ジョン・ケアードさんが『ハムレット』を演出されます。上演時間は約3時間25分(休憩15分とカーテンコールを含む)。
松岡和子さんの翻訳をもとに、ケアードさんと今井麻緒子さんが上演台本を作成されたんですね。そのまま上演したら約5時間になることもある古典なので、カットの仕方、言葉の選び方によって印象がガラリと変わるのだと思います。カジュアルな言葉遣いが増えているように感じました。
東京公演の後、兵庫、高知、福岡、長野松本、長野上田、愛知でツアーあり。かなり自由度が高そうな作品でした。回を重ねるごとに変わっていくのだろうと思います。
【4月7日~28日「ハムレット」公演 ご来場のお客様へ】開演時間に遅れますと、ステージサイド席含め、ご自席までご案内できない場合がございます。予めご了承をお願い致します。劇場までお気をつけていらして下さい!@hamletstage #東京芸術劇場 pic.twitter.com/jd8PCLvbCD
— 東京芸術劇場 (@geigeki_info) 2017年4月7日
ここからネタバレします。間違っていたらすみません。
能舞台を模した暗い目の抽象空間で、舞台正面だけでなく舞台上の下手側にも客席が設置されています。何もない四角いステージは正面の客席に対して少し斜めを向いていて、ゆるやかな開帳場にもなっています。上手手前には尺八演奏家の藤原道山さん。効果音以外の音楽は尺八の生演奏がほとんど(全て?)というシンプルさでした。
『ハムレット』といえば旅芸人の一座の劇中劇が見せ場のひとつですが、『ハムレット』自体もお芝居であると、わかりやすく示す演出になっていました。俳優は上手側に待機し、出番になると舞台奥の通路から登場します。中央の舞台から降りると、その存在は劇中から消えるというルールになっていました。休憩前に、舞台の上下(かみしも)だけ、つまり俳優側と舞台上客席側にだけ照明が当たる瞬間があり、「見る/見られる」、「生きている/死んでいる」という相反関係が一目瞭然でした。
通常は20~30人が出演するところ、今回のキャストは14人。ハムレット(内野聖陽)が遺言を託す親友ホレイショー役の北村有起哉さんを除いて、誰もが複数役を演じます。和の要素を取り入れた長い丈の衣裳は、白と黒のモノトーンを基調に、役によって色や柄が加わります。羽織や被り物を舞台上で取り換えて違う役に変わるなど、たっぷりとした大きさの割に機動性が高そうでした。
ホレイショーが語り部となり『ハムレット』の物語を観客に披露するという枠組みでした。オープニングがよかったです。最初に一人だけで登場したホレイショーが舞台中央の床に手を載せると、その部分がもやもやと光る映像(おそらく)で照らされて、だんだんと床全面に広がっていきます。舞台後方から登場した人々が、それぞれにジャンプしたり、揺れたり、不思議な群舞を繰り広げました(振付:井手茂太)。やがて大勢が一緒に床に手を置いていたので、彼らは埋葬された死者たち、もしくは地中から沸き上がった精霊たちにも見えました。人ではない何かが、時を超えて劇場に姿を現し、過去の物語を語り始める…と受け取れました。お能の世界ですね。
本日の朝日新聞の夕刊に、先日観た舞台の劇評を書きました。
(評・舞台)東京芸術劇場「ハムレット」 日本の国情不安、映しながら:朝日新聞デジタル https://t.co/iehbvcPMjD— 谷岡健彦 (@take_hotspur) 2017年4月24日
たしか冒頭のどこかで「あるか、あらざるか、それが問題だ」と群唱したような。「生きるべきか、死ぬべきか」「なすべきか、なさざるべきか」等、色んな翻訳がありますが、「ある/あらざる」にすることで存在そのものへの問いになります。ハムレットだけの問題でなくなったので、冒頭に持ってくる意味は大いにあると思いました。後からハムレットの独白でも語られました。
ベンチ、カーテン、ベッドの大きさぐらいの台、墓穴と、舞台上に出てくるものは少なく、デザインもシンプルです。演技、セリフで見せていく方向性でした。
台本上、会話と独白が混ざるのですが、独白する時は照明が暗くなり、ステージの中央と四隅だけをスポットライトが四角く照らすので、わかりやすかったです。そういえば昨日観た『フェードル』も照明のパーテーションを多用して場面転換していました。いかにも映像らしい映像を使わないのも好印象です。
ハムレット役の内野聖陽さんの演技について。あくまでも4/9初日の感想ですが、私には何を言っているのかわからないことが多かったです。発音、発語、活舌などではなく、行動にあまり気持ちが伴っていないことが、主な原因かと予想します。“それらしい振り”の連続で、いわゆる「歌うようにセリフを言う」タイプにも見えました。ハムレットが旅芸人の一座に演技をやってみせる場面が、一番かっこよかったです。見得を切って、力強いセリフを朗々と、堂々と語ってらっしゃいました。華があって絵になる俳優さんだと思います。どういう演出が施されたのかは観客の私にはわからないので、現時点ではまだ、内野さんの本領が発揮されていないのかも…と思いました。
御前芝居(いわゆる劇中劇)の場面では、ステージ中央のベッドの大きさぐらいの台の上で、旅芸人たちが演技を披露します。舞台奥に王と王妃たち、舞台面の上手手前にハムレットとオフィーリアがいますので、劇中劇はいわば対面客席の舞台上で行われていました。俳優たちが王に向けて演じている場面を、ハムレットが裏(劇中劇の舞台裏)から眺めているように見えたのが面白かったです。
昨日の日経新聞夕刊、内田洋一さんによる記事。日本人演出家の不足と、外国人演出家の才能を生かす劇場の力への警鐘。准演出家やドラマトゥルクなど“劇場の学芸員”が必要と。 pic.twitter.com/MsMstp6m2n
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2017年4月20日
父ポローニアスの死にショックを受けたオフィーリア(貫地谷しほり)が、王と妃らの前で狂って歌を歌うのですが、残念ながら段取りに見えて、深い悲しみや怒りは受け取れませんでした。兄レアティーズ役の加藤和樹さんと貫地谷さんのデュエットが美しかったです。
オフィーリアの遺体を埋める墓穴を掘っていたのは壤晴彦さんと村井國夫さん。死んだポローニアス(壤晴彦)が墓堀リの相棒役として再び出てきた…という感触は、なぜか、私にはなかったです。帰国したハムレットと墓堀リ役の村井さんとの会話は、とぼけた感じがうまく伝わったようで、客席でよく笑いが起こっていました。
ハムレットとレアティーズ(加藤和樹)の試合は、竹製(木製?)の長くて茶色い棒を使っていました。フェンシングの剣よりも長いし、ぶつかった時に鳴る音が金属音ではないので、新鮮な気持ちで拝見しました。片方の先端の短い鞘を外して、金属製の剣の切っ先が出てくるのも面白かったですね。内野さんも加藤さんも動きが機敏でいらして、見せ場として楽しめてよかったです。
オフィーリアの死後、貫地谷しほりさんが短髪のかつらを被ってオズリック役を演じます。オズリックとはハムレットにレアティーズと試合をするように伝える、クローディアスの家臣です。二人を死へといざなう死神役とも言えますね。試合の最中はレアティーズ側にいて、妹であるオフィーリアの呪いがオズリックの中に息づいているようにも見えました。そういえば剣の切っ先に毒を塗るのもオズリックがやっていましたね(たぶん)。
出演者の中ではクローディアスと亡霊を主に演じた國村隼さんの存在感が大きかったです。クローディアスは肝っ玉の大きいヤクザの親分のようでした。ガートルード役の浅野ゆう子さんがとにかく美しいので(1500円のパンフレットによるとそれがキャスティングの意図)、義姉が欲しくて兄を殺したんだな~と思えました。また、毒を塗った剣でハムレットに襲われた時、自分から切っ先を握り、腹に刺していました。切腹をするクローディアスは初めて見ました。
「あとは沈黙」と言ってホレイショーの腕の中で死んだハムレットが、舞台上で衣裳を着替えてフォーティンブラスとして登場します。金色(たぶん)のマントを羽織るだけでなく、顔の半分以上が隠れるほどの同色の兜(かぶと)も被っていたので、宇宙服のようにも見えてきて、時空を超えていく広がりが感じられました。
最後は舞台奥の黒い壁が、中央から上下(かみしも)に向かって1~2mほど開き、俳優がその間から退場していきました。羽織などの上着を脱いでいたので、俳優が役から抜け出た霊魂(?)となって、舞台から去ったと解釈しました。カーテンコールでは皆が白と黒のシンプルな色の衣装になっていたので、まさに「旅芸人の一座」が観客の声援に応えて再登場したように見えました。
■記事など
WEBに転載されました♪
内野聖陽が創るハムレット像 池袋・東京芸術劇場で9日から:朝日新聞デジタル https://t.co/1i5dAlVGP0
— 舞台ハムレット公式 (@hamletstage) 2017年4月6日
【コメント&写真】日付変わって、いよいよ本日4/9「ハムレット」が初日を迎えます!キャストから皆さまへのコメントです→ https://t.co/oofUm4HLKY
公演は本日~4/28(金)まで東京芸術劇場プレイハウスにて。
皆さまのご来場を心よりお待ちしております!!!— 舞台ハムレット公式 (@hamletstage) 2017年4月8日
【加藤和樹さんインタビュー掲載】
iLIP→ https://t.co/W4ymZ087Xq
スターファイル(朝日新聞DIGITAL/一部有料)→
上 https://t.co/AMa40CUgUW
下 https://t.co/2kzlb3orrc
是非ご覧ください!— 舞台ハムレット公式 (@hamletstage) 2017年4月3日
北村有起哉さんインタビュー掲載のお知らせです!
OKWAVE Starshttps://t.co/WBgFEu1H2r— 舞台ハムレット公式 (@hamletstage) 2017年2月7日
本日より発売となりました「ハムレット」。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます❗
【映像】製作発表時の皆さんの意気込みをご紹介していただいております❗https://t.co/ox0iVQhYcJ
— 舞台ハムレット公式 (@hamletstage) 2017年1月14日
内野聖陽版ハムレット、豪華キャストの一人二役に注目|ぴあ https://t.co/1gEi56zQfW
— 舞台ハムレット公式 (@hamletstage) 2017年1月10日
「ハムレット」ジョン・ケアードが内野聖陽に期待「物事を深く考え導く俳優が必要」 – ステージナタリー https://t.co/fbByxsHbCc
— 舞台ハムレット公式 (@hamletstage) 2017年1月10日
≪東京、兵庫、高知、福岡、長野松本、長野上田、愛知≫
※4月7日(金)・8日(土) プレビュー公演
【配役】
内野聖陽:ハムレット/フォーティンブラス ほか
貫地谷しほり:オフィーリア/オズリック ほか
北村有起哉:ホレイショー
加藤和樹:レアティーズ/役者たち(ルシアーナス) ほか
山口馬木也:ローゼンクランツ/バナードー/役者たち/イギリス使節1 ほか
今拓哉:ギルデンスターン/マーセラス/役者たち/イギリス使節2 ほか
壤晴彦:ポローニアス/墓掘りの相棒 ほか
村井國夫:墓掘り/役者たち(劇中の王)/コーネリアス/隊長 ほか
浅野ゆう子:ガートルード ほか
國村隼:クローディアス/亡霊 ほか
アンサンブル:大重わたる 村岡哲至 内堀律子 深見由真
音楽・演奏:藤原道山(※4/16(日)13:00、4/22(土)13:00・19:00、4/23(日)13:00を除く)
脚本:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
上演台本:ジョン・ケアード、今井麻緒子
演出:ジョン・ケアード
美術:堀尾幸男
照明:中川隆一
音響:井上正弘
衣裳:宮本宣子
ヘアメイク:宮内宏明
振付:井手茂太
アクションムーブメント:山口馬木也
演出助手:田中麻衣子
舞台監督:今野健一 徳永泰子
宣伝:ディップス・プラネット
宣伝美術:アートディレクター:榎本太郎(NANABAI 7X)
宣伝美術撮影:森﨑恵美子
宣伝美術ヘア&メイク:宮内宏明(M’s factory)
宣伝美術 内野聖陽 ヘア&メイク:佐藤裕子(Studio AD)
宣伝美術 浅野ゆう子 ヘア&メイク:持丸あかね
宣伝美術 衣裳:宮本宣子
共催:ぴあ株式会社
主催・企画制作:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
【発売日】2017/01/14
S席9,000円 ステージサイドシート8,500円 A席7,000円
65歳以上(S席)7,500円 25歳以下(A席)3,000円 高校生割引(対象日限定)1,000円
<プレビュー公演>
S席8,000円 ステージサイドシート7,500円 A席6,000円
65歳以上(S席)7,000円 25歳以下(A席)2,500円
※未就学児はご入場いただけません。
※65歳以上、25歳以下、高校生割引チケットは、劇場ボックスオフィスにて前売のみ取扱い。(枚数限定・要証明書)
※ステージサイドシートは舞台上に設けられる席です。
※ステージサイドシート及び、25歳以下割引は座席をお選びいただけません。また演出の都合により見えにくい場面が発生する場合がございます。あらかじめご了承ください。
※障害をお持ちの方:割引料金にてご観劇いただけます。詳しくは、劇場ボックスオフィスまで。(要事前予約)
※公演情報等につきましては、変更が生じる場合がございますので、ご了承ください。
【高校生割引対象公演あり】
http://www.geigeki.jp/performance/theater139/
http://www.hamlet-stage.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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