1991年にダニー・デヴィード、グレゴリー・ペックらの共演で映画化された米国戯曲を、小笠原響さんの演出で上演。
劇団昴「他人の金」約2時間20分、休憩込。老舗会社とそれに目を付けた資本家のバトル。面白かった♪約30年前の戯曲が現代も映す。経営者、株主、労働者の関係が明快。生存競争と良心のせめぎ合いも。金子由之さんの演技に説得力あり。小笠原響さんの翻訳劇演出は見逃せない。https://t.co/sX1w9eXcCd
— 高野しのぶ(しのぶの演劇レビュー) (@shinorev) 2019年6月2日
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≪あらすじ≫ https://stage.corich.jp/stage/99418
時代に取り残されたものは容赦なく切り捨てなければ、先へ進めない。
父の会社を引き継ぎ38年、今は会長を務めるジョーゲンソン。彼の頼りは社長のコール。彼らはニューヨークからの客を待っている。やってきたのはM&A(会社合併・買収)のエキスパート。要は名うての乗っ取り屋ガーフィンクル。彼の頼りは最新のコンピューター。「額に汗して生まれた金」と「マネーゲームで湧いてくる金」。時代が生み出した圧倒的な価値観の違いは両者の間に後戻りできない深い溝をつくり出していく…。
≪ここまで≫
下手側が資本家のオフィス、上手側が電線メーカーであるニューイングランド・ワイヤー・アンド・ケーブル社になっている抽象美術です。上手は手前側に部屋があり、レンガ造りの温かみのある空間です。下手奥のガーフィンクルの部屋は、デスクの上にパソコンのディスプレイが光っていてシャープな印象。彼の部屋は数段高い目になっていて、奥の壁の裏側には通路があります。下手端は舞台中央の床より低くなっていて、下手奥から手前に来る時は、階段を数段登って出てきます。これらの段差が広がりを持たせていてよかったです。ニューイングランドとニューヨークを行き来しますし、観客に話しかける演技もあります。転換がシンプルに処理されてとても見やすかったです。
会話や場面の意味、意図がはっきりとしていて、それゆえセリフも素直に受け取ることができたように思います。長台詞に聞き入ることができて幸せでした。
劇団昴「他人の金」に酷似↓
「(原因は)構造改革(略)。典型的には小泉政権の時に起こった(略)、不良債権処理っていうお題目で、ここにはメディアもみんな乗っかったんですけれども、潰す必要のない企業っていうのを軒並み潰して、それを二束三文でハゲタカに売り渡すという事をやったんです」 https://t.co/qFOgRj6PgI— 高野しのぶ(しのぶの演劇レビュー) (@shinorev) 2019年6月3日
ここからネタバレします。※正確性は保証できません。
臨時株主総会を開いて直接、株主の賛否を問うことに。ジョーゲンソン(金子由之)の演説が素晴らしかったです。ワイヤーなどはいずれ老朽化するので、いつかまた需要が増える。その時まで、底力をつけて会社を継続するという考えは、インフラを担う決意ですよね。ガーフィンクルの主張はその責任を放棄するもので、資本主義社会においては理論的に正しいのだと思います。多数決で資本家が勝利するという苦い結果にも納得でした。
経営陣が総入れ替えとなった会社では、一番古くてお荷物となっていたワイヤー等の部門を切り捨てることに。その部門の労働者(数百人だったかな)はクビになります。退いた会長は高跳びせずに地元に残り、2年後、3000万ドルの資産を残して死亡。秘書が工場跡地と彼の遺産を使い、元労働者の救済施設を作ります。たしか100人ぐらいが再就職のための訓練を受けているという結末だったかと。ほぼ30年前の脚本なんですよね…。行き過ぎた資本主義が実行されてきた結果が今の日本なのだろうと思います。
≪ポスト・ショー・トーク≫ ※セリフなどは正確ではありません。
演出の小笠原響さんがおっしゃるには、映画では資本家と女性弁護士の恋愛が主軸だったそうです。戯曲の翻訳にあたっては、吉原豊司さんは経営者(雇われ社長)に重点を置いていただろうとのこと。社長は保身のために、会長から資本家側へと寝返ります。そういえば会社を支えてきた銀行マン(登場しない)も資本家側についたので、会長がショックを受けていましたね。
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「俺が大事なのは自分の金だ」という会長のセリフについて原文を当たると、「金」は「money」ではなく「nickels(ニッケルズ、小銭)」だったとのこと。それでセリフの「金」は「5セント」に変えて、会長はいつもポケットに小銭を入れていることにしたそうです。素晴らしいと思いました。
【出演】乗っ取り屋ガーフィンクル:遠藤純一、会長秘書の娘で敏腕女性弁護士のケート・サリバン(ガーフィンクルと敵対していたが、最終的には彼の会社に就職し、彼と結婚):米倉紀之子、ジョーゲンソン会長(あと2年で引退のはずだった):金子由之、会長秘書ビー・サリバン(38年間、ジョーゲンソンを助ける未亡人):一柳みる、コール社長(約10年強、ジョーゲンソンに仕えている):石田博英
作=ジェリー・スターナー Jerry Sterner (1938~2001) 訳=吉原豊司 演出:小笠原響
美術:岡田志乃 照明:石島奈津子 衣裳:原田夏おる 音楽:日高哲英 音響:藤平美保子 舞台監督:三輪学 演出助手:古谷みちる 写真:梅原渉 宣伝美術:真家亜紀子 制作:劇団昴
【発売日】2019/04/22
全席指定 一般 4500円 U24(24歳以下) 2800円
U24・学生チケットは、当日ご来場の際に年齢の証明できるものをご提示ください。
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Jerry Sterner
https://www.imdb.com/name/nm0827957/
https://en.wikipedia.org/wiki/Jerry_Sterner
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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