【稽古場レポート】風姿花伝プロデュース『いま、ここにある武器』07/28都内某所

いま、ここにある武器
いま、ここにある武器

 女優の那須佐代子さんが支配人をつとめるシアター風姿花伝のプロデュース公演第3弾、『いま、ここにある武器』の稽古場に伺いました。第1弾、第2弾がともに高い評価を得ており、演劇界注目の新作です。

 第1弾ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる
  受賞:読売演劇大賞(優秀作品賞、最優秀演出家賞、優秀女優賞)
 第2弾悲しみを聴く石
  受賞:読売演劇大賞最優秀スタッフ賞(舞台美術)、日本照明家協会奨励賞

 『いま、~』は英国の劇作家ジョー・ペンホールさんの4人芝居で、2007年に英国ナショナル・シアターで初演。私は2010年に俳優座劇場プロデュース公演で拝見しました。当時の題名は『兵器のある風景』でしたが、小川絵梨子さんの新訳を得て、全く違う邦題になっています。

 初日まであと2週間という時期の稽古場では、お芝居の前半部分の立ち稽古が繰り返されました。演出を手掛ける千葉哲也さんは出演者でもあり、セリフは膨大です。演じた体感をもとに、千葉さんから進んで他の出演者や演出助手の意見を聴きながら、全員で作っていく創作現場でした。

 ●シアター風姿花伝『いま、ここにある武器』
  08/13(土)~08/28(日)シアター風姿花伝
  出演:千葉哲也、那須佐代子、斉藤直樹、中嶋しゅう
  原作:ジョー・ペンホール 翻訳:小川絵梨子 演出:千葉哲也
  ⇒公式サイト
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  プレビュー公演8/13(土)~8/14(日):4,900円 ←お得!
  8/15(月)~8/17(水):5,500円
  8/19(金)~8/24(水):5,700円
  8/25(木)~8/28(日):5,900円
  全席指定/当日料金は各種チケット料金より500円UP
  《割引料金・各ステージ枚数制限あり》
  シニア(65歳以上)4,500円 学生2,000円 高校生以下1,000円

左から(敬称略):中嶋しゅう、千葉哲也
左から(敬称略):中嶋しゅう、千葉哲也

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(俳優名)を追加。
戦争を終わらせるためには、誰かが戦争を終わらせる必要がある。

航空力学の研究者(千葉哲也)が、民間人の誤爆を防ぐためと信じて<無人飛行機誘導プログラム>を開発する。しかし、そのプログラムは国家と軍需産業の取引に利用されてしまう。彼は兄(中嶋しゅう)にそのことを批難され苦悩するが・・・。<平和のために>政府プロジェクトの一員となった男の葛藤を軸に、連綿と続く戦争の背景にある国家・企業そして人間達の姿を描く。
 ≪ここまで≫

 本番では客席が三方を囲む舞台美術(島次郎)になります。ステージにはイスが1脚ぽつんとあるのみ。

 1幕1場では、研究者ネッド(千葉哲也)の家に歯科医の兄ダン(中嶋しゅう)が訪ねてきます。ネッドは何やら悩んでおり、疲労してやさぐれた様子。対してダンは気さくで、ご機嫌も羽振りも良さそう。中嶋さんは『あわれ彼女は娼婦』(2016年6月)で“悪徳”枢機卿役でしたから、私はかなりギャップ萌え(笑)。衣裳の短パンと素足&革靴がまた可愛らしいです♪

左から(敬称略):中嶋しゅう、千葉哲也
左から(敬称略):中嶋しゅう、千葉哲也

 家族ぐるみで仲良くしている兄弟の雑談には、冗談や思い出話、家族だから明かせる、ちょっと恥ずかしい自慢話などが続々と出てきます。いい大人の男性が、子供のようにじゃれ合っている感じ(笑)。でも、ネッドが今、取り組んでいる仕事の話をした途端、ダンは硬直します。

 「弟なのに」「理解を超えてる!」と、ダンはネッドを何やら恐ろしいものを見るような目つきで眺めるようになり、ネッドは兄の誤解を解こうと必死で仕事の目的を説明します。でも、完全に、決裂…。兄弟のバカ話を楽しんでいた私も、いきなり絶望の奈落へと急降下。のどかな平原に、世界の闇へとつながる落とし穴が、突然、パックリと口を開けて姿を現したような…しかもその穴は、現実社会にも存在するのです。

 1場をひととおり演じ終わった千葉さんは、出演者に感想を聴いていきます。

 那須:2人だけのシーンだけど、どんどん局面が変わるから長く感じない。
 中嶋:本がすごい。本のとおりやれば、お客さんは飽きないと思う。

 中嶋:短いセリフの、例えば「は?」「え?」「どうして?」とかが覚えづらい。でも(小川)絵梨子もいいかげんに訳したわけじゃないから。今は台本に忠実にやろう。
 千葉:そうですね、本番に入ったらその場で変えてもいいし。今は台本どおりでいきましょう。

 もう一度、繰り返し演じて、1場の稽古は終了。

左から(敬称略):那須佐代子、千葉哲也
左から(敬称略):那須佐代子、千葉哲也

 1幕2場は那須佐代子さん演じるロスとネッド(千葉)の場面です。ロスはネッドに仕事を依頼した人物で、肩書きは営業部長。兄のダンから猛烈に非難されたこともあり、ネッドはロスと新たな契約を結ぶことに躊躇しています。

 ロスを警戒するネッドですが、研究の成果や才能を褒めちぎられて、ちょっといい気分に。ロスは女性らしさも品よく利用して、無名の研究者であるネッドを巧みな話術で誘導します。一瞬だけ“おだてられて木に登る猿”のようにも見えたネッドですが、すぐに我に返って冷静に。
 2人の会話はビジネスの駆け引きであり、技術者と営業職という異なる職種の対立でもあります。彼らの“仕事”の本質、規模が明らかになっていくのもスリリングです。

 演じ終わるとすぐにフィードバックが始まります。ここでも「演出家が指示し、俳優が聴く」という関係性はなく、あくまでも対等な仲間同士の話し合いになります。

 那須:一般論から個人的な話になったり、何度も急に変化するよね。
 千葉:一歩外に出て、また内に入っていくような感じね。

 千葉:那須さんのやりやすい方向でいいですよ。セリフが出る動機が那須さんの中にあれば。小さくなることはない。余裕があっていいです。俺(ネッド)がブツブツ文句を言い始めても、それはロスの想定内の方がいい。

左から(敬称略):斉藤直樹、那須佐代子 ※中央奥は制作さんです。
左から(敬称略):斉藤直樹、那須佐代子 ※中央奥は制作さんです。

 斉藤:前に削除した那須さんのセリフの、「もはや芸術ね」はあった方がいいんじゃないか。

 常に原文(英語の脚本)をチェックしながら演技を見ていた、ロスの同僚ブルックス役の斉藤直樹さんも発言されました。その場で全員で日本語の脚本を確かめて、那須さんと千葉さんがセリフをもとに戻して言い直してみます。結果、そのセリフは復活することになりました。

 そして、1幕2場をもう一度演じてみます。ほんの少しの変化なのに、復活したセリフのおかげで、その前後の話題の色づきが濃くなるんですね!戯曲が、いかに緻密に書かれているかがわかります。

 2回目を演じ終えて、千葉さんからコメントがありました。演出席からではなく、俳優に近寄って直接話し合います。

 千葉:このシーンの方向性をちょっと決めすぎかもしれない。今のだと俺(ネッド)、説得されないんだよね。ロスはもうちょっと気持ちを載せていい。大きく、上から出ちゃうのでいい。俺が動揺し始めてから、攻めて、押さえていくように。

 千葉:(中嶋)しゅうさんはどうでした?
 中嶋:セリフが完全に入ってテンポが上がっていけば、自然にテンションも上がってきて、話してるだけで面白くなるんじゃないかな。もうちょっとお互いに食い込んでいけばいいと思う。観客にその空気感がどれだけ見えてくるかだね。劇場に入ったら(最初から最後まで)通す前に、スピードスルーを1回やった方がいいかもしれない。
 ※スピードスルー:動くことはせず、気持ちを少しだけ載せて、セリフを最初から最後まで通すこと。2時間の作品だと1時間はかからないほど。

左から(敬称略):那須佐代子、千葉哲也
左から(敬称略):那須佐代子、千葉哲也

 1幕3場は再び、ダン&ネッドの兄弟対決です。1場でさんざん反対意見を戦わせた2人ですが、3場はさらに過熱!ネタバレになりますので、ここでは控えます…本番でどうぞお楽しみください!!

 3場を2度繰り返して、中嶋さんと千葉さんは疲労困憊…。2度とも大いに泣き笑いさせていただきました(笑)。

 千葉:今日はぶつかり稽古のようでした…相撲部屋かよ!(一同笑う)

■舞台は「リング」、テーマは「当たって砕けろ!」

 3場とも出演しっぱなしだった演出の千葉さんは、なんと翌日の朝に撮影の仕事を控えていて、新しいセリフも覚えているとのこと…。多忙ななか、インタビューのお時間を取っていただきました。

 千葉:俳優と演出家は仕事が別なんです。(中嶋)しゅうさんによく言われるんですよ、「演技の時に演出家の顔をするな」って。だから今回は早めに俳優になって、立ち稽古をしています。セリフの分量も多いのでね。せっかく代役(寺内淳志さん)に入ってもらったんだけど、代役は稽古の最初の内だけでしたね。
 ※寺内さんはプロンプターをつとめていらっしゃいました。

 演出助手の大澤(遊)君にすごく助けられてます。「大澤君、今のどう?」って、いつも聞いてね(笑)。CATプロデュース『NOISES OFF/ノイゼス オフ』の時も、(演出助手の坂本)聖子さんに助けられたし。

中嶋しゅうさんと演技中の千葉哲也さん
中嶋しゅうさんと演技中の千葉哲也さん

 千葉:もう全体の形(ミザンス)はつけました。でも本番はミザンスも解除してもいい。段取りも変えてもい。そのためには俳優の筋肉を付けないと。セリフを言いよどむ感じでも面白いから、遊びもできるような状態にしたい。今回の舞台はリングみたいものです。「ザッツ演劇!」みたいな感じでしょ?(笑)。わちゃわちゃしてたいんですよ。その後で「うわ…怖っ!」となる。実のところ、すごくひどい話ですからね。

 今回の芝居のテーマは「当たって砕けろ!」です(笑)。台本にはテーブルもあったんだけど、結局、イス1脚だけになりました。頼るものがないから、俳優がよく見えるでしょう? 難しいテーマの芝居ですが、あまりカッチリやりすぎると俳優が小さくなっちゃいそう。だからもっと(俳優が)出ばっていいと思って。遊んでくれれば遊んでくれるほど、面白くできる俳優が揃ってますからね。本どおりにやれば面白い。ただ、戯曲にはない仕掛けも考えてありますよ!

■早めに観れば1,000円もお得!

 8/13(土)~8/14(日)のプレビュー公演のチケット代は4,900円です。終盤より1,000円も安いお得価格!徐々に高くなる値段設定なので、なるべく早い時期にご予約を!気に入ったらリピートするのもよし♪三方囲みなので、違う方向から楽しめると尚いいですね。 ⇒ご予約はこちら

 8月に入り、同じくペン・ホール作『BLUE/ORANGE』に出演されていた俳優の成河さんが、劇場での稽古を見にいらしたそうです。あの3人芝居も千葉さん、中嶋さんが出演して、演出が千葉さんだったんですね。成河さんのブログに稽古の様子と作品の(熱い)紹介が書かれているので、ぜひお読みください!

 ↓シアターガイド2016年9月号に、なんと4ページもインタビュー掲載!

シアターガイド 2016年 09 月号 [雑誌]
モーニング・デスク (2016-08-02)

“Landscape with weapon” by Joe Penhall
出演:千葉哲也、那須佐代子、斉藤直樹、中嶋しゅう
原作:ジョー・ペンホール 翻訳:小川絵梨子 演出:千葉哲也 美術:島次郎 照明:松本大介 音響:藤平美保子 衣裳:伊藤早苗 ヘアメイク:蒲田直樹 舞台監督:村田明 演出助手:大澤遊 舞台監督助手:殿岡紗衣子 稽古場代役・プロンプター:寺内淳志 フライヤーデザイン:チャーハン・ラモーン 絵画提供:佐和子 風姿花伝スタッフ:中山大豪 票券:相沢ナオト 制作:斎藤努 プロデューサー:中嶋しゅう 那須佐代子 企画・製作:シアター風姿花伝
前売:(日時により料金が異なります)
 プレビュー8/13(土)~8/14(日):4,900円
 8/15(月)~8/17(水):5,500円
 8/19(金)~8/24(水):5,700円
 8/25(木)~8/28(日):5,900円
当日:各料金より500円UP
シニア(65歳以上):4500円 ※
学生:2000円※
高校生以下:1000円※
※・・・要予約/シアター風姿花伝のみで取り扱い/各ステージ枚数制限あり
http://www.fuusikaden.com/weapon/index.html

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