説から。煙を表すダンスなどが巧みでコミカル。客席最前列中央に座っていた男性(本山三火)にタバコを勧める。この人物が主人公の郷田三郎。早い段階で既に、全身タイツ姿の不思議な存在(田中美甫・モルヒネ役)も上手から登場していた。

 舞台奥にある装置には薄いビニールが被せられており、はがされて現れたのは舞台となる東栄館の骨組み。舞台奥を横切るように設置されている骨組みは、胸のあたりまでの高さの台。その下は約10部屋に区切られている。紙のような硬さの布が各部屋に付いていて、前面を覆うことで個室になる。ただしそれぞれに四角い穴(窓)があって俳優の顔は見える。各部屋の中の灯りは豆電球1つで、部屋ごとに色違い。

 台の上がすなわち屋根裏であり、郷田がその上を歩く。舞台奥の上部の壁には屋根の形を模した白い横長のパネルが吊り下げられている。そこに創作映像や中継動画が映写される。郷田が自室押し入れから屋根裏にのぼると、パネルも上に上がる。押し入れに戻ると、下がる。上に上がっている時はパネルの面積が広くなる。郷田が上を通った部屋の豆電球が順番に光ったり、覗いた部屋の中の様子が、上部のパネルに映像で中継されたりする。

 東栄館の入居者募集の場面から物語が始まり、女主人(ジョディ)がビラを撒く。約10人の入居者と女中たちが、新しい長屋の魅力を宣伝する歌と踊りで盛り上げる。導入のダンスの時間をたっぷり目に取り、後から各住人にクローズアップしていくのがいい。長屋の人々の場面と、明智小五郎(スズキ拓朗)、小林君(新部聖子)そして警察官(野坂弘)の場面との、2つの世界がクロスする。明智チームは客席やロフトも使ってにぎやかす。赤いゴム紐でつながる糸電話で連絡を取り合う3人のコンビネーションがコミカル。

 東栄館の住人を1人ずつ紹介していく際、遠藤(ぎたろー)という男性は、昔、不正入手したモルヒネで女性と心中しようとしたことがある、という自慢話をする。最終的には郷田がそのモルヒネを浸した赤い紐を、屋根裏から寝ている遠藤の口に垂らして殺害するのだが、遠藤死亡のニュースの場面の方が先行して描かれる。ニュースの後に遠藤の交友関係を描き、殺害場面は終盤だ。
 また、原作では最初に郷田の人物紹介があり、彼と明智の交流も先に分かるが、この舞台では、明智登場は遠藤死亡のニュースの後。前説のスズキ拓朗が明智役であることは、中盤ごろまでわからない。遠藤が所持するモルヒネはグラマラスな女性(田中美甫)が演じ、全身タイツの衣装がモルヒネの瓶を表すことも、最初からわかるわけではない(原作を知っている観客はすぐに予想がつくかもしれない)。構成が面白い。

 明智が住人の中から犯人探しをする際、小さな段ボール大の各部屋が小道具として使われる。箱の中には各住人の人形が入っている。明智が並んだ箱から、人形を取り出しながら、女主人(ジョディ)に質問していく。郷田と明智がその箱を飛び越えながら話していた(ジャンプ大変そう!)。遠藤が入っている箱は後ほど、上から骨壷覆いをかぶせて、遠藤の遺骨として使われる。遠藤の恋人(岩坪成美)が深い悲しみを浮かべながら、遠藤の友人(鳥越勇作)とともに静かに持っている場面が良かった。何の恨みもなく遠藤を殺した郷田の罪の重さがわかる。

 郷田に覗き見され、各部屋の住人たちの秘密が中継される。野球少年の女装趣味、遠藤の恋人の生クリーム好き、女主人と女中たちの金策、女画学生とその絵画モデルの会社員との緊縛嗜好の性愛、女性タイピストと相場師の肉体関係、やがて女性タイピストは遠藤とも浮気していることがわかる等。後で郷田が彼らと同じことをする映像がパネルに映写される。

 明智たちが使う糸電話のゴム紐、郷田が屋根裏から垂らす糸、住人達が緊縛を愉しむ縄、モルヒネ役を天井から吊るロープを、赤色で統一。
 明智の推理にセリフはなく、スズキ拓朗のソロダンスで表現。『三文オペラ』のメッキースを思い出した。住人たちの取り調べ場面でも警察官からの質問に各住人がダンスで返答。

 最後は「ピー!」というサイレンのような音が鳴る中、郷田が死ぬ(立ったまま)。背後にはそれを見守る、いや、覗き見する人々がズラリ。「ピー!」は「Peep(覗き見する)」でもある。郷田の頭にあるのは恐怖より「死刑にされる時の気持は、一体どんなものだろう」(原作より)という興味。これは他者(遠藤)の殺害、死への興味と同様のものだろう。

 郷田三郎役の本山三火は病的な精神状態がわかる演技を保ちながら、ダンスではリフト(持ち上げる側)も手堅く担当。
 アコーディオンの演奏をする、歌う女中役の清水ゆりは「東栄館」の歌の作詞、作曲も担当。笛井事務所『怪談』に続き魅力的。
 踊る女中役(ピエロ)は増田ゆーこ。機敏で力強いダンス。
 モルヒネ役の田中美甫はバレエが達者とのことで、美しいスタイルで踊りながら、なまめかしく毒役を演じる。フライング(宙乗り)もあり。

【出演】郷田三郎(主人公):本山三火、遠藤(被害者):ぎたろー、遠藤の恋人(生クリーム狂い):岩坪成美、北村(遠藤の有人):鳥越勇作、野球少年(女装趣味):池田仁徳、タイピスト(相場師といい仲、遠藤と浮気):荒木亜矢子、相場師(タイピストといい仲):NIWA、会社員(女画学生と恋仲):柏木俊彦、女画学生(会社員と恋仲):momona、女主人(体格いい):ジョディ、歌う女中(エプロン姿、アコーディオン):清水ゆり、踊る女中(ピエロ):増田ゆーこ、警察官:野坂弘、小林君:新部聖子、莫児比涅(モルヒネ):田中美甫、明智小五郎:スズキ拓朗
原作:江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」より 
振付・構成・演出:スズキ拓朗 音響/許斐祐 照明/長尾裕介 美術・映像/青山健一 写真撮影/福井理文 映像撮影/たきしまひろよし 無台監督/筒井昭善 舞台監督助手/林秀樹 演出助手/三浦亜珠海 制作助手/堀越琴乃 Web制作/青木崇 プロデューサー/勝山康晴 制作協カ/ROCKSTAR有限会社 主催・制作:CHAiroiPLIN
全席自由席 一般:前売・当日3500円 大学生:前売・当日2500円
高校生以下:前売・当日1500円 *未就学児は入場不可。
http://www.chairoiplin.net/stages.html
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http://stage.corich.jp/stage/79509

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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