こまつ座『父と暮せば』06/05-17俳優座劇場

 『父と暮せば』は1994年初演の井上ひさしさんの二人芝居です。演出は鵜山仁さん。上演回数はのべ500回を超えているとか。

 今回は山崎一さんと伊勢佳世さんが父娘を演じます。上演時間は約1時間25分。山形、宮城公演の他、学校公演もあるそうです。その学校の生徒さんは幸せですね。

 どなたにも、一生に一度は観ていただきたいお芝居です。観たことがある方は、新キャストでイメージ一新した今回をお見逃しなく。お友達、ご家族、恋人をどうぞお誘いください。若い方にもぜひご覧いただきたいです。

 演出の鵜山さんのコメント↓です。

 「昔むかし、こんなことがありました」という自分に関係のない過去の歴史物語ではなく、「今、目の前にいる人に起こっていることが、自分や大切な人に起こったら…」と考えられる仕上がりになっていると思います。今、新国立劇場で上演されている『夢の裂け目』と同様、井上ひさし作品が今後も上演によって継承されていくべきだと確認できました。

 映画版↓は原田芳雄さんと宮沢りえさんの父娘ペアで、浅野忠信さんも出演されています。

父と暮せば 通常版 [DVD]
父と暮せば 通常版 [DVD]
posted with amazlet at 18.06.07
バンダイビジュアル (2005-06-24)
売り上げランキング: 55,281

≪作品紹介≫ 公式サイトより
こまつ座「戦後”命”の三部作」の
記念すべき第一作。
魅力あふれる新しい俳優を迎え堂々上演。

あの被爆者たちは、核の存在から逃れることのできない
二十世紀後半の世界中の人間を代表して、
地獄の火で焼かれたのだ。
だから被害者意識からではなく、
世界五十四億人の人間の一人として、
あの地獄を知っていながら、「知らないふり」をすることは、
なににもまして罪深いことだと考えるから書くのである。
おそらく私の一生は、
ヒロシマとナガサキとを書きおえたときに終わるだろう。
この作品はそのシリーズの第一作である。
どうか御覧になってください。

―――井上ひさし
≪ここまで≫

 1945年8月6日から約3年後、7月末の数日間の物語です。舞台は広島の図書館で働く23歳の福吉美津江が一人で暮らしているボロ屋。そこに美津江の父、福吉竹造が現れます。

 山崎一さんは緻密でありながら情熱的でもあり、観客に開かれた柔軟さもあって、親しみやすくて可愛らしい、新しい父像を見せてくださいました。コント的笑いも会話の妙から生まれる笑いも、軽やかに、手堅く決めてくださいます。『シャンハイムーン』でも素晴らしかったので、ぜひ今年の演技の賞を受賞していただきたいですね。

 伊勢佳世さん演じる娘は真面目で理知的な人物造形で、きびきびとした無駄のない所作には現代の働く女性らしいリアリティーがありました。私たちの隣にいるような身近な人が、広島の原爆の真下で被ばくしたのだと想像できました。「自分は幸せになってはいけない」と自分を抑制する意志の強さは涼しげで凛々しくて、人間の美徳を伝えてくださったように思います。個人的な感想ですが、山崎さんとのバランスもあるので、恋の喜びや食の楽しみについては、もっと増幅させてもいいのではと思いました。もっと触れ幅広く、頻繁に切り替えてもいいのではないかと。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 娘の恋心から生まれた父の幽霊は神出鬼没です。早くに妻を亡くし、生前は未亡人に贈り物を送って猛アタックするなど、やんちゃな面もありました。山崎さんが演じる父は可愛らしかったです。

 太陽の表面温度の2倍の熱さになる爆弾が、地上500mという高さで爆発し、その瞬間に真下にあったものが焼けて溶けて消滅した…。俳優の言葉と演技を受け取りながら、具体的に想像できました。本当に恐ろしいことです。

 表面がとげだらけの原爆瓦や溶けてひん曲がったガラス瓶を武器にして、鬼のお腹の中で暴れる「一寸法師」の寸劇は、おどけた様子も交えながら、父の腹の底にある怒りがじわじわと燃え滾っていくようでした。そういえば鬼とは米国のことでしょうか。今回初めて思い当たりました。

 図書館利用者で原爆関連物を収集している“木下さん”という27歳の男性は、娘の原爆症が再発したら命がけで看病するし、二人の間に生まれた子供に問題があっても、必死で育てると言います。それでも娘は彼から離れよう、姿を消そうとするのです。それほどまでに彼女の心身の傷は深く、重いんですね。

 原爆症は忘れたころに現れる。いつだまし討ちに遭うかわからない。そんな恐怖を体に埋め込んだ原爆の恐ろしさ、それを落とした人間の非道を何度も思い出して、沸き上がる怒りを忘れないようにしたいと思います。復讐ではなく、決して繰り返さないという意志を持ち続けるためです。
 私たちは死者に生かされている。このこともずっと胸に留めておきたいですね。娘の“恋の応援団長”である父の激励は、観客一人ひとりにも届けられているのだと思います。

≪東京、山形、宮城≫
出演:山崎一、伊勢佳世
脚本:井上ひさし
演出:鵜山仁
音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司 照明:服部基 音響:深川定次 秦大介 宣伝美術:安野光雅 方言指導:大原穣子 出先拓也 演出助手:西本由香 舞台監督:宮﨑康成 制作統括:井上麻矢 制作:若林潤 遠山ちあき 嶋拓哉
一般5500円 U-30(観劇時30歳以下)3500円
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html
http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#more307
http://stage.corich.jp/stage/91766

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガ↓も発行しております♪

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台

   

バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ