新国立劇場演劇研修所(⇒facebookページ)の11期生試演会『ある階段の物語』の稽古場に伺いました。11期生の現場に伺うのは『朗読劇「ひめゆり」』以来、2度目です(⇒前回のレポート)。
題名の通り“階段”が中心になる舞台美術(松井るみ)で、稽古場には仮の装置がドーンとそびえていました。9/11から稽古が始まって25日目。セリフは入っていて(=覚えていて)、最初から最後までの立ち稽古を既に2回は終えた段階でした。初日まであと3週間あります。なんて贅沢な環境…! 本番のための稽古とともに、若い俳優への丁寧かつ厳しい指導も行われていました。
●新国立劇場演劇研修所11期生試演会『ある階段の物語』
10/28-31新国立劇場小劇場 THE PIT
作:アントニオ・ブエロ・バリエッホ
翻訳:野々山真輝帆
演出:田中麻衣子(新国立劇場演劇研修所コーチ)
A席3,240円 B席2,700円 学生券1,000円 Z席(当日券)1,620円
※上演時間は約1時間45分、休憩なしを予定。
⇒修了生の活躍状況(2016年8月)
⇒修了生の出演情報(公式)
≪あらすじ≫ 公式サイトより
内戦前のマドリード、階段のある安アパート。
住人は金持ちのドン・マヌエルと娘のエルビラ以外は、中産階級下層に属している。
エルビラは二つ隣に住む文房具店の店員フェルナンドと結婚したいと思っているが、彼は三つ隣のカルミーナと愛し合っている。隣人の、工場で働くウルバーノもまた、カルミーナを愛している。ウルバーノは貧乏な労働者が団結し、組合に入って協力するべきだと主張し、フェルナンドは一人で戦い、自分だけで貧乏を抜け出してみせると言い返す。そして、時は流れて……。
≪ここまで≫
スペインの劇作家アントニオ・ブエロ・バリエッホの戯曲『ある階段の物語』は1949年初演。あるアパートに暮らす貧しい庶民たちの数十年にわたる群像劇で、16~17世紀の同国劇作家の名前を冠した“ロペ・デ・ベガ賞”を受賞しています。
2015年に9期生が交流した韓国国立劇団研修所で上演されており、韓国演劇界ではよく上演される演目だそうです。私は『燃ゆる暗闇にて』(1950年)を拝見したことがありますが、『ある階段~』は不勉強ながら知りませんでした。戯曲は1982年発売の書籍↓に掲載されています。
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演出は1期生の時代から新国立劇場演劇研修所に関わっている田中麻衣子さん。同研修所公演では6期生『ハーメルンの死の舞踏』、9期生『血の婚礼』、10期生『ロミオとジュリエット』(⇒稽古場レポート)を演出されています。
最初に第1幕を通して演じ、そのダメ出しがありました。プロンプターとして演出家の左隣りに座っているのは10期生の髙倉直人さんです。
田中さんはまず演技がどう見えたのかを伝えてから、研修生が何を感じ、意図して演じていたのかを聞いて、お互いに現状を確認し、共有します。
田中:内容が聴こえてこない。セリフの順番にしゃべってるように見えてる。会話になってない。
田中:“間をあけること”が目的になっちゃってるように見える。
田中:ネガティブな反応をし過ぎてる。やってて、どう(感じてる)?
それから、新しい提案をしていきます。
田中:座ってやってみて。違いはあった?
田中:腕を組んでみようか。そしたら何か変わるかな。
田中:次はステッキ持とうか。ちょっとやってみよう。
田中:一旦抱きしめてから、セリフを言うようにしようか。
田中:早く言ってみよう。急ぐんじゃなくて、時間を使い過ぎないように。
提案どおりに演じてみると、ほんの少しの変化なのに、意味も印象もガラリと変わるのが面白いです。
1幕に続いて2幕冒頭、そして3幕に部分的にあたったのですが、台本で1~2ページ分(約35行)の短い場面を何度も繰り返す稽古が行われました。その後、台本を持って本読みを10回以上繰り返したりも。本番のための稽古も同研修所の“舞台実習”の時間であり、演技指導も行われるんですね。プロの現場とは違うところです。
田中:やろうとしていることを、わかるようにして。思っている以上に明確に出さないといけない。
田中:まだまだイメージが足りない。誰に話しかけているか、はっきりさせてね。
田中:役の第一声で、お客さんのその役のイメージが決まるから。とにかく第一声(が大事)。関係性がわかっちゃうからね。
本番まであと3週間という早い時期だったからとはいえ、ここまで細かく繰り返し稽古に時間を取るのは、これまでの同研修所の稽古場取材でも、見たことがありませんでした。既にセリフが入っていて全幕の立ち稽古を終えていても、本読みに立ち戻るんですね。
田中:成立してない決まり事を、自分たちで作っちゃってる感じがする。
田中:今、会話ができてる感じしてる?ちょっと探してみて。何でもいいから何か違うことやって。決まった言い方を壊そうよ。
演技の方向性は多種多様、選択肢は無数にあり、相手役との組み合わせを考えると可能性は無限大です。できるだけ多くのことを試して、共有して、何が相応しいのかを吟味していくんですね。試行錯誤の積み重ねが演技の厚みになり、作品の奥行となります。これはプロの現場にも共通するのかもしれません。私たち観客は、選び抜かれた数えきれない物事の集合体を観せてもらっている…なんてありがたいこと!
研修生たちはスペインの歴史と戯曲の時代背景、舞台となる地域などについて調査を分担しており、その成果が稽古場の壁に掲示されています。登場人物は庶民ですから、年金、給料といった当時の日常生活の情報もしっかり網羅されていました。説得力のある演技をするために必要な作業なんですね。
『ある階段~』は数世代にわたる物語で、場面ごとに役人物の年齢が変わっていきます。20代の研修生が子供や老人を演じるのは高いハードルですし、今回は複数人を演じる人もいます。登場人物が多目なのも、俳優養成所にぴったりの戯曲なのかもしれません。
出演者の1人が「この戯曲はコメディーだと思う」と言っていました。内戦下で厳しい生活を強いられた人々が、それぞれの深刻な問題に悩み、身近な家族とぶつかり、愛する人と傷つけ合うのは悲劇的と言えるでしょう。でも舞台上で必死に生きる役人物の誰もが、かけがえのない人間であったなら、愚かで滑稽な様子は愛らしく、微笑ましく見えて、観客には喜劇として伝わるのかもしれません。
昔の異国を舞台にした戯曲が、今の社会と人間を生き生きと映し出す喜劇として立ち上がることを楽しみに待ちたいと思います。
同研修所の「14期生(平成30年度・2018年度入所)募集」の詳細が公開されました。願書受付期間は12/05-20(郵送のみ)です。こちら★に関連情報をまとめました。説明会とオープンスクールもありますので、受験を考えている方はぜひ。
・「演劇研修所説明会(10月&12月)」①10/29(10/27〆切)、②12/09実施(12/07〆切)(申込フォームあり)
・「2017年・秋のオープンスクール(東京)」11/18-19開催※11/05〆切(郵送のみ・返信封筒同封)
・「演劇研修所説明会IN関西」ピッコロシアター中ホール(兵庫県)11/25実施※11/20〆切(専用フォーム又はFAX)
同研修所は公式facebookページで頻繁に情報発信をしています。催事だけでなく授業内容なども共有されていますので、ご興味ある方はフォローしてみてください。
■顔合わせ
■稽古場仕込み
■稽古
■配役
↓公式にご紹介いただきました(2017/10/16加筆)。
【演劇研修所】11期生の試演会「ある階段の物語」(10月28日(土)~31日(火))、「しのぶの演劇レビュー」に稽古場レポートがアップされました。研修所公演ならではの稽古の様子がうかがい知れる貴重なレポートです!(稽古場写真も満載)→https://t.co/sCCugBvwDJ
— 新国立劇場<演劇> (@nntt_engeki) 2017年10月16日
【出演】新国立劇場演劇研修所第11期生(川澄透子 金聖香 佐藤和 篠原初実 高嶋柚衣 田渕詩乃 生地遊人 小比類巻諒介 椎名一浩 上西佑樹 バルテンシュタイン永岡玲央 山田健人) 泉千恵(第6期修了)
【作】アントニオ・ブエロ・バリエッホ
【翻訳】野々山真輝帆
【演出】田中麻衣子(新国立劇場演劇研修所コーチ)
【美術】松井るみ
【照明】齋藤茂男
【音響】黒野尚
【衣裳】西原梨恵
【ヘアメイク】片山昌子
【演出助手】神野真理亜
【舞台監督】川田康二
【プロンプ】髙倉直人(10期修了生)
A席3,240円 B席2,700円 学生券1,000円 Z席(当日券)1,620円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_010840.html
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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