ホリプロ『Little Voice リトル・ヴォイス』05/15-28天王洲 銀河劇場

 『リトル・ヴォイス』はミュージカルではなく、歌と踊りの場面があるお芝居です。1992年にサム・メンデス演出で英国初演され、1998年に映画化。今はなき渋谷シネマライズで上映されていた記憶あり(うろ覚えです。見たいなーと思ってたんです)。上演時間は約2時間50分(途中休憩20分込み)。

リトル・ヴォイス [DVD]
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≪あらすじ≫ 公式サイトより
「どういうことだ?アレはラジオか?」
「アレはレコードじゃなくて、LVが歌ってるの。」
「何だって?彼女が歌ってるんだとしたら、ただ事じゃない。」

場所: 英国北部の町
時代: 1992年

英国北部の田舎町に住むリトル・ヴォイス(LV)。
消え入りそうな小声でしか話さない彼女に、母親がつけたニックネームだ。
家に引きこもり、人と会うこともない彼女の唯一の楽しみは、父親の形見の古いレコードを聴くこと。
母親のマリーは、酒と男が大好きで、娘のことなど気にもかけずに奔放に遊び回っている。

ある日、マリーは新しい恋人、レイを家に連れて来た。
うだつの上がらない芸能プロモーターであるレイは、たまたま耳にしたLVの歌声に魅了される。
LVは繰り返しレコードを聴くうちに、ジュディ・ガーランド、マリリン・モンローなど
往年の有名歌手たちの物まねを完璧にマスターしていたのだ。

レイは嫌がるLVを町のクラブで歌わせようとする。マリーもレイの言いなりで、娘の気持ちなど一切考えようとしない。
そんなLVの支えとなったのは、電話工事でLV宅を訪れた青年、ビリー。
自分と同じく内気で繊細なビリーに、LVはいつしか心を許すようになった。
「お父さんのために歌うべき」だとレイから説得されたLVは、一度だけという条件でステージに立つ。
LVの素晴らしい物まねと歌声に観客は大喜び。
レイは大々的にLVを売り出そうと画策するが…
≪ここまで≫ 

 劇場ロビーでアナログ・レコードがかかっていました。機材も3台並んでいて、「レコードってこういうものですよ」と紹介してくださってるんですね。40代の私はレコードにまだ親しんでいた世代ですが、今の若いお客さんは触ったり見たりしたことも、聴いたこともない方が多いんでしょうね。

 ここからネタバレします。

・詳しい目のあらすじ(間違ってたらすみません)

 舞台は1992年の英国北部の田舎町。誰にも聞こえないほどの小声でしか話せないため、母マリー(安蘭けい)にリトル・ヴォイス(LV・エルブイ)という愛称をつけられた少女(大原櫻子)は、いつも2階の自室に閉じこもって、5年前に亡くなった父の形見の古いレコードを聴いている。工場勤めのマリーは男好きで、毎日のように飲んだくれて遊びまわっており、部屋はゴミ貯め同然。母娘の二人暮らしの家をよく訪れるのは、マリーの友人で隣人の女性セイディ(池谷のぶえ)ぐらい。太っちょで気のいいセイディはマリーのわがままを何でも聞く。少々オツムが弱そうだ。

 マリーが連れてきた新しい恋人レイ(高橋和也)は自称芸能プロモーターで、偶然耳にしたLVの歌声にほれ込む。LVは往年の女性歌手(ジュディ・ガーランド、マリリン・モンロー、シャーリー・バッシーなど)そっくりに歌うことができたからだ。レイはLVに町のクラブで歌わせようと提案し、マリーも金に目がくらんで乗り気になる。しかし内気なLVにとっては人前で歌うなんてもってのほか。

 電話工事でLVの家に訪れた青年ビリー(山本涼介)は、引っ込み思案でうまく話が出来ないLVに親近感を持ち、こっそりとLVを訪ねるようになる。ビリーは電話の職人だがライティング(照明)を独学中。ライティングによる空間演出について夢中で話す彼に、LVは次第に心を許していく。ビリーが外壁にハシゴを掛けて登り、2階にいるLVと窓ごしに話をする場面は、ほのかな恋が芽生える気配がありロマンティックだ。

 レイに説得され、LVはクラブの舞台で歌うが大失敗。懲りないレイは「お父さんのために歌うべきだ」だと促し、LVはあと一度だけという条件で再び舞台に立つ。バンドの生演奏をバックに、LVがレイのセットリスト通りに何曲も連続して歌う見せ場になっている。ライブが大成功し、レイも、クラブを経営するミスター・ブー(鳥山昌克)も大はしゃぎ。LVを大々的に売り出そうとするが、4日連続で舞台に立たされたLVは、4日間何も食べず、ベッドに寝たきりになってしまった。自分勝手なマリーよりも、心優しいセイディの方がLVの支えになっている。

 大事な本番なのに動こうとしないLVにぶち切れたレイは、役立たずのマリーを罵倒し尽くし、傷ついたマリーはセイディに助けを求めて家を出る。レイがLVを無理やり引っ張り出そうとしたところ、LVは激しく歌い出した。言葉で話す代わりに、今の自分の気持ちにぴったりの歌を歌うのだ。LVの迫力に押され、階段から落ちて口を切ったレイは、力を落として一人で家を出てクラブに向かった。待ちくたびれた観客たちのブーイングが続くステージで、レイはロイ・オービンの「It’s Over(俺は終わりだ)」を歌う。この間、台所から火が出て家が火事になり、ビリーがLVを救い出す。

 セイディと焼け焦げた家に戻ったマリーは、怒り狂ってLVの大事なレコードを窓から捨てる。帰ってきたLVに向かってマリーは「火事になったのはお前のせいだ」と責め立てる。窓の下に割れたレコードが散らばっていた。レコードの破片をマリーに向けて、初めてLVは自分の言葉で、はっきりと思いを語り始めた。「父はあなたのせいで早死にした。家事もせず浮気ばっかりして全然家にいなかったから。父はそれでもあなたを愛していた」と。LVが去り、一人残されたマリーは「私を許して」と弱さを見せ、ようやく自分の孤独と愚かさを自覚する。それを見てほくそえむセイディ。立場が逆転したのだ。

 ビリーがライティングを試しているクラブに行ったLVは、彼に物まねではなく自分の声で歌ってみてと勧められる。ビリーがデザインした照明の中で歌い出したLVは、初めて自分自身を獲得した輝きを放っていた。終幕。カーテンコールで大原櫻子さんのソロがあり、安蘭けいさん、高橋和也さんもマイクを持って登場。生バンドもあり出演者全員で盛り上がる。

・感想

 原題は”The rise and fall of Little Voice”ですので、LVの人生の浮き沈み(明暗)を描くことが宣言されてる戯曲なんですね。まさか火事にまでなるとは。

 二階建てにしっかり建て込まれた具象の舞台美術です。周り舞台で、リトル・ヴォイスの家、その外側、クラブ(ライブハウス)という3つの空間で構成されていました。暗転中に舞台が回転して場面転換し、つなぎの音楽が流れます。電気を使い過ぎて何度もヒューズが飛び、家の明かりが突然に全て消えてしまうのは、おそらく戯曲の指定なのでしょうが、暗転のいいアイデアですよね。暗転して場面転換するのはオーソドックスな選択ではありますが、物語の流れが何度も途切れてしまって残念でした。照明、映像、演技などで埋められるのではないでしょうか(素人考えですが)。

 劇場でのライブ場面が日常の会話劇の挿入されるお芝居だと、最近はケネス・ブラナー主演「エンターテイナー」(ブラナー・シアター・ライブ(BTLive))が印象に残っています。家の中とミュージックホールの空間が重なっていたんですよね。転換のためだけの暗転はなかったと思います。

 レイがLVの歌を“発見”する場面、そして家の外を歩いていたミスター・ブーもLVの声に感嘆する場面で、レイは「ありえない!」「信じられない!」と何度も言い、ミスター・ブーは「天才だ!」とつぶやいたりします。私には、そんなに「すごい」ふうには聴こえなかったんですよね。ささやくような歌声だけれど、芯があり心がこもっていて温かい、という印象でした。「プロにしかわかりえない(プロだから判別できた)」という設定なのかもしれませんが、観客も興奮するような、もうちょっとインパクトがある歌声にしてもいいんじゃないかと思いました。

 主役の大原櫻子さんは『わたしは真悟』に出てらっしゃいましたね。小柄であどけなさがあって、大迫力の歌唱力を持っているけれど極度に内気な少女LV役に合っていると思いました。モノマネを連発するステージでは色んな声とパフォーマンスを次々と披露して楽ませてくれました。やはりリトル・ヴォイスが自分の声で、自分自身を出して歌唱する、最後の場面が素晴らしかったです。現在、若干21歳とのことで、将来が楽しみですね。

 安蘭けいさんは先日拝見した『白蟻の巣』から一転、飲んだくれで男好き、派手好きな母親役です。下品で愚かだけれど憎めない。人間味と可愛らしさがある。そういう役柄はよくありますが、実現するのは難しいことだと思います。安蘭さんは沢山の工夫とチャレンジをされていて、かっこいいと思いました。元宝塚のスターが歌が下手な人物を演じるのも可笑しくていいですね。

 ・劇中でリトル・ヴォイスが披露する歌(網羅していません)

Shirley Bassey(シャーリー・バッシー) 「Gold Finger」

Shirley Bassey(シャーリー・バッシー) 「Big Spender」

ジュディ・ガーランド「Over the Rainbow」

マリリン・モンロー「I Wanna be Loved by You」

 公演パンフレット(1500円)によると、この他に、ビリー・ホリデイ「Lover Man」、ジュディ・ガーランド「Chicago」、マリリン・モンロー「Happy Birthday Mr. President」、グレイシー・フィールズ「Sing As We Go」、エディット・ピアフ「Non, Je Ne Regrette Rein」、ジュディ・ガーランド「Get Happy」

■観客のツイート

≪東京、富山、福岡≫
出演 リトル・ヴォイス(LV・エルブイ):大原櫻子、マリー:安蘭けい、ビリー:山本涼介、セイディ:池谷のぶえ、レイ・セイ:高橋和也 ミスター・ブー/電話会社職員:鳥山昌克 生演奏:7名
脚本:ジム・カートライト 翻訳:谷賢一 演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
音楽監督:扇谷研人/美術:原田愛/ 照明:原田保/音響:山本浩一/衣裳:藤田友/ヘアメイク:宮内宏明/振付:川崎悦子/歌唱指導:花れん/演出助手:和田沙緒理/舞台監督:齋藤英明、八木智
主催:ホリプロ / フジパシフィックミュージック 企画制作:ホリプロ
【発売日】2017/01/28<全席指定> 10,800円 立見:5,400円 ※一部公演のみ (税込) 
※未就学児入場不可
http://hpot.jp/stage/lv
http://stage.corich.jp/stage/81904

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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