日生劇場・NISSAY OPERA 2015『オペラ「ドン・ジョヴァンニ」』11/14-15日生劇場

ドン・ジョヴァンニ
ドン・ジョヴァンニ

 ヨーロッパでご活躍されている菅尾友さん演出のオペラ、私は今年2度目になります(⇒1回目は5月の二期会『ジューリオ・チェーザレ』)。NISSAY OPERA 2012『フィガロの結婚』はあまりの素晴らしさに、カーテンコールで肩が痛くなるほど拍手し続けたんです。2015年の『ドン・ジョヴァンニ』も前作と同様、美術が杉山至さん、ドラマトゥルグが長島確さんでした。上演時間は約3時間20分(途中休憩20分を含む)。

 衣装も含め、ドン・ジョヴァンニが映画「バットマン」のジョーカー(ジャック・ニコルソン版)みたいでした!めちゃかっこいーー!!最後の最後に、本当は誰(何)がモデルだったか、やっとわかりました。チラシに描かれていたのに!あ~~~すっごく感動!童心と自由の象徴、若い放蕩者ドン・ジョヴァンニ(池内響)にすっかり魅せられました。

 土日が一般公演ですが、私は諸事情あって11/13(金)13時の回を拝見しました。11/11-13は中高生対象の無料の鑑賞教室公演で、「ブラボー!」の声がわんさか掛かり(笑)、大盛り上がりでした。

 ⇒あらすじ(公式サイト)
 ⇒ぶらあぼ「ゲネプロレポートNISSAY OPERA「ドン・ジョヴァンニ」」※舞台写真たっぷり
 ⇒平井洋「廻る階段 冴えていた菅尾ドン・ジョヴァンニ
 ⇒CoRich舞台芸術!『ドン・ジョヴァンニ

 ⇒森岡実穂さんによる「菅尾友(演出)&長島確(ドラマトゥルグ)によるプレトークのレポート」(2015/11/15加筆)

(公式サイトより↓2015/11/29加筆)
 必読!プログラム・ノート【ドン・ジョヴァンニ
 Photo Gallery 【ドン・ジョヴァンニ ~ その1
 Photo Gallery 【ドン・ジョヴァンニ ~ その2

 ≪作品紹介≫ 公式サイトより
2012年の『フィガロの結婚』で話題を呼んだ、広上淳一と菅尾友の
コンビが、日生劇場に再び登場。伝説の放蕩男の罪と罰を描いた、
モーツァルト&ダ・ポンテの傑作に挑む!
 ≪ここまで≫

 周り舞台に大きな白い階段が重なり合う抽象美術で、登場人物を乗せてほぼ休みなく階段が回り続けます。舞台の四隅と中央奥に、階段を登った先へとつながる次の階段が設置されていますが、お盆が回るとズレるため、階段の先は何もない断崖絶壁と同じ状態になるのです。俳優が階段を上ったり下りたり、隣の階段にひょいと乗り移ったり、四つん這いになって階段の下をくぐり抜けたりするのを見つめることになり、ずっとハラハラどきどき、わくわくすることができました。

 『ドン・ジョヴァンニ』は観たことがあるのでストーリーは知っています。でもドキドキできたんです♪ 私はこれがお芝居(ストレート・プレイ)に必要なことだと思います。特にドン・ジョヴァンニがツェルリーナを口説く場面と、ツェルリーナがマゼットに謝って許してもらう場面は(両方ともオレンジ系の照明が当たってました)、色っぽくてワクワクしたな~(笑)。そしてドン・ジョヴァンニと騎士長(幽霊)との対決場面は怖くてスリリングで、演出も凄かった!

 「悪い男が最後に神様(?)に罰せられる」と解釈できるシンプルなお話なので、「教条的な古典」として楽しむ方向もアリだと思いますが、今作は全くそんな風ではなかったです。なんてったってドン・ジョヴァンニが最後まで“悪のヒーロー”なんだもの!インタビュー動画↓で菅尾さんがおっしゃっているように、彼が「若い貴族」であることがポイントなんですね。

 ドン・ジョヴァンニ役の池内響さんは顔だちが整っていて背が高く、スラっとした体形が美しいので、モテ役としての外見がバッチリ。体が大きいからジャンプしたり駆け込んできたりすると映える。そしてちょっとした身のこなしが「おいおい、キメ過ぎだろ!」って突っ込みたくなるほど色男風(笑)。さらに、女性を口説く場面では少し強引に、すばやく女性を抱き寄せて、ベッタリくっつくんです。そしてとんでもなく甘い声で愛を歌い上げる。可愛く優しく歌うくせに、歌の合間にペロっと舌を出すような表情を挟んで、悪ガキ・アピールも忘れない…。こりゃ誰でもオチるだろっ!!風を切って走る美しき悪党め!

 ツェルリーナ役の鈴木江美さんが快活で可愛かったです。「ぶってちょうだいマゼット」ではまさかの肩車(笑)。オペラ歌手、すっごいな~。
 ドンナ・エルヴィーラ役の柳原由香さんはプリプリ怒りながらも、やっぱりドン・ジョヴァンニが好きというツンデレ系の役作りが魅力的でした。

 菅尾さんの演出では、演技をするオペラ歌手一人ひとりに注目したくなります。歌を聴くだけでなく、登場人物として、そして俳優としてオペラ歌手を見つめられます。だからオペラ門外漢の私でも観たくなるんだと思います。

 ここからネタバレします。

 幕開けすぐに驚いたんですが、なんとドン・ジョヴァンニは女性を口説く時に、ポケットから出した銀の粉を振り撒きます。宙に踊る銀の粉を浴びた女性は、彼の甘い言葉にほだされてしまうのです。魔法の粉なんですね。

 ドン・ジョヴァンニは目の覚めるような(チラシの色と同じ)青色のロング・コートを羽織り、同じく青色の長髪を背中になびかせます。他の登場人物の衣装はすべて灰色。ただし靴と足元だけは青く染まっているのです。誰もがドン・ジョヴァンニのような自由な心(=青)を少しだけは持っているのだけれど、体全体は石のように固い。過去や常識、世間体などにとらわれ、安住・安定を望む一般人なんですね。そしてその灰色は、石像になった騎士長の衣装ともほぼ同じ色でした。

 常に揺れて安定せず、下は地獄で上は天国、でも上に登り切ったら断崖絶壁、一寸先は闇…という舞台装置で、人生をよく表しているな~と思いました。最後の最後を除いて、たしか誰も階段から降りなかったんじゃないかしら…ずっと落ち着くことができない状態です。

 白い装置だけど映像を使い過ぎないのが良かったです。ある部分にだけ文字を映写したり、動画の面積を少しずつ増やしていくのもハイセンス。ドン・ジョヴァンニと騎士長の対決場面の映像は迫力がありました。階段が重なり合う場所は自ずと舞台中央あたりになり、一番背の高い階段のちょうど真ん中あたりにもなります。そこに向かって、白い紐をびっしり横にならべたカーテンが天井から降りてきて、騎士長の映像を写すスクリーンになるのです。舞台後方には生身の騎士長も登場し、ドスの利いた声で歌い(たぶん彼だけマイクが入ってたかも)、ドン・ジョヴァンニは映像と対決します。カーテンに手を触れると、騎士長の映像の上半身とともに白い糸が彼の体に絡みつくよう。さらに彼が手を触れた部分が赤色に染まっていくので、吹き出す血液や煉獄の炎を連想させます。「悔い改めよ」という騎士長の最後の慈悲に対しても、NOを突きつけるドン・ジョヴァンニ。いやん、かっちょいい!(笑) 間もなく彼は映像の騎士長の体を潜り抜け、うめき声を上げながら階段を降りて地獄に落ちて行きました。

 ドン・ジョヴァンニが消えた後、残された人々は客席後方から登場しました。照明が舞台を素っ裸にするように白々と照らします。残された人々は客席通路を通ってステージに上り、階段には登らず床に立ちます。全員「一件落着」といったムードで、これからは平穏な人生を送ろう、などと話をしています。すると、舞台奥に設置された上下(かみしも)を横切る階段を、ドン・ジョヴァンニがさっそうと走り抜けたんです!鳥のように軽やかに、銀の粉を撒きながら!「あー!ティンカーベル!いや、ピーターパンだ!」と、やっと気づきました。そして涙がドっと溢れました。

(全2幕)[イタリア語上演・日本語字幕付]
【一般公演】※11/11-13は中高生向け無料公演あり。各日13時開演。
11月14日(土)14:00
11月15日(日)14:00
【キャスト】      11/14    11/15
ドン・ジョヴァンニ   加耒徹    池内響
騎士長         斉木健詞   峰茂樹
ドンナ・アンナ     中江早希   宮澤尚子
ドン・オッターヴィオ  金山京介   望月哲也
ドンナ・エルヴィーラ  林美智子   柳原由香
レポレッロ       久保田真澄  青山貴
マゼット        桝貴志    金子亮平
ツェルリーナ      見角悠代   鈴木江美
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ
作曲:モーツァルト 演出:菅尾友 指揮:広上淳一 美術:杉山至 衣裳:堂本教子 ドラマトゥルク:長島確 照明:吉本有輝子 映像:須藤崇規 演出助手:喜田健司 舞台監督:幸泉浩司 チーフ音楽スタッフ:田島亘祥 コレペティトゥア:平塚洋子、矢崎貴子 合唱指揮:田中信昭 副指揮:鈴木恵里奈、水戸博之、喜古恵理香、 杉原直基、田尻真高
主催・企画・制作: 日生劇場【公益財団法人ニッセイ文化振興財団】
助成:芸術文化振興基金 公益財団法人ロームミュージックファンデーション 公益財団法人花王芸術・科学財団 公益財団法人朝日新聞文化財団
後援:東京都 一般財団法人東京私立中学高等学校協会
協賛:日本生命保険相互会社
【発売日】2015/06/24 S席9,000円 A席7,000円 B席5,000円 学生席(28歳以下)3,000円
http://www.nissaytheatre.or.jp/nissay_opera/program/program2015/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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