【稽古場レポート】アヴァンギャルド×コンプレックス『COUPLES 冬のサボテン』10/24都内某所

 新国立劇場演劇研修所10期修了生が旗揚げしたアヴァンギャルド×コンプレックスの稽古場に伺いました。『COUPLES 冬のサボテン』(以下、『冬のサボテン』)は鄭義信(ちょん・うぃしん)さんの1995年初演の戯曲で、ゲイの若い男性たちの物語です。書籍も販売されています。

冬のサボテン
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 鄭さんの代表作といえば、『焼肉ドラゴン』が有名ですね。ご自身が脚本・監督を担当された映画もあります。⇒2007年の鄭義信さんインタビュー

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 『冬のサボテン』は上演頻度が高く、私も今までに2種類、拝見したことがあります。韓国でも人気で、俳優、演出家を替えてロングラン上演されてきたとのこと。なんと今回は、初演で出演をされていた鄭さんが、「作・監修」という立場で、初めて演出にかかわっていらっしゃいます!

写真左から:永田涼、中西良介
写真左から:永田涼、中西良介

●アヴァンギャルド×コンプレックス『COUPLES 冬のサボテン
 出演:岩男海史 高倉直人 永田涼 中西良介 大江晋平
 作・監修:鄭義信 作曲:中村中
 会場:小劇場 楽園(下北沢)
 10/31(木) 19:30
 11/01(金) 14:30/19:30
 11/02(土) 13:00/18:00
 11/03(日) 13:00/18:00
 11/04(月・祝) 13:00
 一般前売:3,500円
 カップル割:6000円(2人1組)
 演劇はじめて割:2000円
 当日券は各チケット料金にプラス500円
 ⇒一般前売チケット予約
 ⇒当日精算チケット予約

≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより(一部修正)
かつて高校球児だったフジ男、カズ也、花ちゃん、ベーヤンは、ある共通の秘密を抱えていた。
それは、「男が好き……」。
二十年に渡る彼らの愛と友情の、切なくも、馬鹿馬鹿しい日々。
過ぎ去った青春の、ほろ苦く、甘酸っぱい追憶。

韓国でロングランヒットした鄭義信の戯曲を、初の本人監修で二十四年ぶりに逆輸入します。
≪ここまで≫

 装置が建て込まれた稽古場で、衣装付きの返し稽古が行われていました。あまりに充実した環境で、小劇場劇団の制作を少しかじっていた私には、旗揚げ公演とは思えない…。めちゃくちゃ素晴らしい!

写真左から:高倉直人、中西良介、永田涼
写真左から:高倉直人、中西良介、永田涼

 高校野球部で汗を流していた親友が、大人になって懐かしの場所に集まります。かつて恋人同士だったフジ男(永田涼)とカズ也(中西良介)、女装する花ちゃん(岩男海史)、吃音のベーヤン(高倉直人)という、4人のゲイの小さな同窓会ですね。

 本格的な冬の装い(衣装:岩男海史)で汗だくになりながら、こまごまと演技を繰り返していきます。鄭さんは気になるところがあるとすぐに声をかけて演技を止めて、指示を伝えます。

 鄭:「あったかい」というセリフはもっと実感で言って。
 鄭:もう少し(演技を)引き延ばしてくれる?体をよじらせて。
 鄭:そこの切り替えは早く。
 鄭:このラブシーンは激しくやろうかな(笑)。

写真左から:岩男海史、鄭義信
写真左から:岩男海史、鄭義信

 細かく、細かく止めて、指示を出し、次はどこから再開するのかも鄭さんが決めて、進めていきます。もう一度演じてみると、変更したところ以外にまた変更点が出てくるので、さらに繰り返すことになります。

 まるで1000本ノックのよう…とはいえ、高圧的な空気や余計な緊張感などは全くありません。可笑しくて全員が笑い出したために一旦、中断したり、話し合いが自然多発的に生まれることもありました。

 司令塔の鄭さんは常に柔らかなコミュニケーションをされていて、きつい言い方は一切されないのですが、厳しさは伝わってきます。観客に何を見せて、どういう芝居にするのか。その具体的なビジョンを明確に持っていらっしゃるのだと思います。

写真左から:高倉直人、岩男海史、中西良介、永田涼
写真左から:高倉直人、岩男海史、中西良介、永田涼

 わいわいと宴会が始まる場面は、即興で会話が紡がれていきました。繰り返す度に違う演技とセリフが飛び出すのも面白い!(笑) 

 鄭:ここは、にぎにぎしくやって。合いの手みたいなの、できる?

 この場面に出ている4人は皆、新国立劇場演劇研修所の10期生で、さすがに息はぴったりです。同じ野球部だったという設定は難なくクリアですね。男同士のラブシーンもとても自然で…ドキドキしました♪

写真左から:高倉直人、岩男海史、中西良介、永田涼
写真左から:高倉直人、岩男海史、中西良介、永田涼

 『冬のサボテン』の舞台は1975年~1995年です。2019年の今だとピンとこない単語は、適宜変更していきます。稽古中にオンタイムでセリフを追加・変更できるのは、演出の鄭さんがこの戯曲の作者だからなんですね。ト書きがセリフになることもあり、とても刺激的でした。

 5人目の登場人物を演じるのは大江晋平さん。実は、原作では声のみの出演だった役なのですが、鄭さんのアイデアで登場することに。原作者によって『冬のサボテン』の新バージョンが誕生します!

写真左から:大江晋平(後ろ姿)、鄭義信
写真左から:大江晋平(後ろ姿)、鄭義信

 予定より1時間ほど早く稽古が終わると、自主稽古が始まりました。永田さんは三味線を演奏しながら歌う場面があり、振付の田村彩絵さんに確認してもらいつつ、鄭さんにも披露します。
 作曲は中村中さん。中村さんの歌と演奏をお手本に、鄭さんと田村さんの助言をふまえて生まれた永田さんのパフォーマンスは…かなりはっちゃけてます(笑)。最終的には鄭さんのOKも出たようです。

写真左から:永田涼、田村彩絵(後ろ姿)
写真左から:永田涼、田村彩絵(後ろ姿)

 稽古場の外の廊下では、元野球部の中西さんの指導のもと、大江さんが素振りの猛特訓中。大江さん演じるキーマンがどこで登場するのかは、本番でお確かめください♪

写真左から:大江晋平、中西良介
写真左から:大江晋平、中西良介

 10期生のことは研修所公演(⇒)の稽古場と本番で拝見してきました。研修所内で野木萌葱作『東京裁判』を自主上演したことも強く印象に残っており、そのメンバーで団体を立ち上げたと聞いた時、私はするりと納得しました。

 岩男さんと中西さんは、鄭さんが作・演出された新国立劇場『赤道の下のマクベス』(2018年3月)に出演しています。その縁で鄭さんに『冬のサボテン』を紹介されて、今に至ったんですね。『赤道の下の~』の次にお二人が共演した『THE PILLOWMAN』(2018年12月)は、私の「2018年の心に残る10本」の1つです。

 今年の同研修所『朗読劇「ひめゆり」』で演出助手をつとめた中西さんは、集団を信じてストイックに情熱を傾け、常に飛躍するチャンスを狙っているようでした(⇒稽古場レポート)。『冬のサボテン』の稽古場も同様で、誰もがいつも臨戦態勢です。創作の場で水を得た魚のように生き生きとしている俳優たちが、本番でその成果を存分に発揮してくれそうです。

saboten12

●アヴァンギャルド×コンプレックス『COUPLES 冬のサボテン』
 10/31(木) ~11/04(月・祝) @小劇場 楽園(下北沢)
 ⇒一般前売チケット予約
 ⇒当日精算チケット予約

■クラウドファンディング

 旗揚げ公演で、赤字前提でチケット代を安くする決断には少々驚きましたが、クラウドファンディングを見事に成功させた勇気と実行力に感服しました。

 クラウドファンディングのリターンとして開催されたプレイベントも充実していました。

■公式

※写真は敬称略
出演:岩男海史 高倉直人 永田涼 中西良介 大江晋平
作・監修: 鄭義信 作曲: 中村中 美術・宣伝美術: 岩男百花 照明:平松篤 音響:前田マサヒロ 衣装: 岩男海史 振付: 田村彩絵 舞台監督: 三上文緒 制作: emuzplan 宣伝撮影: 名児耶洋 広報: 段裕之 営業: 大橋哲也 演出捕: 椎名一浩 営業協力: 妃咲姫 特別協力: 阿岐之将一 広報協力: 小園優 撮影協力: あすとろ スペシャルサンクス: 青山吉良
一般前売:3,500円 カップル割:6000円(2人1組) 演劇はじめて割:2000円 当日券は各チケット料金にプラス500円
プレ・イベント:https://avant-garde-complex.com/event/saboten-pre-event/
https://avant-garde-complex.com/special/saboten-tokusyu/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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