新国立劇場演劇『誰もいない国』11/08-11/25新国立劇場小劇場THE PIT

 寺十吾さんがピンター作『誰もいない国』を演出されます。初日を拝見しました。上演時間は約2時間25分(1幕65分 休憩15分 2幕65分)。

 ナショナル・シアター・ライヴで拝見し、私にしては非常に珍しいことに、戯曲を事前に読んでから伺ったんですよね。解釈の違いを発見したり、比較したりできてよかったです。

≪あらすじ≫ 公式サイトより(俳優名を追加)
ロンドン北西部にある屋敷の大きな一室。ある夏の夜、屋敷の主人ハースト(柄本明)とスプーナー(石倉三郎)が酒を飲んでいる。詩人のスプーナーは、酒場で同席した作家ハーストについて家まできたようだ。酒が進むにつれ、べらべらと自らをアピールするスプーナーに対し、寡黙なハースト。スプーナーは、共通の話題を見出そうとハーストに話をふるが、もはやそれが現実なのか虚構の話なのかわからない。そこへ、ハーストの同居人の男たち(有薗芳記、平埜生成)が現れて・・・。
≪ここまで≫

 語られる言葉の意味、関係性の変化が何を示しているのか…明らかな回答は得づらい戯曲です。舞台で起こる出来事を、必死で集中して追いかける緊張感が心地よく、意外性もあって、充実の観劇になりました。男性4人の恋愛がらみのエロティックな空気が流れるのも良かったです。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 冒頭で上手にあるレコード(蓄音機)から音楽が流れました。後で「親父(=ハースト)はドイツ歌曲を楽しんでいるはずだった」というセリフがあるので、ドイツ歌曲が流れていたのだなと気づきます。また、ハーストが湖について言及するので、徐々にステージに満ちてくる水は彼の頭の中を具現化したものだと解釈可能です。

 私が特に気になったのは、戯曲には書かれていないハーストのベッドを舞台中央あたりに設置したことです。ハーストは「なかなか寝られなかったが少し寝られた」などと言います。そのことが、演技でそのまま表現されていたのです。NTLive版では部屋から去ったハーストのその後のことは、舞台上には出てきません。去ったら去っただけでした。

 ピンターの戯曲は、書かれていることが本当に起こったことなのかが不明であるところが面白いと私は思います。今作はセリフで言われたことを舞台上で実現させる演出で、ある意味「わかりやすい」仕上がりだったとは思います。でも「わかりやすさ」が、不可解ゆえの甘美な謎や、謎のまま放置される恐ろしさなどの、ピンターならではの面白味を切り落としてしまった印象も受けました。

 ハーストとスプーナーは従軍経験があり、その自慢話をします。壁にたくさん飾られた黒く焦げたような額は、死者たちの姿を想像させました。

■『誰もいない国』チラシ、パンフ

出演:柄本明、石倉三郎、有薗芳記、平埜生成
脚本:ハロルド・ピンター 翻訳:喜志哲雄 演出:寺十吾
美術:池田ともゆき 照明:中川隆一 音楽:坂本弘道 音響:岩野直人 衣裳:半田悦子 ヘアメイク:林みゆき 演出補:大西一郎 演出助手:城田美樹 舞台監督:幸光順平 プロンプター:今井聡
【発売日】2018/09/09 A席:6,480円 B席:3,240円 Z席 1,620円
【ギャラリー・プロジェクト】
演劇噺Vol.1「ピンター、人と作品」:https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/library/exhibition/detail/18_012999.html
公演ガイドツアー「誰もいない国」:https://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/library/exhibition/detail/18_013000.html
https://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_011667.html
https://stage.corich.jp/stage/94826

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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