小野寺修二さんがSPAC・静岡県舞台芸術センターにて、フランツ・カフカの小説『変身』を舞台化。2014年の初演から約3年ぶりの再演です。出演者は11人から10人に減り、一部変更もあり。上演時間は1時間15分強だったような…うろ覚えです。
スタイリッシュかつソリッドで独自の解釈もあり、とても面白かったです。やはりSPAC俳優があってこそだと思いました。誰も皆、静止する瞬間が美しい!!SPACを観るために東京から静岡まで行くのが自分にとって当たり前になってきたのは、クオリティーが約束されているからだと思います。 ⇒『変身』日記(公式ブログ)
終演後にケラリーノ・サンドロヴィッチさんを迎えたトークがありました。
新生「変身」開幕、小野寺修二「今、ここ静岡でしか観られないものに」 https://t.co/yILQbhLqT0 pic.twitter.com/8X2ORBJF1A
— ステージナタリー (@stage_natalie) 2017年11月18日
≪作品紹介・あらすじ≫ 公式サイトより
ある朝、自分が一匹の巨大な毒虫に変わっているのに気付いた――。
カフカの名作を、ジャンルにとらわれない多彩な活躍で話題をさらう小野寺修二が演出。マイムをベースにした身体表現に台詞を取り入れる独自の手法で、不条理な世界をスタイリッシュな舞台に変容させる。待望の再演!
ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめると、自らの身体が一匹の巨大な毒虫に変わってしまっているのに気がついた…。グレゴールは真面目なセールスマンだった。今まで遅刻のひとつもしたことはない。父親の商売が失敗した後、家計を支えるために身を粉にして働いてきた。しかし、虫になってしまったグレゴールを家族はもてあまし、次第に疎んじるようになる。
≪ここまで≫
「ある男が虫になる」という不思議な小説です。KERAさんがトークでもおっしゃっていましたが、原作に忠実な内容でした。パンフレット(200円)を読んでから観てもいいと思います(私は読んでから観ました)。
中央より少し下手寄りに黒くて四角い台があるだけで、正面奥の壁や袖の幕は露出しているシンプルな舞台美術です(舞台美術デザイン:深沢襟 ⇒写真)。台は緩やかに斜めに傾いていて、テーブルやベッドなどが置かれているのですが、実は仕掛けがいっぱいあり、魔法の箱のようでした。これがシャープでかっこいい!舞台は広くて余裕があるのに、主に台の上で物語を展開していくのは、虫になった男とその家族が暮らす小さな家の中の、閉じられた世界の話だからかもしれません。
道具の移動や身体表現、俳優同士のアンサンブルが緻密に組み立てられており、時にコミカルで、時に恐ろしいのは、小野寺演出ならでは。無言の時間もありますが、今回は語り部(大高浩一)がいて、登場人物もよく話します。小野寺さんは「出演者がSPAC俳優だから(セリフを多くした)」「大高さんに絶大の信頼を置いている」ともおっしゃっていました。
2007年の『巨匠』からSPAC作品を拝見してきて(全てではありませんが)、SPAC俳優の方々は随分と変わって来られた気がします。芸術総監督の宮城聰さんだけでなく、外部から演出家(ノゾエ征爾さん、古舘寛治さんなど)を招いていることが影響しているのではないでしょうか。SCOT、ク・ナウカといえば身体にフォーカスした演劇のイメージがあるのですが、いわゆる自然な演技というか、感情と言葉と動きを一致させるタイプの方法(「様式」か「世話」かといえば「世話」)も経験されているんですよね。全体的に柔らかくなっていて、私にとっては魅力が増しています。
特に印象に残ったのは父役の貴島豪さんのどっしりとした安定感と凄味、母役の榊原有美さんの芯の太い喜劇性。額縁の女役のたきいみきさんが女性の“美”を担当。大高浩一さんの最後は田中泯さんのよう。元スパカンファンの宮城嶋遥加さん(妹役)の踊りも素晴らしかった~♪ ベテランと超若手の混成キャストが垣根なく有機的に機能しているのも、SPACという劇団の魅力になってきたのかもしれません。
ここからネタバレします。
グレゴールは男優3人が演じます。ごく普通のセールスマンが大きな虫になったところ(野口俊丞)、生き生きと虫として活動するところ(武石守正)、父に投げつけられた林檎が体にめり込んで弱ってくるところ(大高浩一)という風に、段階に分かれます。※初演とは違う演出だそうです(再演ではグレゴール役がハッキリと存在するようになった)。
野口⇒武石⇒大高という順番は年齢順にも見え、人間の“老い”も示しているようでした。そうすると介護放棄にも見えてくるわけで、現実により近づきますね。
全体的に照明は暗い目でしたが、決定的な事件が起きた時だけ舞台奥の壁を煌々と照らし、空間を激変させます。たぶん、初めてグレゴールの部屋のドアが開けられた時、虫のグレゴールが部屋を出てきた時、そして父がグレゴールに林檎をぶつけた時(間違ってたらすみません)。
グレゴールだけで虫の姿を表現するのではなく、複数人の俳優が虫のような動きをしながらグレゴールに近づき、全員が一体となって1匹の大きな虫になったりしていました。彼だけでなく、誰でも虫になる可能性があると解釈できました。虫の鳴き声(?)が人の声で発せられることもありましたね。KERAさんが音(音響効果)が良かったと指摘されていました。小野寺さんによると何度も録音したとのこと。
配布される「劇場文化」で小野寺さんが「緊迫した場面で走り寄る母親は下着姿だ」と書かれており、本当に母親(榊原有美)が下着姿に!(笑) 「息子(=虫)を助けて」と父(=夫)に懇願する場面で、笑っていいのか怖がっていいのかわからないのが、個人的にとても面白かったです。
グレゴールの部屋に掛かっている女性の絵を美しいたきいみきさんが演じており、彼女がグレゴールに色目を使って彼を翻弄する場面があります。母とその女がこの作品中でエロスを担当していたようで、私は『変身』にそういう要素があったのかと初めて発見した気持ちになりました。妹役は2人1役(鈴木真理子&宮城嶋遥加)で、彼女が兄を捨てると決心するほどに成長した後は、たきいみきさんが1人で演じるという演出でした。
写真↓は新国立劇場演劇研修所1期生の野口俊丞さん(⇒以前の写真)。野口さんは修了後、わりと早い時期にSPAC『ハムレット』(2008年)に出演されています。
『変身』は再演からの参加で、最初に主人公グレゴールを演じていました。野口さんは体が大きくて身体能力が高い!女性を持ち上げるリフトも安心でした。
私は、劇場空間においてプレーンに存在できるのが修了生の凄いところの1つだと思っていまして、段階的に変化するグレゴールの初期は、野口さんのプレーンな存在感が合っていたように思います。
≪11月18日(土)終演後のアーティスト・トーク≫ 私がメモできた程度です。
登壇者:ケラリーノ・サンドロヴィッチ (劇作家・演出家・音楽家・映画監督)、小野寺修二(演出)、宮城聰(SPAC芸術総監督)
KERA:カフカは知れば知るほど、あれが好き、これが好きと、好きなことが出て来てしまい、話が止まらなくなるほど好き。今までに『カフカズ・ディック』(2001年)、『世田谷カフカ』(2009年)という舞台を作った。今日は昨日作ってもらったカフカTシャツを着てきました(笑)。カフカは止むにやまれず書いた、書かずにはおれなかった人。彼は小さいノートと大きいノートに書いていて、決して書き直さない。推敲しない。ドアノブのディテールを3ページ書いてたりする。
KERA:小野寺君とは仕事をしているから手の内は分かってるつもりだけど、今回もいろんな色を見せてくれた。静岡に来た甲斐があった。思ってたより硬派で原作に忠実。音が良かった。SEは期待どおりのイメージが出てこないこともある。台本は地の文を使ってるよね。もっとセリフは少なくていいのでは。
小野寺:初演に比べると10分ぐらいセリフはカットしてます。僕はSPAC俳優の声がすごく好き。中高生に観てもらうこともあり、声ってこんなに出せるんだよ、人の声ってこんなに豊かに聞こえるんだよ、と伝えたかったのもある。
宮城:語り手が観客とどういう関係を持っているのか。
小野寺:僕は(語り手役の)大高さんに絶大の信頼を置いている。大高さんが語っているのは、グレゴールおよび語り手の言葉。大高さん自身の感性も働いてる。グレーなところを狙ってほしいと伝えた。
宮城:居心地の悪い在り方だったと思う。
小野寺:わざとというか、揺れている感じが、カフカのバックグラウンドではないか。
KERA:カフカは妹と仲良しだった。昼は保険屋で働き、夜に書いた。「変身」は書き終えてすぐに妹に朗読して聞かせている。笑いを誘うようにコミカルに聴かせたという逸話がある。一気呵成に書いて、嬉しそうに、妹に笑って欲しくて語ったのかも。だから語り手役は妹に語り掛けてるとも思える。「変身」の最後は妹の一言で決定がなされる。(書いている時から)妹の反応がカフカの頭の中にあったんじゃないか。
SPAC『変身』初日のトークゲストはケラリーノ・サンドロヴィッチさん。カフカの顔がプリントされたオリジナルTシャツで登場。宮城さんは小野寺修二演出のSPAC『オイディプス』の座組Tシャツ。カフカ愛と小野寺愛!
— narushima yoko (@ynarunarugo) 2017年11月18日
宮城:カフカは舞台化されることが多い作家。なぜでしょう。
KERA:舞台化しやすいわけではないと思うんですが。演出家の松本修さんは全部舞台化されてます。「近づけば近づくほど遠くなる城」をどう舞台化するか、虫をどうやって舞台に出すかなど、挑戦したくなるのかも。
宮城:カフカはまさか100年後にこんなに遠くの国で上演されるとは思っていなかった。
KERA:友達に、死んだら作品は焼いてくれと言ったぐらい。
宮城:チェコのドイツ人という、母国語を喋っている人がすごく少ない場所に居た。それが今や普遍性を持っている。ある時に一世を風靡したものが、たちまち時代とともに消えて行ったりするのに。
KERA:もっとも研究書が多い作家でもありますね。古びない。古びようがない。コミック化、アニメ化をされても常に新鮮。
KERA:中高生の反応はどう?全然子供向けに作ってないよね。
小野寺:はい、そうですね。集中して観てくれている。最初に俳優が虫の声を出すんだけど、彼らも客席でくちゃくちゃ言い始める(笑)。思わぬところで笑う。たとえば全然違うことが始まると笑うとか。生理的に受け止める何かがあるんでしょうね。
小野寺:今回は(観客を意図的に笑わせるような)細かいくすぐりのようなことは止めたいと思って作った。そういうところじゃないところに、面白さを。KERAさんと『キネマと恋人』をやって、自分のやっていることはドラマや笑いがある演劇に敵わないかもと思った。
KERA:俺は逆に、「(パントマイムの)無対象を信じる力(思い込みの力)」に敵わないんじゃないかと思ってた。
KERA:今、『ちょっと、まってください』という新作を上演中です。60年代の別役実作品の、世相も含めて重苦しい感じを模倣したんです。それが想定外に受け入れられている。出演者の水野美紀がツイッターで「不条理の感度が高くなるような生活を強いられてる」と言っていた。
宮城:現実がカフカにたどり着いちゃった。
小野寺:観客が不条理に驚かなくなってる。
宮城:言葉について。人間にとって言葉が最大の異物。言葉を獲得したことで、人間は極めて居心地が悪い存在になった。
KERA:カフカも(世間の中で)居心地が悪そうな人だよね。
小野寺:KERAさんと宮城さんの横にいる僕も居心地が悪いです(笑)。
現実の方が
とんでもなく不条理
だからでしょうか、お客様の
不条理への感度が
とても高い
そんな事を感じますナイロン100℃
『ちょっと、まってください』本日もいってきます
— 水野美紀 (@mikimobilephone) 2017年11月17日
SPAC秋→春のシーズン2017-2018 ♯2
中高生鑑賞事業公演「SPACeSHIPげきとも!」:11/13-12/13の平日の中高生鑑賞事業公演。
【出演】語り部、グレゴール3:大高浩一、父:貴島豪、母:榊原有美、妹1:鈴木真理子、額縁の女、成長した妹:たきいみき、雇い主、グレゴール2、間借り人:武石守正、使用人(ほうきを持っている):舘野百代、グレゴール1、間借り人:野口俊丞、妹2:宮城嶋遥加、間借り人:吉見亮
原作:フランツ・カフカ
音楽:阿部海太郎
演出:小野寺修二
舞台監督: 山田貴大
舞台美術デザイン: 深沢襟
照明デザイン: 吉本有輝子
音響デザイン: 加藤久直
衣裳デザイン: 駒井友美子
演出部: 神谷俊貴、渡部宏規、折本弓佳
美術担当: 佐藤洋輔、渡部宏規
照明操作: 久松夕香
音響操作: 山﨑智美
ワードローブ: 清千草
演出助手: 藤田桃子
制作: 中野三希子、梶谷智
主催:SPAC – 静岡県舞台芸術センター
支援:平成29年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
【発売日】2017/08/05
一般:4,100円
ペア割引:3,600円(2名様で1枚につき)
グループ割引:3,200円(3名様以上で1枚につき)
※10名様以上の場合は電話・窓口にてお取り扱い
ゆうゆう割引:3,400円 (満60歳以上の方)
※公演当日、受付にて身分証をご提示ください。
学生割引:
[大学生・専門学校生]2,000円
[高校生以下]1,000円
※公演当日、受付にて学生証をご提示ください。
障がい者割引:2,800円[障害者手帳をお持ちの方]
※公演当日、受付にて障害者手帳をご提示ください。
※付添の方(1名様)は無料 ※電話・窓口のみのお取り扱い
http://spac.or.jp/die_verwandlung_2017.html
http://stage.corich.jp/stage/86706
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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