yhs(ワイ・エイチ・エス)は南参さんが作・演出される札幌の劇団です。私は初見。35回目の公演で、代表作の5年半ぶりの再演(2度目の再演)なんですね。受付で戯曲(800円)を購入。
「CoRich舞台芸術まつり!2016春」の審査員として拝見しました(⇒109本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。
⇒CoRich舞台芸術!『しんじゃうおへや』
≪あらすじ≫ CoRich舞台芸術!より
第1話、執行の予行演習を行う刑務官たちの葛藤と衝突。
第2話、執行装置の修理にやってきた3人の電気工事士のパニック喜劇。
第3話、この部屋がどこで、自分が誰なのかを尋ね続ける男と、
それから逃げ続ける女、そしてそれを取り巻く人々。
ラストシーン、3つの物語が重なる時、一つの真実が浮かび上がる。
死刑を巡り、人間の存在を探る、社会派エンターテイメント。
≪ここまで≫
■当事者と現場を題材に描く日本の死刑
南参さんの前説が非常に微笑ましくてつかみはバッチリ!客席もちょうどいい感じの満席でした。開演前にin→dependent theatre 1stの広いロビーでもいい時間も過ごせていましたので、私にとってとても幸せな小劇場観劇になりました。
ある死刑囚の男性を中心に、刑務官や謎の女性を登場させ、死刑にまつわる人々の思いをドラマティックに描きます。シンプルな舞台美術が、拘置所内の死刑執行室、死刑囚の独房、誰かの部屋へと、境目なくスムーズに変化していきました。夢と現実、過去と現在の境目を曖昧にさせるのも巧みです。死刑がテーマですから、どうしても空気が重たく、暗くなりがちなところ、ちょっとトリッキーな劇中劇や、電気屋の3人組を登場させて笑いを取るシーンが挟まれていました。残念ながら私には笑えなかったんですが…。
死刑囚を描いたお芝居だと風琴工房『ゼロの柩』が強く印象に残っています。死刑囚は刑務所ではなく拘置所の独房に収監され、弁護士や親戚などのごく身近な人としか面会できないし、基本的にずっと一人きりなので会話もできません。それが何年も続く、そしていつ終わるか(死刑の日が来るか)は、全く知らされない…。セリフでは死刑囚の三塚(小林エレキ)と刑務官の小栗係長(能登英輔)がそれぞれに1度話す(解説する)程度だったので、お芝居の前半でもっと詳しい説明があっても良かったのではないかと思いました。
演技については残念ながら拙さが気になりました。私の勝手な考えですが、俳優の演技とは人と人との間に生まれるもので、セリフをしゃべっていても、いなくても、常に他者から何かを受け取っている状態で、起こるものだと思っています。このお芝居では、自分の中で想像して作り出した演技を、ただ披露しているだけの人が散見されました。
大阪は日本橋のインディペンデントシアター1stへ。数年振りに伺い二階ロビーの広い憩い空間を初体験!チラシが美術作品みたいに展示されててアガる♪三階オフィスには台所もダイニングもあり炊き出し可能。スタッフさんの宿泊も可。手厚いですね。 pic.twitter.com/AFODw4ViXw
— 高野しのぶ (@shinorev) 2016年3月12日
ここからネタバレします。
刑務官たちが死刑執行の予行演習をする場面から始まりました。実際の執行方法がわかりますし、「執行のボタンを押す刑務官もまた人殺しなのではないか」というテーマに、早くから目を向けさせる効果もあったと思います。また、妹をストーカーに殺された刑務官がいることで、被害者家族の視点も描いていました。
死刑囚の三塚は大人しいので最初は“悪人”には見えないのですが、彼がある部屋で謎の女性(被害者の幽霊または幻)と出会う場面が少しずつ挿入され、3人の女性を無差別に殺傷した“非人道性”が明らかになっていきます。終盤の教誨師との会話では、三塚の不幸な生い立ちがわかってきて、死刑囚の“人間らしさ”もまた際立ってきます。三塚と長らく接してきた刑務官は、罪人とはいえ彼は人間だと思うしかなく、そうなると自分たちが殺人者であると認めることになります。死刑という制度の矛盾と問題点が、当事者の心情を描くことでわかりやすく示されていたと思います。
三塚が女性殺しを具体的にやって見せて、自白しながら心情を吐露している時に、唐突に電気屋3人が登場する…というのが最後の場面でした。あの世とこの世が重なる趣向が面白かったです。
電気屋3人がいたのは死刑執行室の直下にある地下室。床と天井に四角い白い枠を設置して、上の階と下の階の両方を想像させる工夫がいいですね。
電気屋のシーンで特に感じたのですが、女性(女優)の扱いが少々乱暴すぎる気がしました。物語の中の職場では男性から女性へのパワハラ、セクハラが横行しているようです。
小林エレキさんが演じた三塚は“無差別殺人犯の死刑囚”という、演じるハードルが非常に高い役柄。自分の殻に閉じこもって自問自答するタイプで、他者と関わるのがとても下手な人物です。過去と対峙する恐怖や、それゆえ曖昧になる記憶、突然あらわれる幻想、常に襲ってくる孤独…。一人の人間に背負わせるには重すぎるものを表しながらの熱演でした。
小栗を演じた能登英輔さんは、相手とその場でコミュニケーションをしているように見え、刑務官の葛藤にリアリティを感じられました。
新大阪駅。外から見たの初めてかも。なかなかハンサムやね。 pic.twitter.com/zf6WkP7mP9
— 高野しのぶ (@shinorev) 2016年3月12日
≪北海道、大阪≫ yhs 35th PLAY
出演:小林エレキ、能登英輔、櫻井保一、甲斐大輔、氏次啓、熊谷嶺(霊6)、青木玖璃子、最上朋香、山田プーチン、田中温子(NEXTAGE)、井上嵩之(劇団・木製ボイジャー14号)、佐藤杜花、曽我夕子
脚本・演出:南参
【舞台監督】高橋詳幸
【音響】橋本一生
【照明】相馬寛之・樋口優子
【制作】水戸もえみ
【大阪公演制作協力】笠原希(Right Eye)・秋津ねを
【発売日】2016/01/16
一般 前売2,800円/当日3,000円
学生 1,500円(前売・当日共通)
http://yhsweb.jp
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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