【稽古場レポート】こまつ座『木の上の軍隊(再演)』10/26都内某所

 2013年4月に初演された三人芝居『木の上の軍隊』(⇒レビュー)が約3年振りに再演されます。演出は栗山民也さん井上ひさしさんが遺した構想をもとに、蓬莱竜太さんが書き上げた話題作で、その年の私のNo.1戯曲でした(⇒2013年しのぶの観劇ベストテン)。↓「すばる 2013年5月号」に掲載されています。

すばる 2013年 05月号 [雑誌]
集英社 (2013-04-06)
木の上の軍隊
木の上の軍隊

 舞台は戦争中のある島。大きな木の上に逃げ込んだ2人の兵士と、木の精霊である「語る女」が登場します。上官役は山西惇さんが続投し、新兵役は藤原竜也さんから松下洸平さんにバトンタッチ。「語る女」役は片平なぎささんから歌手の普天間かおりさんになりました。

 稽古は13時から16時半までだったのですが、私は最初の1時間で既にボロ泣き…。顔を拭おうにも、今度は吹き出し笑いが抑えられず、涙が流れっぱなしに。アイメイクは全部取れちゃいましたね(苦笑)。以下、稽古場写真とレポートです。

●こまつ座『木の上の軍隊(再演)』 ⇒公式サイト
 期間:11月10日(木)~27日(日)
 会場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
 出演:山西惇 松下洸平 普天間かおり ヴィオラ演奏:有働皆美
 原案:井上ひさし 作:蓬莱竜太 演出:栗山民也
 一般:6,500円 夜チケット:6,200円 U-30:4,500円(観劇時30歳以下)
 ⇒CoRich舞台芸術!『木の上の軍隊

写真(左から敬称略):山西惇、松下洸平
写真(左から敬称略):松下洸平、山西惇

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 実話から生まれたいのちの寓話が今、語りかける。

 ある南の島。
 ガジュマルの木に逃げ込んだ兵士二人は、
 敗戦に気づかず、二年間も孤独な戦争を続けた――

 人間のあらゆる心情を巧みに演じ分け、観る者の心に深く刻みつける山西惇が、再び本土出身の”上官”を演じる。
 注目の新キャスト・松下洸平は、柔らかく、おおらかな存在感で島出身の”新兵”に挑む。
 歌手・普天間かおりをガジュマルに棲みつく精霊”語る女”に抜擢。琉歌に乗せて島の風を吹き込む。
 ≪ここまで≫

 初日まであと約2週間。稽古場には大きな舞台美術が建て込まれていました。ヴィオラ奏者の有働皆美さんも、音響オペレーターさんもいらして、本格的なシーン稽古を拝見できました。

撮影:田中亜紀
撮影:田中亜紀

 新兵(松下洸平)は元・牛飼いで、生まれ育った島を守るために志願兵になりました。彼はさまざまな戦場を経験してきた上官(山西惇)にとても忠実です。上官も新兵の前では軍人らしい振る舞いを続けますが、飢えを伴う極限状態下では、互いの本音が飛び出します。

 恥の概念を徹底的に教育された上官は、欲深で強情っぱり。みっともない姿をさらけ出す山西さんが、とにかく愛らしくて仕方がない!やや強面な風貌とのギャップに萌えます!(笑) 松下さんの誠実な演技からは、若者らしい純粋さがあふれ出すよう。生意気な悪ガキに見えてくるのも魅力的です。
 お二人とも、役人物としてライブ感のある心の交流をしてくださいます。観客に言葉を伝えようとする意志の力も強く、私は単語の一つひとつを大切に味わうことができました。

写真(左から敬称略):山西惇、松下洸平
写真(左から敬称略):山西惇、松下洸平

 兵士2人のかみ合わない会話はしばしば笑いを誘いますが、「基地」「犠牲」といったセリフは、突然に粒立って、際立って響き、胸に突き刺さります。

 栗山:たとえば「今日までアイツらを、あの基地を睨み続けてきた」というセリフをとっても、今の沖縄そのもの。(過去の戦争が題材の芝居だけれど)これは現代史だね。

 沖縄出身の普天間かおりさんは初舞台ですが、可憐な立ち姿で語り部役を担い、戦場を俯瞰する神(=木の精霊)の視座を自然に成立させます。今回は女役のセリフが一部カットされ、歌が増えたとのこと。空間にふわりと馴染む歌声が素晴らしいです。芯のある琉歌が、沖縄の匂いと風を誘い込んでくれました。

写真(敬称略):普天間かおり
写真(敬称略):普天間かおり

 兵士たちを見ていれば自ずとわかるのですが、上官は“本土”、新兵は“沖縄”を象徴しています。2人の関係性から今、現在の本土と沖縄、更には日本と米国が見えて来るのです。

 栗山:初演の取材で沖縄に行った時は、ちょうど嘉手納に11機のオスプレイが配備されたころだった。今は高江が無理やり切り拓かれている。「戦後は終わった」なんて、軽々しく言っちゃいけない。全く終わってないからね。

 題材は沖縄ですが、戯曲では島の具体名は示されません。ある時代の特定の場所に限らず、世界中のどこででも起こり得る(現に起こっている)ことが描かれているのだと思います。
 自分を支配する者を憎み、それでもすがる状態は、誰の日常でもあり得ることですよね。支配と被支配、差別と不理解など、木の上にいる2人の軍隊のありさまから学ぶことは、とても大きく、そして重いです。

写真左端(敬称略):栗山民也
写真左端(敬称略):栗山民也

 栗山:客席で議論が起こるのはいいこと。芝居は(上段から)教訓を与えようとしているんじゃないから。

 チラシ裏面にある蓬莱竜太さんの文章から一部引用します(公式サイトにも掲載)。

 蓬莱:この作品が再び上演されることを嬉しく思う。何故なら2人の兵士が木から下りることが依然叶わない状況だからである。これは依然「今」の物語である

撮影:田中亜紀
撮影:田中亜紀

 ■追加イベント

kinouenoguntai_events
 
 ■公演関連ツイート


 
 ■沖縄関連ツイート
 

写真(左から敬称略):松下洸平、山西惇
写真(左から敬称略):松下洸平、山西惇

第115回公演
出演:山西惇 松下洸平 普天間かおり/有働皆美(ヴィオラ演奏)
原案:井上ひさし 作:蓬莱竜太 演出:栗山民也 音楽:久米大作 美術:松井るみ 照明:小笠原純 音響:山本浩一 衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹 方言指導:今科子 宣伝美術:藪野健 演出助手:坪井彰宏 プロンプター:安藤ゆかり 舞台監督:加藤高 制作統括:井上麻矢 制作:長山泰久 若林潤 嶋拓哉 主催:こまつ座
前売開始日 2016年9月3日(土)
入場料6,500円(全席指定・税込み)
夜チケット6,200円(全夜公演対象)
U-30 4,500円 ※観劇時30歳以下・枚数限定・こまつ座のみ取扱い
【スペシャルトークショー】
11月14日(月)2:00公演後 蓬莱竜太
11月18日(金)2:00公演後 宮沢和史(音楽家)「沖縄への思い~島唄から24年~」
11月19日(土)6:30公演後 山西惇、松下洸平、普天間かおり
※アフタートークショーは、開催日以外の『木の上の軍隊』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。ただし、満席になり次第、ご入場を締め切らせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#254

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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