ナイロン100℃『ちょっと、まってください』11/10-12/03本多劇場

shinobu

　ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが作・演出される劇団ナイロン100℃の三年振りの新作ツアーです。折り込みチラシの中に“別役実戯曲へのオマージュ”の解説文あり。上演時間は約3時間10分（途中休憩15分を含む）。

　めちゃくちゃ面白かった！いっぱい笑ったのにセリフ全然覚えてない！（いつも通り）。1分に1回は笑える要素があった気がします（人それぞれですが）。意外な、というか、有り得ない展開にノリノリで身を任せ、何度も笑ううちに急に恐怖を感じたりもして、舞台上のやりとりが現代の出来事のようにも見えてきました。舞台美術のプロジェクション・マッピングに今回もドキドキしてうっとり～♪

　客席から観ていて明らかにおかしいと思える舞台上の発言、解釈、行動が、次に起こる出来事によってすぐに覆されます。正誤、善悪、虚実がくるくると反転し続けるので、ずっと集中してゾクゾクしながら楽しめました。私の中にある常識を疑い、舞台上の出来事から“本当のこと”を探す時間でもあったと思います。

　白塗りメイクで匿名性が増した効果なのか、誰のことも、どんなことも、自分自身に降りかかるかもしれないという意識を持てました。
　大倉孝二さんと水野美紀さんの兄妹がとても色っぽかったです。みのすけさんと村岡希美さんが演じる乞食夫婦の家族観の絶望的食い違いが、人間の自然な姿にも見えました。

　ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。役名も自信がありません…。　

　旦那様（三宅弘城）、奥様（犬山イヌコ）、息子ピンカートン（遠藤雄弥）、娘ラーラ（峯村リエ）の四人家族とその使用人トマッソ（マギー）、ユードラ（小園茉奈）が暮らす屋敷。旦那様は大金持ちだと思っていますが、実は借金だらけ。家を切り盛りしているのは奥様です。美術は回り舞台になっており、下手の壁が上手へとぐるりと移動して、ガランとした屋敷の庭が現れます。そこに父（みのすけ）、母（村岡希美）、兄（大倉孝二）、妹エミリー（水野美紀）、祖母（藤田秀世）の乞食家族が住みつき、なぜかエミリーが旦那様の妻になってしまうのです。最初はピンカートンと結婚すると言っていたのですが、彼の婚約者（木乃江祐希）をはねのけたかと思ったら、父親へと鞍替え。奥様は自ら家を出て乞食になり、乞食の家族が親戚として屋敷に住まうようになります。

　乞食の父は自分たち家族は血がつながっていないと言いますが、母は父と結婚して子供が産まれたというエピソードを語ります。どちらが本当なのかはわかりませんが、家族は、というか、人間はそういうものだよなと思いました。たとえば私が抱いている自分の家族像は、私の母の家族像とは全然違うだろうし、一緒に数十年暮らしてきたとしても、思い出や体験は個人のものだからです。また、血のつながりなんて重要ではないとも思います。

　強引に旦那様の妻になったエミリーですが、また「違う誰かと結婚する」と言い出します。その誰かとは会ったこともないのに。兄はエミリーを受け入れ、元乞食家族は屋敷から出て行くことにしました。エミリーと兄はすごく仲良しで、じゃれ合う様子がセクシーです。血がつながっていないかもしれない…と想像できるからでもあると思います。

　『ちょっと、まってください』は文字通り「少し待って」という意味で、最初は「借金の取り立てが来たら、ちょっと待ってくださいと言うのよ」という奥様のセリフに出てきました。でもトマッソ（マギー）が何度か言ううちに、大切なことが話し合いもなしに強引に決められて、全く説明なく、納得できないままドンドコ進められていくという、今の日本についての一言なんだと思えて来ました。

　「札束入りの封筒の中身が実はコンニャク」というエピソードは、コンニャクが100万円（レンガが1000万円）という鴻池祥肇議員の発言（2017年3月）からですよね、きっと（⇒政界の賄賂の隠語）。
　何に賛成なのか反対なのか知らずに“反対派”の組織が運動を繰り広げ、それに反対する“賛成派”も存在するのは、ネット右翼、ネット左翼などと単純にカテゴライズして、互いの反感を煽るばかりの日本の現状のよう。“反対派”でもなく“賛成派”でもない“中立派”の同意書にサインしたら、実は「罪人リスト」だった…というのも、現実に起こり得ることだと思います。

　トマッソが札束（コンニャク？）でぎっしりのアタッシュケースを手に、ユードラと屋敷を出て行こうとしたら、庭で旦那様の死刑が執行されそうになります。やがて「罪人リスト」にサインをしたのは旦那様ではなくトマッソだという流れになり、あれよあれよという間に、ユードラがトマッソをピストルで撃ってしまい、警察（廣川三憲）がユードラを逮捕するという顛末に。
　人間はピストルがあれば撃つし、誰かが倒れてたらすぐに死んでいると思い込むし、全く取り調べせずに近くにいた怪しそうな人を犯人扱いするし、犯人だと言われたら信じ込むし…。愚かしいことが次々に起こって“不条理”が複雑に折り重なっていきます。現状を把握せず、過去を顧みず、今の自分の気持ちもよく確かめない人々が、ひたすら周囲の目を気にして、空気を読んで（忖度して）、状況に流されていく様子を見せつけられた気がしました。

　最後に空から降り注ぐのは美しい雪ではなく、飛行船からバラまかれる薬でした。良い薬なのか悪い薬なのか、嘘か本当かも明かされないまま終幕。

　舞台美術に映像が投影される際、回転している最中も、映像が壁や窓の形状にぴったり合うようになっていました！ゾクゾクした～！

　※劇中で歌われる歌は別役実さんの戯曲（？）からの引用のようです（知人から聞きました）。
　KERAさんから以下の通りご指摘いただきました。戯曲からの引用ではありません。KERAさん本当にありがとうございました！（2017/11/22に加筆訂正し、お詫びいたします。）

44th SESSION
≪東京、三重、兵庫、広島、北九州、新潟≫
出演：三宅弘城、大倉孝二、みのすけ、犬山イヌコ、峯村リエ、村岡希美、藤田秀世、廣川三憲、木乃江祐希、小園茉奈、水野美紀、遠藤雄弥、マギー
脚本・演出：ケラリーノ・サンドロヴィッチ　音楽：鈴木光介　美術：BOKETA　証明：関口裕二　音響：水越圭一　映像：上田大樹　衣裳：宮本宣子　ヘアメイク：宮内宏明　演出助手：山田美穂　舞台監督；竹井祐樹　福沢諭志　宣伝美術：はらだなおこ　印刷：大洋印刷　プロデューサー：高橋典子　生活統括：川上雄一郎　制作：前田優希　瀬藤真央子　仲谷正資　藤野和美　票券：北里美織子　広報宣伝：米田律子　製作：北牧裕幸　企画・製作：シリーウォーク　キューブ　主催：キューブ
【発売日】2017/09/09
チケット料金：6,900円（前売・当日共/全席指定/税込）
学生割引券：4,300円（東京公演のみ/前売のみ/税込/チケットぴあのみ）
http://www.cubeinc.co.jp/news/#30
http://stage.corich.jp/stage/86192

※クレジットはわかる範囲で載せています（順不同）。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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