東宝『お気に召すまま』01/04-02/04シアタークリエ

 柚希礼音さん主演のシェイクスピア喜劇です。演出は米国の演出家マイケル・メイヤーさん。上演時間はカーテンコール込みで約2時間半、休憩20分込みでした。

 『お気に召すまま』は昨年10月に上演されたDステ版を拝見していたので(⇒稽古場レポート)、配役や解釈、演出の違いを楽しみました。

 ≪前半のあらすじ≫
 横暴なフレデリック(小野武彦)は兄の公爵(小野武彦の二役)を追い出して領地も奪いました。公爵の娘ロザリンドはフレデリックの娘でロザリンドの従妹であるシーリア(マイコ)が守り、都会にとどまっています。
 今は亡きサー・ローランドの末息子のオーランドー(ジュリアン)がレスリングに出場した時、ロザリンドとオーランドーは初めて出会って、お互いに一目惚れ。
 オーランドーは長男オリヴァー(横田栄司)と折り合いが悪く、追い出されるように老召使(青山達三)とアーデンの森へ向かいます。ロザリンドもまたフレデリックに追放され、シーリアと阿呆のタッチストーン(芋洗坂係長)とともに、公爵を探してアーデンの森へ。
 娘シーリアがロザリンドとともに消えたことを知ったフレデリックは、女性2人がオーランドーと一緒にいるに違いないと考え、オリヴァーに弟(オーランド)を探すよう命令。財産も奪われ、追放された状態で、オリヴァーもまたアーデンの森を目指します。
 ≪ここまで≫

 物語の舞台を1967年のサンフランシスコ、それも10万人が集まったロックフェスティバル「Summer of Love」に置き換えたということで、一体どんな景色、主張を見せてくれるのかなと期待して伺いました。これだけ歌える俳優が揃っているので、わがままを言えば、もっと歌を聴きたかったですね。

 ここからネタバレします。 セリフ等は正確ではありません。

 最初は古代ギリシャ時代のドーリア式神殿風の白い円柱が数本ある、白い空虚な空間。そこは1960年代のワシントンD.C.で、金がものを言うスーツ姿の男たちの社会です(⇒ワシントンの観光スポット)。ヒロインのロザリンド(柚希礼音)の衣装は金髪のショートヘアにタイトの青いミニドレスで、60年代風のファッションが可愛らしい♪
 アーデンの森の場面は、一転して壁全体がサイケデリックなヒッピーの世界に(⇒参考画像)。中央奥には回転式扉。白い柱が裏返り、舞台奥の壁と似た絵が出てきます。大がかりな美術の転換がほとんどこれだけだったのは残念。

 ロザリンドは男装し、シーリアの兄ギャニミードとして振る舞います。自分への恋を森中で告白するオリヴァーに対して、「自分をロザリンドだと思って口説いてみて」と恋の指南役に。宝塚歌劇団の元トップスターが、男装をする女性役を演じるという趣向が面白いですよね。
 ただ、プロデュース公演ならではだと思うのですが、出演者の出自がバラバラなせいか、演技の方法もそれぞれに違って、どう観たらいいのかわからない時間が長かったです。役人物として舞台で生きて言葉を発するというよりは、段取り通りに決まったポーズを一人でこなしていくタイプの方もいらして。残念ながら想定内ですが。

 アミアンズ役の伊礼彼方さんがギター(ベース?)を弾きながら大いに歌って下さいました。歌の時間はライブの楽しみで満たされました。
 シニカルで知性のある隠遁者ジェークイズ役の橋本さとしさんは、何しろ憂鬱な役なので仕方ないのですが、歌が聴きたかったし、明るい見せ場が欲しかったです(無理な注文ですが)。「七幕に分かれている人生」の長い独白は歌にしても良かったんじゃないかな~(ラップで聴きたかった気も)。最初のル・ボー役(ロザリンドとシーリアに「レスリング会場はここだ」と伝えに来る黒縁眼鏡の紳士役)が絶品でした。伊礼さんとのコント風の掛け合いも良かったな~。大きな球型の黄色いクッションで遊ぶのも。

 オリヴァー役の横田栄司さんの「ヘビが首に巻き付き、ライオンに襲われそうになったところを、弟オーランドーが助けてくれた」という独白が楽しかったです。派手にアクロバティック!
 羊飼いコリン役の俵木藤汰さんは観客との関係性も自然で、生活感がありました。
 老召使アダムとオリヴァー牧師役の二役を演じられた青山達三さん。ジョン・ケアード演出『夏の夜の夢』のクウィンス役ほどではなかったですが、「若い者には負けてません」と言いながら腰をさする演技など、細かい工夫に唸りました。

 今回の演出の目玉、というか、肝は、羊飼い(コリン、シルヴィアス、オードリー)が飼っている羊たちですよね。まさか、日本人の幼稚園児とは!!キャスター付きの籠に、いかにも園児っぽい衣装を着た6~7人の男の子、女の子たちが乗ってるんです!大げさでなく、最初は目が点!! しかも童謡を合唱したりするんですよね…「え、ここって60年代のサンフランシスコじゃなかったっけ…?!」と考えたり、可愛いから子供ばっかり見たくなっちゃったり(笑)、いや、イカンイカン、このままだとセリフを聞き逃したり、演出を見逃してたりしまう…と理性を取り戻したり…あたふたしました。
 
 『お気に召すまま』は計4組(ロザリンドとオーランドー、シーリアとオリヴァー、フィービーとシルヴィアス、オードリーとタッチストーン)が超ハッピーなウェディングを迎えるという、ビッグな大団円が待っているお話です。結婚の神ハイメンという役(戯曲では“ハイメンに扮する男”という役名だったりする)が、私には…謎。今作では、幼稚園児の天使ちゃんたち(白装束に羽といういかにも天使の衣装)が、これまた謎の銀色の丸い乗り物(明確なモチーフがあるのかもしれませんが)とともに登場!乗り物の中央に乗った女の子が、ハイメンのセリフを言うのです。いやー…ほんとにびっくりしました。

 でも、ちょっと感動してる自分もいました。金と名声が支配する都会も、それに異を唱えて薬物でキメながら自由を歌う広場も、大人たちの世界で、どっちもどっちですよね。子供たちが演じたのは羊(動物)とハイメン(神)でした。羊たちはケンカするフィービーとオードリーたちを笑ってもいましたし、最後には勝手な恋と欲望に右往左往していた大人たちを上段から祝福します。「小さきもの(子供や動物)の声を聴け」ということなのかなと、勝手に解釈して納得しました。 

 アーデンの森に迷い込んだらしいオリヴァーが、怪しげに踊る人たちから何か(薬物?)を口に入れられて、陶酔状態になっていました。1960年代のヒッピー・ムーブメントのひとつの側面を表す場面があって良かったです。
 オードリーの連れている山羊がキャベツだったのはなぜなのかしら…。モチーフがあるのかな…。
 舞台一番下手の柱に取り付けられた黒い公衆電話は、ロザリンドが一度使っただけだったかしら。あれも不思議。
 ラストはロザリンドの歌で締めくくり。

≪東京、大阪、香川、福岡≫
【出演】ロザリンド:柚希礼音、オーランドー:ジュリアン、ジェークイズ(憂鬱な男)/ル・ボー:橋本さとし、オリヴァー(オーランドーの兄):横田栄司、アミアンズ(歌う):伊礼彼方、タッチストーン(阿呆・オードリーと結婚):芋洗坂係長、シルヴィアス(フィービーにぞっこんの若い羊飼い):平野良、ウィリアム(オードリーを好きな若者):古畑新之、フィービー(シリヴィアスに好かれる女性):平田薫、チャールズ(オーランドーと対決するレスラー):武田幸三、オードリー(タッチストーンと結婚):入絵加奈子、ジェームズ(オーランドーの兄でオリヴァーの弟、つまりサー・ローランドの次男):新川將人、コリン(羊飼い):俵木藤汰、アダム(オーランドーの老召使)/サー・オリヴァー・トンチンカン(牧師):青山達三、シーリア(ロザリンドの従妹):マイコ、公爵(ロザリンドの父)/フレデリック(公爵の弟):小野武彦、秘書/ヘイト・アシュベリーのヒッピー:土井ケイト
ワシントンD.C.の住人/ヘイト・アシュベリーのヒッピー:宍戸孝行 田中里佳 土方絵美子 脇卓史
幼稚園児:壹岐尾凜弦 石田さくら 稲田ゆりか 猪股奏音 柏木美波 河本麻菜果 菊井凜人 西光里咲 斎藤藍 坂川使音 清水奏音 長堀海琉 新津ちせ 福田奏己 山崎瑠奈 渡部杏凛
作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:マイケル・メイヤー Michael Mayer
音楽:トム・キット Tom Kitt
翻訳:小田島雄志
作詞:小林香
振付:ロリン・ラタロ
音楽監督:鎮守めぐみ
美術:松井るみ
照明:高見和義
音響:山本浩一
衣裳:山下和美
ヘアメイク:Eita(Iris)
ファイティング:渥美博
振付補:青山航士
音楽助手:小澤時史
アソシエイト・ディレクター:ジョハンナ・マッケノン
演出補:砂川幸子
演出助手:上田一豪
舞台監督:宇佐美雅人
プロデューサー:小嶋麻倫子・仁平知世
宣伝美術:エンライトメント
宣伝写真:間仲宇
宣伝衣裳:高橋毅
一般:11,000円 学生割引特別価格(平日):4,800円
http://www.tohostage.com/asyoulikeit/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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