ミクニヤナイハラプロジェクトは劇作家、演出家、振付家、ダンサーの矢内原美邦さんが主宰する演劇ユニットです。矢内原さんは『前向き!タイモン』で岸田國士戯曲賞を受賞されており、Nibrollという集団にも所属されています。
「CoRich舞台芸術まつり!2016春」の審査員として拝見しました(⇒109本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。
⇒CoRich舞台芸術!『東京ノート』
⇒togetter「吉祥寺シアター10周年記念公演 2016 ミクニヤナイハラ『東京ノート 』」
MYP『東京ノート』無事終了いたしました。当日立ち見のお客さんにパンフレットをわたすのを忘れており本当に申し訳ありません。ブログに挨拶文のせましたのでそちらをみていただけると嬉しいです。す。https://t.co/B6QQ9BckOW
— 矢内原美邦MIKUNIYANAIHARA (@392mikumiku) 2016年3月28日
≪作品紹介≫ CoRich舞台芸術!より
彼らの行動の裏になにがあったのか? それを理解できてしまう。
なにもかも、それはただの瞬間にすぎないのかもしれません。
矢内原美邦が演出する『東京ノート』は、
時間も距離も、きっと台詞も、猛スピードでかけぬけていく。
超高速な発話と激しい動き、デフォルメされたキャラクターが特徴の「ミクニヤナイハラプロジェクト」が、「静かな演劇」と評される平田オリザの名作にどのように挑むのか。
これまで全て自身が作・演出を務めてきた矢内原美邦が、既存の戯曲にどのようにアプローチするのか。
そして、1994年に初演され、20年以上経っても色褪せないどころか、その先見性の高さに驚かされる『東京ノート』を現代に蘇らせ、いま上演する意義とは。
≪ここまで≫
■東京そして人間を見下ろす
岸田國士戯曲賞受賞作である平田オリザ作『東京ノート』(1994年初演)は、青年団などの上演で私はこれまでに複数バージョンを観たことがあります。物語の舞台がソウルだったり、日中韓3ヶ国語上演だったり、広い劇場ロビーでの上演だったり。東京デスロック版では俳優が観客の中に居る状態での上演でした。
ミクニヤナイハラプロジェクトの演劇作品はたぶん過去に2作ほど拝見していて、俳優が早口で怒鳴るためにセリフが聴こえづらいことが、私にとってはストレスでした。でも今作は予想していたより遥かにセリフが聞きやすく、演出家の矢内原美邦さんが『東京ノート』を通じて示す今の東京、および人間社会を味わうことができたように思います。言葉の意味と激しく動く肉体、強烈な音響、視覚効果が相まった、独特のステージでした。
出演者は21人と大人数ですが、パっと見ただけでも違いがはっきりしていて、それぞれに違う人間であることが認識できるほど個性的でした。なのに作品全体の印象は全く異なり、彼らはすっかり没個性化され、人間の集団、生命の集合体といった風に十把一絡げに扱われます。変化のスピードがとても早く、客席にいる観客も物語の当事者も、おそらく追いつけないし、その姿を把握できない。でもその渦中にいる…。それが現代の東京なのだと体感しました。
ロビーの物販コーナーでは過去作品のDVDが充実しており、原作の文庫本(700円)も購入できました。ロビーで写真展も開催されていたようですが見つけられず。上演時間は約1時間15分と短めでしたが、舞台で起こる現象にあてられて、終演後はボーっとしていたかもしれません。
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ここからネタバレします。
ほぼ何もないと言っていい空間で、白い床には動画が映写されます。俳優は白い長ズボンを履いており、上半身は色違いのシャツで、役割によってシャツを着替え、複数役を演じます。1役を複数人で演じたり、女性役を男性が演じたりして、俳優の交換可能性が明快でした。天井から四角い枠が3つ降りてきたり、赤く丸い映像(証明も?)が天井から舞台と人々を照らしたり、高度な技術があってこそ成立する緻密な演出効果に目を見張ります。無機的でシャープな美しさがあるものと、有機的でちょっと泥臭い人間存在との組み合わせから、様々な想像ができました。
『東京ノート』の世界ではヨーロッパで大きな戦争が起こっていて、絵画がアジアに避難してきています。舞台となる美術館のロビーでは反戦運動を行う人、志願兵としてヨーロッパに向かう若者、軍需景気に沸く会社員たちがすれ違います。美術館のロビーで静かに語られる遠くの戦争が、今作では前面に、直接的に表れていました。個人的に、日本が戦争に近づいている実感があるため、掛け声のように機械的なセリフ回しや、足取りを合わせて同じ方向に進む群舞から、運動会、軍隊を連想しました。福島、ブリュッセルという地名は原作にあるもので、新しく追加されたわけではありません。東京電力福島第一原発事故や、ベルギー連続爆破テロを予言しているかのようです。
俳優は先述のとおり皆、個別の魅力のある方々だったと思います。課されたタスクの膨大さ、難易度の高さは想像もつきません。稽古どおり、ルールどおりに全員で動くためには、俳優同士が慎重にコミュニケートし続ける必要があるでしょう。ただ、密な交流はあくまでもステージ上に収まっており、客席へは向いておらず、何かを伝えようとするエネルギーは感じ取れませんでした。お芝居が好きな私には少々退屈でしたが、高密度のインスタレーションだと思えば不満はありません。
数年前に肉体関係があった女子大生(稲継美保)と元家庭教師(沼田星麻)の場面が特に面白かったです。私が今までに観た『東京ノート』とは異なる解釈が示されたようで、女子大生の怒りの表出のさせ方が直接的で、スカッとしました。誇張された動きは滑稽でもあるし、ちぐはぐなところに悲哀も感じました。
吉祥寺シアター10周年記念公演
「CoRich舞台芸術まつり!2016春」最終選考作品
出演:石松太一、稲継美保、笠木泉、門田寛生、川上友里、川田希、河村竜也、熊谷祐子、重岡漠、島田曜蔵、立蔵葉子、永井秀樹、沼田星麻、橋本和加子、兵藤公美、細谷貴宏、光瀬指絵、緑川史絵、守美樹、森山貴邦
脚本:平田オリザ 演出:矢内原美邦 映像・音楽:高橋啓祐 照明:南香織(LICHT-ER) 照明オペレーター:若原靖(LICHT-ER) 映像・音響オペレーター:革崎文 舞台監督:鈴木康郎 宣伝美術:石田直久 記録写真:前沢秀登 記録撮影」須藤崇規 三上亮 企画・制作:奥野将徳(プリコグ) 制作:水野恵美 川村美帆香(プリコグ) 主催:ミクニヤナイハラプロジェクト 共催:公益財団法人武蔵野文化事業団
【発売日】2016/01/23
チケット料金
一般 3500円、学生 2800円、当日 3800円
アルテ友の会会員・武蔵野市民(在勤・在学可) 3150円(武蔵野文化事業団のみ取扱)
※全席整理番号付き自由席
http://nibroll.com
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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