青年団リンクRoMT『夏の夜の夢』03/10-20サンモールスタジオ

 青年団リンクRoMT(ロムト)の演出家は田野邦彦さんです。青年団の太田宏さんがよく出演されており、今回の『夏の夜の夢』でもボトム役で登場。上演時間は約2時間35分、休憩なし。

 こまばアゴラ劇場の支援会員として伺いました。支援会員は全席自由・整理番号順入場の際、早い整理番号をもらえます。4月から始まる2017年度も申し込もうと思います。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
アテネの公爵テーセウスは、アマゾンの女王ヒポリュテとの結婚式が待ちきれない。そこに貴族イジーアスの娘ハーミアがやってきて、父の決めた婚約者ディミートリアスではなく、自分が選んだライサンダーとの結婚を申し出るが、アテネの法律では父親の決めた相手と結婚しなければ厳しい罰を受けなければならない。考え直すよう諭されたハーミアだったが納得せず、恋人ライサンダーと夜のうちに駆け落ちすることを決意する。ディミートリアスと、彼に恋い焦がれるヘレナも、駆け落ちした二人を追ってアテネ郊外の森へと迷い込む。
同じ頃。テーセウスの結婚のお祝いに芝居を上演して褒美をもらおうとたくらむアテネの職人たちは、こっそり稽古しようと森に集合する。
恋人たちが駆け落ちし、職人たちが稽古する森。そこは妖精たちの住む森だった。
妖精の王オーベロンと、その妻ティターニアは夫婦喧嘩の真っ最中。オーベロンはいたずらものの妖精パックに、若者たちとティターニアの目に「惚れ薬」を塗るよう命じたものの・・・一夜の森は大混乱に陥ってしまう。
やがて朝がやってくる。夢から覚める。
その現実は、私たちを祝福してくれるだろうか。
 ≪ここまで≫ 

 ≪作品解説≫ 公式サイトより 
通常、男性によって演じられるフィロストレート、ライサンダー、クインス、スターヴリングですが、今回のプロダクションでは女性が演じます。特にライサンダーを女性が演じることで、《LGBT》の要素が生まれ、一夜の森の若い恋人たちの状況はますます複雑なものとなります。
RoMTで『夏の夜の夢』を取り上げるにあたり、最も大切にしたいのは「多様性」です。
かつてシェイクスピアが活躍した劇場の名が“The Globe(地球)”であったことが象徴するように、シェイクスピアの書く喜劇作品に登場するキャラクターたちは常に彩り鮮やかで個性的で、その誰もが多様性あるこの社会を構成して欠かせない、かけがえのない人々です。そうした世界の在り方の肯定の、ひとつの表明の形として、今回のキャスティングの方向性を決定しました。またこの数年、イギリス国内では、ジェンダーを自由に入れ替えてのシェイクスピア作品の上演が盛んに行われており、“All-female Shakespeare”だけでなく、題名役や主役級のキャラクターを女性が演じたりトランスジェンダーが重要な役割を果たすケースが増加しています。こうした動きともいち早く日本から呼応する形で、今回に公演に臨みたいと考えています。
どうぞ楽しみ!(田野)
 ≪ここまで≫ 

 劇場全体を使うことを意図した空間で、客席がL字型に演技スペースを囲みます。客席の2つの通路を使って出ハケし、観客に話しかけるような演技あり。舞台中央には木や電球で組み立てられた1本の木が建っています。私が座った席から見て上手奥に、中に何かが詰められている黒い布袋が重ねて置かれていました。天井からぶら下がるいくつもの電球が点滅し、星空や童話の世界を想像させます。俳優の衣装はメルヘンチックな装飾を加えたカラフルな現代服、といったところでしょうか。現実と地続きの昔話であり、ファンタジーなのだと思いました。

 ヒポリュテ(小林真梨恵)が踊り、フィロストレート(河村早映)が歌います。現代口語の演劇をしている俳優や、古典(歌舞伎)、独自の演技メソッドを持つ俳優もいて、キャスティングはよくいわれる“異種格闘技”を想定したものだったのかもしれません。得意なことは上手にできるけれど、演技は拙い…といった方が少なくなかったです。

 私には幕開けから終幕まで、思ってもいないことを言っている人(セリフと動きの根拠となる感情、動機を表さない、または持っていない俳優)が、舞台上に大勢いるように見えました。感情を使う演技をする人がほとんどいなかった印象です。その場で生きる演技をする俳優は、相手を聞いて、反応するものですから、相手から何も届かないと、受け取るものがないため、自分で気持ちをねつ造しなければなりません。演技の共通言語がないなら仕方ないのでしょうけれど、痛々しかったです。

 ベルギーの俳優集団tgSTAN(ティー・ジー・スタン)の3つの基本方針は、戯曲を使う(テキストに向かう)こと、全員が創作の全てに主体的に関わること、舞台上で本人と観客を含む誰に対しても誠実であることでした(彼らのトークを聞いて私はそう受け取りました)。過去レビュー⇒
「誠実であること」とは、舞台上で役人物であると同時に自分自身でいることであり、観客とも対等に、風通しの良いコミュニケーションをすることです。つまり口に出す言葉(セリフ)が嘘でないことと、観客に嘘をつかないことが両立されます。そういう演技姿勢を私は好みますので、この公演は私が観たいタイプのお芝居ではありませんでした。

 『夏の夜の夢』の舞台は主にアテネの宮殿と妖精が棲む森です。劇場の壁が露出したままで、出演者が観客に話しかけたりしつつ、劇中劇も上演しますから、異化効果を狙ったものと思います。演技や照明、音響などの変化によって、人間世界と妖精の森を入れ替え、舞台装置の大がかりな転換はありませんでした。『夏の夜の夢』はシンプルな空間で上演できる戯曲なのだと改めて思いました。

 ここからネタバレします。

 もともと男性が演じる役を女性が演じていました。特にわかりやすいのはハーミア(井上みなみ)と森に逃げる、恋人のライサンダー役(石渡愛)です。ディミートリアス(坂川康成)は親の決めた婚約者を、女性に取られたことになります。
 人間役の眼に妖精役は見えませんが、観客には人間と妖精が同じ場所に存在して、関わり合う様子を観られます。性差、身分差がある人間と妖精、そして演劇言語の異なる俳優たちが、それぞれに自由と多様性を謳歌する。そのような活気があって猥雑で、心底ハッピーな世界を立ち上げようという企画意図だったのかしらと想像しました。

 ハーミア(井上みなみ)の感情面、身体面双方の全力投球と、オーベロン(永井秀樹)の巧みなセリフ回しが良かったです。永井さんは発語の技術を駆使されているように思いました。
 ハーミアの父でアテネ貴族のイジーアスを演じた山田宏平さんが印象に残りました。劇中劇でティスベ(自害する女性)を演じる仕立て屋スターヴリング役の塚越健一さんの演技が良かったです。

 山田さんは元・山の手事情社の俳優で、独特のメソッドをお持ちです。冒頭では生意気にたてつく娘に困り果て、最後も願いが聞き届けられず、いやいや結婚式に参列します。山田さんの演技は周囲の俳優のスタイルと全く違う種類なので、とても目立っていました。そんな「仲間はずれ」の状態が、設定にぴったりでした。

 塚越さんは元・花組芝居の俳優で歌舞伎の演技手法をよく身につけていらっしゃいます。ティスベ自害の場面は、白塗りメイクで見得を切る姿に、七五調(だったかな?)のセリフがマッチしていました。観客を楽しませようという一途な姿勢も伝わり、ぐっと引き込まれました。形式や型に真実の感情を込める演技だったのだと思います。

 黒い布袋は土嚢ぐらいの大きさですが、放射性廃棄物を入れるフレコンバッグに見えます。チラシのビジュアルから想像するに、舞台中央にある木は「奇跡の一本松」。公演期間が3月であることからも、2011年の東日本大震災を作品の背景に選んだことが予想できます。街にも森にも万年単位で、放射性物質はあり続けます。毒物との共生を受け入れるしかないのは人間だけでなく森(妖精)もです。でも、奇跡(=一本松)もまた残るのだという希望を託したエンディングだと解釈しました。

RoMTのシェイクスピア・シリーズ第2弾 第7回公演
【出演】
テーセウス(アテネ公爵):井上幸太郎
ヒポリュテ(公爵と婚約したアマゾン国女王):小林真梨恵(waqu:iraz)
フィロストレート(公爵の宮廷祝典長):河村早映
イジーアス(アテネの貴族):山田宏平
ハーミア(その娘、ライサンダーの恋人): 井上みなみ(青年団)
ヘレナ(ハーミアの幼馴染み、ディミートリアスに恋する娘):中野志保実
ライサンダー(ハーミアの恋人):石渡愛
ディミートリアス(ハーミアの婚約者、ヘレナの元恋人):坂川慶成
クインス(大工、前口上役):藤谷みき
ボトム(機屋、ピュラモス役):太田宏(青年団)
フルート(ふいご直し、ティスベ役):塚越健一(DULL-COLORED POP)
スナウト(射掛け屋、塀役):磯谷雪裕
スナッグ(指物師、ライオン役):浦田大地(ナナイロスペース)
スターヴリング(仕立て屋、月光役):村井まどか(青年団)
オーベロン(妖精の王):永井秀樹(青年団)
ティターニア(妖精の王妃):小瀧万梨子(青年団、うさぎストライプ)
パック(オーベロンの手下の妖精、ロビン・グッドフェローとも呼ばれる):亀山浩史(うさぎストライプ)
脚本:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:河合祥一郎(角川文庫版) 演出:田野邦彦
舞台美術:鈴木健介 衣装:正金彩
照明:西本彩 音響:泉田雄太
振付:小林真梨恵 (waqu:iraz) 宣伝美術:藤本瑞樹 (kitaya505)
制作:河本三咲+RoMT
総合プロデューサー:平田オリザ
技術協力:鈴木健介 (アゴラ企画) 制作協力:木元太郎 (アゴラ企画)
企画制作:RoMT/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
【発売日】2017/01/22
一般 前売・予約=3,500円 / 当日=4,000円
ユース(26歳以下)・シニア(60歳以上) 前売・予約・当日共に=2,000円
高校生以下 前売・予約・当日共に=1,000円
3月11日(土) 14時の回終了後 オノマリコさん(劇作家、趣向主宰)
3月12日(日) 14時の回終了後 河合祥一郎さん(東京大学教授)
3月16日(木) 14時の回終了後 深田晃司さん(映画監督、青年団演出部)
http://www.romt.org/?page_id=758
http://www.romt.org/?page_id=760
http://www.romt.org/?page_id=762
https://stage.corich.jp/stage/80546

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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