2015年のしのぶの観劇ベストテンを発表します。ベストテンは「CoRich舞台芸術アワード!2015」にも投票ました。⇒結果
日本劇団協議会の会報紙「join」の「私が選ぶベストワン2015」、シアターアーツ「2015年年間回顧」、悲劇喜劇「2015年演劇界の収穫」にも参加予定です。
ご参考:fringe watch「全国紙2015年演劇回顧記事URL」
毎年「10本なんて少なすぎて選べない」と悩んできましたが、今回はメルマガ号外も含めて、5本しか選べなかったですね…。記憶に留めておきたい公演を5本選んで、計10本としました。
※2015年の観劇本数は215本(内、ダブルキャストで両公演観たのが1公演)。
■メルマガ号外■ ※初日の早い順。
・メルマガ号外 グループる・ばる『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』
・メルマガ号外 こまつ座『マンザナ、わが町』
・メルマガ号外 パラドックス定数『東京裁判』
■心に残る5本■ ※初日の早い順。 ※号外を発行した公演も含む。
・グループる・ばる『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』
・SCOT『世界の果てからこんにちは』
・アロリー・ゴエルジェ&アントワンヌ・ドゥフォール『GERMINAL(ジェルミナル)』
・こまつ座『マンザナ、わが町』
・KAAT神奈川芸術劇場「ミュージカル『HEADS UP!』」
■記憶に留めておきたい5本■ ※初日の早い順。
・新国立劇場演劇研修所『アンチゴーヌ』
・世田谷パブリックシアター『地域の物語2015 あっちはこっち、こっちはあっち~介助・介護をかんがえる』発表会
・カンパニーデラシネラ『白い劇場シリーズ「分身」~ドフトエフスキー『二重人格』より~』
・SPAC・静岡県舞台芸術センターふじのくにせかい演劇祭「ポワン・ゼロ『聖★腹話術学園』」
・サイン アート プロジェクト.アジアン『残夏-1945-(ざんげ)』
■日本劇団協議会join「私が選ぶベストワン2015」■(この覧は2016/04/11に加筆)
・舞台
こまつ座『マンザナ、わが町』
・女優(対象となる舞台)
熊谷真実(こまつ座『マンザナ、わが町』)
・男優(対象となる舞台)
野坂弘(キダハシワークス『島 The Island』、カンパニーデラシネラ『分身』と『ある夜の出来事』)
・演出家(対象となる舞台)
スズキ拓朗(MITAKA”Next”Selection「CHAiroiPLIN 踊る戯曲3『三文オペラ』」 )
・スタッフ(分野・対象となる舞台)
松岡泉(美術)
(CATプロデュース『スポケーンの左手』、あうるすぽっと『TUSK TUSK』)
・団体(理由)
なし
・戯曲(作家名)
『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』(長田育恵)
・ノンジャンル※海外国内問わず、すべての舞台芸術から1作品
アンスティチュ・フランセ東京「アロリー・ゴエルジェ&アントワンヌ・ドゥフォール『GERMINAL(ジェルミナル)』」
■「CoRich舞台芸術アワード!2015」総評(こちらより転載)
毎年「10本なんて少なすぎて選べない」と悩んできましたが、今回は5本しか選べず。6位以降は記憶に留めておきたい公演を選びました。質の高いストレート・プレイを観たい、作品のために心を開いて生き生き、伸び伸びと交流するアンサンブルが観たい(下手な俳優は観たくない)。その気持ちが年々強くなった結果だと思います。ナショナル・シアター・ライヴの影響も大きいですね。2016年も演技の基礎を学んだ俳優に注目していきたいと思います。
≪2015年全体の感想≫
ナショナル・シアター・ライヴにノックアウトされています…。2014年は7作、2015年は5作(内1作は2度見ました)、そしてナショナル・シアター・ライヴではないですが『夏の夜の夢』(ジュリー・テイモア演出)もあったので、2年間で合計13作の英国の舞台を映画館で拝見しました。現代演劇のストレート・プレイというジャンルに限ったことですが、日本の首都圏の作品よりレベルが高いです。まず、演技が下手な俳優は出演していません…。だから、どうしてもストレート・プレイ全般に対して、私の欲求が高くなってしまってるんだと思います。ストレート・プレイばかり好んで観に行って、ちょっと残念な気持ちで帰ってくる…そんなことが多くなりました。「だったらダンスとかミュージカルとか伝統芸能とか、他のジャンルを観ればいいじゃん!」とは、ならないんですよね…やっぱりストレート・プレイが好きだから!
⇒【俳優養成】「ダンスも演劇も専門の養成機関がない」
日経新聞編集委員の内田洋一さんによる「演劇回顧2015 言葉本来の確かさを取り戻す闘い」に感動しました。
演劇回顧2015 言葉本来の確かさを取り戻す闘い :日本経済新聞 https://t.co/9t9XKVAasw
— ArtsPolicy (@Arts_Policy) 2015, 12月 28
▼演劇関連のお仕事▼
・「第2回高校生劇評グランプリ」の選考委員をつとめます」⇒表彰式の写真レポート
・東京都高校演劇地区大会2015「中央地区A日程&B日程」09/20、23、27、10/12都内4校
▼インタビューを受けました・WEBラジオ出演▼
・【お知らせ】小劇場レビューマガジンwonderlandに私のインタビューが掲載されました
・【お知らせ】ダルカラードポッドキャストに出演しました(2015年5月28日配信分)
●記者発表
・【写真レポート】SPAC「ふじのくに⇄せかい演劇祭2015」プレス発表会
・【写真レポート】フェスティバル/トーキョー15「記者会見&トークイベント」
●稽古場レポート
・【稽古場レポート】KAAT神奈川芸術劇場・CATプロデュース『舞台「アドルフに告ぐ」』
・【稽古場レポート】俳優座劇場プロデュース『月の獣』09/21都内某所
・【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所第9期生修了公演『嚙みついた娘』
●ワークショップ・レポート
・【レポート】ゴーチ・ブラザーズ「山中結莉ワークショップVOL.2(プロの俳優向け・5日間集中)」03/16-20都内スタジオ
・【写真レポート】新国立劇場演劇研修所修了生企画「小川絵梨子ワークショップ」(2015年6月)
※ゴーチ・ブラザーズ「Jonathan Munby Actors’ Workshop 2015 in Tokyo」、シアター・コミュニケーション・ラボ大阪「俳優教育の最高峰ロシアから学ぶ・演技ワークショップ(講師:セルゲイ・チェルカスキー、ガリーナ・コンドラショワ)」、シアター風姿花伝「俳優のためのシーンスタディワークショップ(講師:薛珠麗)」(5/10)、actors’ playground「1st w/井上裕朗」(6/19 ⇒関連エントリー)を見学しました。(記録はありません。ごめんなさい。)
●その他のレポートなど
・【非公式レポート】アーツカウンシル東京「タニノクロウ パブリックトーク~ドイツ公立劇場でのレパートリー作品の制作をめぐって~」06/05アーツカウンシル東京
・【写真レポート】[ON-PAM]第1回テーマ委員会「制作者とアーティスト、その関係性を問い直す」(2015年4月6日開催)
・【旅行記録】金沢と富山(SCOT SUMMER SEASON 2015)に2泊3日で行ってきました(1:金沢)
・【非公式レポート】SCOT SUMMER SEASON 2015「鈴木忠志トーク」08/23新利賀山房
・【俳優養成】「ダンスも演劇も専門の養成機関がない」
・【非公式レポート】アジア舞台芸術祭2015「ラウンドテーブル、クリエーション公演、ワークショップ作品上演会」11/14東京芸術劇場内
・【動画・俳優養成】ピナ・バウシュ(京都賞2007受賞者)からのメッセージ
・【レポート・俳優養成】新国立劇場演劇研修所「演劇研修所説明会」12/06芸能花伝舎内・新国立劇場演劇研修所
・【写真レポート】舞台芸術制作者オープンネットワーク[ON-PAM]第3回テーマ委員会「制作者とアーティスト、その関係性の未来」10/02芸能花伝舎A1(A棟1F)
↓5/23(土) のゲンロンカフェでのトークイベント「テロの時代の芸術─批判的知性の復活をめぐって 鈴木忠志 × 東浩紀 司会 = 上田洋子」の内容は「ゲンロン1 現代日本の批評」に載っています。
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●政治的な意見
・【意見】安倍政権および安全保障関連法案に関する舞台芸術関係者の発言をまとめました(2015年7月5日~19日)
・【意見】2015年8月30日に国会議事堂前デモに行ってきました
・【意見】2015年9月6日に新宿伊勢丹前デモに行ってきました
・【意見】安保法制と安倍政権の暴走を許さない演劇人・舞台表現者の会「声明会見」09/09文学座新モリヤビル(稽古場棟)
・【意見】9月14日、17日、18日に国会議事堂前デモに行ってきました
・【記録】韓国の検閲について(岡田利規と多田淳之介の共同主催による緊急イベント)
※「しのぶの演劇レビュー」TOPで演劇関連情報の告知をしています。2015年は約93件。
▼2015年を振り返って▼
■私事
2014年10月、11月、2015年2月、3月と個人的事情で毎月のメルマガ発行をお休みし、2015年4月から復帰。今のところ順調に発行できています。9月11日にはwordpressで作った新しい公式サイトを公開しました。2004年から使っていたMovableTypeのサポート期限が切れたためです。旧サイトはアーカイブとして、今のところはそのまま残してあります。
アラフォーになって体力が衰え、視力が落ち、体調管理が人生の優先事項になってきました。自宅でのPC作業を立ってするようにしたり、フルーツを沢山食べるようにしたり、ちょこまかと生活を変えています。娘の留学もあって家族や親しい友人と過ごす時間をもっと大切にしたいと思うようにもなりました。とはいえ仕事が減るわけではないから、踏ん張るしかない。どったばったで錯乱しそうな時、紀里谷和明さんのインタビュー(⇒1、2、3、4)に叱られ、励まされました。「これ、今やらな、死ぬ!」と思って朝まで頑張ったりできました(笑)。
夢があるなら、なぜ命をかけないの?紀里谷監督が若者に檄https://t.co/gnEVTlfSid 「日本の若者よ、今がチャンスです。何故なら周りの人間が皆ぬるいから」「(海外行けば)日本人は勤勉だとか思ってるだろうけど、もうびっくりするよ、そのルーズさに、そのぬるさに」
— 高野しのぶ (@shinorev) 2015, 11月 11
「高校生劇評グランプリ」でご一緒させていただいていた、扇田昭彦さんがお亡くなりになり、7/6(月)の「扇田昭彦さんを送る会」に出席しました。しばらくは初日の客席で扇田さんを探していました。今は著作の言葉でお会いしています。
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「CoRich舞台芸術まつり!」が1回休止しただけで復活して、すごく嬉しいです。日々の観劇やメルマガ作成でCoRich舞台芸術!にとてもお世話になっているので、サイト存続を強く願っています。有料になった「CoRichチケット!」を使って下さっている団体にも感謝いたします。
■日本の政治、世界情勢など
デモによく行きましたね…行く習慣なかったのに…(⇒1、2、3、4)。意志表示がしたいのと、スピーチが聞きたかったからですね(やはり演劇好きな私♪)。秘密保護法の制定、安保法制の強行採決、TPP推進(国民皆保険の破壊など)、原発再稼働&輸出、辺野古への米軍基地移転、武器輸出三原則の緩和(防衛装備移転三原則)、大学の軍事研究支援、ヘイトスピーチの放置、言論封鎖(NHKの私物化など)、緊急事態条項、復興予算の不正利用、年金の運用損(?兆円)など…(網羅できていません)。1つだけでも現政権に反対するには充分すぎる重大なことが山ほどあります。次から次に…もう開いた口が塞がらない…とか言ってられないので、開いた口から言葉を発し、行動にあらわすようにしています。無力なんですけどね…。今年7月に参議院選挙があります。対案は「現状にNO!(否!)」でいいのです。
⇒【意見】7月21日の参議院議員選挙で自民党に圧勝して欲しくない理由(2013年)
⇒【意見】第47回衆議院議員総選挙の投票をしてきました(2014年)
マスコミで35年働いてきた。今まで学生さんなどから「報道への政府圧力とかあるんですか?」なんて質問されても「あー無い無い、そんなすごい取材してる記者もいない」と笑ってきたが、昨年から「あります。大した記事でもないのに、間違いなくある」に回答を変更する羽目になるとは思わなかった。
— 清水 潔 (@NOSUKE0607) 2015, 12月 18
政治家は当然ですが、一般人も日本の貧困を自覚しないといけないと思います。映画でも舞台でも、日本人の貧しさを描く作品が増えたというか…もうデフォルトですよね。例えば『東京難民』『そこのみにて光輝く』『映画「予告犯」』といったメジャーな映画でも。フリーターを描いたチェルフィッチュ『三月の5日間』の初演が2004年。当時の問題が放置され、悪化するまま…。英国戯曲『TUSK TUSK』で描かれているのは今の日本です。
筒井康隆の古いの読んでるんだけど「事務室も工場も5時半には無人となり」とか「彼は平凡な男だ。平凡な私大を出て平凡な会社に勤め、結婚して平凡な建売を買い子供は2人…」とかばっかりで、いや本当にこの国、後退したんだなぁって。。
— 美輪 (@miwakovamp) 2016, 1月 4
2016年4月から電力会社が選べるようになります(電力自由化)。私は東京電力からは買いたくないし、原発の電気は使いたくないです。集合住宅に住んでるからすぐには無理かもしれないけど。
友人がフランスに住んでいることもあり、11月のパリのテロに恐怖しました。ちょうどベイルートでもテロがあったんですよね。チェルフィッチュがツアー中でした⇒「平時ではない、舞台芸術の作品の中には人間がいる」。
■9条
「9条守れ!」だけではダメなんじゃないか…そう思い始めています。だって今、9条はなくなってないけれど、安保法制が強行採決されましたよね。「日本は法治国家ではない」という、驚愕の事実…。本を買って勉強中。
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加藤典洋さん『戦後入門』について、昨日の朝日新聞夕刊に記事が掲載されました。↓
現在、書評や記事が次々と掲載され、話題となっています。
戦後の原点へ、「9条初期設定」 加藤典洋さん新著「戦後入門」:朝日新聞デジタル https://t.co/uY41ynWRSo
— ちくま新書 (@ChikumaShinsho) 2015, 12月 2
あの戦争を生き残った私からあなたへ(飯田進)|ポリタス 戦後70年――私からあなたへ、これからの日本へ https://t.co/eVcQag18jq
— ポリタス (@politasjp) 2015, 12月 31
■インターネットによる寡占化(一人勝ち)/便利さと引き換えの喪失
「(舞台公演の)前売り券が売れづらくなってきた」というのは数年前から聞いていました。今は「売れる公演と売れない公演がはっきりしてきた(二極化・一人勝ち)」とも聞きます。スターを主役に配したプロデュース公演が多くなる、劇団の公演でも客演にアイドルを呼ぶ、アニメ・漫画・ゲーム等の人気原作を舞台化する…といった風になってますよね。私のような演劇オタクにはウェルカムできない状況です。でも、作り手にとってはチケットの売れ行きは死活問題ですし…。
これは東京だけに限ったことではなく、アメリカは顕著のようで(映画スターがミュージカルに主演するなど)、イギリスも例外ではないそうです(シアターガイド2016年2月号「ハロッズで昼食を~英国ミュージカルの魅力~」[文=市川洋二郎]より)。そういえばベネディクト・カンバーバッチ主演『ハムレット』も大ヒット作ですね。
世界中でこういう現象が起きているんでしょうね。1995年のWindows95発売から約20年が経ち、インターネットはインフラ化。当時「インターネットは寡占を生む」と言った人は先見の明があったなぁ…と遠い目になっちゃいます。どんどんつながって、フラット(平板)になっていくかと思いきや、そうではなかったんですね。それを止めることはできないんだろうな…。『Angels in America 第2部』(1992年初演)を思い出します。「人間は前に進まないことなんてできない。これからもどんどん色んな人種と出会って、交わって行く」(セリフは不正確です)。
便利になった分、失っていることにも気づきました。てがみ座『地を渡る舟(再演)』で強く感じたんです。私たちは明治以降、そして敗戦後も、自分たちが持っていたものをどんどん、自らすすんで、失ってきたんだと思います。とても、悲しい。じゃあ、私は、どうするのか。
伝統を守ることも現状維持も、努力しなければできないことですよね。でも人間は死ぬから、努力したって全く同じものを永遠に残すことは不可能です。時代、世代が移り変わって、どうしても更新されてしまう。だったら既に過去にあったもので、自分が信じるものを、新しく生むしかないのかな、と。常に過去を見つめながら、今と出会っていく。次々に過去になっていく今を言葉でとどめて、次の世代を信じて届けていく。
ふと思い出して探してみたら、野田秀樹さんが既にインタビューでおっしゃっていました。⇒「文化を手放すな 野田秀樹が語る仕事」(2009年)
いまの時代の息苦しさと、ブレーキのなさの果てにあるものは。ぐっと引き込まれる作家・中村文則さんの論考です。
https://t.co/wCWrDcaVsx
— 朝日新聞デジタル編集部 (@asahicom) 2016, 1月 9
■観劇は他者の話を聴く時間
国会での閣僚の答弁にはらわたが煮えくり返るほど怒っていた私。まず、他者の話に全く耳を貸さない。議論なんか最初からする気がないんです。たとえばコレ⇒「ツイッター実験が話題 無敵の”官房長官語”って?」 演劇でもそういう人たちが出てくる作品に次々と出会いました。
先週からの1週間で『バグダッド動物園のベンガルタイガー』『TUSK TUSK』『悲しみを聴く石』『白鯨』と海外戯曲(1つは小説原作)を拝見し、全てに共通してたのは「他人の話を一切聞かない人物」がいたことだった。「俺の話を聞け!」「お兄ちゃん、考えて!」等のセリフが胸に刺さってる。
— 高野しのぶ (@shinorev) 2015, 12月 14
劇場の客席に座った時、私はたった一人になれて、孤独という自由のなかで、考えることが出来る。それが観劇の醍醐味であり、幸せだと思ってきました。でも、考える前に、もしくは考えながら、私は耳を澄ましている。演劇は舞台から発せられる他者の言葉について、ただ静かに聴く時間でもあるんですね(⇒この作品で気づきました)。井上ひさしさんは「ユートピアは劇場にしかない」と書かれています。悲しいけれど、その意味が少しわかるようになってきました。
■俳優を搾取していないか
年末に拝見したリーディング公演『イスマイルとイザベル』は、朗読といえどオリジナルの歌、音楽、楽器演奏があり、経験と実力のある俳優さんが揃っているからこそ、短期間の稽古で完成させられたのがよくわかる秀作でした。戯曲も演出も演技も素晴らしかったんですが、チケット代は1500円と安価。観客にはありがたいことですが、申し訳ない気持ちにもなりました。
終演後にフィリピン人の劇作家ロディ・ヴェラさんと坂手洋二さんのトークがあり、「フィリピンの演劇人は若い」という話がありました。坂手さんは「劇作家のフェスティバルで20~30代の元気な若手が大活躍している」という意味のことをおっしゃったのですが、それに対してロディさんはこう答えられました。
ロディ:それはすぐにやめるからです。法科大学院(ロースクール)に通いつつ、又はコールセンターで働きつつ演劇をしていた者が、結婚、出産などを機に演劇をやめる。だからフィリピンの演劇界には常に若者しかいないんです。
ショックでした…。そりゃそうですよね、誰にだって生活があるんだから…。たとえば長年活動してきたプロの俳優が辞めてしまうことは、演劇界の損失です。だから実演家に対して「やりたいことをやってるんだから幸せよね」「好きなことなんだから、たいしたお金をもらわなくてもやるんでしょ」という態度は間違っていると思います。私はわがままな観客だから、これからもいいお芝居を観続けたい(たとえば年配の役は、年配の俳優に演じてもらいたい)。不況が続くなかで演劇人が長年仕事を続けていけるように、観客も考えていかなきゃと思いました(動機は単なるわがままなんですけど…)。
■新国立劇場演劇研修所のこれから
2005年4月に開校した新国立劇場演劇研修所。今年4月には12期生が入所します。2015年に修了生による団体NNTD Actors’ Projectが発足し、修了生が主体となった企画が実施されるようになりました。同研修所を会場に使ったストレート・プレイ公演もありました。100名を超えた修了生の存在感が増してきて嬉しいです。「100年後の日本の演劇のスタンダードとは」というテーマを自らに課した俳優集団の今後に期待しています。
⇒修了生企画「小川絵梨子ワークショップ」写真レポート
ネット時代、演劇受難 栗山民也さんに聞く 俳優教育、生き方示す 略)日経新聞:https://t.co/MPf8evKaZI「日本ではマネジャーがタレントをつれてきて『ウチのはなにもできませんから、よろしくお願いします』と頭を下げてくる。そんな簡単に舞台にのぼってはいけない」
— 高野しのぶ (@shinorev) 2015, 11月 12
ぴあ+にて栗山民也インタビュー(新国立劇場演劇研修所「噛みついた娘」)。俳優教育、自身のキャリアの始まりなど、ほかではない内容かも。是非。https://t.co/nwn5o8cliA
— 鈴木理映子 (@r_suz1005) 2015, 12月 28
※日経「演劇回顧2015」で内田洋一さんは、新国立劇場について「タレント頼みの演劇界と一線を画す意味でも、カンパニー制を検討する時期にきていないか」と提案されています。
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