木ノ下歌舞伎『勧進帳』は2010年初演ですが、舞台美術も作り直されたそうで、6年ぶりの再演というより新作だそうです。主要キャストも変わっています。上演時間は約1時間25分(カーテンコール3回込み)。
長野公演からツアーが始まり、東京公演はありません。京都公演は完売間近だそうで、北九州公演はまだ大丈夫みたい。お時間の都合がつく方はぜひ。お勧めです。
穂の国とよはし芸術劇場PLATに初めて伺いました。煉瓦の壁とガラスの窓の組み合わせは懐かしさと新しさが同居していて、レトロな雰囲気もありつつ清潔感があって素敵。アートスペース(小劇場)はちょっとだけKAATに似てるような気も。
ホワイエにはあいちトリエンナーレの展示で、大きなつぼ型のオブジェがありました。中の照明が上下に動いて、天井に移る影が変容するんですね。きれいでした。
木ノ下歌舞伎「勧進帳」面白かった…。終盤泣いたー…。伝統芸能と現代演劇、江戸時代と現代(の劇場)、そして鎌倉時代を生きた人々と自分が繋がれたように感じた。終演後のトークでの「ベースがあるから新しい実験ができる」という発言に心から納得&感謝。京都(完売間近?)、北九州公演あり。 pic.twitter.com/ZEehH4PA7V
— 高野しのぶ (@shinorev) 2016年10月23日
穂の国とよはし芸術劇場PLATに初めて伺いました。新幹線の駅とほぼ直結で綺麗な劇場!ガラスと煉瓦の組み合わせがいいですね。木ノ下歌舞伎ののぼりが芝生とマッチ。あいちトリエンナーレも開催中でオブジェも拝見。トンボ帰りで無念なり。 pic.twitter.com/5YuF4Qc8wj
— 高野しのぶ (@shinorev) 2016年10月23日
⇒CoRich舞台芸術!『勧進帳』
≪あらすじ≫ 当日配布のパンフレットより
鎌倉幕府将軍である兄・源頼朝に謀反の疑いをかけられた
義経たちは、追われる身となって奥州へ向かっていた。
しかし道中の加賀国・安宅で、一行は自らを捕らえるための関所に
行く手を阻まれてしまう。そこで義経は強力の姿、家来たちは
山伏の姿に変装するが、関守の富樫左衛門には山伏姿の
義経一行を捕らえるよう命令が下されていた。
機転を利かせた武蔵坊弁慶が、自分たちは焼失した東大寺を
再建するため勧進を行っている者だと話すと、
富樫は弁慶に勧進帳を読むよう命じる。
もちろん勧進帳を待っていない弁慶は、別の巻物を本物の勧進帳に
見せかけて文言を暗唱してみせた。その後も一行は山伏を演じきり、
無事に関所を通る許しを得る。しかし富樫は、ふとしたことから
強力の正体が義経ではないかと疑い……。
≪ここまで≫
真っ白な細長い舞台の長い辺を両側から挟む、対面式客席の非常にシンプルな装置です。階段3段分ぐらいの高さがあり、客席1列目と舞台との間も、たまに演技スペースになります。俳優が舞台を降りてそこに待機したりも。
全員が黒いスポーツウェアのような衣装に運動靴ですが、刀や数珠、扇子、長い木の棒を持っており、時代ものの要素がはっきりしています。装置と衣装が白と黒のモノトーンなので、カラフルな照明が映えました。
高橋彩子さんのご感想↓に共感します。
木ノ下歌舞伎『勧進帳』周囲に「頭使えよ」と言っていた富樫と弁慶の「デスノート」さながらの知能戦から、いつしか感情が浮かび上がる…。運命に翻弄される男達の青春に涙。10年初演だが今回は全編現代語で台本を書き、ほぼ新作になったそう。白い一本道での攻防劇はスリリングで哀しく美しかった。
— 高橋彩子 (@pluiedete) 2016年10月22日
ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
弁慶(義経側)VS富樫(頼朝側)の関所での闘いを描きます。双方の家来たちを4人の俳優が演じ分け、スピーディーに場面転換。弁慶は黒くて太い縄を両肩に下げていますが、家来(番卒)の縄は片方の肩だけ。巧い区別の仕方ですね。小さな白い椅子の上にしゃがむ富樫(坂口涼太郎)は「DEATH NOTE」のL(エル)みたい(笑)。
最初は私が座った客席から向かって右(上手)に富樫、左(下手)に弁慶という配置でしたが、4人の家来がするりと相手側の家来に変身し、配置も自然に反転。演劇ならではの自在な空間使いにわくわくします。無言のゆるやかな歩みは歌舞伎をありありと想起させて、声、口で表現する鳴り物(三味線、つつみなどの和楽器)が楽しい!
勧進帳も読みあげて、富樫からの質問の嵐もすべて返答した弁慶(リー5世)。強力に変装した義経(高山のえみ)を見て、富樫の家来の一人(亀島一徳)が「義経に似ている!」と言ったために、富樫は弁慶らを呼び止めます。でも、弁慶が機転を利かせて義経を棒で何度も打ちつけたため(「お前が義経に似ているせいで皆が迷惑している!」という演技をする)、再び富樫は関所を通します。この時、富樫は既に義経の正体には気づいていた様子。
やっとのことで関所を超えた弁慶たちに、またまた富樫が声をかけます。しかし今度は「失礼をしたお詫びに、一緒に飲みませんか?」というお誘い。弁慶は快諾し、恐る恐るだった家来たちも弁慶に続いて、コンビニで買ってきたっぽいポテトチップスなど当てに宴会が始まります。たこ焼きを食べた常陸坊海尊(岡野康弘)の「たこ焼き食べたの、いつ振りだろう…」というリアクションが切ないです。彼らはずっと戦場にいるんですよね。
酔いが回って愉快になってきた家来たちは、「ボーダーライン(境界線)」「手をつなぎたいけどつなげない」といった歌詞の明るいラップを歌い始めます。たしか強力の姿に身をやつした義経は、上手側に静かに控えたまま。主従関係、敵味方のボーダーラインが見えてきます。「It’s a small world」の音楽が流れて、私はちょっと落涙。丸い影が落ちる照明が可愛らしいです。ストライプ柄のレジャーシートは虹にも見えて、レインボープライドを想像。KUNIO『更地』のラストもレインボーだったな~(しみじみ)。
長い目の暗転の後の最後の場面では、たった一人残った富樫が「山伏に変装した弁慶たちが逃走している」というラジオのニュースに耳を澄まします。散らかったままの宴会の後を見つめる姿から、もしかしたら宴会自体も彼の夢だったのかも…と想像して、より切なくなりました。
【木ノ下歌舞伎】木ノ下歌舞伎のHPには、『勧進帳』のキャストのみなさんのインタビューも掲載されていますので、併せてご覧ください。https://t.co/DGym8zWWMN
— 北九州芸術劇場 (@kicpac) 2016年11月17日
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫ ※私がメモした程度なので間違いの可能性あり。
登壇:木ノ下裕一 杉原邦生 司会:矢作勝義(穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデューサー)
木ノ下:2か月の稽古期間があるとすると、最初の1カ月は歌舞伎の映像を見て演技を完全コピー。そのあと、現代語の台本で1カ月の稽古になります。
杉原:今回の木ノ下歌舞伎『勧進帳』は(初演とは違って)全編が現代口語。歌舞伎の言葉は3か所しかありません。そもそも専門的な仏教用語が多くて、歌舞伎の中でもセリフが難しい演目。
木ノ下:まず歌舞伎の言葉の台本を私が作って、それを杉原が現代語に直します。今回は5種類の歌舞伎の台本を集めて、その中の言葉を構成しました。杉原に渡す前に私が逐語訳(現代語)を作る場合もあります。
観客:鳴り物を声で表現しているのが面白いです。
杉原:松本公演ではちょうど中村勘九郎一座が『四谷怪談』を上演中だったので、勘九郎さん、七之助さんら、本物の歌舞伎俳優が観てくださいました。「鳴り物は完璧です!」と言われました!
杉原:亡くなった勘三郎さんもおっしゃっていた通り、型があってこその型破り。ベースを知らないと新しい実験はできない。まず歌舞伎を俳優の体に入れてからやります。「つめより(足の裏を床に這わせて立ったまま移動する動き)」も現代舞踊の振付家に依頼して、新しい振付を作ってもらっています。
杉原:歌舞伎と現代演劇のパイプ役になりたい。木ノ下歌舞伎を観て歌舞伎を観たような気持ちになってほしいし、歌舞伎自体も観に行ってほしい。
杉原:富樫の「いつもこんなに楽しそうなのか?」というセリフは創作です。宴会の場面は歌舞伎にもあって、歌舞伎の場合は富樫が家来も連れてきます。でも今作では富樫一人だけにしました。彼は弁慶(リー5世)らの忠義に心打たれた。彼らのチームワークに絶望した。自分にはないものだから。まさに負けたということ。だから(独断で)関を通した。
木ノ下:歌舞伎の『勧進帳』は能の演目『安宅(あたか)』がもとになっています。『安宅』から『勧進帳』になった時に、いくつか変更されたところがあり、変わっていないところもある。だから木ノ下歌舞伎でも、歌舞伎になる時に変えられたところ(だけ)を変えている。
木ノ下:鎌倉時代の話なのに衣装は江戸時代のもの。だから当時の観客も「これって何時代のこと?」と不思議に思ったり、考えたりしてるはず。
観客:キャスティングが絶妙ですね。
杉原:キャスティングは僕です。初演の弁慶役の俳優さんがアメリカに帰ってしまって。僕はNHKの朝ドラ「マッサン」を録画して見ていて、家庭教師役のアメリカ人を見つけました。ほんの数分の出演だったんですが。巻き戻して出演者の名前を調べたら「リー5世」と(笑)。吉本興業の芸人さんです。
国やジェンダーの境界線を内包している人たち(リー5世と高山のえみ)が出ています。人間は国境、人種、性別、主従など、人間を分けるものをなくした上で生きたいんじゃないか。平等に立つところでドラマを作ることにした。初演は美術が「道」だったんです(「止まれ」というサインもあった)。でも今回は装飾を無くして一本の白い線に。劇場を区切る境界にもなっている。
観客:宴会場面で富樫が紙コップの代わりにと、洗面器を出したが?
杉原:あそこは、ふざけてるわけじゃないんですよ(笑)、よくぞ聞いてくださいました!
木ノ下:歌舞伎にもあるんです、弁慶が「葛桶(かづらおけ)」の大きな蓋でお酒を飲む、ちょっとくだけた場面が。歌舞伎を知ってる人は「うぷぷ」と笑えるようになってるのです。あれは杉原邦生渾身の演出です(笑)。
【出演】
武蔵坊弁慶:リー5世
源九郎判官義経:高山のえみ
富樫左衛門:坂口涼太郎
常陸坊海尊・番卒オカノ:岡野康弘
亀井六郎・番卒カメシマ:亀島一徳
片岡八郎・番卒シゲオカ:重岡漠
駿河次郎・太刀持ちの大柿さん:大柿友哉
監修・補綴:木ノ下裕一 演出・美術:杉原邦生 音楽:Taichi Master 振付:木皮成 舞台監督:大鹿展明、田中倫子 照明:伊藤泰行 音響:星野大輔 衣裳:藤谷香子 所作指導:若狭彰珠 補綴助手:稲垣貴俊 演出助手:岩澤哲野、中村未希 演出部:山道弥栄 運搬:堀内運送 文芸:関亜弓 宣伝美術:外山央 制作:本郷麻衣、堀朝美、三栖千陽 企画・制作:木ノ下歌舞伎 主催:公益財団法人豊橋文化振興財団 後援:豊橋市 平成28年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
日時指定・全席自由・整理番号付・税込
前売販売:2016年07月30日 より
一般:3,000円
U24(24才以下対象):1,500円
高校生以下:1,000円
10/1(土)・2(日) 劇団チョコレートケーキ『治天ノ君』との2公演セット券(5,000円・枚数限定・プラットチケットセンターのみ取扱い)あり
未就学児の入場はご遠慮いただきます。
http://www.toyohashi-at.jp/event/performance.php?id=267
http://kinoshita-kabuki.org/kanjincho
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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